ヴァルキューレの狼   作:アホの子ヴァルコ

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キヴォトスの司法機関って公式設定が明らかになっていない部分が多いです。
そこでこの作品ではリアルをベースに設定をでっち上げました。

あくまでもこの作品の中での設定です。注意してください。

尚、書いてる人は司法とか警察とか検察とかチンプンカンプンです。
ネットで情報を拾って何となくそれっぽい文章にしてるだけなので、おかしな部分は許して…。


※あにまんに投稿したSSにとんでもないミスがあったのでこっそり修正してます。


報告書 「人形組立と清掃活動」 (刑務作業)

総員起こしの五分前。いつもと同じ時間に目覚めたけどなんだか薄暗い。

防犯窓の外は……雨だ。空がどんよりとした雨雲に覆われていて、太陽の光が遮られているんだ。

 

朝から憂鬱。これでは脱獄できない。

天候の悪い日は校舎内で奉仕作業。そういう決まりだ。

 

私に科せられた罰としての奉仕作業。それは「刑務作業」と「社会貢献作業」の二つに分かれる。

刑務作業は学校敷地内での雑用。校舎の清掃や食堂の調理補助とか。それと簡単なお仕事。

社会貢献作業は敷地外での雑用。地(・)域(・)の(・)清(・)掃(・)や(・)ご(・)み(・)拾(・)い(・)。D.U.を巡回してお掃除する。

 

どちらを選ぶかは私の意思に委ねられている。だから毎朝、看守が確認しに来るんだ。

 

天候不良だと犯罪者たちも比較的大人しい。特に屋外の犯罪は明らかに減少する。

雨の中、合羽を着て暇な一日を過ごすのは嫌だ。それをカンナの前で口にしたのが失敗だった。

 

『そうか。なら天候不良の日は全て刑務作業とする。作業を用意するのだって手間なんだぞ』

 

まあ、うん。……はい。カンナにこう言われては従うしかない。

私は私より強い相手にしか従わない。生意気盛りだった頃の自分が作ったルールだ。

それを他人に押しつけておいて、自分が反故にするのはあまりにも情けないよね。

 

看守も答えがわかりきってるのに、それでも毎日聞きに来るのは律儀だと思うよ。

 

ただ……ひとつ疑問がある。どうしてヴァルキューレは社会貢献作業を強制しないの?

選択権を私から取り上げた方が、自分たちのメリットは大きいはずだよね。

なのに、奉仕作業を始めてから強制されたことは一度もない。

 

≪ おはようございます。ヴァルキューレ警察学校が、朝の七時をお知らせいたします ≫

 

っと、しまった。考えごとに没頭してたら起床時間だ。

日課の柔軟体操はパス。急いでベッドを整えて、看守の点呼を待とう。

 

 

 

 

 

 

 

本日のメニューは食パンとマーガリンと魚肉ソーセージ。それと白湯。いただきます。

不満をこぼす子が多いけど、留置施設ではこれが普通。果物とか甘い物なんてめったにない。

 

ヴァルキューレに逮捕された被疑者はまず留置施設に収容される。

早ければ三日。取り調べが長引いても約三週間で移送される。どこに送られるかはその子次第。

短期間の拘束だから……栄養バランスは一日三食食べて最低限ってとこ。

 

ちなみに、私たちの食事代はヴァルキューレが負担してる。

ただでさえ慢性的な予算不足に頭を抱えているのに、逮捕した犯罪者の面倒まで見なくちゃいけないんだ。これでも頑張ってるんだよ。

 

私の刑務作業はヴァルキューレへの奉仕。やるからには頑張ろう。ごちそうさまでした。

 

 

 

食事の後、部屋の手洗器で顔を洗って身だしなみを整える。

刑務作業の日は刑務官が迎えに来るまで部屋で待機だ。大人しく到着を待とう。

 

