ヴァルキューレの狼   作:アホの子ヴァルコ

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お食事券。もらえたら嬉しいですよね。私も欲しいです。


報告書 「側溝清掃と物資調達」 (刑務作業)

起床したら部屋の中が真っ暗。置き時計のライトを点灯すると……早朝の五時。

 

ここ数日、目覚めが安定しない。総員起こしより早く目が覚めてしまう。

さすがにこんな時間から体操や筋トレをするのは嫌だ。

 

それに今日はどうせ刑務作業の日。だって防犯窓の外は雨だもの。

かなり強く降っているみたいで留置施設の屋根を叩く音が聞こえてくる。

 

自己診断したけど体に異常なし。睡眠不足も感じない。今日も元気だ。

そもそも体調を崩す方が稀。カンナと出会ってからは数えるほどしかない。

 

一人で生きていた頃には……何度か経験がある。でも昔の話。もう関係ない。

 

さてと、後一時間はベッドでゴロゴロしてよう。これも時間の贅沢な使い方だよね。

早朝から活動してる当番生徒や夜勤の子には悪いけど、のんびりしてよう。

 

 

 

看守の点呼が終わり朝食の時間だ。

本日のメニューはコッペパンとブルーベリージャムとスティックチーズ。飲み物は白湯。

 

雨の日は暖かい白湯を沸かしてくれることが多い。

50℃前後のお湯を朝に飲むと、胃腸を活性化させて代謝を高めてくれるんだって。

わざわざ用意してくれてありがとう。……予算の都合もあるんだろうけど、言いっこなしで。

 

残さず食べきって、ごちそうさまでした。

 

 

 

 

 

 

 

身だしなみを整えて部屋で待機中。……なんだけど、様子がおかしい。

ずっと待ってるけど刑務官が迎えに来ない。どうしたんだろう?

 

―――タッ、タッ、タッ、タッ

 

足音。駆け足で急いでる感じ。複数……たぶん二人。刑務官じゃない?

その足音の正体は―――看守とフブキだった。

 

「501番。本日の刑務作業の時間だ。詳細は担当に聞け。以上」

 

看守は手短に用件を伝え、扉を解錠すると立ち去った。その場にはフブキ一人だけが残される。

 

「おはよーシロコちゃん。今日の刑務官は私だから。それでね、悪いけど今日は外仕事なんだ」

 

フブキは制服の内ポケットから紙切れを一枚取り出した。

ヴァルキューレ警察学校の食堂で使えるお食事券。朱色の学校印が押されている。

 

これは()()()()()()()の合図。

 

「ん、わかった」

 

迷いなく返事をしてフブキに両手を差し出す。そこに手錠がかけられ、紐が結ばれた。

詳細を聞くのは後。ここは人が多すぎる。

 

私たちはフブキを先頭にして歩き出した。目的地は―――地下駐車場。

 

 

 

地下駐車場の片隅に廃品保管室がある。

そこは期限切れの拾得物や不要品が納められ、業者が回収に来るまでの一時保管に使用される。

色々な物が放り込まれては掃除されて消えていく。それが繰り返されるんだ。

 

そんな場所なら……いつの間にか物が増えたり消えたりしても、気にする人はいないよね。

 

体型を隠すオーバーサイズのスウェットにカーゴパンツ。どれも奇抜なデザイン。

頭はヘッドラップとゴーグル、口元を隠すフェイスカバー。変装はこれでいいかな。

 

 

「フブキ、どう?」

「どっから見ても不良だね。あ、移動手段はスクーターだから半ヘル被りなよ」

 

ヘッドラップの上からヘルメットを被る。ん……獣耳が押さえられて好きじゃないけど我慢。

 

「対象の情報は?」

「全部で五人。内、企業の社員が一人、護衛が三人いるね。……残りは()()()()だよ」

「戦力はわかる?」

「社員も護衛も機械人。護衛は自称ブラックマーケットの腕利きだってさ。眉唾だねぇ」

 

教えてもらった情報から武器を選ぶ。非力な銃では駄目。荷物もあまり持ちたくない。

……手堅く散弾銃にしよう。チューブ式で弾だけ持ち歩けばいい。

 

