ヴァルキューレの狼   作:アホの子ヴァルコ

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原作本編がスタートしました。
ヴァルキューレのシロコ。略してヴァルコをこれからもよろしくお願いします。


評価が赤くなってる!? すっごく嬉しいです! ありがとうございます!


2月25日追記:作中の時間を少し調整しました。大きな変更はありません。


原作開始
報告書 「銀行強盗事件」


―――なんだか騒がしくて目が覚めた。ご近所さんだろうか?

 

毛布から顔を出すと……明るい。廊下の照明が点灯している。

まさか寝過ごした? 慌ててベッドから体を起こして時計を見ると六時前。

 

総員起こしは七時だから一時間も早い。どういうことだろう……?

 

「嫌だっ! こんなブタ箱、誰が入るか! 離せぇー!」

「抵抗するんじゃない! もう諦めて大人しくしろ! 暴れるな!」

 

看守と誰かが怒鳴り合ってる。会話の内容からして、たぶん新入りの被疑者を連れてきたんだ。

でも変だな。夜間に逮捕者が出た場合、留置施設の起床時間までは本校で留め置く決まりなのに、どうしてこんな時間に収容しに来たんだろう。

 

牢の住民たちも次々と目を覚まし騒ぎ始めた。これはもう連鎖が止まらないだろうね。

仕方がないからベッドを整えて顔を洗おう。なにかトラブルが発生している可能性が高いし、もしもに備えてすぐに脱獄できるようにしておく。

 

日課の柔軟体操もパス。身だしなみを整えたら扉の前で様子見を―――足音。誰かが来る。

かなり急いで走ってるみたい。看守だろうか? その足音の正体は……フブキだった。

 

「あっ、シロコちゃんおはよ。起きててくれて助かった~」

「ん、おはよう」

 

フブキがやって来たということは……特別奉仕作業?

そう考えながらフブキの顔を見ると無言で首を横に振った。違うんだ。じゃあなんの用事だろう。

 

「ちょっと話が聞きたいんだ。連行するから手を出して」

「……どうぞ」

 

フブキの指示に従って両手を差し出す。ここでは話しにくいことなんだね。

私はフブキに紐を引かれて騒々しい留置施設を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

やって来たのは取調室。

 

ここに来るまでたくさんの生徒とすれ違ったけど、皆慌ただしく走り回っていた。

普段なら夜勤の子が早番と交代を始める時間帯。それなのに活動している生徒が多すぎる。

 

この様子は普通じゃない。やはりなにかあったんだ。

 

「とりあえず座って」

 

手錠を外してもらって奥の席に座る。フブキは部屋の隅のテーブルからビニール袋を持ってきた。

中身は……サンドイッチとコーヒー牛乳が二人分。

 

「今日はこれが朝食だよ。で、悪いけど食べながらでいいから聞いてね」

「うん、わかった。……いただきます」

 

サンドイッチを一つ手に取り開封。中身はロースハムときゅうりだ。

塩気の効いた薄切りハムとからしマヨで和えられた千切りきゅうり。定番中の定番。美味しい。

 

一切れ食べたところでコーヒー牛乳にストローを刺して吸い上げる。

まろやかな牛乳にコーヒーの風味が合う。お砂糖もたっぷりで甘い。朝からなんて贅沢。

 

「……シロコちゃんって本当に美味しそうに食べるよね。私も朝ごはんまだなんだ。食べよっと」

 

私の顔をじっと見ていたフブキがニヤニヤしながら変なことを言う。

美味しい物を食べたら幸せになるものでしょ? ……ていうか、お話があるんじゃなかったの?

