現実の人物とは一切関係がありません。
「く、くそ……どうしてこんなことになったんだ……」
薄暗い場所で、たんぽぽぞうは肩で息をしながらつぶやいた。
隣には塾ほり。
二人とも、さっきまでの勢いが嘘のように黙り込んでいる。
「俺たちは……ここで終わりなのか……」
――なぜ、こんな状況になってしまったのか。
時は、五時間前にさかのぼる。
⸻
たんぽぽぞうは、その日も“バズり”を信じて疑っていなかった。
(流行ってる=正解)
(正解をなぞれば、必ず結果は出る)
それが彼の中の、揺るがない理論だった。
「見えたぞ!」
前方を指さし、声を上げる。
「あそこが今日の撮影場所――十蘭だ!」
看板を見上げながら、塾ほりは腕を組んだ。
「へー。
私の撮影場所としては、ちょっと地味じゃない?」
「逆だ」
たんぽぽぞうは得意げに言う。
「地味な場所でやるから、目立つんだ」
「なるほどね」
塾ほりはすぐ納得した。
「じゃ、行こっか」
こうして二人は、何の疑問も持たずに店へ入った。
⸻
店内に入って最初に目に入ったのは、券売機だった。
「もちろん」
たんぽぽぞうは、なぜか胸を張る。
「何も頼まずに帰るのはマナー違反だからな」
「ちゃんとラーメンと餃子は頼むぞ」
「へー、意外と常識あるじゃん」
塾ほりはにやっと笑い、すぐ続ける。
「でもさー」
「たんぞう、奴隷なんだから奢ってよ〜」
「く、くそ……」
一瞬ためらったが、たんぽぽぞうは観念した。
「……まあ、奴隷だから仕方ないかー」
こうして彼は券売機に手を伸ばし、食券を購入した。
(プロデュースのための必要経費だ)
そう自分に言い聞かせながら。
⸻
席に着き、食券を渡す。
店内は普通に混んでいて、誰も二人に注目していない。
「思ったより落ち着くね」
「だろ?」
たんぽぽぞうはうなずいた。
「ここで“非日常”を入れるから意味がある」
完全に分かったつもりだった。
しばらくして、ラーメンが運ばれてくる。
「よし」
たんぽぽぞうはスマホを構えた。
「軽く食べ進めてから、撮るぞ」
二人は、何事もない顔で準備を進める。
周囲の視線や空気に、違和感を覚えることはなかった。
⸻
「……3、2、1」
撮影開始。
塾ほりは、いつものようにカメラに向かって笑顔を作る。
「今日はねー、いつもと違う動画にしていくよ!」
テンションは最高潮だった。
「他の人がやってて、めっちゃバズってたから、
私もやってみることにしたの!」
何をするかの説明も、本人の中では“普通の流行紹介”だった。
「……はい、今日はここまで!」
撮影は、あっけなく終わった。
「よし、完璧!」
塾ほりは満足そうにうなずき、その場で投稿する。
⸻
数分後。
「……ねえ、たんぞう」
「ん?」
「ちょっと見て」
スマホの画面には、信じられない速度で増えていく再生数が表示されていた。
「す、すご……」
「ほら!
たんぞうの言う通りじゃん!」
塾ほりは笑顔を弾けさせる。
「本当にバズってる!
奴隷にしてよかった❤️」
「だろ?」
たんぽぽぞうも、思わず胸を張った。
「俺の評価、爆上がりだな」
二人の中では、完全に成功だった。
――その、数分後までは。
⸻
「……あれ?」
塾ほりが、首をかしげる。
「コメント……」
画面をスクロールするたび、空気が変わっていく。
「……え?」
「……あれ?」
好意的な言葉は、ほとんど見当たらなかった。
そこにあったのは、
怒り、呆れ、非難、そして通報を促す声。
「……なんで?」
塾ほりは、理解できないという顔をした。
たんぽぽぞうも、スマホを覗き込む。
「……炎上、してる?」
その言葉が、ようやく現実として落ちてきた。
――そして、冒頭の場面へ。
「く、くそ……」
たんぽぽぞうは歯を食いしばる。
「バズったのに……
なんで、こうなるんだよ……」
塾ほりは、スマホを強く握りしめたまま黙っていた。
二人はまだ気づいていない。
なぜ炎上したのかを。
ただ一つ分かっているのは――
“バズり”の先には、
想像していなかった世界が待っていた、ということだけだった。
――第五話・完。
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