吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

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吸血姉妹の終末旅 14話:初めての区域議員

 

 クランツ街で区域議員となってから、三日が過ぎた。

 

 朝の空気は澄み切り、街には人々の笑い声が少しずつ戻り始めている。

 

 レミリアは役所の一室で、机の上に積まれた書類をじっと見つめていた。

 

「……」

 

 数秒。

 

 さらに数秒。

 

 そして、ぽつりと呟く。

 

「……難しいわ」

 

 書類には『居住申請』『農地拡張』『井戸修繕』など、様々な内容が並んでいる。

 

 戦うことには慣れていても、事務仕事はまったくの別物だった。

 

「お姉様?」

 

 隣からフランが覗き込む。

 

「何か困ってるの?」

 

「……全部よ」

 

 真顔で返ってきた答えに、フランは思わず吹き出した。

 

「あははっ!」

 

「笑い事じゃないわ……」

 

 レミリアは机に突っ伏した。

 

「こんなに書類があるなんて聞いてないもの……」

 

「区域議員だからねぇ」

 

 フランは楽しそうに笑う。

 

 そこへ、扉が軽く叩かれた。

 

「入るぞ」

 

 クサリだった。

 

「調子はどうだ?」

 

「……聞くまでもないでしょう」

 

 机いっぱいの書類を見て、クサリは苦笑する。

 

「最初はみんなそうだ」

 

「私は戦う方が向いている気がするわ……」

 

「残念ながら、この街では剣よりペンの方が使う機会が多い」

 

「嫌な世界ね……」

 

 レミリアは肩を落とした。

 

 そんな姉を見て、フランはまた笑う。

 

「お姉様が書類に負けてる!」

 

「負けてないわ」

 

「負けてるよ?」

 

「……少しだけ苦戦してるだけよ」

 

 その時だった。

 

 廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。

 

「区域議員さん!」

 

 一人の青年が駆け込んでくる。

 

「大変なんです!」

 

 レミリアはすぐに立ち上がった。

 

「何があったの?」

 

「井戸で揉め事が……!」

 

 数分後。

 

 三人は井戸へ到着した。

 

「俺たちが先に並んでた!」

 

「いや、こっちだ!」

 

 二組の住民が口論になっている。

 

「どうしたの?」

 

 レミリアが間に入る。

 

 一人の女性が事情を説明した。

 

「井戸が一つしかなくて、水を汲む順番で揉めてしまって……」

 

「なるほど」

 

 レミリアは静かに頷く。

 

 少し考え込む。

 

「……なら」

 

 皆がレミリアを見る。

 

「井戸を増やせばいいんじゃないかしら?」

 

 一瞬、辺りが静まり返った。

 

「……え?」

 

 住民たちが顔を見合わせる。

 

「いや、それが簡単にできれば苦労しないんですが……」

 

 青年が苦笑する。

 

「えっ?」

 

 レミリアは首を傾げた。

 

「違うの?」

 

 クサリが額に手を当てる。

 

「レミリア……井戸を掘るのは何日もかかる」

 

「そうなの?」

 

「そうなんだ」

 

「知らなかったわ……」

 

 天然な返答に、その場の空気が少し和らぐ。

 

 フランは笑いを堪えきれない。

 

「あはははっ!」

 

「お姉様らしい!」

 

「笑わないで……」

 

 レミリアは少し頬を赤くした。

 

 改めて考える。

 

「じゃあ……今日は偶数番号の家、明日は奇数番号の家にしたら?」

 

「交代制ですか」

 

「ええ。不公平にならないでしょう?」

 

 住民たちは再び顔を見合わせた。

 

「……それなら」

 

「納得できます」

 

「それでお願いします」

 

 口論は、あっさりと収まった。

 

 クサリは感心したように頷く。

 

「意外だったな」

 

「何が?」

 

「もっと力ずくで解決すると思ってた」

 

 レミリアは少し驚いた顔をする。

 

「そんなことしないわよ」

 

「必要なら戦う。でも、戦わなくて済むなら、その方がいいもの」

 

 その言葉に、クサリは小さく笑った。

 

「やっぱり、お前に頼んで正解だった」

 

 フランは胸を張る。

 

「当然!」

 

「お姉様はすごいんだから!」

 

「そんな大したことじゃないわ」

 

 照れたレミリアは帽子を深く被る。

 

 すると、小さな男の子が近づいてきた。

 

「議員さん!」

 

「ん?」

 

「ありがとう!」

 

 男の子は花を一本差し出した。

 

「これ、お礼!」

 

「……私に?」

 

「うん!」

 

 レミリアは少し戸惑いながら花を受け取る。

 

「ありがとう」

 

 自然と笑顔になる。

 

 その笑顔を見たフランも嬉しそうに笑った。

 

(やっぱり……)

 

(お姉様は笑ってる方がいい)

 

 そう心の中で呟きながら、フランはそっとレミリアの隣に並ぶ。

 

 壊れた世界でも。

 

 守りたい笑顔がある限り。

 

 二人は、前へ進み続ける。

 




 次回 第15話「初任務」

 区域議員となったレミリアに、初めての護衛任務が舞い込む。
交易隊を狙う謎の武装集団──。
レミリアとフランは、街を守るため再び武器を手に取る。
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