この刑務官とは本(・)物(・)の(・)刑(・)務(・)官(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。私の監視役の当番生徒のことだ。

だってここはヴァルキューレの留置施設。連邦矯正局とか刑務所じゃないからね。

刑務作業も刑務官も、私のためだけに特例で用意されてる。迷惑をかけてごめんなさい。

 

―――コツ、コツ、コツ、コツ

 

ん、足音。廊下を誰かが歩いてる。来たみたいだね。

牢の前に姿を現した生徒は……知ってる顔だった。

 

「……おはようございます。本日の刑務官を務める、中務キリノです」

「うん、おはようキリノ。今日はよろしくね」

 

中務キリノ。フブキの同級生で所属も同じ生活安全局の生徒。真面目な勤勉家だ。

誠実なお巡りさんを体現するような子。……なんだけど、そそっかしい面もあって失敗が多い。

 

刑務官は暇で地味な仕事。それでいてサボりが許されない。だからやりたがる生徒はいない。

その当番でやって来た。ということは―――

 

「今度はなにをしたの?」

「誤射を少々……あ、いえ。なんでもありません」

 

やっぱりか。キリノが刑務官として現れるのは、始末書を書くような事態を起こしたときだ。

だから刑務作業で顔を合わせることは割とある。あるんだけれど……

 

「これより、本館作業室まで連行します。両手を出してください」

「ん、どうぞ。ところで今日の―――」

「居室エリア内での私語は禁止されています。黙ってください」

「……」

 

……だからといって、仲良しという関係でもないんだよね。

 

両手に手錠をかけられ檻の外に出る。

腰縄を省略する代わりに手錠に紐が結ばれ、それをキリノが握り歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

ヴァルキューレ警察学校はその名の通り学校……教育機関だ。

だから校舎内には、生徒たちが様々な技術を学ぶための専用の部屋が用意されている。

 

例えば実習室。教育用BDで覚えた知識を実践して、経験を積むための部屋だ。

今も生徒たちが集まっているのか、室内から話し声が漏れている。活気があるね。

 

私とキリノはそのすぐ隣の作業室にやってきた。

ここは縦長の構造で通常の教室よりずっとせまい。入り口も片開きドアが一枚あるだけだ。

それでも二人で作業するなら十分だ。……そう、二人で作業をする。

 

「本日の刑務作業は人形作成です。組立順序は手元の用紙を見てください。なにか質問は?」

「ないよ」

「では作業を開始してください。……隣、座ります」

 

机に積まれたプラスチックケース。そこには人形のパーツが大量に入っている。

どこかの企業から請け負った仕事というかアルバイトというか……内職だね。

 

ヴァルキューレは慢性的な予算不足。だからこうして、涙ぐましい努力が行われているんだよ。

私の隣でキリノもせっせと人形を組み立ててるし、隣の実習室でも生徒たちが作業中だろう。

 

尚、これはあくまでも訓練だ。繊細な単純作業で集中力を高める訓練。生徒たちは訓練中。

市民に対する奉仕精神。ボランティアのついでに訓練を行っている。……ということらしい。

 

まあ囚人の私があれこれ言うことじゃないよね。

それにヴァルキューレは生徒のアルバイトを禁止してない。

 

細かいことは気にせず、作業に取り掛かることにした。

 

 

 

真っ白なボディに睫毛の生えたまん丸な瞳。黄色いくちばしと大きな足。

完成した人形は……なんだろう。鳥、なのかな? コミカルな姿だね。

 

「ねえキリノ。この人形って、なに?」

「え? ……私にもよくわかりません。奇妙だとは思いますが」

 

キリノも微妙な表情で首をかしげている。

組立順序の用紙に商品説明とか名称は書いてない。謎だ。

 

「なんであろうと構いません。それよりシロコさん、作業に集中してください」

「あ、うん。ごめんなさい」

 

キリノに注意されたので余計なことは考えないようにする。一息ついて、作業を再開した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「カンナ公安局長、おはようございます!」