「私はなにをすればいい?」

「現場に突撃して大暴れ。それだけでいいよ。ぶっ飛ばしたらすぐ逃げてよね」

「後のことは?」

「生徒がやる。謎の不良が騒ぎにしてくれて絶好のチャンス到来! っていうストーリー」

 

そっか。もう内偵済みなんだね。だから相手の情報がしっかりあるわけだ。

 

「注意事項は?」

「特にないかな。シロコちゃんが準備できたなら出発しよっか」

「ん」

 

フブキが腰掛けていた廃品から立ち上がる。

いつもの制服じゃなくて無地のつなぎに同色の帽子。髪型も変えてるから印象がかなり違う。

パッと見てフブキとはわからないだろう。

 

廃品保管室の外を確認。……よし、誰もいない。今のうちに出よう。

近くに駐車してある業者のワゴン車に乗り込む。運転はフブキが担当。私は荷室へ。

 

ヴァルキューレを出入りする業者と同じ名前のワゴン車。

それを気にする生徒もなく、私たちは学校を離れて目的地へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

目標地点から少し離れた路地裏。今はそこでフブキと待機中。作戦開始の連絡を待ってる。

 

暇だし、今日の相棒を再点検。セミオート式の散弾銃。外装は……派手なデコレーションだね。

邪魔なゴーグルとフェイスカバーをずらして機関部を覗き込む。目視確認で異常なし。

所有者不明で廃棄される銃のはずなのに、なぜか問題なく動作する。準備がいいね。

 

雨の勢いは朝と変わらない。ワゴン車の窓ガラスに次々と水滴が張り付いては下に流れていく。

 

フブキは運転席でスマホを弄ってる。特に会話もない。

いつもなら向こうから話題を振ってくるのに……気を使ってくれてるんだね。

 

今日の作業は……表沙汰にできない内容なんだ。

奉仕作業は「刑務作業」と「社会貢献作業」の二つだけじゃない。もう一つ、名称が定められていない作業がある。

 

私はそれを「特別奉仕作業」と勝手に呼んでいる。

ヴァルキューレの生徒でこの作業を知っている人は少ないと思う。

フブキは……例外。私が巻き込んでしまったから。

 

上層部はメッセンジャーを通じて私にこの特別奉仕作業を命令する。

以前は毎回違う生徒が来てたけど、今はフブキだけだ。

 

フブキは昇進に興味がない怠け者。それでいて、他人の厄介事に首を突っ込むお節介焼き。

だから目を付けられてしまった。都合のいい存在として利用されている。私のせいでそうなった。

 

……今ならふたりきり。邪魔は入らない。ずっと気になってたフブキの本音を聞いてみたい。

 

「フブキ、あのね……話があるんだけど」

「そんなに気にする必要ないよ」

「そうは言うけど、フブキも―――あれ?」

 

いつもの先読み。でもそれは顔を見れば……だよね? それともフブキって心が読めるの?

フブキは運転席から振り返ると、私の顔を見てニヤリと笑った。

 

「そんなわけないじゃん。シロコちゃん、これこれぇ」

「……あ」

 

フブキが指差しているのはバックミラー。そっか、鏡に映ってたんだ……。

 

「上層部なんてテキトーに相手してりゃいいんだよ。てか、パシリやらされてるだけじゃん」

 

……私に思うところはないの? 恨まれてもおかしくないのに。

 

「シロコちゃんに貸し一つでボックスセットが一箱! お得じゃん!」

 

……事情をよく知らない上級生に絡まれてるよね。

 

「上の指示で動いてまーす。詳細は話せませーん。苦情は上へどうぞー。って言うだけだよ」

 

……()()()()()はやめて。覚えてないけどたぶん私の方が年上。体も大きい!

 

「記憶がないから今年で人生二年目じゃん? 私の方が大先輩だぞ! それとさ、デカさにこだわってるうちはガ・キ・ン・チョ、だよね~」

「ん! ムカつく!!」

「あれあれぇ~? 自称年上が年下にキレちゃうのー? 大人気なーい」

 

私を指差してケラケラと笑うフブキ。妖怪ドーナッツ娘のくせに、おのれぇ……!