 

「もぁ? んぐ、あー……そうだった。お腹空いてて忘れるところだった」

 

向かいの席でサンドイッチをぱくつくフブキに問いかけると、口の中の物を飲み込んでから話が始まった。

 

 

 

話が長くなったので要約すると、明け方頃から不良たちがD.U.各地で暴れはじめた。

そのため寮で寝ていた生徒たちを叩き起こし、緊急出動で対応に当たってるけど手が回らない。

だから私も早起きして社会貢献作業に出てほしい。ってことらしい。

 

「今日は雲があるけど晴れてるしいいよ。ところで一斉蜂起の理由とかは?」

「それがさーっぱり! 捕まえた不良に聞いても『なんとなく』とか『そんな気分だった』って言うんだよ? ゆっくり聴取する暇もないし、片っ端から留置施設に放り込むのが精一杯!」

 

なるほど。だから起床時間前に被疑者が送られてきたんだ。

……疑問は残るけど朝の騒ぎの理由は判明したし、私がやることは普段となにも変わらない。

 

偽物の警察官として治安維持に努めるだけ。それが私の役目だ。

残りのコーヒー牛乳を飲み干し、ごみをビニール袋にまとめたら席を立つ。ごちそうさまでした。

 

「あ、もし市民から連邦生徒会とSRTについて聞かれたら、なにもわからないって答えといて」

「連邦生徒会は……動きが鈍いってカンナが言ってたけどSRTもなの?」

「動きたくても動けないっぽいよ。連邦生徒会長の命令が来ないんだってさ」

 

SRT―――Special Response Teamの略称で、キヴォトスでも特に強い力を持つ法執行機関。

連邦生徒会長直属の組織でトップクラスのエリートしかいない学校だ。ヴァルキューレが警察ならSRTは軍隊。それも特殊部隊だね。治安維持という目的は一緒だけど、役割はかなり違うみたい。

 

「数日前からサンクトゥムタワーの様子が変でさ、噂じゃ連邦生徒会長が失踪したとか……。一般局員の私には情報が降りてこないから真偽は不明だけどね」

 

連邦生徒会長の失踪。それが事実ならカンナが異変を感じていたのも納得できる。

そして不良や犯罪者たちが噂を聞きつけ、様子を見ながら日に日に活動的になり治安が悪化……。

うん、あり得るね。

 

「はぁ……働きたくない。ヤダなぁ、今日はハードな一日になりそうだぁ~」

「ぼやかない。ほら、行こう?」

 

フブキは机に肢体を投げ出し、愚痴をこぼすばかりで立ち上がろうとしない。

仕方がないから猫を持ち上げるように両脇に手を入れ、椅子から引っ張り上げて床に下ろす。

そこまでやれば嫌々ながらもようやく動きだした。ごみを捨てて取調室から廊下へ。

 

「私は準備を整えに行くけど、まだなにかある?」

「ないよー。こっちは局に戻ってすぐに出るよ。シロコちゃんも頑張ってね。―――あ、そうだ」

 

フブキとはここでお別れ。……と思ったら呼び止められた。出鼻をくじかないでほしい。

 

「帰ったら安全局に顔出してよ。お昼には()()の準備ができてると思うからさ」

「……アレって?」

「まだ内緒~。でもたぶん、シロコちゃんが喜ぶものだよ。んじゃいってらー」

 

そんな意味深な発言を残してフブキは去っていった。私が喜ぶもの? いったいなんだろう。

 

……いや、気になるけど後回し。今は早く社会貢献作業に出よう。

 

 

 

 

 

 

 

いつもの半袖制服セットに制式散弾銃とシールドの組み合わせで学校を出発。

今日は対複数の連戦になりそうだから近接火力を重視。素早い撃破で負担を減らす方針だ。

 

拳銃と比べて散弾銃は取り回しが悪くて重い。弾も拳銃弾より大きくてかさばる。

それでもチューブ式の散弾銃なら交換用マガジンが不要というメリットがある。戦ってる最中にマガジンが全て空になったら、短機や突撃銃は再装填に非常に時間がかかってしまうからね。

 

……さて、D.U.の警らを開始して三時間。武器の選択は間違ってなかった。小物が十四人。

さらに賞金首も一人捕獲。警らの子に引き渡したときに判明して驚いた。賞金が今朝懸かったばかりで即日逮捕になったらしい。

 

それはいいんだけど……さすがにきつい。

現在時刻は十時前。小休止しよう。バスの停留場に隣接する自販機スペースに自転車を停めた。

 

