妖怪や神、人達や妖精が仲良く共存して活気が満ち溢れている。
だが…その風景はもう見ることも知ることもないだろう…何故ならば、幻想郷は…もう
崩れ落ちた建物の奥で、古いカセットテープの音声が反響していた。
ノイズ混じりの声が、誰もいない空間に虚しく広がる。
「──世界の皆様、如何お過ごしですか。
我々、日本は破滅を迎えました」
流行病は止まることなく広がり、人類は数を減らし続けた。
外は、生ける屍と化した世界。
それでもなお、生き残った者たちは——
「……もし、我々を応援してくださる方が……居ましたら……」
そこで、音は途切れた。
カセットテープは、乾いた音を立てて沈黙する。
ある少女はこう呟く。
「はぁ……人類の遺したものが、これだけなんて……」
少女は小さく息を吐き、乾いた笑みを浮かべた。
笑えてくる。
そう思わなければ、胸の奥が痛んでしまう。
その少女の名は、レミリア・スカーレット。
「はぁ……幻想郷が崩壊して何年が経つのかしら……」
レミリアは寂しそうな顔をして、遠くからある聞き慣れた声が聞こえてくる。
その声の主は、フランドール・スカーレット。
その名の通りレミリアの妹である。
「お姉様、奥に非常食があったよ!」
フランは無邪気な声を弾ませながら伝える。
「フラン、ありがとうね」
レミリアはそう微笑み、ふと、何かを蹴る音がして床を見つめると、拳銃があり、その近くに白骨化した人間の死体があった。
レミリアはその死体を外に出し丁寧に墓を作り埋葬して、手を合わせる。
「ちゃんと、埋葬して手を合わせないと……あの子達に合わせる顔が無いもの……」
寂しい顔をして、その場を離れる。
フランが大量というほどではないが非常食を抱えて戻って来た。
「非常食を持って来たよ、お姉様」
フランは無邪気にレミリアの方を見る。
「えぇ、ありがとう、フラン」
レミリアはフランに微笑みをかける。
時は遡り、紅魔館
レミリアは、いつも通り咲夜仕立ての紅茶を
「やっぱり、咲夜の作る紅茶は美味しいわね」
レミリアが小さく微笑む。
「お気に召して何よりです」
咲夜がそう言い、
「それにしても、暇ね、何か起きてくれないかしら?」
レミリアが、暇そうに呟く。
「お嬢様、それはフラグと言って予期せぬ事が起きてしまいますよ」
咲夜はそう言いながら軽く注意をする。
「別に良いじゃない、減るような物じゃないのに……」
レミリアは文句を言って、拗ねる……
がその日、博麗大結界は音もなく揺らぎ、
そして、呆気ないほど簡単に崩れ落ちた。
結界の崩壊と同時に、幻想郷を満たしていた魔力は急速に薄れていく。
魔力を糧に生きていた妖精や妖怪たちは力を失い、
追い打ちをかけるように、外の世界から“未知の病”が流れ込んだ。
人里は混乱に包まれた。
最初は咳や倦怠感といった些細な症状だったものが、
やがて理性を失わせ、暴力へと変わっていく。
暴動を止めようとした者も、
翌日には同じように感染し、同じ行動を繰り返した。
永遠亭では、懸命な研究が続けられた。
未知の病を解明し、治療法を見つけるために。
博麗霊夢もまた、身体の異変を感じていた。
だが、「そのうち治るだろう」と軽く考え、放置してしまう。
異変が無視できなくなった頃、霊夢は永遠亭へ向かった。
しかし、空を飛ぶ途中で意識を失い、そのまま地へと落ちた。
彼女を見つけたのは、藤原妹紅だった。
──だが、助け出した“それ”は、
もはや霊夢ではなかった。
目を覚ました時には、すでに遅すぎた。
理性を失った存在は、最も近くにいた妹紅へと牙を向ける。
抵抗はあった。
だが、やがてそれも途切れ、
妹紅もまた、元の姿ではいられなくなった。
それは始まりに過ぎなかった。
地霊殿、白玉楼、命蓮寺──
祈りも、死も、等しく沈黙していった。
永遠亭の八意永琳は、最後まで研究を続けた。
その病を「Zウイルス」と名付け、
治療薬の試作に成功する。
だが、その時には、彼女自身もすでに感染していた。
永琳は残された力を振り絞り、
完成した試薬を、長寿の妖怪へと託す。
送り先は──
レミリア・スカーレットと、フランドール・スカーレットだった。
紅魔館は他と比べると被害は少なかったが、
残念ながら、美鈴や咲夜は
それを屠ったのがレミリア自身だった。
レミリアは好きだった従者をこの手で殺めてしまって、胸の奥に、何かが沈んだまま動かなくなってしまった。
