吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

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吸血姉妹の終末旅 12話:黒い識別票

 役所へ戻ると、すでに深夜になっていた。

 執務室のランプだけが静かに部屋を照らしている。

 「戻ったか」

 書類を整理していたクサリが顔を上げる。

 しかし、レミリアの真剣な表情を見ると、その笑みはすぐに消えた。

「……何かあったな」

 「ええ」

 レミリアは静かに頷き、机の上へ黒い金属板を置いた。

 カラン、と乾いた音が部屋に響く。

「これを見て」

 クサリは金属板を手に取り、表裏を確認する。

 表面には見慣れない紋章。

 裏には数字が刻まれていた。

 No.017

「……これは」

 クサリの表情が険しくなる。

「知ってるの?」

 レミリアが問い掛ける。

 クサリは少し黙り込んでから口を開いた。

「十年くらい前だ」

 「この辺りの街を襲っていた正体不明の集団がいた」

 「誰も顔を見たことがない」

 「夜だけ現れ、人を攫い、朝になる頃には跡形もなく消える」

 フランが思わず身を寄せる。

「怖い……」

 レミリアは妹の肩へ優しく手を添えた。

「大丈夫よ」

 そう言ったものの、レミリア自身も胸騒ぎを覚えていた。

「結局、その集団は?」

 「突然いなくなった」

 クサリは識別票を見つめる。

「だから皆、もう滅んだものだと思っていた」

 部屋に重苦しい沈黙が流れた。

 レミリアは窓の外を見る。

 静かな夜。

 平和そのものに見える。

 だが、その平和の裏側で誰かが動いている。

 そんな予感が消えない。

 ◇ ◇ ◇

 翌朝。

 レミリアは区域議員として北西区域を巡回していた。

 フランもその隣を歩いている。

「お姉様」

 「どうしたの?」

 「昨日の人……また来るかな」

 レミリアは少し考えた。

「来るかもしれない」

 正直に答える。

「でも」

 優しく笑う。

「私がいる」

 フランも安心したように微笑んだ。

「うん!」

 その時だった。

「区域議員さん!」

 一人の男性が慌てて駆け寄ってくる。

「どうしました?」

 「北西の森で変なものを見つけました!」

 「変なもの?」

 男性は息を整えてから続ける。

「足跡です」

 「人間の?」

 「それが……」

 男性は首を横に振った。

「普通じゃありません」

 ◇ ◇ ◇

 三人は森へ向かった。

 柔らかい土の上には、確かに足跡が残っている。

 しかし。

「……大きい」

 レミリアがしゃがみ込む。

 足跡は成人男性よりも一回り大きい。

 しかも異様に深い。

「重装備……?」

 クサリが呟く。

 レミリアは静かに首を横へ振った。

「違う」

 足跡の間隔。

 沈み込み方。

 どれも不自然だった。

「まるで……」

 レミリアは目を細める。

「人じゃない何か」

 フランもしゃがみ込む。

「お姉様」

 「なに?」

 「これ」

 足跡の横には黒い布切れが落ちていた。

 拾い上げる。

 焦げたような跡。

 そして、昨夜の人物と同じ黒い布。

「……間違いない」

 レミリアは立ち上がった。

「昨日の人物ね」

 ◇ ◇ ◇

 その日の夕方。

 街へ戻ったレミリアたちは、森の出来事を住民へ伝えることにした。

「夜間はできるだけ外へ出ないでください」

 住民たちはざわつく。

「何かいるんですか?」

「まだ分からないわ」

 レミリアは落ち着いた声で答えた。

「だからこそ警戒してください」

 その言葉に住民たちは真剣な表情で頷く。

 ◇ ◇ ◇

 夜。

 街から遠く離れた廃工場。

 数人の黒い外套の人物が集まっていた。

「報告します」

 識別票017の男が膝をつく。

「対象は街へ潜伏中」

 暗闇の奥から低い声が響く。

「確認できたか」

 「はい」

 「吸血鬼姉妹……間違いありません」

 数秒の沈黙。

 やがて、その人物は静かに命令を下した。

「まだ手を出すな」

 「監視を続けろ」

 「奴らを泳がせる」

 「……了解」

 男は頭を下げた。

 暗闇の中で、赤いランプが静かに点灯する。

 その横には、一枚の古びた資料が置かれていた。

 そこには一枚の写真。

 まだ幻想郷が存在していた頃の――

 紅魔館。

 そして、その写真には赤い文字で一言だけ書かれていた。

 《最優先監視対象》

 誰が、何のために吸血鬼姉妹を追っているのか。

 その答えは、まだ誰にも分からなかった。




古びた研究所で、レミリア達を監視する組織があるようだ、だがそれがどこにあるのかはわからない
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