ヴァルキューレの狼   作:アホの子ヴァルコ

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この世界線のシロコはヴァルキューレに拾われました。なら、シロコが存在しないアビドスは……?



報告書 「ひき逃げ事件」

ベッドから体を起こすと少しだけ視界が揺れた。頭がぼんやりして意識が乱れる。

何度か頭を振ると不調が収まり、しっかりと目が覚めた。現在時刻は……総員起こしの二十分前。

 

また予定より早く起きてしまった。それにさっきの症状。睡眠不足は感じないし軽い貧血か脳疲労、それとも自律神経の乱れだろうか?

床に降りて背伸び。両手と一緒に背筋を伸ばし、息を吐きながら手を下ろす。最後に深呼吸だ。

 

……うん、特に問題はないね。自己診断でも異常なし。じゃあ気にしてても仕方がない。

時間もあるし長めに柔軟体操をやろう。窓の外はいいお天気だ。ん、今日も脱獄日和。

 

 

 

 

 

 

 

朝食と脱獄の準備を済ませたら生活安全局へ。

賞金首の有無はモモトークで確認した方が早いけど、やっぱりフブキの顔が見たいしお話したい。キリノの様子も気になる。まだご機嫌斜めなのかな。

 

安全局が見えてきたところでフブキが廊下に出てきた。おはよう。

 

「あ、おはよーシロコちゃん。ちょうど会いたかったんだよ。探す手間が省けたねぇ」

「それは私もだけど……なにか用事?」

「用事というか、お昼にちょっと時間くれない? キリノから話があるんだよ」

 

キリノから? なんだろう。なんなら今すぐ聞いてもいいんだけど。キリノは局の中?

 

「いや、ちょっとまだ心の準備ができてないみたいでね、お昼までは待ってあげて。それと今日はパトロールに出るからPCの手続きに行ってるよ」

「わかった。じゃあお昼休憩に合流でいいんだね?」

「それでいいよー。ところでシロコちゃんはどこを回るか決めてる?」

 

ええと、賞金首が居ないなら今日も外郭地区かな。地下鉄乗り口の確認が終わってないし、アーケードと市場、公園も見ておきたい。

 

「なるほどねぇ。……んじゃ、月天市場で待ち合わせしよっか。美味しい屋台がたくさんあるってキリノが言ってたし、一緒にお昼食べよ。それと賞金首の手配はないよー」

「ん、了解。それじゃあまた後でね」

 

フブキはキリノと合流するために地下駐車場へ向かった。ばいばい。

お話の内容が気になるけど……まずは午前の警らだ。今日は自転車で出るから駐輪場に行こう。

 

 

 

 

 

 

 

地理を調べながら警らを続けて二時間。小物を二人捕まえてパス。

昨日より町が静かで平穏な感じ。街頭の大型ビジョンのニュースがD.U.の治安は少しずつ回復傾向にあるって報道してたし、私たちの活動も意味があったということだね。嬉しいな。

 

さて、ビル街は地下鉄乗り口を全部確認したからもう十分だろう。次はアーケード方面と公園のエリア。市場はお昼にフブキたちと会うから後回しでいいよね。

このまますぐに向かってもいいんだけど……シャーレが近い。せっかくだしソラに会って補給しよう。それと先生のオフィスもちょっと見てみたい。

 

 

 

シャーレビルに到着。エントランスに入りそのままエンジェル24へ。

店内は今日もガラガラでソラが暇してた。片手を上げて挨拶したらまずは商品を選ぶ。弾はまだ買わなくていい。飲み物はフレーバーウォーター。それとラムネ菓子のボトルタイプを一本。ブドウ糖の補給は中々よかった。今後は持ち歩くようにしよう。

 

「い、いらっしゃいませ! エンジェル24へようこそ!」

「ん、こんにちは。これ、お願いね」

「はい、商品をお預かりします!」

 

ソラは今日も元気だね。ただ、ゆっくりでいいから慌てないで。会計を済ませてビニール袋を受け取ったらちょっとお話しよう。

 

「昨日、外で先生と会ったよ。あの噂はやっぱり間違いみたい。先生も困ってた」

「そ、そうでしたか。これで安心してバイトを続けられます。シロコさん、わざわざ教えてくれてありがとうございます!」

「これくらい別にいいよ。ところで、今日は先生ともう会った?」

「いいえ。昨日、外出されてから見てないですね。いつもは朝と夜に来られますけど……」

 

ということは、先生はアビドスからまだ戻ってないのかな?