 

―――ピピッ

 

「お? ああ、来たね。シロコちゃん?」

「ん」

 

作戦開始の合図。

私は急いでゴーグルとフェイスカバーを戻し、荷台のスクーターに飛び乗った。

 

フブキが運転席から飛び出し、車両後部に回ってリアハッチゲートを開放。

油圧ダンパーでゲートが持ち上げられ、目の前を遮るものは無くなった。

 

スクーターのエンジンを始動。オートマチック車だからギアの操作はいらない。

アクセルを回してワゴン車の荷台から飛び出し路地裏に着地。スリップしないように注意だ。

 

「んじゃ向こうで待ってるから。いってらー」

「うん、後でね」

 

スクーターを発進させ路地を走る。さあ、これからが本番だよ。

 

 

 

 

 

 

 

路地を抜けて一般道路をしばらく走り、今度は別の路地へ入った。もうすぐ目的地に着く。

 

作戦はシンプル。このままスクーターで乗り込む。そして目的を果たしたらさっさと逃亡。以上。

今回は迅速な行動が求められている。スクーターをどこかに置いて、徒歩でゆっくり忍び足なんてやってられない。

私は通りすがりの乱暴な不良でなくちゃいけないんだ。というわけでアクセル全開。突貫!

 

スピードを上げて路地を進んだ先で急に視界が開けた。

そこは都会のコンクリートジャングルの中に生まれた小さな空き地。

 

「止まれ! 近寄ると撃つぞ!」

 

突撃銃で武装した三人の傭兵が扇状に展開して待ち構えていた。

スクーターの音で接近に気づいて当然。だからこれは想定の範囲内。

 

手放し運転で散弾銃を構え、向かって右の奴に発砲。

散弾が直撃して傭兵が仰向けに倒れた。……なんで今の傭兵、回避行動を取らなかったんだろう?

 

右手をハンドルに戻してアクセルを握り、空き地を右から大回りするように移動を開始。

残った傭兵二人が発砲を始めたけど、スクーターが通り過ぎた場所を撃ってる気がする。

 

この傭兵たち……弱い。見た目だけのハッタリだ。トラッキングエイムが全然できてない。

動く目標を狙うなら、移動先を予想して撃たないと命中しないのは当たり前だよ。

 

ガンスリングと左手だけで散弾銃を構えなおし、傭兵に向かって流鏑馬で三連射。

これは左の片手撃ちだから当たれば儲けもの。外れても牽制になれば十分だ。

 

さて、傭兵の奥には二人。傘を差したスーツ姿の機械人と、合羽を着て姿を隠した()()()()

機械人の方は傭兵たちに早く対処するように怒鳴ってる。……腰が引けてるけど。

 

そして合羽の方は……背中に腕を回して銃を抜いた。合羽の隙間から見えたのは見慣れた制服。

ヒップホルスターから引き抜かれた銃も、よく知っている物だった。

 

第3号ヴァルキューレ制式拳銃。

 

これで確定した。今回のターゲットはこの合羽だ。

脅威度の低い傭兵たちは後回しにして、蛇行運転をしながらターゲットに向かう。

 

相手が制式拳銃を発砲。ちゃんと訓練しているみたいで傭兵よりは狙いが定まってる。

半ヘルをかすめたりサイドミラーが割れたりしたけど命中弾はなし。

そのまま乱射して……撃ち切った。シリンダーに五発しか入らないんだもん。当然だよ。

 

リロードを開始したけどもう遅い。距離は十分に詰めた。

ターゲットに発砲。飛散した礫が命中し、衝撃で体が少し浮かび上がって地面に倒れた。

 

フードがめくれてターゲットの顔が見える。……知らない子だ。顔見知りじゃなくて少し安心。

 

「だ、駄目だっ! こいつら頼りにならん!」

 

スーツの機械人は傘を投げ捨てて逃亡を開始。

傭兵たちは……ラッキーパンチしたみたいで一人が膝をついている。

もう一人はリロード中。でもかなり焦ってる様子で、マガジンの装填に手間取ってる。

 

減速しながらスクーターを反転。再加速して……まずはスーツの機械人。

背中を蹴っ飛ばして転ばせる。顔面から倒れ込んで動かなくなった。ワンダウン。

 

