ヴァルキューレの狼   作:アホの子ヴァルコ

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報告書 「食い逃げ犯傷害事件」

ベッドで意識が覚醒。素早く身を起こして現在時刻を確認。……総員起こし五分前。

よし、いつも通り。久しぶりの安定した目覚めに思わず安堵のため息がこぼれた。

 

毛布をたたんでベッドを整えたら日課の柔軟体操。床に座ってストレッチ。

防犯窓の外は快晴。今日は脱獄日和だ。警らに備えて下半身を中心にほぐし、体を温めておく。

 

≪ おはようございます。ヴァルキューレ警察学校が、朝の七時をお知らせいたします ≫

 

朝の放送が流れた。さあ、今日も一日が始まる。頑張ろう。

 

 

 

本日のメニューはクロワッサンと牛乳とリンゴ1/4個。いただきます。

クロワッサンはめったに出ない。徳用品だろうけどバターの風味がしっかりしてる。美味しい。

 

りんごは皮付き。不足しがちな食物繊維と栄養を摂取できるから朝食に向いてるんだって。

朝から豪華で満足。ごちそうさまでした。

 

 

 

 

 

 

 

「……食い逃げ?」

「うん、食い逃げ。あ、もちろん余罪たっぷり。じゃないと賞金首にはならないよ~」

 

脱獄して警らの準備を整えてから生活安全局に顔を出すと、賞金首が現れたことをフブキから聞かされた。ただその内容がね……食い逃げの賞金首ってなに?

 

「先日、ストリートレーサーを逮捕したよね? ちょうどそのとき、食い逃げ犯を追ってる生徒がいたでしょ?」

 

えっと……ああ、応援要請の無線に応答してた子だ。食い逃げ犯を追跡中って言ってたね。

 

「バイクで逃げてた犯人が逃走を諦めて投降。さあ手錠をー……っていうタイミングで暴れてね、生徒二名が負傷。そのままとんずらってわけ」

「つまり公務執行妨害と傷害がついたんだ。食い逃げの方は詐欺? それとも詐欺利得?」

「強盗致傷になる見通し。追いかけた店員を突き飛ばして怪我させてるからねぇ」

 

食い逃げ……無銭飲食はどういう行動をしたかで罪が変わる。

最初から支払う意思がなかった場合は詐欺。その場をごまかして逃げると詐欺利得。

店員や目撃者などの追跡に抵抗した場合は強盗致傷の可能性。どれになるかは状況と自供次第だ。

 

「警ら中の生徒が一度発見したけど、戦って負けてる。かなり強いみたいだよ」

「そっか。……ん? ねえ、銃弾が効かない可能性有りってあるけど、これは?」

 

手配書に目を通していると不可解な一文を見つけた。

注意事項の欄に「銃撃するもダメージを与えられた様子がなかった」とある。

 

「書いてある通りだよ。犯人の胴体を撃ったけどケロリとしてたってさ」

 

胴撃ちで無傷。頑丈なボディアーマーかなにか……いや、これはたぶん、犯人の特性かな?

 

今回のターゲットはスケバン。それも筋骨隆々のマッスルボディで撃たれ強いらしい。

非力な拳銃や短機関銃では急所を狙っても効果が薄いかもしれない。これは困った。

今日は自転車に乗るから制式拳銃を選んだのに。……まあ、やりようはあるけどね。

 

「遭遇した生徒の報告によると、犯人の言動から『伝説のスケバン』に憧れてるみたいだよ」

「それって矯正局に収容されてる囚人だっけ? 私は見たことないけどフブキは?」

「あるけど……すんごいよ、色々と。今回の犯人はアレよりマシだよ。一回りは小さいしね」

 

手配書には推定身長1.8mとある。私よりずっと高いしカンナよりも上だ。

武装は機関銃。射撃戦では圧倒的に不利。なんとか距離を詰めて戦うしかない。

 

「情報ありがとう。行ってくる」

「治安が悪化してるから気をつけてねぇ。それとお土産よろしく~」

「ん、わかってるよ。じゃあね」

 