エンジェル24を出てエントランスの受付機へ向かい、スマホを当てると先生不在のメッセージ。連絡先を交換したスマホが入館許可証になるって言ってたけど不在なら仕方ない。諦めよう。

 

シャーレを出たらフレーバーウォーターを一口。ほんのりオレンジ味で飲みやすいね。渇きを満たしたら残りは自転車のドリンクホルダーにセットし、スマホのナビを起動。

目的地のアーケードは……雨蛸マーケット? 変な名前。蛸ってついてるしたぶんカイザーグループだろうね。ともかく行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

雨蛸マーケットは竣工してまだ日が浅い、かまぼこ型の屋根付き商店街だった。

きれいな外観に新しいお店がズラリと並んでいて活気がある。ただ、全体的に扱っている商品が高い。それと飲食関係や娯楽施設が目立つね。大人から子供まで遊べるスポットという感じ。

 

掲示板に貼ってあるポスターによるとこの地域……子ウサギタウンは大規模再開発がスタートしていて、地下鉄も延伸される予定みたい。代わりに市場や公園が無くなっちゃうんだ。

マーケットのお店にはタコのロゴが目立つし、ポスターにもカイザーコンストラクションの名前がある。やっぱりカイザーだった。まあキヴォトスで有名な大企業だし当然だよね。

 

アーケードを端から端まで歩いてみたけど特に問題は見られない。そして時刻はお昼前。お腹空いた。きりがいいし、午前の警らは終わりにしよう。

フブキにモモトークを送るとこちらに向かっていると返事が返ってきた。合流地点はパーキングがあるバスターミナルね。ん、了解。

 

 

 

自転車を走らせてバスターミナルに到着。ヴァルキューレの小型PCがパーキングに停まっている。車の側には制服姿の生徒が二人。フブキとキリノだ。

フブキは私に気がついて手を振ってるけど……なんかキリノが慌ててる?

 

「ど、どうしてシロコさんが!? 待ち合わせの相手があの子だなんて、聞いてないですよ!」

「こうでもしないとキリノは逃げちゃうでしょ? 自分から謝りたいって言ったじゃん。覚悟決めなよ」

 

車道からパーキングに進入して二人のもとへ。ごめん、待たせたみたいだね。

 

「シロコちゃん、お疲れさまー。こっちも来たばかりだよ」

「……お、お疲れさまです」

 

フブキはいつもと変わらない。でもキリノの様子が明らかに変だ。目が泳いでる。私、なにかしただろうか。心当たりはないんだけど。

 

「キリノ、ほら早く~」

「わ、わかってますから背中を押さないで下さい! あの、シロコさん……少しいいですか?」

 

暗い顔をしたキリノが前に出てきた。なんというか、ばつが悪そうに見える。

 

「うん、いいよ。なにかお話あるんだよね?」

「は、はい。その……先日の刑務作業ですが、失礼な対応をしてすみませんでした」

 

そう言ってキリノが頭を下げた。あの日の冷たい感じとはまるで違う。正直、態度が変わり過ぎてて私も反応に困るよ。これはもうズバリ聞いた方がいいよね。

 

「ん、別に気にしてないから頭を上げてほしい。……私、キリノになにかしたかな?」

「ああいえ、シロコさんはなにも。ただ、少々面倒な事態になりまして。実は―――」

 

キリノが教えてくれた苛立ってた理由。それはあの放火事件が関係してた。

生活安全局のキリノは幼稚園児などの幼い子供と顔を合わせる機会が多く、救助活動のニュースやSNS動画を見た子たちから「犬のおまわりさんに会ってみたい」と何度もお願いされて対応に困り果てていた。

 

囚人で偽警官の私を紹介するわけにはいかず、かといって子供たちの無邪気なお願いを無下にするのも気が引ける。悩んでいたタイミングで刑務官当番に回されてしまい、私の顔を見てどうしても苛立ちが押さえられなかったと話してくれた。

 

「そういう訳でして、あれは完全な八つ当たりなんです。本当に失礼しました」

 