続いて手放し運転で散弾銃を構える。狙うのは立ってる方の傭兵。

銃を捨てて降参してきたけど発砲。ごめん、よく聞こえなかったよ。ツーダウン。

 

ここで散弾銃が弾切れ。ガンスリングを肩から外して銃身を左手で握り、アクセル全開。

膝をついた傭兵とすれ違いざまにフルスイング。散弾銃のストックがヒット。スリーダウン。

 

もう十分かな。ガンスリングを肩に戻し、散弾銃を背負うと元来た路地に飛び込んだ。

 

「いまだ行け、かかれー!」

「なんなんださっきの奴!? 作戦が台無しだよ!」

「目標の確保が先だ! 取り押さえろ!」

 

逃げ出してすぐに空き地が騒がしくなってきた。そっちも雨の中大変だね。後は任せるよ。

 

逃走を開始。念のため、何度か道を折れて追跡を警戒しておく。

しばらく様子を見て追跡の気配はなし。うん、大丈夫そうだね。

 

 

 

スクーターを路地に停車して一息つく。ついでに散弾銃もリロードしておこう。

目的は達成した。現場にいたターゲット……あれは、汚職に手を染めてしまった生徒だ。

 

ずる賢い大人たちは、警察官であるヴァルキューレの生徒にすり寄ってくることがある。

あの手この手で唆したり、賄賂を差し出して抱き込んだり。……嫌になるね。

 

上層部はそういった生徒を確認すると、私に仕置きをするように命令を下す。

フブキが見せてきたお食事券。……あれは「汚職事件」の隠語。特別奉仕作業の合図だ。

 

合羽の子がなにをしたのかは知らないし、これからどうなるのかもわからない。

後は上の仕事。私が関わることじゃない。命じられたまま、奉仕を行うのが私の罪滅ぼしだから。

 

……さてと、フブキを待たせてるしそろそろ行かなくちゃね。

私はスクーターを発進させると、合流地点を目指して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り。まずはやることやっちゃおう」

「そうだね」

 

フブキに手を貸してもらって、スクーターを急いでワゴン車に積み込むと移動を開始。

向かうのはヴァルキューレ本校付近の貸し倉庫だ。運転はフブキに任せる。

 

ずぶ濡れだけど変装はまだ解かない。倉庫に着くまでは荷台で息を潜めてじっとする。

私の油断がフブキを危険にさらすからね。寒くて不快感を感じるけど我慢。

 

しばらく走って倉庫が見えてきた。ワゴン車を止めてフブキがシャッターを下ろして施錠。

これでようやく落ち着ける。頭部に身に着けていた物を全て外す。獣耳が解放されて楽になった。

 

「タオルと着替えはここね。まあどうせまた濡れるんだけど……めんどくさぁ~」

 

雨を吸って重くなったスウェットとカーゴパンツを脱いで髪と体を拭う。

フブキもつなぎを脱ぎ散らかし、タオルで水気を拭いている。お互い下着姿だけど気にしない。

更衣室とかシャワールームでほぼ毎日他人のそういう姿を見るんだもん。今更だよ。

 

体を拭いたら服を着る。私は外仕事用のジャージでフブキは制服だ。

脱いだ服と装備、車は倉庫に放置でいい。準備や片付けは別の人の仕事。全部お任せでいい。

 

「あー……疲れたぁ。これで熱いコーヒーとドーナッツがあればなぁ~」

「食べたくなるからやめてよ。ほら行くよ」

 

愚痴をこぼすフブキの背中を押して倉庫の裏口へ。

そこに用意されていたゴム手袋と長靴、合羽を装備。フブキも同じ格好だ。

 

「確認しまーす。本日の刑務作業は側溝清掃。現場は本校裏手。朝から作業してた。そうだね?」

「ん。朝から刑務官のフブキとドブさらいしてました。詰まってて大変だった」

「オッケー。んじゃ、アリバイ作りにちょっとだけ掃除しよっか」

 

ジョレンとスコップを持って外に出たら扉を施錠。

フブキと一緒に道路を歩いて警察学校裏手の通りにやってきた。

 

今朝方、ここを通行した市民から「側溝が詰まって溢れている」という通報があったみたい。

これは本来ならD.U.を管理する行政の仕事。連邦生徒会が対応するべきことだね。

でも彼女たちがいつ対応してくれるかは不明。さらに現場がヴァルキューレのすぐ近く。

 

だったら市民への奉仕を掲げるヴァルキューレが一肌脱ぎましょう! これはボランティアです!

