吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

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吸血姉妹の終末旅 17話:フラン、初めての大仕事!

 

 朝。

 

 クランツ協商連合の街は、いつも通り活気に満ちていた。

 

 住民たちは仕事へ向かい、商人たちは店先に商品を並べ、工場からは機械の動く音が響いている。

 

 そんな街の中央にある政府庁舎。その一室では、ひとりの少女が大きな机の前に座っていた。

 

フラン「…………」

 

 机の上には、街の地図や開発計画書、住民から提出された要望書が山のように積まれている。

 

 そして、その山の向こう側には――。

 

フラン「……多すぎない?」

 

 フランドール・スカーレットが、机に突っ伏していた。

 

 昨日、護衛任務の翌朝に体調を崩したレミリアに代わり、街の開発責任者を任されたフラン。

 

 最初は「お姉様の代わりに頑張る!」と意気込んでいたものの、現実は想像以上に厳しかった。

 

フラン「えっと……住宅地の拡張、農地の整備、工場の増設、それから道路の修理……。あっ、井戸の修理もあるんだ」

 

 書類を一枚めくる。

 

 さらにもう一枚。

 

 その次も、また次も。

 

フラン「…………お姉様、いつもこんなことしてたの?」

 

 フランは、姉の仕事量を初めて実感した。

 

 普段のレミリアは、どこか余裕のある態度で仕事をこなしている。時には住民の話を聞き、時には難しい交渉をまとめ、時にはクサリと意見をぶつけ合っていた。

 

 それを見ていたフランは、姉なら何でも簡単にできるのだと思っていた。

 

 しかし、目の前の書類の山を見れば、その考えが間違っていたことは明らかだった。

 

フラン「……よし!」

 

 フランは両手で頬を軽く叩き、気合いを入れた。

 

フラン「とりあえず、住民のみんなの話を聞いてみよう!」

 

 こうして、フランドールの初めての大仕事が始まった。

 

◆ 政府庁舎・会議室

 

 会議室には、各地区の代表者や住民たちが集まっていた。

 

 農業関係者、工場の責任者、住宅地の代表、商人、そして街の整備を担当する技術者。

 

 それぞれが自分たちの要望をまとめた資料を持っている。

 

 フランは会議室の前方に立ち、少し緊張しながら口を開いた。

 

フラン「えっと……今日は集まってくれてありがとう! お姉様が体調を崩しちゃったから、今日は私が代わりに開発責任者をすることになったの」

 

 住民たちが小さくざわめいた。

 

住民A「レミリアさん、大丈夫なのか?」

 

フラン「うん。今は休んでるよ。だから、今日は私が頑張るね!」

 

住民B「それなら、まずは住宅地の拡張について話したい」

 

住民C「いや、先に農地を整備するべきだ!」

 

住民D「工場の増設が最優先だろう! 生産量が足りていないんだ!」

 

 フランが話を続けようとした、その瞬間。

 

住民A「住宅地だ! 新しく来た人たちを住まわせる場所が足りない!」

 

住民B「農地が増えなければ、食料が不足する!」

 

住民C「工場を増やさなければ、武器も生活用品も生産できない!」

 

住民D「道路の整備だって必要だ! 今のままでは輸送に時間がかかりすぎる!」

 

 次々と意見が飛び交う。

 

 フランは慌てて両手を振った。

 

フラン「ま、待って! 一人ずつ話して!」

 

住民A「だが、これは急いで決めなければならない問題だ!」

 

住民B「こちらだって急いでいる!」

 

住民C「そもそも、工場が止まれば街全体が困るんだぞ!」

 

 会議室は、あっという間に騒がしくなってしまった。

 

フラン「え、えぇぇ……!?」

 

 フランは困り果てた。

 

 誰か一人の意見を優先すれば、別の誰かが困る。

 

 かといって、全員の要望を一度に叶えることもできない。

 

 街の開発に使える人手も資材も、限られているのだ。

 

フラン(ど、どうしよう……)

 

 フランは机の下で、ぎゅっと拳を握った。

 

フラン(みんな、自分たちの仕事や生活が大事なんだよね……。だから、どの意見も間違ってない)

