『双氷の加護 ―世界で一番可愛い弟が、最強の精霊と姉に甘やかされる理由―』   作:can'tPayPay

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第4話:太陽姫の横恋慕と、姉様の零度爆発

 

アナスタシアとの会食から数日。ロズワール邸の空気は、エミリアの「アルヴ絶対に離さないバリア」によって、常に少しだけひんやりとした緊張感に包まれていた。

「ねえ、アルヴ。今日はね、お外の風が少し強いみたい。だから、お庭に出るのも控えた方がいいと思うの。もし飛んできた枯葉でアルヴの頬が切れたりしたら、お姉ちゃん、悲しくてその場所を冬にしちゃうかもしれないわ」

「姉さん、いくらなんでもそれは心配しすぎだよ。僕はもう自分の足で歩けるし、風で切れるほど柔肌じゃないから」

エミリアはアルヴの服の襟元を何度も整えながら、アメジスト色の瞳に潤いを湛えて見つめてくる。

「だめよ。アルヴは私が守らなきゃいけない、すごーく大切な宝物なんだから。……ねえ、パックもそう思うでしょ?」

「もちろん。リアの言う通りだね。アルヴ、君は自分が思っている以上に『危うい』んだ。あのアナスタシアみたいな狐もそうだけど、世の中には君のような宝石を奪おうとするハイエナがいっぱいいるからね」

パックはアルヴの頭の上で器用に毛繕いをしながら、同意する。この屋敷において、アルヴの自立を支持する者は一人もいなかった。

そんな時だった。

屋敷の静寂を切り裂くように、門前で派手な爆発音と、傲岸不遜な女の声が響き渡った。

「――喧しい。妾(わらわ)が通る道に塵が舞うことすら許さぬと言ったはずだ。門番などという無粋な真似、早々に辞めるが良い」

赤いドレスを翻し、大輪の向日葵のような扇子を広げて現れたのは、「太陽姫」プリシラ・バリェール。そしてその傍らには、兜で顔を隠した不気味な騎士、アルが控えていた。

「プリシラさん……!? 何の用かしら。ここはロズワール辺境伯の屋敷よ。勝手に入ってくるなんて、失礼にも程があるわ!」

エミリアがアルヴを自分の背後に隠し、一歩前に出る。その瞬間、エミリアの足元から霜が広がり、庭の草花が白く凍りついた。

「ふん、相変わらず不細工な魔力の垂れ流しよ。妾がここへ来た理由はただ一つ。――そこの、銀髪の小僧だ」

プリシラの赤い瞳が、エミリアの肩越しにアルヴを射抜く。

「……僕?」

「左様。先日の王都での騒ぎ、耳に入ったぞ。アナスタシアの小娘が手を出そうとした逸材。妾の審美眼に適うかどうか確かめに来てやったのだ。……ほう、近くで見れば、その辺の凡百な男どもとは一線を画す造形ではないか」

プリシラは優雅な足取りで近づいてくると、エミリアの放つ氷の威圧を鼻で笑い、扇子でアルヴの顎をくいっと持ち上げた。

「良かろう。合格だ。その銀髪、その瞳、そして何よりその『生真面目そうな魂』。妾のコレクションに加えてやろう。今日から貴様は、バリェール領の庭園で妾を慰める小鳥となるが良い」

「な……っ!? ふざけないで!」

エミリアの怒りが、ついに臨界点を超えた。

「アルヴは私の弟よ! 私の家族なの! あなたみたいな、人の気持ちを考えない人に、アルヴを渡すわけがないでしょう!」

ドォォォォォン!! と、凄まじい氷の衝撃波が周囲を襲った。

庭の噴水は一瞬で巨大な氷柱と化し、空気中の水分が結晶となってダイヤモンドダストのように舞い踊る。

「……あら、やるではないか。だが、世界は妾にとって都合よくできている。貴様がどれだけ喚こうが、妾が望めば――」

「プリシラ様、そこまでにしておいた方がいいよ」

割って入ったのは、意外にもアルヴだった。

彼はエミリアの震える手をそっと握り、その手の冷たさを自分の体温で溶かすように包み込む。

「僕は、姉さんの騎士になるって決めたんだ。誰のコレクションにもならないし、どこにも行かない。……プリシラ様、せっかくの勧誘だけど、僕は姉さんの隣以外に居場所はいらないんです」

アルヴの凛とした言葉に、プリシラは一瞬、意外そうに目を見開いた。

そして、フッと不敵な笑みを浮かべる。

「……面白い。妾を拒絶するとはな。だが、小僧。貴様のその眼差し、ますます気に入ったぞ。手に入らぬものほど、壊し甲斐があるというもの」

「させないわ。……アルヴに指一本でも触れたら、今度こそ容赦しないんだから」

エミリアの瞳には、かつてないほどの鋭い殺気が宿っていた。

それは、純粋な愛情が極限まで煮詰まった結果生まれた、狂気的なまでの守護の意志。

「ふん、興が削げたわ。アル、行くぞ。……小僧、いずれそのハーフエルフから貴様を奪い去ってやる。それまで、せいぜいその狭い温室で愛でられているが良い」

嵐のように去っていったプリシラ。

静まり返った庭園で、エミリアは力なくその場に崩れ落ち、アルヴを力いっぱい抱きしめた。

「……アルヴ。アルヴ、アルヴ、アルヴ……!」

「姉さん、もう大丈夫だよ。僕はここにいる」

「嫌よ……怖かった。みんながあなたを奪おうとする。あなたが私だけのものじゃないみたいで、胸が苦しくて……。ねえ、アルヴ。もう、外に出るなんて言わないで。ずっと、私だけの部屋にいて……。私が、あなたを食べてしまいたいくらい、愛してあげるから……」

エミリアの腕が、ギリギリとアルヴの背中を締め付ける。

その力強さは、もはや「姉」のそれではなく、獲物を絶対に離さない「捕食者」のようでもあった。

パックが空中でため息をつきながらも、どこか満足げに目を細める。

「やっぱり、アルヴにはこれくらいの『重荷』が似合ってるね」

独占欲が零度を超えて、熱い炎のようにアルヴを焼き尽くそうとしていた。

アルヴは、姉様の激しい鼓動を背中で感じながら、自分の運命がもはや彼女の銀色の檻から出られないことを悟るのだった。

 

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