「ああ、おはよう」

 

立ち当番を務める生徒に挨拶を返し、本館内の廊下を静かに歩く。

今朝は普段と違って、穏やかな業務開始となった。こんな日は稀だ。

 

『雨のせいか今日は朝から暇っすね。大きな案件もないし、姉御は休んでくれていいすよ』

 

副局長のコノカがそんなことを言い出し、部下たちまで協力して私を公安局から追い出した。

局長の私が率先して行動し、部下の規範になる必要がある。そう思っていたのだがな……。

 

いや、気遣いを無下にすることもない。お言葉に甘えてのんびりさせてもらおう。

とはいえ、ヴァルキューレを離れるつもりはない。緊急出動に備えて、本館内で待機だ。

 

(現在時刻は十時か。シロコは刑務作業の真っ最中。……顔を出せば邪魔になるな)

 

先日の取調室。あの時は本当に時間がなくて突き放してしまったが、寂しそうな顔をしていた。

フブキからも、シロコがストレスを感じて調子を落としていると報告があった。

 

公安局の局長と留置施設の囚人。時間が都合よく合うことなど皆無に等しい。

昔は四六時中一緒だった。それが別々に暮らすようになって……もう一年以上経つ。

 

窓越しに雨雲を見上げる。灰色に染まった空は、まるで私の心を映しているかのようだ。

……ふう。いかんな。休息中とはいえ、今はまだ業務時間だ。気持ちを切り替えなくては。

 

コーヒーでも飲むか。公安局には戻れないから自販機コーナーに向かうとしよう。

そう思って歩き出した瞬間、背後から誰かに名前を呼ばれた。なんだ?

 

 

 

自販機で缶コーヒーを二つ購入。休憩所のベンチに座る生徒に一本を差し出した。

 

「微糖でよかったか?」

「は、はい! ありがとうございます。いただきます!」

 

話しかけてきたのは公安局の一年生。後輩だった。

コノカが小休止を命令? ……まあ、今はアイツが公安局の責任者だ。

上司がそう決めたのなら、お前が気にすることはないぞ。

 

「それで、シロコについて聞きたいのか?」

「は、はい。あの、シロコ……ちゃんって、評判があまりにも違いすぎて、気になって……」

「ふむ。なるほどな」

 

シロコの評判か。まあ確かに、それは天と地ほどの差がある。

真面目な局員ほど砂狼シロコという存在が気になるのは当然だ。……キリノのようにな。

 

「先にコノカ副局長に聞いたんです。そしたらカンナ局長にシロコちゃんの過去を聞けって……」

 

『なにが正しくて、なにが間違っているか。それを最後に判断するのは自分自身っしょ?』

『他人に答えを求めんのは楽だ。でもなぁ? な(・)に(・)も(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)、自分で聞いて、自分で調べて、その上で自分で判断してほしいな』

 

『警察官として、他人の無責任な言葉を鵜呑みにしては駄目っすよ』

 

なんともコノカらしいというか。……要するに「先入観を持つな」ということだな。

まあいいだろう。ただし、コーヒーを飲み終えるまでだぞ。

 

 

 

「シロコと出会ったのは……私がまだ一年生の頃だった」

 

ある日、キヴォトス広域都市鉄道の運行車両に無賃乗車をした子供がいて、捕まえようとした駅員を相手に大暴れしているという通報が入った。

 

警らに出ていた私は事件発生時、すぐ近くにいたので現場に急行。

奪った銃を手に駅の購買に立て籠っていた犯人と接触した。それがシロコだった。

 

『動くな! こちらはヴァルキューレ公安局だ!』

『……。そんなの知らない。ここはもう私のもの。でてけ』

 

シロコは説得交渉や投降の呼びかけを拒否。最終的に力でねじ伏せて捕まえたよ。

乱暴すぎると思っただろう? だが、当時のシロコがな―――

 