フブキの要求してる物は聞かなくてもわかる。

特別奉仕作業のお返しも含めて、今日は限定ボックスを購入しよう。さあ出発だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

次から次へと事件が発生し、それに付随して届けられる書類がデスクに積み上がっていく。

D.U.の治安は悪化の一途をたどっており、公安局も毎日慌ただしい業務を余儀なくされている。

 

上層部曰く、連邦生徒会は極度の混乱状態にあり「今は対応できない」の一点張り。

防衛室に問い合わせても「治安維持活動に専念しろ」という、命令とも言えない返答のみ。

おまけにクロノスの生徒が情報やコメントを求めてヴァルキューレに押しかけてくる始末。

 

部下たちの手前、口には出せないが辟易する思いだ。

だからせめて、ひとときの休息を求めてコーヒーを淹れようとすれば……豆がない。

 

作業自体はコーヒーメーカーに任せればいい。忙しい中でも本格的なコーヒーが楽しめる。

だが肝心の豆を切らしていてはどうしようもない。ましてや、買い物に行く暇など……はぁ。

 

(缶コーヒーで我慢しよう。ついでに軽く歩けば気分転換にもなるさ)

 

自分自身に言い訳を言い聞かせて席を立った。

副局長に少し留守にすると伝え、公安局を出たところで話しかけられる。この間の後輩だ。

 

……続きが聞きたいのか? いいだろう。ただし、今回もコーヒーを飲み終えるまでだ。

 

 

 

自販機で微糖の缶コーヒーを二つ購入。そして自分の無糖を選んでいると休憩所に生徒が二人やってきた。一人は後輩。もう一人は……警備局の一年生か。

 

「そいつが一緒に話を聞きたいという生徒か?」

「はい。私の同級生です。この子もシロコちゃんのこと興味があるらしくて……ほら、挨拶!

わかってるよ! ど、どうも。よろしくお願いします!」

 

後輩は私に慣れてきたようだが、初対面の一年は尻込みをしている。

私の顔や雰囲気が怖いのだろうな。別に気にはしない。よくあることだ。

ベンチに座るように促し、缶コーヒーを渡して私もまず一口。やや味気ないが……今は我慢だ。

 

「確認するが、続きからでいいんだな?」

「はい。前回教えていただいた部分は私から話しましたので、続きをお願いします」

 

わかった。では牢屋を出たがらないシロコのその後だ。

 

 

 

シロコは保護観察処分となり施設への移送が決定。しかし牢屋暮らしを気に入り出所を拒否した。

だが、そんなわがままを聞いてやる理由などない。牢から引きずり出し、養護施設で子供たちや職員と共同生活になることを伝えて送り出した。

 

これでシロコとの関係は終了。縁が切れて会うこともない。そう思っていたんだがな……。

 

「まさか、即日に問題を起こして帰ってくるとは予想もしていなかったよ」

「えっ、即日!?」

「その日のうちに、ってことですよね。なにしたんですか?」

「シロコが持つ例の思想だよ。施設で大暴れしたんだ」

 

『私は私より強い相手にしか従わない。命令するなら勝負して勝ってみせて』

 

まず最初に子供同士で喧嘩になった。

生意気な新入りを懲らしめようとしたリーダー格の少女と取り巻き。そのグループを完全に叩きのめし、他の子どもたちからは怯えられ孤立してしまった。

 

騒ぎを聞きつけて止めようとした職員たちにも反抗した。

ヴァルキューレに逮捕された経緯を知っていたからか、口での説得を早々に諦めて取り押さえようとしたが失敗。

 

シロコはこれを自分への攻撃と判断して反撃に出たんだ。

結果、施設の一部損壊。そして施設関係者は負傷者多数。とても面倒見切れないと、入所を拒否されてしまった。

 

「連絡を受けたときは唖然としたよ。慌てて引き取りに向かい、先方に謝罪して連れ帰った」

「昔のシロコちゃんってそんな感じだったんですね……」

やっぱりあの娘、危険人物じゃないの? あ、いや、なんでもないです!」

 

警備局員の独り言が聞こえたので視線をやると……慌ててごまかそうとした。

まあ、そう言われても仕方がない暴れっぷりだからな。過去のシロコが問題児だったことは事実。否定はしない。

 

だからこそ、()()()()()()()()()()()()()。今のシロコは問題行動など起こさないと自信を持って言えるぞ。安心してくれ。

 

(局長直々の躾!? シロコちゃん、それは……気の毒に……)

(なんで誇らしげに笑顔を浮かべてるのよ!? この人、やっぱ怖いんだけど!)