レミリアの友人、パチュリーはそんなレミリアを見て何もしなかった……いや……何も出来なかった。
レミリアが泣きながら美鈴、咲夜の成れの果ての姿を見ながら殺して居るのを……ただ、呆然と眺めるしか出来なかった。
そして……レミリアは殺した2人の
レミリアは、自分が泣いている事に気付いて何度も何度も涙を拭うけどそれでも、涙は流れ続けた。
パチュリーはそんな姿を見て胸が張り裂けそうだった。
レミリアは、その後パチュリーの魔法で綺麗にしてもらっている時も無気力……まるで、人形のように椅子に座るレミリアを、パチュリーは優しく包み込むように抱きしめた。
レミリアは、
レミリアが泣くのは、
レミリアは、他人の前でも友人の前でも自分を気高く見せようとするプライドがあり、他人の前でも、強いて、友人の前では泣かなかった。
だが、今は違う。
自分の言った軽弾みな会話がこの惨事を生み出してしまった事に自分自身を責めてしまっている。
パチュリーは、「レミィは悪くはないわ」と言ってレミリアに少しだけだが安心を与えた。
だが、レミリアの心の傷はそんな簡単には治らない。
レミリアは、自室に籠り咲夜と美鈴が笑っている写真立てを抱きしめて、心の中で謝り続けた。
そんなレミリアの窮地から、手を伸ばしたのは、
やはり戦友でもあるパチュリーだった。
だが、残された試薬は二つしかない。
「……一つ目はフランに。
そして二つ目は、パチェ。貴方が飲んで」
レミリアは震える手で、試薬の一本を差し出した。
「……結構よ」
短く、しかしはっきりと。
パチュリーは首を横に振った。
「それは、レミィが飲むべきものよ」
「……何で、断るの、パチェ」
縋るような視線が向けられる。
「私はね──」
パチュリーは一度、目を伏せた。
そして、覚悟を決めたように、レミリアを見据える。
「貴女に、生きていてほしいの」
「何でよ……!」
声が裏返る。
「また、そうやって……
私の大切な人たちを、見捨てろって言うの!?」
堪えていた感情が、溢れ出した。
「……私が、どれだけレミィのことを心配してると思ってるの!」
乾いた音が響いた。
パチュリーの手が、レミリアの頬を打った。
「……ッ」
レミリアは言葉を失い、俯いた。
目尻に、静かに涙が溜まっていく。
パチュリーは何も言わず、
ただ、その場に立ち尽くしていた。
その夜、二人は最後まで言葉を交わさなかった。
「……飲む……飲むわ……」
レミリアが、パチュリーにその事を伝え、悲しい顔をしながら最後の試薬を飲む。
荷物をまとめ、外の世界に行く事になり、レミリアは悲しくて不安になるが、パチュリーに魔法の法印が施されたお守りを貰って、レミリアは安心した。
フランと共に外の世界に空を飛んでいる時も、レミリアはちょくちょく、後ろを見てパチュリーは大丈夫なのか不安気な顔をしている。
時は現在に戻る。
レミリアは、床に転がっていた拳銃を拾い上げ、
しばし眺めてからリュックに収めた。
使う日が来ないことを祈りながら。
少し離れた場所に、崩れずに残った武器庫があった。
中には様々な銃器が並んでいたが、
時間に蝕まれ、使えるものはごくわずかだった。
それでも、姉妹が身を守るには十分だった。
レミリアは装備を抱え、フランの前に戻る。
「フラン。どっちがいい?」
フランは二つの銃を見比べ、少し考えてから言った。
「……こっち。扱いやすそう」
「そう。じゃあ、それにしましょう」
レミリアは手際よく調整を済ませ、
フランの肩に合うよう確かめてから、そっと渡す。
フランは受け取ると、少しだけ驚いた顔をした。
「……重いね」
「ええ。でも、守ってくれるわ」
レミリアはそう言って、もう一つを自分の肩に掛ける。
その動きに、迷いはなかった。
フランは、お姉様の背中を見る。
前を歩くその姿は、いつも通りで──
それが、少しだけ安心だった。
その日の夜、レミリアは眠れずにいた。
膝の上にライフルを置き、
無言で手入れを続けている。
眠ってしまえば、
思い出してしまうことがある。
それを分かっているから、目を閉じない。
少し離れた場所で、
フランは起きたまま、姉の背中を眺めていた。
声をかけることもなく、
ただ、静かに。
レミリアは手入れを終えると、
懐から一枚の写真立てを取り出す。
紅魔館の、かつての日々。
皆が写っているその写真に、
一瞬だけ視線を落としてから、
何も言わずに立ち上がった。
夜の廃墟を、
レミリアは一人、見回っていく。
次回に続く
2日でできた。