 

 姉なら、どうするだろう。

 

 レミリアなら、この場をどうやってまとめるのだろう。

 

 フランは考えた。

 

 しかし、どれだけ考えても、すぐには答えが出てこなかった。

 

 そのときだった。

 

クサリ「……フラン」

 

 会議室の入り口に、クサリが立っていた。

 

クサリ「少し休憩にしたらどうだ? このままでは話し合いどころじゃない」

 

フラン「クサリ……」

 

クサリ「全員の意見を聞くのは大切だ。だが、全員の希望をそのまま通すことはできない。開発責任者は、そこを判断しなければならない」

 

フラン「……うん」

 

クサリ「焦る必要はない。まずは、何が本当に必要なのかを考えるんだ」

 

 そう言い残すと、クサリは会議室の外へ出ていった。

 

 住民たちも、ひとまず休憩することになった。

 

 フランは椅子に座り、深く息を吐いた。

 

フラン「……難しいよ、お姉様」

 

 普段なら、すぐに姉のところへ相談しに行っていただろう。

 

 けれど、今のレミリアは休んでいる。

 

 自分が姉の代わりを任されたのだから、自分で考えなければならない。

 

 フランは机の上の地図を広げた。

 

 そして、住民たちから出された要望を一つずつ確認していった。

 

◆ フランの考え

 

 まず、住宅地。

 

 新しく街へやって来た人々が増え、住む場所が不足している。仮設住宅で生活している家族もいるらしい。

 

 次に、農地。

 

 農地が足りなければ、街で暮らす人々に十分な食料を届けられなくなる。

 

 そして、工場。

 

 武器や工具、衣服、生活用品など、街の暮らしを支える物資を生産している。工場の生産能力が不足すれば、ほかの開発にも影響が出る。

 

 どれも必要だった。

 

フラン「うーん……。どれか一つだけを選ぶなんて、できないよ……」

 

 フランは地図をじっと見つめた。

 

 そのとき、ふと気づいた。

 

フラン「……あれ?」

 

 住宅地の拡張予定地。

 

 農地の整備予定地。

 

 工場の増設予定地。

 

 それぞれの場所を地図の上で確認していくと、あることが分かった。

 

フラン「この三つの場所……道路でつながってるんだ」

 

 しかも、住宅地の近くには使われていない土地があり、農地の予定地には以前から水路として使われていた場所が残っている。

 

 さらに、工場の増設予定地は、現在の工場からそれほど離れていない。

 

 フランは椅子から立ち上がった。

 

フラン「だったら……全部を少しずつ進めればいいんじゃない?」

 

 もちろん、すべてを一度に完成させることはできない。

 

 しかし、優先順位をつけて段階的に整備すれば、三つの問題を同時に少しずつ解決できるかもしれない。

 

 フランは新しい紙を取り出し、計画を書き始めた。

 

 まず、現在使われていない土地を調査し、安全に住宅を建てられる場所を確保する。

 

 次に、既存の水路を修復し、現在の農地の生産性を高める。

 

 そして、工場はすぐに大規模な増設をするのではなく、まずは壊れた設備の修理と作業工程の見直しを行う。

 

 道路についても、すべてを一度に直すのではなく、住宅地・農地・工場を結ぶ主要道路から整備する。

 

フラン「これなら、少ない資材でも始められるはず……!」

 

 フランの表情に、少しずつ自信が戻ってきた。

 

 しかし、まだ一つ問題が残っていた。

 

 この計画で、本当に住民たちが納得してくれるだろうか。

 

フラン「……うん。ちゃんと説明しよう」

 

 フランは書き上げた計画書を手に取り、再び会議室へ向かった。

 

◆ 初めての決断

 

 会議が再開されると、住民たちは再びそれぞれの主張を始めようとした。

 

 だが、今度はフランが先に口を開いた。

 

フラン「みんな、聞いて!」

 

 思っていた以上に大きな声が出た。

 

 会議室が静まり返る。

 

フラン「住宅も、農地も、工場も、全部大切だと思う。だから、私はどれか一つだけを選ぶつもりはないよ」

 