まず弾を補給。箱買いしてリロード用に十数発を防弾ベストのポケットに携帯する。

残りは自転車のキャリアに後付けされたパニアバッグの中へ。弾はこれでよし。

 

次にミネラルウォーターを購入。炭酸の方が好きだけど今は水分補給を優先。

冷水が乾いた喉を潤してくれるのが気持ちいい。あっという間に一本飲み切った。

 

ペットボトルをごみ箱に捨てたらベンチに腰掛け一休み。そしてこれからの行動を考える。

 

(こんなペースで戦って走り回ってたら……無理。昼下がりまでとても持たない。どうしよう)

 

私にも体力の限界はある。奉仕活動は必要だけど、それで倒れたら余計に迷惑をかけてしまう。

一日の成果で考えればもう十分なくらい働いた。でも……皆はまだ頑張ってるよね。

 

(……ん、決めた。もうちょっとだけ続けよう。昼休憩の時にあらためて考える)

 

よし、小休止はおしまい。出発する前に自販機で追加の飲み物を買っておく。

持久的運動用のスポドリを購入。自転車のドリンクホルダーにセットして―――

 

ドオォォーーン…………

 

―――今の、はっきり聞こえなかったけど大砲の音?

 

方向は……D.U.中心部から離れたエリアだろうか?

着弾音が聞こえないから距離が遠い。または口径の大きくない戦車砲か野砲だと思う。

 

こういうとき、警察無線が使えるとすぐに情報共有できるけど……私は装備してない。

捜査に関わる重大情報とか個人情報が流れてるからね。囚人で偽警官の私が持つのは無理だ。

 

でも大丈夫。日中のD.U.なら警らの生徒があちこちにいるし交番もある。探して情報収集しよう。

 

 

 

自転車で走り出して三分も経たずにPCで警らしてる生徒を発見。

呼び止めてさっそく状況を聞いてみると……なんだかすごい騒ぎになってるみたい。

 

「矯正局から囚人たちが脱獄。その一人が外郭地区で不良と一緒に戦車で大暴れ。……なにそれ」

「おまけに銀行強盗まで発生しちゃってさぁ! シロコさん、どっちかヘルプ行けない?」

 

現状は把握できたけど……少し悩む。

応援に行くのは別にいい。だけど外郭地区といえば連邦生徒会が再開発中のエリアだ。

 

私は脱獄中の囚人。彼女たちと関わるべきではない。

だからサンクトゥムタワーを中心に一定区域には近寄らないように命令されている。

もし連邦生徒会と下手に接触してしまえば、ヴァルキューレに迷惑をかけることになりかねない。

 

なら、私が選べるのは―――

 

「銀行強盗の応援に行くよ。場所は?」

「助かる~! 地図を出すからちょっと待ってね」

 

応対してくれた子がスマホのナビを起動して場所を示してくれた。……うん、覚えた。

そんなに遠い場所じゃない。自転車でも飛ばせばすぐだ。

 

「じゃあ銀行は任せたよ! 私たちは外郭地区に行くから!」

「わかった。そっちも頑張ってね」

 

会話が終わるとPCは緊急走行を開始。スキール音を残して走り去った。

よし、私も行こう。自転車に乗りペダルを全力で漕いで加速を始める。

 

銀行強盗が発生して間もない。急げば犯人グループが逃走する前に現着できるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

現場の銀行はもうすぐだけど……発砲音が聞こえてきた。

かなり激しく撃ち合ってるみたいで、それを聞きつけて野次馬が集まり出してる。

 

キヴォトスでは銃撃戦なんて日常茶飯事。市民の中にはイベント感覚で見に来る人までいる。

正直、困った存在。巻き込まれて怪我でもしたらヴァルキューレが非難される。理不尽だ。

 

野次馬を避けて進むと銀行が見えた。正面玄関に覆面が四人。路上にPCが一台と生徒が二人。

 

車両を盾にして応戦中だけど分が悪そう。PCもすでに穴だらけ。長くはもちそうにない。

気になるのは犯人グループが逃げずに玄関で戦ってること。それと逃走手段が見当たらない。

 

(これはたぶん……時間稼ぎかな? 裏に回ろう)

