吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

10 / 14
前書きを書くのが疲れたので書きません


吸血姉妹の終末旅 10話:初めてのおつかい

 

 レミリアが区域議員となって一週間。

 

 街の住民たちからも少しずつ信頼を得るようになり、姉妹はすっかりクランツ街の一員になっていた。

 

 その日の朝も、役所では書類仕事に追われるレミリアの姿があった。

 

「……この書類は北西区域の開拓計画。こっちは住居建設の申請書……」

 

 机の上には書類の山。

 

 普段なら平然と片付けるレミリアだったが、今日は珍しく眉をひそめていた。

 

「お姉様!」

 

 部屋の扉が勢いよく開き、フランが顔を覗かせる。

 

「どうしたの、フラン?」

 

「今日は何か手伝えることある?」

 

 その言葉に、レミリアは少し考え込む。

 

 すると、ちょうどクサリが部屋へ入ってきた。

 

「それなら、ちょうどいい」

 

 クサリは机の上に一枚の紙を置く。

 

「食料庫の備品が足りなくなってきた。市場で買ってきてほしい」

 

「私が行くわ」

 

 レミリアが立ち上がろうとした、その時だった。

 

「待って、お姉様!」

 

 フランがレミリアの袖を掴む。

 

「今日は私が行ってみたい!」

 

「え?」

 

「一人でお買い物してみたいの!」

 

 期待に満ちた瞳。

 

 レミリアは少しだけ困ったように笑う。

 

「でも、一人は危ないんじゃ……」

 

「大丈夫!」

 

 フランは胸を張る。

 

「もう子どもじゃないもん!」

 

 その様子を見ていたクサリが笑う。

 

「街の中なら問題ないだろう。住民も皆フランの顔を知ってる」

 

「うーん……」

 

 レミリアは悩む。

 

 妹を心配する気持ちと、成長を見守りたい気持ち。

 

 しばらく考えた末、優しく微笑んだ。

 

「分かったわ」

 

「本当!?」

 

「でも約束」

 

 レミリアは指を一本立てる。

 

「知らない人について行かないこと」

 

「うん!」

 

「困ったことがあったら、すぐ戻ってくること」

 

「うん!」

 

「それから……」

 

「まだあるの?」

 

 フランは苦笑する。

 

「……ちゃんと帰ってくること」

 

 レミリアは少しだけ寂しそうに笑った。

 

 その表情を見て、フランはレミリアの手をぎゅっと握る。

 

「絶対帰ってくるよ」

 

「……ええ」

 

 レミリアも優しく握り返した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 市場は朝から大賑わいだった。

 

「フランちゃん、おつかい?」

 

 八百屋のおじさんが笑顔で声を掛ける。

 

「うん!」

 

 フランは買い物メモを取り出した。

 

「パン十個、お肉、お野菜……」

 

 一つひとつ確認しながら買い物を進めていく。

 

「偉いねぇ」

 

「ありがとう!」

 

 店の人たちは皆、優しく接してくれた。

 

 そんな時だった。

 

 市場の隅で、小さな男の子が泣いているのが目に入る。

 

「どうしたの?」

 

 フランはしゃがみ込む。

 

「お母さんが……いなくなっちゃった……」

 

 涙を流す男の子。

 

 フランは少しだけ考えた。

 

「大丈夫!」

 

 優しく頭を撫でる。

 

「一緒に探そう?」

 

 男の子は小さく頷いた。

 

 市場の人たちにも協力してもらい、しばらく探していると——。

 

「あっ!」

 

 遠くから女性が駆け寄ってくる。

 

「ごめんね!」

 

「お母さん!」

 

 男の子は勢いよく飛びついた。

 

「ありがとうございます!」

 

 女性は何度も頭を下げる。

 

「ううん!」

 

 フランはにこっと笑った。

 

「見つかってよかった!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一方その頃。

 

 役所では——。

 

「……遅い」

 

 レミリアが窓の外を見ていた。

 

「まだ十分しか経ってないぞ」

 

 クサリが苦笑する。

 

「でも……」

 

「心配しすぎだ」

 

「だってフランだもの」

 

 その一言で、クサリは思わず笑ってしまう。

 

「君たち、本当にお互いが大事なんだな」

 

「当然よ」

 

 レミリアは即答した。

 

「フランは、私のたった一人の妹なんだから」

 

 その言葉には迷いがなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 しばらくして。

 

「ただいまー!」

 

 元気な声が役所に響く。

 

 レミリアは勢いよく立ち上がった。

 

「フラン!」

 

 フランは大きな袋を抱えて帰ってきた。

 

「ちゃんと全部買ってきたよ!」

 

 袋の中を見ると、頼まれた物は一つも間違っていない。

 

「すごいじゃない」

 

 レミリアは目を丸くした。

 

「えへへ」

 

 フランは少し照れ笑いを浮かべる。

 

「それとね」

 

 市場で迷子の男の子を助けたことも話した。

 

 話を聞き終えたレミリアは、優しく微笑む。

 

「偉かったわ、フラン」

 

 そう言って、頭を撫でる。

 

「えへへ……」

 

 フランは嬉しそうに目を細めた。

 

 その様子を見ていたクサリは腕を組み、満足そうに頷く。

 

「フランも立派になってきたな」

 

「うん!」

 

 フランは元気よく返事をする。

 

 しかし、その笑顔の裏で。

 

 市場の屋根の上から、二人を静かに見下ろす黒い影があった。

 

「……吸血鬼の姉妹」

 

 低い声が風に溶ける。

 

「ようやく見つけた」

 

 黒い外套を翻した人物は、誰にも気づかれることなく街の闇へと姿を消した。

 

 その視線が何を意味するのか——まだ誰も知らなかった。




過保護過ぎるレミリアが何だか、お母さんに見えてきました
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。