 

……というのが今日の筋書き。雨の日の刑務作業として、私を外に放り出すカバーストーリー。

でも実際に作業をしていないと疑われる。だから今からやるんだよ。頑張ろう。

 

 

 

私とフブキは雨の中、道路脇の側溝を一時間ほど掃除して回った。

現在時刻は十一時すぎ。フブキが撤収を指示したので作業を切り上げた。

 

作業道具を保管庫に片付けたらシャワーへ直行。

湿ったジャージを脱ぎ捨ててブースに入って湯を浴びた。フブキも隣のブースで温まってる。

体調を崩さないように、今日は長めのシャワーだ。

 

「あ、そうだ。シロコちゃんは今日のお昼、何食べるー?」

 

髪を洗っていると隣からフブキが話しかけてきた。

いつもならお昼はコンビニ弁当。でも今日は特別。ご褒美メニューだ。

 

「……ハンバーグがいい」

「それだけぇ? 前も言ったけど遠慮しないでいいんだよ?」

「ん……じゃあコーヒーゼリーもいい?」

「りょーかい。シャワー上がったら注文しとくねー」

 

特別奉仕作業をこなすと上層部からお食事券がもらえる。正確には権利が一回分。これを使って、食堂の好きなメニューを注文できるんだ。

ただ、私が直接食堂に行くのは無理。事情を知らない生徒への説明ができないからね。

 

だから食べたいメニューを注文して用意してもらい、それを別の部屋に運んでもらって食べる仕組みになる。

 

……この権利、以前は遠慮してた。だって罪滅ぼしにご褒美をもらうのはおかしいと思ったから。

でもフブキがメッセンジャーになったとき、権利を使ってしっかり食べるように言ってきた。

 

『シロコちゃんは痩せすぎ。元気で健康な体じゃないと周りが不安なんだよ。だから食べて』

『食べた分は奉仕で返せばいいのさ。モリモリ食べてビシバシ働こうって言うでしょ?』

 

フブキが入学する前は……去年の私は確かに少し痩せてた。

留置施設の食事がメインで昼のコンビニ弁当とカンナの差し入れがご馳走だった。

それが当たり前だったのを変えてくれたのがフブキだ。

 

電子マネーカードを上の許可を得て用意してくれたり、賞金でおこづかいを稼ぐ方法を教えてくれたり。……フブキには本当に感謝してる。

 

「フブキ」

「うん? なーに?」

 

「いつもごめんね。そして、ありがとう」

「えー? なんのこと? 急に意味わかんないなぁ。……まあでも、言葉はもらっとくよー」

「ん」

 

 

 

 

 

 

 

しっかり温まってシャワーはおしまい。

全身の水気をタオルで拭き取ってから下着を着用。着替えは……ジャージでいいの?

午後からの刑務作業だけど、フブキがまた外出するって言うんだ。どこに行くんだろう?

 

「その話はあとでね~。それより注文しといたからさ、行こっか」

「ん、わかった」

 

フブキに促されて歩き出した。行き先は作業室。前にキリノと人形作りをした部屋だ。

 

 

 

作業室に入ると……いい匂いがする。

テーブルにはハンバーグ定食とコーヒーゼリーのおぼんと、親子丼のおぼんが用意されていた。

 

ハンバーグに目玉焼き。付け合わせのブロッコリー。ごはんにお味噌汁に漬物。素晴らしい。

まだ熱々で湯気がたってる。早く食べたい。

 

「おっ、早いじゃーん。待たされると思ってたから嬉しい誤算だねぇ」

「お腹空いた。フブキ、早く座って」

 

小走りで椅子に座りフブキの着席を促す。暖かいうちに食べないともったいないよ。

フブキがちゃんと椅子に座ったら……いただきます。

 

まずはハンバーグ。お箸を入れると肉汁がじわっと出てきた。ソースを絡めて一口。美味しい。

肉の旨味が口の中であふれてたまらない。半熟卵の黄身を潰して和えるのもいい。

ブロッコリーは塩ゆでされてて甘さが引き立つね。お口の油っこさが消えてハンバーグが進む。

ご飯とお味噌汁も順番に味わう。肉、米、汁のローテーションがとまらない。

 

夢中で食べてお皿は空っぽ。漬物も残さず完食。美味しかった!