『私は私より強い相手にしか従わない。それに私は狼。犬より強い』

 

―――などと言い出してな。説得は無理だと判断した。

場所が場所で、迅速な対応が求められていた。だからシロコの流儀に付き合ってやったまでだ。

 

「キヴォトスにはくせが強い問題児など、うんざりするほど居る。お前も早く慣れるように」

「は、はい!」

 

「……慣れたところで、どうしようもないがな」

 

「……カンナ局長?」

「いや、なんでもない。話を戻すぞ」

 

シロコを確保しヴァルキューレに連行してすぐに聴取を行った。

するとシロコは自分の名前しかわからないと言い出した。生まれも所属も不明。

 

最初はとぼけているだけだと思ったよ。だから写真検索を行ったが―――該当者は無し。

専門医に診せたら記憶喪失で間違いないと診断された。

 

言い逃れの演技ではなく、経歴がなにもかも不明な子供が突然現れたんだ。

このような事態はな、得てして倫理観が欠如した大人が関わっていることが多い。

だから私は一手を講じることにした。……まあ結論から言うと、これは読みが外れたがな。

 

「一手ですか。具体的にどういうことを……?」

「検察官に連絡を取り、シロコを勾留した」

「え?」

 

ヴァルキューレに逮捕されると「被疑者」として扱われ留置施設に収容される。

ここから最大72時間の身柄確保が許されるのは知っているな?

 

だが取り調べが不十分だったり、逃亡や証拠隠滅の可能性があれば延長が可能だ。

シロコの場合、住居不定と逃亡を理由に最大日数の勾留を行った。

 

「シロコは確かに罪を犯した。しかし重罪と呼べるほどの罪ではない」

「まあ……キヴォトスですからね。もっと派手にやる不良とかいますし……」

「保護者の不在や記憶喪失などの事情もあった。だから相当に減軽される。そのはずだ」

「情状酌量の余地ですね」

 

それにもかかわらず、シロコは勾留され続け留置施設にとどめられたまま。

 

これはな、砂(・)狼(・)シ(・)ロ(・)コ(・)に(・)な(・)に(・)か(・)が(・)あ(・)る(・)と(・)強(・)く(・)疑(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。というアピールでやったんだ。

もしシロコの裏に何者かが潜んでいるなら、なにかしらの行動に出てくると考えたんだが……。

 

「なにもなかったんですね」

「その通りだ。……これ以上は深く聞くな。当時は私も一年生。失敗だって相応にあったさ」

 

後輩に向けられる視線から目を逸らし、缶コーヒーを一口飲んでごまかした。

 

 

 

続けるぞ。

最終的にシロコは責任能力がないと判断されたが、その性格や思想から再犯の可能性がある。

よって、更生を目指して施設に送る保護観察処分となった。

 

それをシロコに伝えに行ったら……別の問題が発生していたんだよ。

 

『壁と屋根があるしごはんが美味い。水も飲み放題。素晴らしい。ここに住む!』

 

「ろ、牢屋暮らしが気に入ったって……えぇー……」

「いや、そういう奴は他にもいるぞ。代表的なのはホームレスだ」

 

夏と冬。外で暮らすのが厳しい季節になると、わざと軽犯罪を起こして捕まりに来る。

 

「夏の方が大変だから覚悟しておくように」

「そうなんですか? 雪が降るから冬も大変だと思いますけど……」

「臭いだ。汗をかいて不潔な格好で現れることが多いからな」

 

理由を聞いて顔を青くしているが、それくらいは耐えてくれ。じゃないと現場を任せられないぞ。

 

さて、コーヒーも飲み切ったか。

今日のところはここまでだ。続きはまた機会があったらな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

無心になって人形を組み立て続け……気がつけばお昼。お腹空いた。

完成した大量の人形は全てプラスチックケースに収められ、床から積み上がる高さだ。

 

