吸血姉妹は終末を迎えた世界で生きる   作:ゆっくり那由多豊苑

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レミリア達は、住民の挨拶に赴いたが、フランが目を離した隙に、迷子になってしまった。


吸血姉妹の終末旅 9話:迷子のお姉様

 

 朝のクランツ街は、今日も活気に満ちていた。

 

 市場には新鮮な野菜が並び、子どもたちは元気よく駆け回る。

 

「今日は住民の皆さんに挨拶をして回りましょうか」

 

 レミリアがそう言うと、フランは元気よく頷いた。

 

「うん!」

 

 二人は並んで街を歩き始める。

 

 道中では、

 

「レミリアさん、おはようございます!」

 

「区域議員さん、この前はありがとうございました!」

 

 と、住民たちが次々と声を掛けてきた。

 

 レミリアは少し照れながらも、一人ひとりに丁寧に挨拶を返していく。

 

「この街の人たち、本当に優しいわね」

 

「うん! みんな好き!」

 

 フランは嬉しそうに笑った。

 

 そんな時だった。

 

「あっ!」

 

 フランの目に、小さな屋台が映る。

 

「お姉様! あっち見て!」

 

「え?」

 

 レミリアが振り向いた、その一瞬。

 

 フランは可愛いぬいぐるみを見つけて屋台へ駆け出してしまう。

 

「わぁ……可愛い!」

 

 夢中になってぬいぐるみを眺めるフラン。

 

 一方その頃。

 

「……あら?」

 

 レミリアは辺りを見回した。

 

「フラン?」

 

 隣にいるはずの妹がいない。

 

「フラン?」

 

 少しだけ早足になる。

 

「……フラン?」

 

 段々と声が小さくなる。

 

「えっと……」

 

 今度は自分がどこを歩いてきたのか分からなくなった。

 

 角を一本間違えたらしい。

 

「…………」

 

 レミリアは真剣な顔で考える。

 

「落ち着きましょう」

 

 一度深呼吸する。

 

「まずは来た道を戻れば……」

 

 振り返る。

 

「……どっちから来たのかしら」

 

 完全に迷っていた。

 

 本人だけは、まだ迷子だと認めていない。

 

「大丈夫よ、私は冷静だもの」

 

 そう言いながら右へ曲がる。

 

 十分後。

 

「……さっきもこの噴水、見たような……」

 

 同じ場所へ戻ってきていた。

 

 そこへ通り掛かったおばあさんが優しく声を掛ける。

 

「どうしたんだい?」

 

「いえ、大丈夫よ」

 

 レミリアは平然と答える。

 

「少し街を確認しているだけだから」

 

「そうかい?」

 

 おばあさんは微笑みながら去っていった。

 

 レミリアは小さく呟く。

 

「……多分、迷ってないわ」

 

 その頃。

 

「お姉様?」

 

 屋台から戻ったフランは、辺りを見回していた。

 

「お姉様ー?」

 

 姿が見えない。

 

「……え?」

 

 一気に不安になる。

 

「お姉様!」

 

 今度は本気で探し始めた。

 

 市場中を走り回る。

 

「お姉様!」

 

「見なかった?」

 

 住民たちも事情を聞き、一緒に探してくれる。

 

 そこへクサリが現れた。

 

「どうした?」

 

「お姉様がいないの!」

 

「……またか」

 

 クサリは額に手を当てた。

 

「また?」

 

「方向音痴なんだ」

 

「えぇぇ!?」

 

 フランは思わず大声を上げた。

 

「お姉様が!?」

 

「本人は絶対認めないがな」

 

 クサリは苦笑する。

 

 さらに十分後。

 

「……あら?」

 

 レミリアは噴水の前で腕を組んでいた。

 

「この街、案外広いわね」

 

「お姉様──ー!」

 

 フランが全力で抱きついた。

 

「きゃっ!」

 

 レミリアは驚いて尻もちをつく。

 

「よ、良かったぁ……」

 

 フランの目には涙が浮かんでいた。

 

「心配したんだから!」

 

「え……?」

 

 レミリアはきょとんとする。

 

「私は迷ってなんか」

 

「迷ってたよ!」

 

 フランが即座にツッコむ。

 

 クサリも呆れ顔で近付いてくる。

 

「完全に迷子だったぞ」

 

「違うわ」

 

「噴水を四周してた」

 

「…………」

 

 レミリアは黙る。

 

「しかも同じおばあさんに三回道を聞かれてた」

 

「…………」

 

「お姉様」

 

 フランは頬を膨らませる。

 

「今度から手を離しちゃ駄目!」

 

「……はい」

 

 レミリアは珍しく素直に返事をした。

 

「約束?」

 

「約束よ」

 

 そう言って、小指を差し出す。

 

 フランも笑顔で指を絡めた。

 

「えへへ」

 

 その後。

 

 街では新しい噂が流れ始めた。

 

「区域議員さんって強いのに方向音痴なんだって」

 

「可愛いよね」

 

「放っておくと迷子になるらしい」

 

 その噂はあっという間に街中へ広がっていった。

 

「……何だか皆の視線がおかしいわ」

 

 首を傾げるレミリア。

 

 隣ではフランが笑いをこらえていた。

 

「ふふっ……お姉様、人気者だね」

 

「……そういうことにしておくわ」

 

 そう答えるレミリアの耳は、少しだけ赤く染まっていた。




迷子になってしまった、レミリアは依然として方向音痴と言う事を認めないが、列記とした方向音痴である。
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