 

次はデザート。プルプル震える冷たいコーヒーゼリーをスプーンで食べる。

カンナの影響で私もコーヒーは飲むけど甘い方が好み。甘くてほろ苦いゼリー。んまい。

 

しっかり全部食べて、ごちそうさまでした。

フブキも親子丼を完食して椅子で脱力してる。だらしないけど気持ちはわかるよ。

 

「フブキ、お茶飲む?」

「あ~~……。淹れてくれるならもらうー……」

 

席を立って作業室の電気ケトルに水を入れてセット。湯が沸くまでに急須と湯呑を準備。

朝から肉体労働に付き合ってくれた大先輩に、熱いお茶を用意して労わってあげよう。

 

 

 

二人で食後のお茶を飲んでいるとお客さんがやって来た。

 

「失礼する」

 

カンナだ。久しぶりに顔が見れて嬉しい。どうしたの?

 

「あ、局長いいところに来てくれたね。私は食器を片付けてくるから留守番よろしくー」

「シロコに用があるから構わないが……今日は弁当じゃないのか」

「朝から雨の中、ドブさらいしたんだよ~? 温かい物食べたいじゃん。()()()()()()()

「そうか。刑務官が判断したことなら特に言うことはない」

 

フブキは五分くらいで戻ると言って、おぼんを手に部屋を出て行った。

 

……カンナは特別奉仕作業のことを知らない。だからフブキもごまかしてくれてる。

私もしっかり話を合わせないとね。

 

「カンナ、用ってなに?」

「……ああ、いや。実は用などはない。……顔を見に来た。それだけだ」

 

目を泳がせて歯切れの悪い様子に、照れているのがわかる。いつもならもっとズバズバと物を言うのにね。

でもそっか。わざわざ会いに来てくれたんだ。……嬉しいな。

 

「最近、D.U.の治安が悪化している。連邦生徒会も動きが鈍い。どうも様子がおかしい」

 

治安については同意見。明らかに小物が増えたし事件が多発してる。

でも連邦生徒会の異変は初耳。私は彼女たちの拠点付近に近寄らないから知らなかった。

 

「今後は現場対応でさらに忙しくなるだろう。こうやって、顔を合わせることも減るだろうな」

「ん……」

 

それは……しょうがないね。カンナは公安局の局長。部下もたくさんいる。

手が放せないのは当然だ。たまに会えるだけで十分だよ。我慢する。

 

「だからまあ……久しぶりにな。―――来い」

 

 

 

カンナが両手を広げて呼んでる。……いいの?

 

立ち上がってカンナと向かい合い、そのまま腕の中へ。しがみつくとカンナも抱き返してくれた。

石鹸と柔軟剤と……懐かしい匂い。そして温もり。カンナとのハグ。……どれくらいぶりだろう。

 

それはカンナと一緒に暮らしていた頃の記憶。

まだ私が小っちゃくて、夜になるとカンナの寝床に潜り込んでた時だ。

最初は追い出されてたけど、何度か続けると諦めたのか添い寝してくれたよね。

 

私がカンナに抱き着くと……そっと腕を回して包み込んでくれた。安心して眠ることができた。

 

だけど突然、離れ離れになってしまって……それっきり。

原因は私。私が悪いことをしてしまったから。罪を犯して、逮捕されてしまった。

 

留置施設の牢屋で暮らし始めて一年以上が経つ。だからハグしてもらうのも一年以上ぶり。

私が安易に行動しなければ。()()()()()()()()()……。こんなスキンシップが当たり前の生活が、今も送れたかもしれない。

 

それをまざまざと突き付けられた気がして、思わず涙が出そうになったけど……ぐっと堪えた。

泣いてもカンナを困らせるだけ。もうこれ以上、カンナに迷惑をかけてはいけない。

 

