吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

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吸血姉妹の終末旅 13話:姉の背中、妹の願い

 

 朝日がクランツ街を優しく照らしていた。

 

 レミリア・スカーレットは、新しく建設予定の屋敷の候補地に立ち、静かに周囲を見渡していた。

 

「ここなら……悪くないわね」

 

 少し高台になっている場所だ。

 

 街全体を見渡すことができ、何かあればすぐ飛び立てる。

 

 防衛面でも申し分ない。

 

「お姉様ー!」

 

 後ろから元気な声が飛んできた。

 

 フランドール・スカーレットが、小走りで駆け寄ってくる。

 

「見て見て! お花!」

 

 両手いっぱいに、小さな白い花を抱えていた。

 

「こんな世界でも咲くんだね!」

 

 嬉しそうに笑う妹を見て、レミリアは自然と笑みを浮かべる。

 

「ええ……綺麗ね」

 

 その笑顔だけは、幻想郷がまだ平和だった頃と変わらない。

 

 だからこそ、守りたい。

 

 何があっても。

 

「ここに庭を作ったら綺麗かも!」

 

「そうね。フランの好きな花を植えましょうか」

 

「ほんと!?」

 

 ぱぁっと顔を輝かせるフラン。

 

 その様子に、近くで測量をしていたクサリも思わず笑った。

 

「お前たち、本当に仲がいいな」

 

「当然よ」

 

 レミリアは即答した。

 

「フランは、私の大切な妹だもの」

 

「えへへ……」

 

 照れたフランは、レミリアの腕へぎゅっと抱きつく。

 

「私はお姉様が一番好き!」

 

「もう……急に抱きつかないの」

 

 そう言いながらも、レミリアは嫌そうではない。

 

 むしろ優しく頭を撫でる。

 

 その光景を見たクサリは苦笑した。

 

「見てるこっちが恥ずかしくなるな」

 

「気にしないで」

 

「気になるわ!」

 

 思わずツッコミを入れるクサリ。

 

 すると近くを歩いていた住民たちも笑い始めた。

 

「新しい区域議員さん、優しそうね」

 

「吸血鬼ってもっと怖いと思ってた」

 

「妹さん可愛いなぁ」

 

 そんな声が聞こえてくる。

 

 レミリアは少し照れくさそうに帽子を深く被った。

 

「……見られるの、慣れないわ」

 

「お姉様、耳まで赤い」

 

「赤くないわ」

 

「赤いよ?」

 

「……」

 

 否定できない。

 

 フランはくすくす笑いながら、また腕へ抱きつく。

 

 その様子を住民たちは微笑ましく見守っていた。

 

 しばらく歩くと、一人の少女が転んだ。

 

「あっ……」

 

 持っていた荷物が地面へ散らばる。

 

 レミリアは何も言わず駆け寄った。

 

「大丈夫?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 少女は驚いていた。

 

 吸血鬼が助けてくれるとは思っていなかったのだろう。

 

 レミリアは散らばった荷物を一つ一つ拾い、丁寧に渡していく。

 

「怪我は?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「そう。それなら良かった」

 

 それだけ言って立ち去ろうとする。

 

「ま、待って!」

 

 少女が呼び止めた。

 

「ありがとうございます!」

 

 その笑顔を見た瞬間。

 

 レミリアは、一瞬だけ昔を思い出した。

 

 紅魔館。

 

 笑っていた咲夜。

 

 庭で働く美鈴。

 

 本を読むパチュリー。

 

 あの日常。

 

「……お姉様?」

 

 フランが心配そうに袖を引っ張る。

 

「あ……ごめんなさい」

 

 レミリアはすぐに微笑み直した。

 

「少し昔を思い出しただけ」

 

 フランは何も聞かなかった。

 

 聞けば、お姉様が悲しい顔をするから。

 

 代わりに、そっと手を握る。

 

 ぎゅっと。

 

「……ありがとう、フラン」

 

 レミリアも優しく握り返した。

 

 その小さな温もりだけで、不思議と心が落ち着いていく。

 

 クサリは少し離れた場所から、その様子を見ていた。

 

(やっぱり、この二人は支え合って生きてきたんだな)

 

 言葉がなくても分かる。

 

 姉は妹を守り。

 

 妹は姉の心を守っている。

 

 そんな関係だった。

 

 やがて街の中央広場へ戻ると、住民たちが集まり始めていた。

 

「区域議員さん!」

 

「困ってることがあるんですが!」

 

「井戸の場所について相談が!」

 

 早くも相談が舞い込んでくる。

 

 レミリアは一瞬だけ固まった。

 

「えっ……もう?」

 

「ふふ」

 

 クサリが笑う。

 

「人気者は大変だな」

 

「……そういう問題じゃないわ」

 

 困ったように呟くレミリア。

 

 フランはその横で笑っていた。

 

「頑張って、お姉様!」

 

「他人事みたいに言わないで」

 

「応援はしてるよ?」

 

「それは分かるけど……」

 

 思わず苦笑するレミリア。

 

 その柔らかな笑顔を見た住民たちも、自然と笑顔になる。

 

 この街はまだ小さい。

 

 世界も壊れたままだ。

 

 それでも。

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつではあるが、人々は笑顔を取り戻し始めていた。

 

 そしてレミリアもまた、その笑顔を守るため、新たな一歩を踏み出そうとしていた。





 次回 第14話「初めての区域議員」

 区域議員となったレミリアのもとに、街で初めての問題が持ち込まれる。 慣れない仕事に戸惑う天然なレミリアと、それを見守るフラン。 果たして姉妹は、住民たちの悩みを解決できるのか──。
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