吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

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吸血姉妹の終末旅 15話:初任務――街を守るために

 クランツ街に来てから、しばらくの時間が過ぎた。

 

 レミリアは、少しずつ区域議員としての仕事にも慣れ始めていた。

 

 ……とはいえ。

 

「お姉様、書類逆さまだよ」

 

「…………」

 

 フランの指摘に、レミリアはゆっくりと書類を回転させる。

 

「……本当ね」

 

「気づいてなかったの!?」

 

「気づいていたわよ」

 

「絶対嘘だぁ」

 

 フランがくすくす笑う。

 

 そんな穏やかな時間を過ごしていた、その時だった。

 

 ──コンコン。

 

 扉が叩かれた。

 

「入っていいぞ」

 

 クサリの声がする。

 

「失礼する」

 

 扉が開き、クサリが入ってきた。

 

 その表情は、いつもの穏やかなものではなかった。

 

「レミリア、少し頼みたいことがある」

 

「何かしら?」

 

「護衛任務だ」

 

 レミリアの表情が変わる。

 

「護衛?」

 

「ああ」

 

 クサリは机の上に一枚の地図を広げた。

 

「明日の朝、交易隊がこの街を出る。食料や医薬品、それから工場で作った部品を別の拠点へ運ぶ予定だ」

 

「なるほど」

 

「問題は、その道中だ」

 

 クサリは地図の一点を指差す。

 

「最近、この辺りで交易隊を狙った襲撃が何度か起きている」

 

 フランが眉をひそめる。

 

「盗賊?」

 

「その可能性が高い。ただ……」

 

 クサリは言葉を濁した。

 

「何か気になることでもあるの?」

 

「襲撃された隊の証言が妙なんだ」

 

「妙?」

 

「ああ。襲ってくる連中は、ただ物資を奪うだけじゃない。武器の扱いにも慣れているらしい」

 

 レミリアは地図を見る。

 

「つまり、素人ではない……」

 

「そういうことだ」

 

 レミリアは少し考えた。

 

 そして、立ち上がる。

 

「分かったわ。引き受ける」

 

「本当にいいのか?」

 

「区域議員として、街の人たちを守るのも仕事でしょう?」

 

 そう言って、レミリアはライフルを手に取る。

 

 フランもすぐに立ち上がった。

 

「じゃあ私も行く!」

 

「フランも?」

 

「もちろん!」

 

 フランは胸を張った。

 

「お姉様一人じゃ心配だもん」

 

「私はそこまで頼りないかしら?」

 

「うん!」

 

「即答なのね……」

 

 レミリアは少しだけ頬を膨らませる。

 

 クサリはそんな二人を見て苦笑した。

 

「まあ、二人なら問題ないだろう」

 

「クサリは来ないの?」

 

「俺は街に残る。何かあった時に対応できる人間も必要だからな」

 

「そう」

 

 レミリアは頷いた。

 

 そして、ふと窓の外を見る。

 

 街では、明日の出発に備えて人々が荷物を準備していた。

 

 食料。

 

 医薬品。

 

 生活に必要な物資。

 

 どれも、この世界では決して簡単に手に入るものではない。

 

「……絶対に守らないと」

 

 レミリアが小さく呟く。

 

「お姉様?」

 

「なんでもないわ」

 

 そう答えたものの、フランには分かっていた。

 

 レミリアは、昔と同じだ。

 

 大切なものを失うことを、誰よりも恐れている。

 

 だからこそ。

 

 自分が守れるものだけは、絶対に守ろうとしている。

 

 フランは何も言わず、レミリアの手を握った。

 

「……大丈夫だよ」

 

「フラン?」

 

「今度は、私も一緒だから」

 

 レミリアは一瞬だけ目を見開いた。

 

 そして、優しく微笑む。

 

「ええ」

 

 その手を握り返した。

 

「一緒に行きましょう」

 

 翌朝。

 

 クランツ街の門が開かれる。

 

 数台の荷車が並び、その前にレミリアとフランが立っていた。

 

「それじゃあ、頼んだぞ」

 

 クサリが二人へ声をかける。

 

「任せて」

 

 レミリアはライフルを肩に掛ける。

 

 フランもアサルトを携え、元気よく頷いた。

 

「行ってきます!」

 

 門がゆっくりと開く。

 

 交易隊が街の外へ進み始めた。

 

 レミリアは周囲を警戒しながら歩く。

 

 静かな森。

 

 遠くに広がる荒野。

 

 そして、かつて人々が暮らしていた廃墟。

 

 世界は、まだ壊れたままだ。

 

 それでも──。

 

「お姉様」

 

「何?」

 

「なんだか、冒険みたいだね!」

 

 フランが楽しそうに笑う。

 

「……そうね」

 

 レミリアも微笑んだ。

 

 だが、その直後。

 

 ──ガサッ。

 

 二人の足が止まった。

 

「……フラン」

 

「うん」

 

 レミリアは静かに前を見る。

 

 交易隊の護衛たちも異変に気づき、動きを止めた。

 

 森の奥。

 

 何かがいる。

 

 一つではない。

 

「……囲まれてる?」

 

 フランが小さく呟く。

 

 レミリアは目を細めた。

 

「そのようね」

 

 静寂の中。

 

 遠くから、乾いた足音が聞こえてきた。

 

 一歩。

 

 また一歩。

 

 そして──。

 

 木々の間から、複数の人影が姿を現した。

 

 レミリアはライフルを構える。

 

 フランも隣に並んだ。

 

「……さて」

 

 レミリアは小さく息を吐く。

 

「初任務にしては、随分と歓迎が派手じゃない?」

 

 フランがにっこり笑う。

 

「お姉様、頑張ろう!」

 

「ええ」

 

 二人は並んで前を見据えた。

 

 新たな街を守るための、初めての任務。

 

 そして──。

 





 この出会いが、クランツ街の未来を大きく変えることになるとは、この時の二人はまだ知らなかった。
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