 

……二人ともどうした。なぜそんなに青い顔をしている? 体調不良か?

 

「いいえ! 問題ありません!」

「すっごい元気です! 平気です!」

 

そうか? 支障がないならいい。

喉を休ませるために缶コーヒーを一口。少し温くなってしまったか。

 

 

 

話を続けるぞ。

シロコを連れ帰った後、ひとまずもう一度留置施設に収容し、これからどうするかを考えた。

 

考えたんだが……次の受け入れ先などなかった。

養護施設は横の繋がりもある。駄目元で他の施設に連絡を取ったが、すでにシロコのことは知れ渡っていた。

 

その頃は私もお前たちと同じ一年生。経験不足で早々に音を上げてしまったよ。

困り果てて当時の上司に……面倒を見てくれていた、公安副局長に相談しに行ったんだ。

 

すると彼女から、私がシロコの身元引受人となり面倒を見てはどうかと提案されてな……。

 

『カンナ、この苦労はあなたの糧となる。きっとあなたの希望を叶えてくれるわ。やってみる?』

 

「問題児の面倒を見ることが経験になる。そこは理解できます。でも局長の希望というのは?」

「それは……まあ隠す理由もないか。私はな、生活安全局への配属を希望していたんだよ」

「公安局の狂犬という異名を持つ局長がですか? 意外ですね。―――うぐっ! し、失礼しましたぁ!」

 

この警備局員は思ったことが口に出るタイプのようだな。後輩に横腹を肘打ちされて悶えている。

……意外に思うのは当然だし、その反応も慣れている。気にするな。

 

当時の上層部からな、お前の顔は強面で市民に威圧感を与えてしまう。という理由で志望を拒否されて公安局へ配属が決まったんだ。

公安副局長は……先輩は、口には出さなかったが未練を抱えていた私に、常識の欠けた子供の世話と教育を任せることで生活安全局への適性を測る。という奇策を弄してくれたんだ。

 

「なるほど。論より証拠ということですか」

でも今も公安局の所属で、しかも局長なら無理だったってこと―――いたたたっ!? ごめんって!」

「私に謝ってどうするの! 頭を下げる相手が違うでしょ!?」

「カンナ公安局長! 申し訳ありませんでしたぁ!」

 

後輩がスムーズな動作で隣の警備局員にハンマーロックを決めた。うむ、しっかり鍛錬を積んでいるな。関節技は格上にも通用する逮捕術の一つだ。修めて損はないぞ。

後を託す後輩の頼もしさを感じられて嬉しく思う。どうか私のように()()()()()()()()()()()()()成長してほしい。

 

「……いや、過去の私が間抜けと言うべきか。馬鹿正直に、後輩を思っての言葉と信じたのが間違いだった」

 

「……? 局長、今なにか仰られましたか?」

「なんでもない。それより、あまり大声で騒がないようにな。業務の妨げになるぞ」

「はい。失礼しました」

 

 

 

さて、先輩の提案を受け入れ、シロコの面倒を見ることを決めたが……問題は山積みだ。

 

私はヴァルキューレの生徒であり公安局の局員。警察官だ。保育士などではない。

法執行機関の一員として、治安維持活動や市民の安全を守ることが優先される。当然だな。

 

住居に関しては私と同居すればいい。ただ、学校寮には生徒以外は原則立ち入りできない。

だから私が寮を出て、外にマンションを借りた。今もそこで一人暮らしを続けているよ。

 

