朝日がクランツ街を優しく照らしていた。
レミリア・スカーレットは、新しく建設予定の屋敷の候補地に立ち、静かに周囲を見渡していた。
「ここなら……悪くないわね」
少し高台になっている場所だ。
街全体を見渡すことができ、何かあればすぐ飛び立てる。
防衛面でも申し分ない。
「お姉様ー!」
後ろから元気な声が飛んできた。
フランドール・スカーレットが、小走りで駆け寄ってくる。
「見て見て! お花!」
両手いっぱいに、小さな白い花を抱えていた。
「こんな世界でも咲くんだね!」
嬉しそうに笑う妹を見て、レミリアは自然と笑みを浮かべる。
「ええ……綺麗ね」
その笑顔だけは、幻想郷がまだ平和だった頃と変わらない。
だからこそ、守りたい。
何があっても。
「ここに庭を作ったら綺麗かも!」
「そうね。フランの好きな花を植えましょうか」
「ほんと!?」
ぱぁっと顔を輝かせるフラン。
その様子に、近くで測量をしていたクサリも思わず笑った。
「お前たち、本当に仲がいいな」
「当然よ」
レミリアは即答した。
「フランは、私の大切な妹だもの」
「えへへ……」
照れたフランは、レミリアの腕へぎゅっと抱きつく。
「私はお姉様が一番好き!」
「もう……急に抱きつかないの」
そう言いながらも、レミリアは嫌そうではない。
むしろ優しく頭を撫でる。
その光景を見たクサリは苦笑した。
「見てるこっちが恥ずかしくなるな」
「気にしないで」
「気になるわ!」
思わずツッコミを入れるクサリ。
すると近くを歩いていた住民たちも笑い始めた。
「新しい区域議員さん、優しそうね」
「吸血鬼ってもっと怖いと思ってた」
「妹さん可愛いなぁ」
そんな声が聞こえてくる。
レミリアは少し照れくさそうに帽子を深く被った。
「……見られるの、慣れないわ」
「お姉様、耳まで赤い」
「赤くないわ」
「赤いよ?」
「……」
否定できない。
フランはくすくす笑いながら、また腕へ抱きつく。
その様子を住民たちは微笑ましく見守っていた。
しばらく歩くと、一人の少女が転んだ。
「あっ……」
持っていた荷物が地面へ散らばる。
レミリアは何も言わず駆け寄った。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます……」
少女は驚いていた。
吸血鬼が助けてくれるとは思っていなかったのだろう。
レミリアは散らばった荷物を一つ一つ拾い、丁寧に渡していく。
「怪我は?」
「だ、大丈夫です!」
「そう。それなら良かった」
それだけ言って立ち去ろうとする。
「ま、待って!」
少女が呼び止めた。
「ありがとうございます!」
その笑顔を見た瞬間。
レミリアは、一瞬だけ昔を思い出した。
紅魔館。
笑っていた咲夜。
庭で働く美鈴。
本を読むパチュリー。
あの日常。
「……お姉様?」
フランが心配そうに袖を引っ張る。
「あ……ごめんなさい」
レミリアはすぐに微笑み直した。
「少し昔を思い出しただけ」
フランは何も聞かなかった。
聞けば、お姉様が悲しい顔をするから。
代わりに、そっと手を握る。
ぎゅっと。
「……ありがとう、フラン」
レミリアも優しく握り返した。
その小さな温もりだけで、不思議と心が落ち着いていく。
クサリは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
(やっぱり、この二人は支え合って生きてきたんだな)
言葉がなくても分かる。
姉は妹を守り。
妹は姉の心を守っている。
そんな関係だった。
やがて街の中央広場へ戻ると、住民たちが集まり始めていた。
「区域議員さん!」
「困ってることがあるんですが!」
「井戸の場所について相談が!」
早くも相談が舞い込んでくる。
レミリアは一瞬だけ固まった。
「えっ……もう?」
「ふふ」
クサリが笑う。
「人気者は大変だな」
「……そういう問題じゃないわ」
困ったように呟くレミリア。
フランはその横で笑っていた。
「頑張って、お姉様!」
「他人事みたいに言わないで」
「応援はしてるよ?」
「それは分かるけど……」
思わず苦笑するレミリア。
その柔らかな笑顔を見た住民たちも、自然と笑顔になる。
この街はまだ小さい。
世界も壊れたままだ。
それでも。
少しずつ。
本当に少しずつではあるが、人々は笑顔を取り戻し始めていた。
そしてレミリアもまた、その笑顔を守るため、新たな一歩を踏み出そうとしていた。
次回 第14話「初めての区域議員」
区域議員となったレミリアのもとに、街で初めての問題が持ち込まれる。 慣れない仕事に戸惑う天然なレミリアと、それを見守るフラン。 果たして姉妹は、住民たちの悩みを解決できるのか──。