この鳥……鳥?の人形、こんなに作るほど需要があるんだね。

キリノも同じくらいの量を完成させてるから数百体は間違いなくある。

 

……キリノは不器用だって話してる子がいたけど、私は違うと思うな。

何度か人形作成を一緒にやってるけど作業中に大きなミスをしたことがない。

たぶん、落ち着きのなさが原因だよね。そこさえ改善できれば、キリノはもっと優秀なお巡りさんになれると思う。

 

キリノはお弁当を取りに行ってる。今日のお昼はここで食べる。お弁当楽しみだ。

留置施設で長期間暮らしてる私にヴァルキューレも気を使ってくれるのか、お昼だけは暖かくて量のある食事を用意してくれる。

と言っても、コンビニ弁当をチンするだけ。それでも朝食と比較すれば贅沢だし私は大満足。

 

昔を思えばずっといい。私が私として目覚めた場所。砂と廃墟だらけの砂漠に比べたら……。

 

それにしてもキリノ遅いな。部屋を出て行ってもう二十分は経つ。

私は一人で待機中。手錠とロープで椅子に縛られてる。ちょっと苦しくなってきた。

 

部屋の扉も外から施錠されてる。逃げたりなんかしないのに。

 

―――カチリ

 

あ、ようやく戻ってきたみたいだね。鍵が開けられてドアノブが回される。

 

「あれ? カンナ?」

「失礼する。……シロコ一人か? 刑務官はどうした」

 

扉から入ってきたのはカンナだった。手にはペットボトルのジュースが二本。

 

「お弁当を取りに行ってるよ。まだ戻ってない」

「そうか。これはお前と刑務官への差し入れだ。後で飲め」

「ん、ありがとう。甘い物嬉しいな」

 

ボトルをテーブルに置いたカンナが私の横に立つ。縛られてなければなぁ……残念。

 

「作業は順調のようだな」

「うん。キリノが今日のノルマは終わったって言ってた。午後からは別の作業だって」

「……そうか、今日の刑務官はキリノだったか」

 

キリノの名前を出したらカンナの眉が動いた。少し緊張してる感じ。

 

カンナとキリノはな(・)に(・)か(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)み(・)た(・)い(・)で(・)あまり良い関係ではない。

なんていうか……キリノが一方的に避けてる。

 

囚人の私に態度が硬いのは別にいい。軽蔑されても唾棄されても仕方がない。

でもカンナに当たりが強い人を見るのは―――嫌だ。

 

だけど、私がなにを言っても逆効果にしかならないと思う。どうしたらいいんだろうね……。

 

「シロコ」

「ん」

 

カンナが私の頭に手を置いた。ポンポンと優しく二回叩いてから撫でる。

自然と耳が倒れて自分からも頭を擦りつけてしまう。気持ちいい。

 

カンナのスキンシップは私特効だ。とても安心する。きっと顔もだらしないことになってる。

でも別にいい。今だけは犬って呼んでも許す。……どうせ他人なんて居ないしね。

 

ん、もっと撫でろ。

 

「すみません! 遅くなりまし……あ」

 

……おかえりキリノ。

 

 

 

作業室には私とキリノの二人しかいない。

キリノが現れるなり、カンナは挨拶をして部屋を去った。

 

今は二人でお食事中。特に会話はない。

食べながら喋るのはお行儀が悪いから別にいい。ただ……ちょっと気まずい。

 

お弁当の唐揚げは美味しい。生野菜のサラダも留置施設では出てこない。お漬物も合うね。

ホカホカの白米なんて最高だ。

 

……無理。すごく気まずい。フブキ、今すぐ来てくれない?