「ああ、だから寮に局長のお部屋がなかったんですね」

「学校寮は快適だが外暮らしも悪くないぞ。遅くなってもゆっくり外食を楽しめるからな」

「それはちょっと羨ましいかも。食堂が閉まったら売店か自炊のどっちかだし……」

「門限過ぎてから食事のためだけに外出手続きするの、面倒だよね」

「同感。私たちだって遊び呆けてるわけじゃない。せめてファミレスくらい気軽に行きたいわ」

 

一年生たちの学生らしい愚痴に苦笑する。まあ不満を溜め込むよりかはずっといい。

今は休憩中だ。なにも聞かなかったことにしておくさ。

 

「シロコに関しての最大の問題点。それは、日中どうするかだ」

 

預ける相手も場所もない。そして目を離すわけにもいかない。となれば選択肢は一つだけ。

連れ歩くしかなかった。内勤はもちろん、外勤の間もずっと共に行動する。それしかない。

 

デスクワークの間は隣で自習をやらせていた。BDとドリルで基礎と一般教養を詰め込んだ。

トレーニングはむしろ楽だったな。本人が体を鍛えることが好きで筋トレや訓練には意欲的。

警らや出動のときは現場のPCか装甲車で待機。長時間の留守番でも文句は言わなかったよ。

 

「基本的に、私の命令には大人しく従った。最初に力でねじ伏せてよかったと言うべきか……」

「昔のシロコちゃんって良い意味でも悪い意味でも、本当に思想が強い子だったんですね」

「今のあの子にそういう……我の強い感じはしませんね。うちの先輩にも大人しかったですし」

「躾をしたと言っただろう? そのあたりは特に、徹底的に指導したからな」

 

警備局員の疑問に答えを返すとまた二人の顔が青くなった。

缶コーヒーも残り少ないな。今日のところは話を切り上げて、続きはまた今度―――

 

 

「……だからこの人、子連れ狼って呼ばれてるんだ」

 

 

―――は?

 

「貴様、今なんと言った? もう一度言ってみろ」

「えっ!? な、なんでもありません!」

 

多少の失言は聞き流してやる。だが物事には限度というものがあるぞ?

 

 

 

命令だ一年生。もう一度、言ってみろ。

 

「ヒッ……きょ、局の先輩が……一部の三年生たちが、子連れ狼とか野良犬の飼い主って……」

 

警備局の三年。私の同級生たちか。

昔は局の違いなんて気にもしなかったのに、進級した頃から関係が疎遠になりはじめ、私が公安局の局長になってからは明らかに態度が変わった。

 

……まあ理由はわかる。嫉妬だな。同級生の中には見栄や面子、他人よりも優位に立ちたいというプライド。それらを優先する者が少数だがいる。

幸いなことに警備局長とは仲良くやれているし理性的な女だ。下級生におかしなことを吹き込む者がいると伝えておけば、厳しく締め上げてくれるだろう。

 

「今日の話はここまでだ。先に失礼する。お前たちも業務に戻れよ」

「は、はい! ありがとうございました……」

 

 

 

休憩所を離れ、廊下を歩きながら昔を思い出す。

 

あれは……私がシロコの面倒を見始めてすぐだったか。

ひねくれた上級生が面白そうにはやし立て、私をからかっていた。

 

『あら、尾刃は犬じゃなくて狼だったの? 犬にしては凶暴すぎると思ったけど狼なら納得ね!』

『公安局は託児所じゃないのよ。私たちに迷惑をかけないでよね、子連れ狼さん?』

 

子連れ狼。犬の私が狼のシロコの面倒を見ていることへの皮肉であり蔑称だ。

だが私が軽く受け流していたことや、他のまともな上級生たちに注意されたこと。そして―――

 

私が『狂犬』と呼ばれるようになった一連の騒動を最後に、自然消滅したと思っていたがな。

 

(今度は野良犬の飼い主ときたか。私が相手にしないからシロコを出しに使う気だな……)

 

シロコも昔と違って成長している。なにを言われても、冷静に物事を見れるはずだ。

 