 

銀行の手前で横道に折れて迂回すると、塀に囲まれた職員専用駐車場を発見。

自転車を降りて敷地内を覗き込む。……ナンバーがついてない不審なワゴン車を見つけた。

 

その車両の近くに覆面が二人。一人がカバンを積み込んでる。

もう一人は……目が合った。さすがに警戒してるよね。

 

「ヴァルキューレの生徒だー! こっちにも来たぞー!」

 

不意打ちは無理か。……こうなれば出たとこ勝負。シールドを左手に構え、前傾姿勢で突貫。

見張り役が短機関銃を発砲してきたけど無視してシールドアタック。体当たりで転倒させた。

 

続けて右手で制式散弾銃を発砲。狙うのはカバンを運んでた覆面。

ここは確実に落としたいから胴撃ち三連射。散弾の嵐を受けてワンダウン。

 

後は転んでる覆面の顔面に踏み下ろし。鉄板入りスニーカーをご馳走してあげるよ。

手加減無しのストンピングでツーダウン。

 

まずは二人。両手と両足を結束バンドで拘束。覆面もはぎ取る。どちらも人間だった。

ワゴン車のエンジンを停止させて鍵を確保。ついでに犯人たちの銃を車内に投げ込んでからドアを施錠しておく。

 

散弾銃にリロードをしながら自己診断を開始。二発ほど右大腿部に受けたけど行動に支障なし。

痛みはあるけど平気。まだ戦える。

 

さて、開け放たれた裏口から内部を視認して……廊下に人影はない。突入だ。

 

 

 

廊下を走りながら目につくドアを開けて内部を確認。無人か施錠されてるなら次へ。

今は丁寧に調べてる時間がない。見落としを覚悟でスピードを優先する。

 

―――ここは、応接室? 無人。パス!

―――たぶん、給湯室だ。無人。パス!

―――施錠されてる。パス!

 

―――金属製の立派な二重扉。ここは金庫室。…… …… ……パス!

奇妙な名残惜しさを振り払って先へ進む。今のなんだったんだろう?

 

ドアを確認しながら廊下を走る。銃声が近い。もうすぐ正面ロビーにたどり着けるはずだ。

廊下の先は……突き当たり? 右か左か。足を止めて悩んでいると覆面が左から飛び出してきた。

 

「馬鹿ね、物音を立てすぎよ!」

 

待ち伏せ。散弾銃を至近距離で突き付けられた。―――馬鹿なのはそっちだよ。

シールドで相手の銃を横から殴りつける。逸らした銃口から発射された弾は壁に命中した。

 

「えっ!?」

「おかえし」

 

制式散弾銃を警棒に見立てて、変則的な払い突き。覆面の水月……胴体の急所に打突が入る。

 

「う゛っ」

 

こもった声を漏らして覆面が崩れ落ちた。スリーダウン。

敵を引きつけるのは正しいと思うよ。だけどやりすぎ。簡単に行動を妨害されてたら無意味だ。

 

廊下の先に後続がいないことを確認してから拘束。この場に放置して先を急ごう。

覆面が現れた左の廊下を進む。……銃声に交じって人の声が聞こえてきた。こっちが正面への通路で合ってるみたい。

 

強盗グループの注意を引くために全力で走って廊下を進む。

少しだけ開いたままの両開きドアが見えた。銃声と話し声はそこからだね。

 

わざとドアを蹴破り音を立てて入室。そこには両手を上げる人々と覆面姿が三人。

大声を出すのは苦手だけど、大きく息を吸い込んで―――

 

「全員伏せて!」

 

私の声に反応して人質になっていた銀行員や市民が次々と床に伏せる。

覆面たちはこちらに向かって発砲を開始。……これで三人とも、()()()()()()()()()()

 

即座にドアの陰に隠れて呼吸を整える。最後の一押しだ。

どうかうまく釣れますように。もう一度、大きく息を吸い込んで―――私は吠えた。

 

「いまだ! 強盗の()()()()()!」

 

その瞬間、銃撃が止まった。部屋に踏み込むと覆面たちは……振り向いて玄関を見ていた。

 