……違うよ、キリノはなにも悪くない。だって私がキリノに迷惑をかけていたんだから。

悪いのは私。謝るべきなのは私だ。また私がキリノに謝罪をさせてしまった。

 

「キリノ……私の軽率な行動でご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」

「ちょ、ちょっとシロコさん、やめてください! そういうつもりじゃないんです!」

「ううん、キリノは怒って当然だし謝る必要はない。全部、私が悪いから。ごめんなさい」

 

深く頭を下げて謝罪する。心当たりがない? 違った。ただ気がついていないだけだった。

ヴァルキューレに、カンナに、そしてキリノに。やっぱり私は「はいストップ」

 

誰かに両頬を摘ままれる。顔を上げるとフブキが目の前に立っていた。

 

「二人とも? ここは外だから騒ぐのはやめようね。で、お互いに謝罪したんだからそれでおしまいにしよう。……でもシロコちゃんは納得しないだろうから、これが追加の罰だよ」

 

フブキが私の頬をぐいっと引っ張る。ちょっとだけ痛い。……たったこれだけでいいの?

 

「判断するのはキリノかな? どうキリノ、もっとやった方がいい?」

「……いえ、もう十分です。放してあげてください」

 

その言葉を聞いてフブキが頬から手を放した。……本当にこんな簡単なことで許されていいのだろうか。第一、キリノの問題はなにも解決してないよね?

 

「フブキ、私になにかできることある? できる範囲でなんでもするよ」

 

あまり目立ちたくないけどそうも言ってられない。だけど……下手に動いて騒ぎになるのは困る。私が考えても妙案は浮かばないし、こういうときは素直にフブキを頼ろう。

 

「なにもしないのが一番かな。幼児は好奇心旺盛だけど、興味が移るのも早いしね」

「……確かにそうですね。幼い子と会話をしているとそういう場面、何度もありますから」

「半端に対応すると次を期待するようになる。だからなにもしない。シロコちゃんもいいね?」

「ん……わかった」

 

子供の相手が得意なフブキがそう言うなら大人しくする。だってフブキに言われるまで「なにもしない」という選択なんて、私には思いつかなかったからだ。

 

だけど、結局キリノは困ったままだ。……なんかモヤモヤする。しっくりこない。

 

「キリノは今日も見送り活動で横断歩道に立つんでしょ? だったら私も付き合うよ。その子たちが来たら、話題を変えたり意識を逸らしてあげるねー」

「それはとても助かります。フブキは子供の対応だけはそつなくこなしますからね。安全局でもトップクラスです」

「だけってのは余計だよ。だけってのはぁ。ぶー」

 

安堵の表情で胸を撫で下ろすキリノと頬を膨らませるフブキ。別にフブキは本当に怒ってるわけじゃない。この二人も仲良しだからこそ、こうしてじゃれ合うこともある。

ともかく、フブキのおかげでキリノが助かるならありがたい。ただ、骨を折ってくれるフブキには報いないとね。

 

「ありがとう。お礼はいつものでいい?」

「いやいや悪いねぇシロコちゃん。んじゃボックスセットを一つ。それでチャラだから」

「ん」

 

本当に頼れる大先輩だよ。私なんかの友達になってくれて感謝してる。

 

 

 

キリノの案内で月天市場を進む。雨蛸マーケットとは真逆にこっちは年季の入った街並みだ。

どこのお店も劣化して塗装のはげた外壁が目立つし、シャッターが閉まったままの店舗もある。それでも昼時ということもあってか人通りは多い。あちこちから美味しそうな匂いがする。

 

「お肉屋さんのカツサンドにしましょう! 私の一押しです!」

「いいね~。午後に備えてしっかり食べようか。シロコちゃんもそれでいい?」

「うん、いいよ。カツサンド食べたい」

 

興味を惹かれるお店がたくさんあるけど……トンカツと聞いたら別だ。カンナのカツ丼が一番だけどカツそのものが好き。もう絶対カツサンドにしよう。変更は認めない。

 

お肉屋さんは揚げ物の匂いがたまらない。注文して待ってる間、暴力的な香りに包まれて腹の虫が大合唱を続けていた。ん、失敬。

店主は笑って許してくれたしおまけにコロッケをくれた。ここはいいお店だ。また来ます。

 

商品を受け取ったら市場を出て近くの公園へ行くことに。子ウサギ公園。ウサギいるのかな?