……廊下の先に公安局が見えてきた。そろそろ意識を切り替えよう。

公安局長として、処理すべき仕事や案件が大量に待っているのだからな。

 

さて、今日は日付が変わる前に帰宅できるだろうか……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

D.U.を自転車で警らしながら賞金首の情報を集めて回った。

 

その途中、小物を四人捕まえて警らの生徒にパス。そしたら有益な情報をゲットした。

ウェストパーク付近でターゲットらしきスケバンの目撃情報有り。徒歩で移動してる。

 

D.U.のウェストパークと言えば若者から大人まで幅広く人気な繁華街。

黒猫市場を中心に、飲食店や屋台が集まっていて活気のあるグルメスポットだ。

 

食い逃げ犯が出没する可能性は高い。さっそく現地へ……の前に、まずはフブキのお土産を買う。

賞金首を捕まえてから買い物する余裕はないしね。弾の補給も済ませておこう。

 

 

 

マスタードーナツで期間限定ボックスを購入。キャリアにしっかり固定した。

自販機で弾の購入ついでにちょっとした仕込みを準備。ターゲットに通用すればいいな。

 

その後は自転車を走らせ、事件や小物と遭遇することもなくウェストパークに到着。

時刻はお昼前。あちこちからいい匂いがする。私もお腹空いた。警らしながらなにか食べよう。

 

自転車を降りて手で押しながら歩く。目についたのは……ハンバーガーの移動販売車。

注文してからの待ち時間も短そうだしメニューの写真も美味しそう。ん、ここに決めた。

 

 

 

商品を受け取ったら少し移動。歩行者専用道路のベンチに座った。早く食べたい。

 

購入したのはテリヤキバーガー。ポテトとコーラのセットメニューだ。よし、いただきます。

メインのハンバーガーは……甘辛い醤油のソースとコクのあるマヨネーズがビーフパティにとても合う。美味い。

トマトとオニオンを追加してもらったけど正解だった。レタスだけだと寂しいもんね。

 

ペロリと食べきって次はポテト。よくあるフライドポテトじゃなくて焼きポテトだ。

油っこくなくて手が止まらない。美味しい。

 

コーラはお店オリジナルのクラフトコーラ。甘さ控えめでシナモンがやや強め。

お口の油をサッパリ洗い流してくれて気分爽快。ごちそうさまでした。

 

腹ごしらえは完了。ごみを処分して五分ほど休憩したらターゲットの捜索を始めようか。

 

 

 

 

 

ウェストパークの東西を貫く道路の巡回を開始。

東入り口からスタートして黒猫市場を通り過ぎ、反対側の西入り口をゴールとする。

これを往復するだけ。地味だけど捜索なんてこんなものだ。

 

一周目、成果なし。数人のスケバンを発見したけど騒動を起こしていないのでスルー。

二周目、成果なし。警らの生徒と遭遇。普通に対応してくれる子だったけど情報はなし。

三週目、目標発見。単独。付近に他のスケバンの姿無し。これは運がいい。

 

ターゲットは店舗と店舗の間、路地の室外機に座って食事中。どこかの屋台を狙った後かな?

まだこちらに気がついてない。武装は手配書と同じ機関銃。

服装は上半身が前を開いた特攻服にさらし。下半身がロングスカート。見えてるお腹や腕がムキムキだ。すごい。

 

相手が窮屈な路地にいるなら有利だ。動きにくいし機関銃も取り回しに苦労するはず。

問題は路地に踏み込めば確実に見つかる。つまり奇襲は無理。

 

……仕込みもあるし正面から行こうか。シールドは邪魔だから捨てる。

拳銃を抜いたら路地に踏み込んでホールドアップ。そのまま両手を上げなさい。

 

ターゲットがこちらの命令を無視して立ち上がったので発砲。ヘッドショットを二連射。

命中したけど効果は薄いね。ヘラヘラ笑ってる。

 

「ヴァルキューレの犬が一匹だけでなにしに来たの? また遊んでほしいのかしら?」

 