ん、ジャックポット。

 

 

 

 

 

 

 

事件解決。銀行強盗は全部で七人の不良グループだった。

一人が玄関で威嚇射撃を行い時間稼ぎ。残った三人はロビー内部で逃げるか戦うかで相談中。

 

そこに私が乱入して不意を突き、一人倒したことで形勢が傾いた。

路上で応戦してた生徒たちが状況を察して突入を開始。玄関の強盗一人の武力制圧に成功。

 

すると残った強盗二人は銃を捨てて投降した。これで銀行強盗は全員逮捕されておしまい。

応戦してた二人の生徒も大きな怪我はないみたい。よかったね。

 

追加の応援が駆け付けたところで私の役目は終了した。現場を離れよう。

 

「あ、あの! シロコさん!」

 

呼び止められて振り返る。さっきの生徒の一人だ。

警備局の一年生。……あれ? この子、見覚えがあるような……?

 

「先日は大変失礼いたしました! ご無礼を働き、誠に申し訳ございません!」

 

……あ、思い出した。前に私を見て脱走者って騒いでた子だ。

 

「気にする必要はないよ。私が罪を犯した囚人なのは事実。厳しい目や態度をとられても仕方がないことだから。むしろ迷惑をかけてごめんなさい」

「……! シ、シロコさんっ! なによ、ちゃんと反省してるしすごく謙虚じゃない! 野良犬なんて失礼すぎるわ!

 

……? なんか独り言をブツブツ呟きだした。

 

「人の話を鵜呑みにするなって言ったあの子が正しかった。カンナ局長にもちゃんと謝らないと……!」

 

あの、もしもし……?

 

「こうなると指導係の先輩たちの方が怪しいわね。別の先輩に……いえ、違う局に話を聞きに行きましょう!」

 

……この子、自分の世界に没入してるみたい。そっちから話しかけてきてそれはひどくない?

肩を軽く叩いて意識を引き戻す。

 

「用事がないなら、私もう行くよ?」

「あっ……は、はい! 本当にありがとうございました! お疲れ様です!!」

 

感謝と共にビシッとした動きで敬礼された。なんだろう……すごくキラキラした目で見られてる。

えっと、その……違うから。私、そういう目で見られるような人間じゃないから。やめてね?

 

 

 

 

 

 

 

銀行強盗の後、小休止を取りながら警らを続けて十三時過ぎ。

捕まえた小物が七人。……もう無理、限界。今日の警らは切り上げよう。

 

路肩のアーチ型の車止めに腰掛け、すっかり温くなったスポドリを飲みながら一休み。

お昼もまだなんだよね。お腹空いた……。

 

なにか食べたいけどがっつり系は嫌だ。今はあっさりした物がほしい。

とりあえず周囲のお店を見渡して考えよう。

 

目につく飲食店は……カレー、牛丼、ピザ。……遠慮します。

喫茶店を発見。悪くはないけど……なんか違う気がする。

うどんとそば……そば? 立ち食いそばのお店。プレハブ小屋で営業してる。

 

そばなら注文して出てくるのも早いし安い。ん、ここにしよう。

 

 

 

かけそばを注文して三十秒くらいで出てきた。さすがの早さだね。いただきます。

まずは熱々のおつゆを一口。醤油の塩気とお出汁の旨味が口に広がる。美味しい。

 

そばは値段相応のチープ感。小麦粉が多めでそば粉は少ない。ほんのり風味を感じる程度。

だけど……妙に美味い。おつゆが絡んだそばをすする。隣のスーツ姿の獣人も、さらに隣りの和服の獣人も、皆ずるずるとそばをすすってる。音を気にする人なんていない。

 

昔、カンナに連れられて食べたときもそうだった。

捜査で遅くなった日。PCの中でずっと待ちぼうけ。お腹の虫がエサを寄こせと騒ぐのを、夕暮れ空を見上げてごまかしてた。

 

戻ってきたカンナがPCを走らせて向かったのが立ち食いそば屋。

注文してすぐに出てきたそばを夢中ですすったんだ。あれは美味しかった。

カンナも勢いよく食べてたからお腹が空いてたんだろうね。

 