私は囚人番号501番。砂狼シロコ。カンナが卒業するまで、ずっとそのままでいい。

恩返しと罪滅ぼし。カンナへの贖罪。そのために奉仕を続ける囚人だ。

 

 

 

 

 

 

 

一分くらいでハグは終了。私から離れた。大丈夫、もう堪能したよ。

 

その後は椅子に並んで座ってお話。世間話から始まってD.U.の様子とか変な事件で盛り上がった。

話題はなんでもいい。カンナとお話しできれば楽しいからね。

会話の最中も頭を撫でてくれる。甘やかしてくれるのは素直に嬉しい。ん、もっと撫でろ。

 

「入るよ~。遅くなってごめんねぇ。……局長も留守番助かったよ」

「おかえりフブキ」

 

時計を見て気がついたけど、フブキが部屋を出てからもう十五分は経ってた。

カンナもお昼休憩の時間だろうけど、大丈夫なのかな。もうすぐ終わっちゃうよ?

 

「刑務官が帰ってきたなら私は失礼するとしよう。ではシロコ、午後の奉仕も頑張るように」

「ん、もちろんだよ。またね」

 

カンナはフブキと入れ替わるように部屋を出て行った。

私たちも休憩時間はあと僅か。使った茶器を洗って、テーブルも拭かなくちゃ。

 

「……ねえ、シロコちゃん」

「なに?」

 

片付けを開始した私にフブキが話しかけてきた。……なんか変な顔してる。渋い顔だ。

 

「局長とのお話、楽しかった?」

「え? うん、久しぶりにしっかり話せて楽しかったよ。それがどうかしたの?」

「……そっかー。ならいいんだ。あ、テーブルは私が拭くねー」

 

……? 変なフブキ。まあいいや。

洗い終わった茶器は布巾で水気を拭ってから戸棚へ返却。テーブルはフブキが拭いてくれたからこれで片付け完了。

 

それじゃ午後の刑務作業開始だね。なにするの?

 

 

 

 

 

 

 

午後は消耗品の買い出し……調達任務だ。

地下駐車場でワンボックス型の貨物用軽車両をフブキが借りてきた。運転は私が担当。

 

ホームセンターや事務用品店を複数回ってお買い物。最初はこれ本当に刑務作業?って疑問に思ったけど、車にどっさり詰め込むほど買い込んだ。大変だった。

 

「午後は楽しようと思ったんだけどねぇ。軽い気持ちでなんか買う物あるー? って聞いたら、どんどん頼まれちゃって……失敗したなぁ」

 

荷物をあちこちに届けて回り、終わったのが十六時。

フブキが疲れてもう動けないって言うから、安全局までおんぶして運んであげた。

今日はありがとう。またね。

 

シャワーで汗を流して囚人服に着替え、留置施設で報告書の作成。

今日の刑務作業は側溝清掃と物資調達。これだけ。送信して完了。

 

時計を見ると夕食までもう少し。

看守が点呼を始めるまで、ゴロゴロさせてもらおう。

 

ん、おつかれ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「もしもし局長? 私はシロコちゃんをしっかり構ってあげてって言ったよね? じゃあなんでシロコちゃんがへこんでるの? 調子を落としてるシロコちゃんを元気付けてあげるはずが、前より意気消沈してるってどういうこと? 時間を作って作業室に来てくれたことは感謝するけどさぁ、それで悲しませてたら意味ないじゃん! 心当たりが無い? こっちだって、原因がわからないと対処したくてもできないよ! 他人の考えがわかるんじゃないかって? シロコちゃんも局長も、私をエスパーかなんかと思ってない? 無理だからね? 考えてることが顔に出てないと無理なの! あーもう、気を利かせて遠回りなんてするんじゃなかったぁ! ……はあ、騒いでも仕方ないかぁ。私も探ってみるけど露骨にはできないからね? シロコちゃんに気づかれて裏目ったら最悪だし。あーはいはい、局長に頼まれなくてもやるよ。あ、悪いと思ってるならちゃんと返してよね。マスタードーナツのボックスセット! 安いもんでしょ? んじゃね」

 

 




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