相手の挑発には乗らない。むしろこっちが挑発してやる。

拳銃をホルスターに戻して拳を握り下段の構え。するとターゲットは目を丸くして笑い出した。

 

「ちょっと、その細腕であたしと殴り合おうって言うの? 冗談にもほどがあるわよ」

「口先ばっかりの腰抜けと違って本気だよ。遊んであげるのは私の方。早くおいで」

 

私の言葉で表情が変わる。機関銃を放り出し特攻服を脱ぎ捨てた。……よし、釣れたね。

 

「生意気な犬ころには調教が必要ね。覚悟しなさい!」

 

右手を突き出して掴みかかり攻撃。顔面狙いだ。

なら私は左手で内から外に払って受け流し。ターゲットの右腕が外に流れ体勢を崩した。

 

「―――は?」

 

隙だらけの相手にローキックでカウンター。右足のインローに一撃。

攻撃を当てたら欲張らない。すぐに体を戻して再び下段の構え。

 

「くっ……なんでよ。このっ!」

 

左のストレート。それを右のショートアッパーで迎撃。相手の左腕を下からを叩いて上げ受け。

反撃はまた右足を狙う。ただし、今度はアウトロー。

 

ローキックは地味に見えるけど強力な足技。特に生身で高身長で重量級の相手によく効く。

このターゲットみたいに筋肉で体が硬いと骨まで衝撃が沁みるはずだ。痛みはどんどん強くなる。

長すぎるロングスカートも弱点だよ。下段技で攻められたとき、自分の足裏で受け止めるカットが難しいでしょ?

 

「ウアアァァァーーッ!!」

 

叫び声を上げながら両手で掴みかかり攻撃。屈伸することで上半身を下げて狙いを外す。

相手の視線が私を追って下がった瞬間、顔の目の前で両手を叩いて猫騙し。

 

ターゲットが怯んで目をつぶった。絶好の攻撃チャンス。

 

ホルスターから制式拳銃を抜いて至近距離のヘッドショット。

いつもより重い発砲音に強い衝撃。一発、二発、三発。撃ち切った。

 

「う、ぐっく……」

 

……しぶとい。片膝をついたけどまだ意識を失ってない。じゃあしょうがないね。

 

右足を高く振り上げる。そしてターゲットの頭頂部めがけて振り下ろした。

鉄板入りのスニーカーでかかと落とし。ここまでやって、ようやくターゲットがダウン。

 

ポーチから結束バンドを取り出しすぐに捕獲。両手首と親指の二重拘束。足も縛っておこう。

 

カンナに教わった逮捕術とマグナム弾。両方を使って勝てた。

マグナムは三発だけシリンダーに装填して残りの二発は通常弾。これは相手に弱い銃だと意識させるための仕込み。

 

制式拳銃でもマグナム弾は発砲可能。でも軽量小型の拳銃には正直持て余す反動だ。

単純に弾も高い。できればもうやりたくないかな。

 

 

 

 

 

 

 

賞金首のスケバンを牽引ロープで縛りあげ、自転車で引きずりながら学校を目指す。

途中、目を覚ましたスケバンが卑怯とか騒いでたけど負け犬の遠吠え。格闘戦を誘ったけど銃を使ってはいけないなんて、私は言ってない。

 

そもそもルールを無視して好き勝手生きてるくせに、自分が苦しいときだけ相手にルールを求める方が卑怯じゃないの?

私の言葉にスケバンは口ごもると……めそめそ泣き出した。

 

「姐様ごめんなさいごめんなさい……」

 

「ママー! なにあれなにあれ!」

「しっ、見ちゃ駄目よ!」

 

すれ違った鳥の獣人親子に変な目で見られた。注目されて恥ずかしいから泣くのやめてよ……。

 

 

 

トラブルもなく……ないよね? ヴァルキューレに到着。

もしかしたらスケバングループの奪還や報復があるかもって警戒してたけど無事に帰宅できた。

 

正面玄関の立ち当番にスケバンをパス。引き渡したらすごく驚いて、そして感謝された。

このスケバンが暴れて怪我した子が友達なんだって。友達思いのいい子だ。

 