 

「ごちそうさまでした」

 

心の中での呼びかけにフブキが応じてくれるはずもなく、二人とも食べ終わるまで無言だった。

 

「……白湯かお茶を入れましょうか?」

「ううん、いい。差し入れのジュースあるから」

 

キャップを開けて一口。私の好きな炭酸清涼飲料水だ。覚えていてくれてるんだね。

よくカンナに強請ってた。でも訓練の後はスポーツドリンクしか許してくれなかったっけ。

 

『スポドリやだ。もっと甘いのがいい!』

『駄目だ。文句を言わずに飲め』

 

出会って間もない頃の記憶。私がまだち(・)び(・)でカンナも髪が短かった。

 

懐かしいな……。

 

「あの。……お弁当が遅くなってすみませんでした」

「ん、別に謝らなくていいよ。なにかあった?」

「まあ、はい。商品補充のトラックが強奪されまして……」

「強奪」

 

頭を下げて謝罪するキリノに事情を聞くと物騒な言葉が飛び出した。

そっか。強奪されたか。……まあいつもの事だよね。キヴォトスだし。

 

「じゃあ今日のお弁当は購買のじゃないんだね。わざわざ外に買いに行ってくれたの?」

「いいえ、購買で用意してもらいました。公安局が緊急出動して犯人一味を逮捕しましたので」

 

公安局が動いたの? そんな大きな事件だったんだ。

あれ、でも公安局長のカンナがここに居たよね。副局長のコノカ先輩かな?

 

「……それと、もうひとつ」

「? なに?」

 

歯切れの悪いキリノの言葉の続きを促す。

まあなんとなく察しは付いたけどね。

 

「……邪魔をしてごめんなさい」

「それは違う。キリノは悪くないし邪魔なんてしてないから」

 

予想通りの言葉だ。……ごめんねキリノ。謝罪させてしまってごめん。

 

「でもっ」

「ルールを破ったのは私とカンナだよ」

 

刑務作業中は刑務官が監督責任者であり指示に従うこと。それが決まりだ。

 

私は、大人しく待機するように言われたのにカンナと私語を始めた。

カンナは、刑務官が不在の状況で部屋に侵入。許可を取らずに私に接触をした。

 

「だから謝るのは私の方。……申し訳ございません」

 

椅子から立ち上がり姿勢を正して頭を下げる。

キリノは悪くないよ。全部、私が悪いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

午後の刑務作業は館内清掃だった。

雨で外に出られないし、キリノと一緒に廊下や窓を掃除して回った。

 

事務的な会話しかなく、特に問題も起きなかったので十五時に本日の作業は終了。

キリノとはその場でお別れ。私はシャワーを浴びて汚れた囚人服を交換すると留置施設に戻った。

 

タブレットを起動して本日の報告書を作成。

刑務作業の日は入力する文も短いから楽だ。よしできた。送信して完了。お疲れさまでした。

 

さて、夕食までかなり時間がある。暇だ。

朝の分の柔軟体操をしようかと思ったけど、もうシャワー浴びたし……昼寝しようかな。

生徒の皆には悪いけど私は囚人。今日のノルマはこなしたから惰眠を貪らせてもらおう。

 

ベッドに横になって毛布を被る。ん、おやすみ。

 




「あぁっ!? 購買の商品載せたトラックが奪われただぁ!!」

警らに出ていた公安局員からの連絡に、副局長のコノカがデスクで怒声を上げる。
その発言を聞いて、二年と三年の局員たちも書類を放り出し各々の銃に手を伸ばした。

「昼はたまごサンドにもう決めテんだぞ! ラッキーアイテムが買えねぇ!!」

完全に頭に血が上り口調もスケバンのようだ。そんなコノカを放置して局員たちは整列を開始。

「今日はシロコが刑務作業だってんのに! これじゃあメシ食わせてやれねぇじゃんか!!」

愛銃のフォアエンドを前後して初弾装填。肩に担いで局員たちの前に立った。

「ふざけやがってぇ!! 一年は留守番してろ! てめぇら、でっゾ!!!」
「了解!」

キヴォトスでも、食い物の恨みは怖いのである。
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