……コロッケとかたまごを追加注文したら店主が機嫌悪そうにしてたなぁ。

あの頃は前払いのシステムとかよくわかんなくて、ごめんね。

 

おつゆを飲み干して器は空っぽ。思い出に浸るのもおわり。ごちそうさまでした。

 

そば屋を後にして空を見上げる。太陽はまだ真上から少し傾いた程度。

本日の成果は小物が二十一人、銀行強盗が四人、賞金首が一人。十分すぎるほど働いたよね。

 

まだ走り回ってる生徒たちには悪いけど、一足先に上がらせてもらいます。お疲れさま。

 

 

 

 

 

 

 

いつもよりゆっくり自転車を走らせてヴァルキューレに帰宅。

駐輪場に自転車を返却して生活安全局へ。……行ったんだけど、フブキはまだ戻ってなかった。

 

仕方がないから装備の返却とシャワーを先に済ませよう。

シャワーブースでお湯を浴びたら右大腿部がヒリヒリする。皮膚が赤く腫れていた。

 

銀行強盗に撃たれた箇所だけど短機関銃にしてはダメージが大きい。HP弾だったのかな?

念のため医務室で診察。軽傷で鎮痛軟膏を塗ってもらった。大したことがなくて安心。

 

それから再び安全局を覗いたけどフブキはいない。もう少し時間を潰す必要があるね。

……ここで待つのは邪魔になるし、一度留置施設に帰ろうか。

 

 

 

看守係長に帰宅の挨拶と後でまた脱獄することを伝え、自分の部屋に戻ってきた。

 

居室エリアはとても騒がしい。逮捕されてそのまま牢に入れられた被疑者たちが騒いでるんだ。

これが今日だけなのか、それとも明日以降も続くのか……。一過性で終わってほしいな。

 

タブレットで報告書を作成。内容が過去一番の長さになった。全体をチェックして送信。

現在時刻は十五時。……まだ早いよね。顔を出すなら夕方くらいがいいと思う。

 

やることもないしベッドで横になろう。騒々しいけど毛布を被ればたぶん寝れる。

朝も早かったし一時間の昼寝ならちょうどいいかな。ではおやすみなさい。

 

 

 

狙った時間に目が覚めた。うん、やっぱり体内時計は狂ってない。異常なし。

毛布をたたんでベッドを整えたら脱獄。うるさいご近所さんたちを無視して看守に挨拶をしたら行ってきます。

 

本校の廊下を歩くとくたびれた様子の生徒と何度もすれ違う。

皆もお疲れだね。でも朝ほど慌ただしさは感じない。少しは状況が落ち着いてきたのかな?

 

安全局でフブキを発見。椅子を三つ並べて横になり寝息を立ててる。だらしないよ。

キリノもいたけど……デスクに顔を伏せてる。そこには用紙が一枚。……始末書だ。これは触らない方がよさそう。

 

「フブキ、起きて」

「んー……だぁれ? くぁ……ねむ……」

 

疲れてるところ悪いけど、私に顔を出すように言ったのはフブキだ。賞金首の精算もあるし、何度か呼びかけて起きてもらう。

 

「シロコちゃんかぁ……おかえりぃ」

「ん、ただいま。今日は私の方が早かったけどね」

「えー……ああ、確かに囚人服だねぇ。……もしかして待ってた?」

「ううん、片付けとか報告書作ってたから。それより、賞金首捕まえたんだけど」

 

私がそう言うと寝ぼけまなこのフブキがピタリと硬直した。

だけどすぐに椅子から立ち上がり、無言で私の手を引いて歩き出した。……フブキ?

 

「ごめん、ちょっと黙ってて。今はキリノを刺激したくないんだ。ミスして落ち込んでるから」

「……ん」

 

フブキの小声に応じて口を閉じる。

始末書が見えたから予想はしてたけど、キリノはなにか失敗したんだね。

 

パソコンに向かったフブキに名前と特長を伝えて調べてもらうと、間違いなく賞金首だった。

そのままマネーカードに入金してもらい賞金をゲット。

 

私の用事はこれで終わり。次はフブキが朝言ってたことだけど……えっと、場所変える?