自転車を駐輪場に返却し、その足で生活安全局へ。

フブキのデスクに向かうとキリノと並んで仕事中。……いや、書類を前にだらけてるね。

 

「ただいまフブキ。キリノもお疲れさま」

「あー……シロコちゃん、お帰り~」

「お疲れさまです」

 

お土産のボックスセットをデスクに置くとフブキがさっそく食いついた。

それはいいんだけど……なんかキリノの様子が前より少しだけ柔らかい感じがする。

 

刑務作業の日からずっと気まずそうにしてたから助かった。

理由はわからないけど、前にフブキが私になにもするなって言ってたのが正しかったんだろうね。

 

「オールドファッションのデラックスチョコ! 期間限定のじゃん!」

「ん、奮発した。()()()()()のお礼もある。雨の日に付き合わせたからね」

「え、そう? いやぁ、やっぱいいことすると返ってくるね! 労働した甲斐があるよ。んじゃ、コーヒー淹れよっか。キリノも休憩して食べなよー」

「おやつの時間にはまだ早いです。けど……誘われたならしょうがないですね」

 

フブキを窘めてるキリノだけど、視線はしっかりドーナッツに向いてる。女の子だもんね。

ご馳走になる代わりにとコーヒーの準備はキリノが立候補したので任せた。その間に私も用事を済ませてしまおうか。

 

「フブキ、あのスケバン捕まえたから」

「そりゃお見事~。キリノが戻る前に手続きしよっか」

 

前と同じように安全局のパソコンを借りて電子マネーカードに賞金を振り込みしてもらう。

これでまたおこづかいが増えた。お金はいくらあっても困らない。どんどん貯めよう。

 

 

 

「働いた後の熱いコーヒーと奢りのドーナッツ……最高~」

「そうですね。働いたという言葉には疑問が残りますが、このドーナッツは確かに美味しいです」

「ん」

 

サクサクとした表面にしっとりの生地。そこにビターチョコとクランチチョコがたっぷりまぶされたオールドファッション。味も食感も素晴らしい。んまい。

 

「シンプルなプレーンドーナッツも外せないよねぇ。こうやってコーヒーに浸けて……うまい!」

「私はポンデリングの方が好きです。ダンキングはお行儀が悪いですけど、やってしまいます」

「ん」

 

フブキもキリノも私も、三人でドーナッツをコーヒーに浸してパクリ。しっとり感が増すのとコーヒーの苦みが加わる。んまい。

 

「フレンチクルーラーのストロベリー! 甘酸っぱくて最後に食べるのがいいんだよ~」

「クリームが入ってないプレーンタイプ。そうそうこれこれ。こういうのでいいんですよ」

「ん」

 

ストロベリークルーラーはホイップかカスタードが選べるけど今回はプレーンをチョイス。二人の好みに合っててよかった。んまい。

 

しっかり食べてコーヒーも飲み干し、ごちそうさまでした。

フブキはもちろん、キリノも満足そうな顔で椅子の背もたれに体重を預けてる。ちょっとだらしなくて珍しい姿だ。

 

さて、用事も済ませたし長居は邪魔になる。私はこれで帰るよ。それじゃあまたね。

二人に見送られて生活安全局を後にした。次は装備を返してシャワーを浴びよう。

 

 

 

 

 

 

 

いつも通りのルーチンをこなして留置施設に戻り、報告書の提出も終えた。

現在時刻は十五時半。賞金首の捜索にそこまで手間取らなかったから夕食まで時間がある。

 

ゴロゴロしようと思ったけど……今日はおやつをガッツリ食べたし、少し運動しておこう。

 

準備運動をしてからスクワットとプランクを開始。

もうシャワーを浴びてるから時間をかけて軽くやる。汗をかきたくないしね。

 

牢で騒ぐ住人とそれを叱る看守の声をBGMにして、私は黙々とトレーニングを続ける。

しっかりと体調を整えて明日も天気がよければ脱獄しよう。

 

ん、おつかれ。

 

 




あ、次回から原作開始となります。
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