吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

6 / 14
街の案内を終えたレミリア達は茜色に染まった空を眺めながらレミリアとフランの屋敷の建築依頼に向かうのであった。


吸血姉妹の終末旅 6話:新たな屋敷、新たな役目

 クランツ街の散策を終えた頃には、空は茜色に染まり始めていた。

 

 夕陽が街並みを優しく照らし、人々は一日の仕事を終えて家路へと急いでいる。

 

 その光景を眺めながら、レミリアは小さく呟いた。

 

 「……平和ね」

 

 幻想郷が崩壊してからというもの、こうして人々が笑い合い、安心して暮らす光景を見る機会はほとんどなかった。

 

 だからこそ、この街の日常がどこか眩しく見えた。

 

 「この街は、戦うより生きることを選んだ人間が集まってできた街だからな」

 

 クサリが穏やかな口調で答える。

 

 「だから兵士は少ない。でも、その代わりに誰もが自分の役割を持って生きている」

 

 その言葉に、レミリアは静かに頷いた。

 

 「……悪くない街ね」

 

 「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 クサリは照れ臭そうに笑った。

 

 その様子を見ていたフランは、小さく首を傾げる。

 

 (この人……悪い人じゃない。)

 

 最初は人を殺した目だと思った。

 

 けれど街を歩き、住民たちと話す姿を見るうちに、その印象は少しずつ変わっていた。

 

 それでも。

 

 (でも、お姉様は渡さない。)

 

 その想いだけは変わらない。

 

     ◇

 

 三人は再び役所へ戻ると、建築担当の職員が待っていた。

 

 「お待ちしておりました、クサリ様。」

 

 「頼みたいことがある。」

 

 クサリは職員へ視線を向ける。

 

 「この二人が住む屋敷を建ててやってくれ。」

 

 「承知しました。」

 

 職員はすぐに設計図を机へ広げた。

 

 「ご希望はございますか?」

 

 レミリアは少しだけ考え込む。

 

 頭の中に浮かぶのは、壊れてしまった紅魔館。

 

 広い玄関。

 

 赤い絨毯。

 

 シャンデリア。

 

 笑い合う仲間たち。

 

 もう戻らない景色。

 

 「……お姉様?」

 

 フランの声で我に返る。

 

 「えっ?」

 

 「どうしたの?」

 

 「……ううん。」

 

 レミリアは微笑みを作る。

 

 「少し昔を思い出していただけ。」

 

 そして設計図へ目を向ける。

 

 「大きさはそこまで必要ないわ。」

 

 「二階建てで、部屋は四つ。」

 

 「地下室もお願いできるかしら。」

 

 「地下室ですか?」

 

 職員は少し驚いたような顔を見せる。

 

 「ええ。保存庫として使いたいの。」

 

 本当の理由は違う。

 

 吸血鬼である自分たちが、昼間でも安心して休める場所が欲しかった。

 

 その事情を説明することはなかった。

 

 「承知しました。」

 

 職員は丁寧に書き留めていく。

 

 「完成まで、およそ十日ほどになります。」

 

 「ありがとう。」

 

 レミリアは軽く頭を下げた。

 

     ◇

 

 役所を出ると、外はすっかり夜になっていた。

 

 街灯が一本、また一本と灯り始める。

 

 「今日は宿を用意してある。」

 

 クサリが歩きながら言う。

 

 「屋敷が完成するまでは、そこを使ってくれ。」

 

 「助かるわ。」

 

 宿は役所から歩いて数分の場所にあった。

 

 決して豪華ではない。

 

 だが、木造の温かな雰囲気がどこか安心感を与えてくれる。

 

 部屋へ入ると、フランは勢いよくベッドへ飛び込んだ。

 

 「ふわふわ!」

 

 「こら、靴。」

 

 レミリアが苦笑しながら注意する。

 

 「あっ。」

 

 慌てて靴を脱ぐフラン。

 

 その様子に、レミリアは思わず吹き出した。

 

 「ふふっ……」

 

 久しぶりだった。

 

 心の底から笑ったのは。

 

 「……お姉様?」

 

 フランは驚いたように姉を見る。

 

 「なんでもないわ。」

 

 レミリアは優しく笑った。

 

 「少しだけ……安心したの。」

 

 フランも釣られるように笑う。

 

 「えへへ。」

 

 その笑顔を見ているだけで、レミリアの胸の重石が少しだけ軽くなった。

 

     ◇

 

 深夜。

 

 フランが寝息を立て始めた頃。

 

 レミリアは一人、窓際へ立っていた。

 

 街は静かだった。

 

 誰も争っていない。

 

 誰も悲鳴を上げていない。

 

 それなのに。

 

 「……怖い。」

 

 誰にも聞こえない声が零れた。

 

 「また……守れなかったら。」

 

 「また、大切な人を失ったら。」

 

 握り締めた拳が震える。

 

 その時だった。

 

 「眠れないのか。」

 

 背後から静かな声がした。

 

 振り返ると、そこにはクサリが立っていた。

 

 見回りの途中だったのだろう。

 

 「……ええ。」

 

 レミリアは誤魔化さなかった。

 

 「責任っていうものが、少し怖いの。」

 

 クサリは隣へ立つ。

 

 「怖くて当然だ。」

 

 短い言葉だった。

 

 「責任を怖がらない奴ほど危ない。」

 

 「……そうかしら。」

 

 「責任を知ってるから怖い。」

 

 「失敗を知ってるから迷う。」

 

 「それでも前へ進める奴が、本当に人を守れる。」

 

 レミリアは何も答えなかった。

 

 ただ夜空を見上げる。

 

 星が瞬いている。

 

 幻想郷でも見た星。

 

 紅魔館の窓から、咲夜やパチュリーと眺めた夜空。

 

 「あの人たちが見ている空も……同じなのかしら。」

 

 その呟きは風に乗って消えた。

 

 クサリは何も聞かなかった。

 

 聞かないことも、優しさだと知っていたから。

 

 翌朝。

 

 レミリアは新しい一歩を踏み出す。

 

 区域議員として。

 

 そして、もう一度誰かを守るために。




レミリアとフランの家ができ、フランがベッドで爆睡中、レミリアは眠れず、責任の恐怖・守れなかった時のトラウマが彼女の精神を蝕んでいる時、クサリが助言を伝えてレミリアはやっと眠ることができた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。