公園はかなり広いね。車が乗り入れできるほど横幅のある遊歩道に、キッチンカーとか屋台がある。でも営業はしていない。奥へ進むと噴水と……後は水飲み場と公衆トイレ。それだけだ。

 

植栽も少しは整えられているけど、それは遊歩道沿いだけで残りは芝生。離れたところなんて原っぱになってる。再開発が決まって最低限の管理しかやってないんだろうね。

ウサギなんて影も形も見つからない。残念、触ってみたかったな。

 

まあ今はそれよりカツサンドだ。手を洗って噴水のベンチに並んで座ろう。ん、いただきます。

 

真っ白で柔らかいパンに厚いトンカツと千切りキャベツ。素晴らしい組み合わせ。

ガブリと噛みつけば肉の旨味と甘辛いソースの味。それを引き立てる辛子バターと熱が加わってしんなりしたキャベツの甘さ。んまい。

 

おまけはシンプルなじゃがいもコロッケ。ひき肉もちゃんと入ってて肉の味がじゃがいもに染みてる。これも美味しいね。

 

「あ~、これですこれ。このカツサンドは何度食べてもたまりません」

「いやこれは本当に美味いね。知らないのは損してたなぁ。もっと早く教えてよー」

「ん」

 

三人とも夢中で頬張って完食。ごちそうさまでした。

 

 

 

食事の後は世間話で食休み。フブキが居るから会話が途切れることなく続いてる。

私とキリノの二人だけだと、こうはいかないんだよね。まあ距離感が遠いのは前からだし、似たような態度をとる生徒は他にもいる。

 

どれだけ奉仕に努めても……私は所詮、囚人だ。ヴァルキューレの異物。受け入れてもらえなくても仕方がない。だからキリノとは今の関係のままでいいと思う。

少なくてもカンナが卒業するまでは……これでいい。その後は、その時になってから考える。

 

さて、昼休憩はもう十分だよね。そろそろ午後の仕事を始めようか。

 

 

 

 

 

 

 

三人でバスターミナルのパーキングまで戻ってきた。私はこのまま子ウサギタウンを警らする。残りの公園をまだ見てないしね。そっちはどうするの?

 

「件の幼稚園がヴァルキューレの近くだし、私たちは本校に戻るよ」

「パトロールしながら向かえば帰宅時間にちょうど―――おや?」

 

小型PCに乗り込んだ二人と会話をしていたらサイレンの音が聞こえてきた。キリノが警察無線を短域モードで起動。聞こえてきたのは……応援要請だ。

 

≪ 窃盗犯を追跡中! 誰か近くに居ませんか? ≫

≪ こちら子ウサギタウン、バスターミナル付近にいます。現在地を送ってください ≫

≪ バスターミナル? ……もうすぐそこを通過します! 北部の通りを西に向かって逃走中! ≫

≪ 了解、封鎖は間に合わないので路肩で待機します! ≫

 

キリノが小型PCのエンジンを始動。警光灯を起動してパーキングを出たところでハザードを点灯。路肩に停車した。

 

「あーもう、こういうのは生活安全局の業務じゃないんだけどー?」

「フブキ! 犯罪に遭遇して四の五の言ってられませんよ!」

 

私も追跡のお手伝いをしよう。ポーチからドローンを取り出しスイッチを入れる。ヘッドセットから起動して追従モードで待機させた。

 

「フブキ」

「はいよー。通話状態のままにしておいてね」

 

ヘッドセットを指で叩きながらフブキに頼むとすぐに察してくれた。スマホを取り出し操作すると私のスマホに着信。これでフブキを経由して状況を知ることができる。

 

先に自転車を発進させて一つ先の交差点で待機。制式拳銃を抜いて待ち構える。サイレンが近付いてきた。さあ、来るなら来い。

猛スピードでやって来たのは青いトラック型の軽貨物車とPCが一台。……フブキたちの小型PCの姿が見えない? 疑問に思っているとヘッドセットからフブキの焦った声が聞こえてきた。

 

『シロコちゃん、ひき逃げ! 逃走車がひき逃げした! こっちは救護に移るから!』

 

まさかの内容に体が硬直。その間に目の前を車両が通過。―――しまった!