住民A「しかし、資材が足りないのだろう?」

 

フラン「うん。だから、最初から全部を大きくするんじゃなくて、今あるものを直したり、使っていない土地を調べたりするの」

 

 フランは地図を広げ、計画を説明し始めた。

 

フラン「まずは、新しい住宅を建てられる土地を調査する。危険がない場所を確認して、住む場所が足りない人たちから順番に入居できるようにするよ」

 

 住宅地の代表者が、真剣な表情で地図を見つめる。

 

フラン「農地は、今ある水路を修理して、作物を育てやすくする。新しい農地を作るのは、そのあと。工場は、壊れている設備を直して、生産を増やせないか調べるの」

 

住民B「つまり、新しい設備を大量に作る前に、今あるものを活用するということか?」

 

フラン「そう! それなら、資材を節約できると思うんだ」

 

住民C「だが、道路の整備はどうする?」

 

フラン「住宅地と農地と工場をつなぐ道路から直すよ。食料や物資を運びやすくなれば、みんなの仕事も少しは楽になるはずだから」

 

 住民たちは、互いに顔を見合わせた。

 

 もちろん、すべての問題がすぐに解決するわけではない。

 

 それでも、フランの計画には、それぞれの要望を無視せず、限られた資材を有効に使おうという考えがあった。

 

住民A「……住宅地の調査を先に始めるなら、こちらも協力できる」

 

住民B「水路の修理なら、農業関係者から人手を出そう」

 

住民C「工場の設備点検はこちらで担当する。使える部品を探してみよう」

 

フラン「本当!?」

 

住民C「ああ。ただし、工場の増設計画も、後回しにするだけで終わらせないでくれ」

 

フラン「もちろん! ちゃんと次の計画に入れるよ!」

 

 フランは、ぱっと笑顔になった。

 

 先ほどまで対立していた住民たちが、それぞれ協力する方法を考え始めていた。

 

 会議室の空気が、少しずつ変わっていく。

 

 やがて、住民たちは役割分担と調査の手順について話し合い、最初の開発計画がまとまった。

 

クサリ「……なるほどな」

 

 会議室の後方で様子を見ていたクサリが、小さく呟いた。

 

クサリ(最初は戸惑っていたが……。住民たちの意見を聞いたうえで、自分なりの答えを出したか)

 

 フランは、姉の真似をして住民たちを従わせたわけではない。

 

 住民たちの意見を聞き、それぞれが抱えている問題を考え、全員が少しずつ前へ進める方法を探したのだ。

 

 それは、フラン自身が見つけた答えだった。

 

◆ お姉様のもとへ

 

 夕方。

 

 すべての話し合いを終えたフランは、疲れた足取りで宿舎へ戻った。

 

フラン「つ、疲れたぁ……!」

 

 部屋に入るなり、ソファへ倒れ込む。

 

 朝からずっと頭を使い続けていたのだ。普段は戦闘や遊びで体を動かすことが多いフランにとって、今日の仕事は想像以上に大変だった。

 

フラン「お姉様って、すごいんだね……」

 

 そのとき、隣の部屋から声が聞こえた。

 

レミリア「……フラン?」

 

フラン「お姉様!?」

 

 フランは勢いよく起き上がり、隣の部屋へ向かった。

 

 そこには、ベッドの上で上半身を起こしたレミリアがいた。

 

 まだ少し顔色は悪いものの、朝よりは落ち着いているようだった。

 

フラン「お姉様! もう起きて大丈夫なの?」

 

レミリア「ええ。まだ本調子ではないけれどね。それより……今日はどうだった?」

 

フラン「えっとね……」

 

 フランは今日あったことを、最初から順番に話した。

 

 住民たちの意見がまとまらなかったこと。

 

 どうすればいいのか分からず、困ってしまったこと。

 

 地図を見て、限られた資材を有効に使う方法を思いついたこと。

 

 そして、住民たちが協力してくれることになったこと。

 

 話しているうちに、フランの表情は明るくなっていった。

 

フラン「……それでね! みんなで協力して、まずは住宅地の調査と水路の修理から始めることになったの!」

 

レミリア「そう。よく頑張ったわね、フラン」

 

