吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

7 / 14
屋敷で睡眠を取った、レミリアはこれから始まる開拓の準備をクサリと共に行った。
その隣にはフランがレミリアを応援する眼差しで見ている。


吸血姉妹の終末旅 7話:新たな居場所、新たな責任

 

 クランツ街を一通り見て回った翌日。

 

 朝日が街を照らし始める頃、レミリアは一人、役所の屋上から街並みを見下ろしていた。

 

 静かな朝だった。

 

 煙突からは薄く煙が立ち昇り、農地では朝早くから働く人々の姿がある。

 

 子どもたちは笑いながら走り回り、大人たちは互いに挨拶を交わしている。

 

「……平和、ね」

 

 レミリアは小さく呟いた。

 

 幻想郷では、もう二度と見ることができなくなった光景だった。

 

 だからこそ、その穏やかさが眩しかった。

 

「お姉様!」

 

 背後から元気な声が聞こえる。

 

 振り返ると、フランドールが小走りで駆け寄ってきた。

 

「もう朝ご飯できるって!」

 

「そう。ありがとう、フラン」

 

 レミリアは優しく微笑み、妹の頭を撫でた。

 

「えへへ……」

 

 フランは少し照れくさそうに笑う。

 

 その笑顔を見るだけで、レミリアの心は少しだけ軽くなった。

 

 ──この子だけは、守らなければ。

 

 それだけは、何があっても変わらない。

 

 朝食を終えると、クサリが書類を抱えて部屋へ入ってきた。

 

「レミリア、少し時間はあるか?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 クサリは机に何枚もの地図を広げる。

 

「昨日話した北西区域の件だ」

 

 そこには、まだほとんど開拓されていない土地が描かれていた。

 

「ここを任せたい」

 

 レミリアは静かに地図を見つめる。

 

 森。

 

 川。

 

 小さな丘。

 

 まだ誰も住んでいない場所。

 

「住民は?」

 

「今はいない。これから移住者が来る予定だ」

 

「つまり……ゼロから街を作るのね」

 

「ああ」

 

 クサリは真剣な表情で頷いた。

 

「責任は重い。だから無理なら断っても構わない」

 

 その言葉に、レミリアは少しだけ目を閉じる。

 

 ──また、誰かを守る。

 

 その言葉だけで胸が締め付けられる。

 

 紅魔館。

 

 咲夜。

 

 美鈴。

 

 パチュリー。

 

 あの日の光景が脳裏をよぎる。

 

 拳を握る。

 

 少しだけ震えていた。

 

「お姉様……」

 

 フランが心配そうに袖を掴んだ。

 

 レミリアはゆっくりと妹を見る。

 

 不安そうな赤い瞳。

 

 その瞳を見ていると、不思議と心が落ち着いた。

 

「大丈夫よ」

 

 優しく笑う。

 

「今度は、一人じゃないもの」

 

 フランも、少し安心したように笑った。

 

「私もいるから!」

 

「ええ」

 

 その一言だけで十分だった。

 

 クサリも穏やかに微笑む。

 

「……なら安心だ」

 

「条件が一つあるわ」

 

 レミリアが真面目な表情になる。

 

「住民を守るためなら、私は遠慮しない」

 

「もちろんだ」

 

「必要なら武器も訓練もする」

 

「それも構わない」

 

「でも、力だけに頼る街にはしたくない」

 

 その言葉にクサリは少し驚く。

 

「どういう意味だ?」

 

「人は恐怖だけじゃついてこない」

 

 レミリアは静かに続ける。

 

「安心できる場所だから、人は帰ってくる」

 

 幻想郷にはもう帰れない。

 

 だからこそ。

 

 誰かにとっての帰る場所を作りたい。

 

 そんな想いが、自然と口をついて出ていた。

 

 クサリは数秒黙った後、大きく笑う。

 

「ははっ!」

 

「?」

 

「いや、やっぱり頼んで正解だった」

 

 レミリアは首を傾げる。

 

「普通は武器や兵士の話しかしない」

 

「でも君は最初に『安心』を考えた」

 

「そういう街なら、きっと人も集まる」

 

 レミリアは少し照れくさそうに視線を逸らした。

 

「……褒めても何も出ないわよ」

 

「いや、十分だ」

 

 クサリは立ち上がる。

 

「今日から正式に、北西区域担当区域議員に任命する」

 

 そう言って、一枚の認可証を差し出した。

 

 レミリアはそれを受け取り、小さく息を吐く。

 

「責任重大ね」

 

「でも、お姉様なら大丈夫!」

 

 フランは満面の笑みで言う。

 

「困ったら私も手伝うから!」

 

「ありがとう、フラン」

 

 レミリアは妹を抱き寄せた。

 

 その腕は優しかった。

 

 失いたくないものを、確かめるように。

 

 窓の外では、新しい一日が始まっていた。

 

 誰も住んでいない北西区域。

 

 だが、もうすぐそこにも人が集まり、新しい暮らしが始まる。

 

 それは幻想郷を失った吸血鬼姉妹が、初めて手にする「未来」だった。

 

 しかし、この穏やかな日々の裏では、誰も知らない脅威が静かに動き始めていた。

 

 街の外れ。

 

 深い森の中。

 

 朽ち果てた研究施設の地下で、一つの機械が赤い光を灯す。

 

 そして、モニターには無機質な文字が浮かび上がる。

 

     《Zウイルス変異種 反応確認》

 

 誰も、その警告を見る者はいなかった。

 

 新たな戦いの幕開けは、すぐそこまで迫っていた。




話の裏に潜む、恐ろしい事がこれから起ころうとしていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。