拳銃をホルスターに戻して自転車に飛び乗り、全力で後を追う。だけど相手は車だ。小型車両でもクロスバイクで追跡するのは苦しい。このままでは置いて行かれる。

 

(……こうなったらドローンに追跡させてシグナルを追いかけよう)

 

スマホのカメラモードを起動。逃走するトラックの後方を撮影し形状とナンバーを記録。ドローンの操縦アプリから追跡対象を切り替えて車を追わせた。

 

ナビを起動するとちゃんと連動してくれてドローンの位置情報が表示されてる。逃走先は……工場が集まるエリアかな? しばらく追跡しているとヘッドセットから再びフブキの声。

 

『PCが撒かれた。狭い小道に逃げられたよ。K.S.P.Dのドローンが一機追跡してるって報告があったけど、シロコちゃんだよね?』

「うん、今も追ってる。シグナルは子ウサギタウンの工業地域に向かってるよ」

『あそこか。すぐに応援を集めるよ。電話はこのままで、変化があったら報告してね』

「ん、了解」

 

会話を切り上げたところでシグナルが停止したことに気がついた。スマホを操作してドローンの映像を受信すると……車両が橋の欄干に衝突している。事故を起こしたか。

 

「フブキ、逃走車が事故を起こした。工業地域に入る川の手前。橋に衝突して煙が見える」

『……橋? 橋の名前とか色とかわかる?』

「名前はちょっと見えない。色は……欄干の色が赤。横に三本の円柱形状。街灯が二本あるよ」

『……あー、わかった! すぐに急行させるね!』

 

さすがフブキ。少ない情報ですぐに場所を割り出したみたい。怠け者ではあるけどD.U.の道をよく知ってるし、本当はとても優秀なんだよ。まあ本人は出世したくなくてサボってるけど。

 

……映像に変化があった。運転席から覆面を被った人物が降りて来た。負傷したのか動きが鈍い。ドローンを見上げて……拳銃を抜いた。撃ち落とす気か。

 

やられる前に攻撃指示を出す。画面に映る覆面をダブルタップするとLOCKの表記がついた。ドローンが発砲を開始。

私のドローンは拳銃弾を単発発射する内蔵火器がある。威力は低いし装填数も少ない。でも小型機の支援兵装と考えれば十分。覆面が顔をカバーしながら反撃してきたけど一発も命中しないね。

 

空を飛ぶ小さなドローンを正確に狙わないで撃ち落とすのは無理だよ。一方的に攻撃されて覆面も諦めたのか、足を引きずりながら橋を渡り始めた。……だけどもう手遅れ。

 

ドローンのカメラにヴァルキューレのPCが映った。下車した生徒が覆面に飛び掛かる。次々応援が駆け付けて覆面は取り押さえられた。よし、逮捕を確認。

 

「フブキ、犯人が捕まったよ」

『……こっちの無線でも報告が届いたよ。シロコちゃん、お疲れ~』

「ん、お疲れさまでした。ところで車にはねられた被害者は?」

『大したことなかったよ。ていうか知ってる問題児だった……

 

……? 後半がよく聞こえなかったし、なんか奥で騒いでるけど大丈夫なんだよね?

 

『ちょっと、問題児ってあたしのこと?』

『あんたが問題児じゃなけりゃなんなのさ。まーたこんなに落書きして~』

『だーかーらー、落書きじゃなくてグラフィティ! 芸術だってばぁ!』

『その言い訳は聞き飽きましたー。怪我の手当ても兼ねて近くの交番行くよ。ヴェリなんとかの副部長さんも呼ぶからね』

 

忙しいみたいだし通話を終了してドローンを回収しよう。

画面をカメラに戻すと、覆面を逮捕した生徒たちがドローンに手を振っていた。手動操作で機体を左右に振ってから帰還させる。さてと、初仕事を無事に終えたドローンを迎えてあげようか。

 

 

 

 

 

 

 

残りの公園の確認と警らを無事に終えた後、ヴァルキューレに帰宅した。

すでに報告書も提出して夕食も食べ終わっている。そして今は消灯までの自由時間。頑張ってくれたドローンを帰り道に購入したマイクロファイバークロスで磨いている。

 

外装はピカピカだ。うん、これだけきれいになれば十分かな。清掃用具と一緒に買った組み立て式の収納ボックスに一式を納めてベッドの下に片付けた。

 