 

「ソファで待ってて。準備してくるねー」

 

口に出さなくても顔を見れば伝わるのって、こういうとき便利だよね。

フブキの指示に従い生活局の応接用スペースに向かう。背の低いパーテーションで区切られただけの簡易的な作りだけど、ソファとテーブルが用意されている。話をするには十分だ。

 

(それにしても、私が喜ぶものって本当になんだろう?)

 

フブキが言っていた『アレ』とやらがわからない。……美味しいおやつでもくれるのかな?

 

「お待たせ~。残念だけどおやつじゃないねぇ」

「ん」

 

応接用スペースにやって来たフブキの手には紙袋が二つ。

一つは無地。もう一つは会社名とロゴが印刷されている。確か大手スマホキャリアの一社だ。

 

「まずはこっち。これはシロコちゃんの装備品になるからね~」

「……ドローン?」

 

フブキが無地の紙袋から取り出したのは円筒形の小型ドローン。

スリムな縦長ボディに折りたたみ式のシングルローター。偵察運用だけじゃなく、内蔵火器で火力支援も可能なヴァルキューレのサポートユニットだ。

 

「正確にはその旧式モデルだよ。耐用年数が過ぎて廃棄された機体なんだ」

「装備品って……私が使用していいの?」

「いいよ。これは正式にシロコちゃんにあげる。上もちゃんと了承してるから使ってね」

 

メインカラーはホワイト。そこにスカイブルーのラインと縁取りされたK.S.P.Dのロゴ。

これが、私の……。盗んだり奪った物じゃない。私だけのドローン……。

 

「自転車で走り回るシロコちゃんにはこういうお供の方が向いてるでしょ? D.U.の治安がどんどん悪化してるし、単独行動には限界があるからねぇ」

「……ん、わかった。ありがたく使わせてもらう」

 

私のドローン。今日からよろしくね。

手に取って色んな角度からながめて……ふと気がついた。これ、どうやって操縦するの?

リモコンとかは付属してない。本体だけ。ていうか説明書もない。……フブキ?

 

「あははっ、あわてんぼうだねぇ。そのためにもう一つあるんだよ」

 

フブキが二つ目の紙袋から取り出したのは……スマートフォン。

白と紺色のツートンカラー。それにこの機種は―――カンナと同じスマホだ。

 

「やっぱりさ、すぐに連絡できる手段がないと不便だよね。明日から必ず携帯するように~」

「……これ、どうやって?」

 

連絡用のスマホ。欲しいとは思ってたけど諦めてた。

だって私は囚人で、口座も作れなくて、契約だって……無理でしょ。身分証がないのに……。

 

「大丈夫。それは局長が新規に契約したスマホだから」

「カンナが?」

「そそ。局長が責任を負うことを条件にようやく上が許可してね、すぐにネットで申し込んだらしいよ。それが今日届くって聞いてたんだ」

 

カンナが、私のために……。いや待って、責任を負うってどういう意味?

 

「あー、心配ないよ。堅苦しく言ってるだけだから」

 

『なにか問題になったら身元引受人のカンナが責任者として謝罪しろよ!』

『手続き費用とか利用料金は自腹だぞ。ヴァルキューレは面倒みないからな!』

 

ということらしい。つまり、本当に形式的なだけでカンナに丸投げ。上層部ってよくわかんない。

 

……フブキが耳を指差して手招き。なあに?

