夕暮れ。
茜色に染まった空を見上げながら、レミリアは役所の屋上で一人、風に吹かれていた。
街には夕食の支度をする香りが漂い、子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
「……今日も平和ね」
そう呟いたレミリアの口元には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
そんな時だった。
「お姉様ー!」
元気な声と共に、フランが階段を駆け上がってくる。
「こんなところにいた!」
「どうしたの?」
「クサリさんが晩ご飯できたって!」
「あら、もうそんな時間?」
レミリアは少し驚いたように空を見上げる。
「考え事をしていたら、時間を忘れていたわ」
「また?」
フランは呆れたように笑う。
「お姉様って、時々そうなるよね」
「そうかしら?」
「そうだよ!」
二人は笑いながら屋上を後にした。
◇ ◇ ◇
役所の食堂では、クサリが温かいシチューをよそっていた。
「遅かったな」
「ごめんなさい」
レミリアは少し申し訳なさそうに席へ着く。
「いただきます!」
フランは元気よく手を合わせる。
三人で囲む食卓は、以前の紅魔館ほど豪華ではない。
それでも、誰かと食べる食事には温もりがあった。
「美味しい!」
フランは嬉しそうに頬張る。
「口の周り」
レミリアは苦笑しながらハンカチでフランの口元を拭いた。
「えへへ」
子どものように笑うフラン。
「……本当に仲がいいな」
クサリはコーヒーを飲みながら微笑んだ。
「当然よ」
レミリアは少し照れながらも答える。
「フランは私の宝物だもの」
「お姉様……」
フランの頬が少し赤く染まる。
「私も、お姉様が一番!」
そう言ってレミリアの腕に抱きついた。
「こら、ご飯中でしょう?」
「えへへー」
クサリはその様子を見て、小さく笑った。
「……見ていて飽きない姉妹だ」
◇ ◇ ◇
食事を終えた後。
夜風に当たりたいと言って、レミリアは一人で街の見回りへ向かった。
「今日は私も行く!」
フランが後ろからついてくる。
「眠くないの?」
「平気!」
「無理は駄目よ」
「大丈夫!」
結局、二人で夜道を歩くことになった。
静かな街。
見張りの兵士たちが巡回し、遠くでは焚き火が揺れている。
「平和ねぇ」
レミリアは小さく呟いた。
「うん!」
フランも嬉しそうに頷く。
その時。
──カラン。
何か金属が落ちる音が響いた。
二人は同時に足を止める。
レミリアの表情が変わった。
「フラン」
「うん」
さっきまでの笑顔は消えている。
二人は音のした方向へ静かに歩いていく。
細い路地。
積み上げられた木箱の陰。
「……誰?」
レミリアが低く問いかける。
返事はない。
だが、次の瞬間。
黒い影が屋根へ飛び移った。
「!」
レミリアはライフルを構える。
しかし撃たない。
「待ちなさい!」
影は振り返ることなく、建物の上を駆けていく。
「お姉様!」
「追うわ!」
二人は翼を広げ、一気に夜空へ舞い上がった。
月明かりの下を飛ぶ三つの影。
だが相手は驚くほど素早い。
屋根から屋根へと飛び移り、森の方角へ向かっていく。
「逃がさない!」
レミリアは速度を上げた。
あと少しで追いつく。
その瞬間。
影は小さな筒を地面へ投げつけた。
──ボンッ!
白い煙が辺りを包み込む。
「煙幕!」
視界が真っ白になる。
数秒後。
煙が晴れた時には、黒い影は消えていた。
「……逃げられた」
レミリアは悔しそうに拳を握る。
「お姉様」
フランが足元を指差した。
「これ……」
地面には一枚の黒い金属板が落ちていた。
レミリアは拾い上げる。
表面には見たことのない紋章と、数字のような文字が刻まれている。
「これは……?」
「街の人のじゃないね」
「ええ」
レミリアは静かに頷いた。
嫌な予感が胸をよぎる。
二人は急いで役所へ戻ることにした。
◇ ◇ ◇
その頃。
街から数キロ離れた森の奥。
黒い外套の人物は無線機を耳に当てていた。
「こちら偵察班」
低い声が響く。
「対象を確認」
少し間を置いて続ける。
「コードネーム『スカーレット』……確認完了」
無線の向こうから短い返答が返ってくる。
『引き続き監視を継続せよ』
「了解」
通信が切れる。
男は夜空に浮かぶ満月を見上げ、小さく笑った。
「ようやく見つけた……レミリア・スカーレット」
その瞳には、不気味な執念が宿っていた。
一方、その脅威をまだ知らないレミリアは、拾った黒い金属板を見つめながら静かに呟く。
「……この街にも、嵐が来るのかもしれないわね」
とうとう、レミリア達の前に現れた謎の人物、果たしてこれからどうなるのでしょうか