もう少し時間があるけど……欠伸が出たしそろそろ休もうかな。カンナにモモトークで就寝前の挨拶。短い返事に目を通したら今日はおしまい。

 

ベッドに潜り込んで毛布を被る。ん、おやすみ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『先生、フラフラしてますよ。少し休みませんか?』

「ああ……そうだね、アロナ。ちょっとだけ、休もうか……」

 

私は現在、アビドス自治区の無人の住宅地で遭難している。

 

D.U.を出発してアビドス自治区の外れにある市街地にたどり着いた私は、アビドス高校行きのバスに乗車した。そこまではよかった。

しかし、住宅地を通過している最中に砂嵐が発生。天候が悪化する前に引き返すと運転手は言うが学校は次の停留場。もう目前らしい。

 

だから私は運転手の静止を振り切ってバスを降りた。そして……道に迷ってしまった。

アビドス高校を目指して道路を直進していたはずなのに、どれだけ歩いてもたどり着かない。スマホで位置情報を確認すると、目的地とは全く違う場所を歩いていた。

 

砂嵐で方向感覚を完全に失っていた。それに気づいた時には……もう手遅れだった。

慌てて廃墟に退避して砂嵐をやり過ごすことにしたが、収まった頃にはすでに夕暮れの時間。スマホを頼りに学校を目指すも、広大な住宅地を通り抜ける前に体力が尽きてしまう。

急激な冷え込みに命の危機を感じた私は、シロコの身の上話を思い出し、近くの家に逃げ込んだ。

 

玄関を確認して回ると施錠されていない民家を発見。無人の住宅に上がり込むと、疲労からそのまま眠り込んでしまった。そして目が覚めると……マップを起動したままだったスマホは電池切れ。

シッテムの箱のアロナは慌てふためくばかり。アロナはなにも悪くないよ。私が軽率だった。

 

砂に埋もれかけた住宅地を、おぼつかない足取りで歩き続けて……限界だ。

昨日からなにも食べてないし喉がとても渇いた。少しでも涼しい場所を求めて、建物の日陰に座り込んで休む。もう一日くらいなら体は持つか? いや、無理かもしれないな……。

 

―――タッ、タッ、タッ、タッ

 

不安と焦りに襲われていたその時だった。足音が聞こえる。……人だろうか?

こっちに近付いている。逃したらもう後がないかもしれない。迷ってる暇はないな。私は気力を振り絞って立ち上がり、声を掛けた。

 

「あ、あの……す、すいません……」

「えっ!? ちょ、ちょっとなに!!」

 

日陰から道路に顔を出すと、そこには黒髪をポニーテールにまとめた制服姿の獣耳少女が居た。その子は驚いた様子で足を止めた後、少し下がって鋭い眼差しで拳銃を突き付けて来た。

 

「なによあんた、さては変態不審者ね!」

「違う、よ。私は……シャーレの……先生、です……」

「―――先生ですって?」

「アビドス高校を、探して……道を聞きたいんだ……それと、水を……もらえないかな……」

 

少女は私を数秒間睨みつけた後、バッグからスポーツドリンクを取り出すと地面に置いた。

 

たぶん、アヤネが言ってた件ね。……これをあげるから動かないで待ってなさい。確認するわ」

「あ、ありがとう!」

 

スマホを手に離れた少女に感謝してスポーツドリンクに飛びついた。冷えた飲料がカラカラの喉と体に染み渡る。ああ、助かった!

ペットボトル一本を飲み干して落ち着きを取り戻した私に、少女が銃を手に話しかけてきた。

 

「私の質問に素直に答えなさい。質問を返したら撃つわ。まず、あんたが来た目的は?」

「アビドス高校から助けを求める手紙が届いたんだ。それを見て来たよ」

「手紙ね。じゃあ差出人の名前は誰?」

「アヤネ。奥空アヤネと書いてあったよ」

 

私の答えを聞いた少女は少し黙り込んでから銃を下げた。鋭い眼つきは変わらないけど敵意は薄れている。

 

「……いいわ、学校まで案内してあげる。私もアビドスの生徒だから」

「うん、助かるよ。改めまして、シャーレの先生です。よければ、名前を教えてくれるかい?」

 

「黒見セリカ。()()()よ。アビドスへようこそ、先生」

 





公式が原作ストーリーでやったネタなんだ! 二次創作でやってみる価値はありますぜ!
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