 

「ここだけの話、上はシロコちゃんにもっと犯罪者を捕まえてほしいのさ。これはその飴だよ」

「……まあ、だろうね。ヴァルキューレにもメリットがあるから色々と見逃してる……でしょ?」

「そういうこと。シロコちゃんはよくわかんないけどラッキー! くらいに思ってればいいから」

 

うん……まあ、それでいいか。フブキが言うなら()()()()()()()()()()()

たぶん、これがカンナとフブキに一番迷惑と負担をかけない選択だと思う。

 

上層部が社会貢献作業を強制しないのも、なにか理由がある。あるけど……知らなくていいこと。

 

その証拠にフブキが笑顔で私を見てる。わかってるよ、なにも聞かないから。

 

 

 

 

 

 

 

フブキにスマホの使い方を軽く習ってカンナとフブキの連絡先を登録。

これで通話だけじゃなくてモモトークもできるんだ。嬉しいな。後でカンナに送ってみよう。

 

ドローンのマニュアルと操縦アプリはスマホにダウンロードした。これも覚えないといけない。

久しぶりに留置施設でお勉強の時間になりそう。でも楽しみ。自習と違ってやる気満々だ。

 

さて、フブキも今日の報告書とか仕事がまだあるみたいだし、そろそろ部屋に帰ろう。またね。

 

 

 

騒がしい留置施設でスマホをポチポチ。スマホとドローンの使い方を頭に叩き込む。

 

夕食前の点呼は住民たちがあまりにも騒ぎすぎて省略。大人しい子にだけ食事が配られた。

ごはんに板のりと魚のフライ。きんぴらごぼうにお漬物少々。のり弁だ。いただきます。

 

どこかの業者に依頼した冷凍品。自然解凍が当たり前でレンチンなんてしてもらえない。

だからいつも冷えたまま。それでも留置施設では三食の中で一番高いメニュー。美味い。

 

ごはんを一粒残さず食べきって、ごちそうさまでした。

 

 

 

夕食の後は自由時間。

さっそく覚えたモモトークを送信してみよう。カンナも忙しいなら無視するはず……だよね?

 

 

 

 

 

MomoTalk

シロコ_

▶︎
シロコです。お疲れさま

▶︎
届いてますか? 忙しいなら無視して

_カンナ

◀︎
ちゃんと届いているぞ

◀︎
モモトークの使い方をもう覚えたのか?

早いな

シロコ_

▶︎
簡単だったよ

▶︎
これでカンナとお話できるね

_カンナ

◀︎
送ってくるのは構わないが、返信はあま

り期待しないでくれ

◀︎
プライベートの優先はできない。既読無

視もするからな

シロコ_

▶︎
わかった

▶︎
スマホ買ってくれて本当にありがとう

▶︎
とても嬉しいです。おやすみなさい

_カンナ

◀︎
気にするな。ただし、遊びすぎるなよ

◀︎
おやすみ

 

 

 

 

 

ちゃんとモモトークできた。直接会えないけど、それでもスマホを通じてカンナと繋がってる。

スマホって素晴らしい。心がウキウキする。私はなんて幸せ者なんだろうか。

 

フブキにも感謝とおやすみのトークを送信。……スタンプが帰ってきた。

むむ、スタンプ送信か。最初から入ってるのは少ないね。無料のスタンプもあるけど毎月のデータ使用量には注意が必要だ。

 

……使いすぎたら絶対にカンナが怒る。アイアンクローされるから気をつけよう。

 

あ、看守が消灯時間を告げてる。もうそんな時間なんだ。……残念だけどスマホはおしまい。

でもまた明日がある。だから早く寝よう。ベッドに潜り込んで毛布を被った。

 

牢屋の硬いベッド。清潔な枕とシーツと毛布。そこにスマホとドローンが加わった。

私はここが好きだ。

 

 

 

そういえば、外郭地区の騒動……どうなったんだろう? まあいいや。ん、おやすみ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

シロコちゃんからモモトークが届いた。

まだ少し固い文章使いでスマホ初心者あるあるだ。かわいいなぁ。

 

……シロコちゃんはそのままでいいからね。

 

もうすぐ、君のこわ~い保護者が行動に打って出る。

そしたら、君をもてあそんでる薄汚い連中も終わりだよ。

 

だからどうかそのときまで、なにも知らないままでいてほしい。

 

返信にスタンプを送る。

おやすみなさい。シロコちゃん。

 

 




あにまん投稿初期のヴァルコはアホの子でした。
それが筆が滑ってだんだん不憫な子に……なんでああなったんだろう?


尚、こちらに投稿しているヴァルコはアホの子要素を薄くしています。
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