フラン「えへへ……!」

 

 レミリアは優しく微笑み、フランの頭を撫でた。

 

レミリア「最初から全員を納得させるのは難しいものよ。大切なのは、相手の話を聞いて、何が必要なのかを考えること。そして、自分で決めたことに責任を持つことよ」

 

フラン「……うん!」

 

レミリア「今日のあなたは、それができたのね」

 

フラン「……お姉様みたいに、できたかな?」

 

 フランが少し不安そうに尋ねる。

 

 レミリアは、すぐには答えなかった。

 

 そして、フランの顔を見て、穏やかに言った。

 

レミリア「いいえ」

 

フラン「えっ……!?」

 

 フランの顔から笑顔が消えかける。

 

 しかし、レミリアはそのまま言葉を続けた。

 

レミリア「あなたは、私とは違う方法で街をまとめたのよ。だから、私の真似をする必要なんてないわ」

 

フラン「……!」

 

レミリア「あなたには、あなたの考え方がある。それを大切にしなさい」

 

 フランは目を丸くしたあと、ゆっくりと笑顔を取り戻した。

 

フラン「……うん! 分かった!」

 

 そして、レミリアの胸元へ飛び込むように抱きついた。

 

フラン「お姉様、大好き!」

 

レミリア「ふふっ。私もよ」

 

 レミリアはフランを抱きしめ、再び頭を撫でた。

 

 今日一日、フランは姉の代わりとして仕事をした。

 

 失敗しそうになり、迷い、悩みながらも、自分なりの答えを見つけた。

 

 その経験は、きっとこれからのフランを成長させてくれるだろう。

 

 ――ただし。

 

レミリア「ところで、フラン」

 

フラン「なぁに?」

 

レミリア「明日も開発責任者をお願いできるかしら?」

 

フラン「…………え?」

 

レミリア「まだ体調が完全に戻っていないのよ。もう一日だけ休ませてちょうだい」

 

フラン「ええええええっ!?」

 

 部屋に、フランの叫び声が響き渡った。

 

フラン「きょ、今日だけじゃなかったの!?」

 

レミリア「あなたなら大丈夫だと思ったのだけれど?」

 

フラン「お姉様ぁぁぁぁ!!」

 

 レミリアは、くすくすと笑った。

 

 フランは頬を膨らませながらも、姉の体調が心配だったため、結局は引き受けることにした。

 

フラン「……分かった。でも、無理はしないでね?」

 

レミリア「ええ、約束するわ」

 

 こうして、フランドール・スカーレットの開発責任者としての二日目が決まったのだった。

 

 そして翌朝。

 

 フランのもとには、昨日の計画を聞きつけた住民たちから、さらなる相談が押し寄せることになる。

 

フラン「……えっ、まだあるの!?」

 

 フランの受難は、どうやら始まったばかりらしい。

 




次回予告

第18話「フラン、まさかの大混乱!?」

ナレーション:
フランが開発責任者を務めることになった、三日目の朝!

フラン:
「よーし! 今日も頑張るぞー!」

ナレーション:
……と、意気込んでいたフランだったが、政府庁舎に到着すると、そこには大量の要望書が待ち受けていた!

フラン:
「えっ!? 昨日より増えてない!?」

ナレーション:
住宅地の調査、水路の修理、工場の設備点検。
さらに、各地区から新たな問題が次々と舞い込んでくる!

フラン:
「ま、待って! 一度に言われても分からないよぉぉ!」

ナレーション:
そんな中、開発現場で思わぬトラブルが発生!
果たしてフランは、初めての連続する難題を乗り越えられるのか!?

一方、その頃――。

レミリア:
「……少し休んだら、様子を見に行こうかしら」

ナレーション:
体調が回復しつつあるレミリアも、妹の奮闘を気にかけていた。

フラン:
「お姉様ぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」

レミリア:
「……ふふっ。もう少しだけ、頑張ってみなさい」

フラン:
「そんなぁぁぁ!?」

ナレーション:
次回、第18話!
「フラン、まさかの大混乱!?」

フランの開発責任者生活は、まだまだ終わらない!
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