『双氷の加護 ―世界で一番可愛い弟が、最強の精霊と姉に甘やかされる理由―』   作:can'tPayPay

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第5話:甘い監禁の拒絶と、お姉ちゃんの歩み寄り

 

プリシラが去った後のロズワール邸。エミリアの自室は、彼女の魔力によって外界から遮断された「聖域」と化していた。

「見て、アルヴ。このお部屋なら、あのアナスタシアさんも、プリシラさんも入ってこれないわ。お食事もレムに運ばせるから、あなたはここで、私と二人だけで過ごせばいいのよ……」

エミリアの瞳は、どこか焦点が合っていないような、陶酔した輝きを帯びていた。彼女にとって、これは「最悪の事態から弟を守るための正解」なのだ。アルヴをベッドに座らせ、背後から首筋に顔を埋めるエミリアの腕には、絶対的な拒絶の力がこもっていた。

しかし、アルヴはその腕を、力強く振り払った。

「――いい加減にしてよ、姉さん!」

「……っ、アルヴ?」

驚きに目を見開くエミリア。アルヴは立ち上がり、扉の方へと歩を向けた。

「こんなこと、守られてるなんて思えない。ただ閉じ込められてるだけだ。姉さんが僕のことを信じてくれないなら……こんな風に僕を縛り付けるのが姉さんの『愛』だって言うなら……」

アルヴは一度、エミリアを真っ直ぐに見据えて言い放った。

「僕は、この屋敷を出ていく。一人で生きていくよ」

その瞬間、部屋の温度が氷点下まで急降下した。パックが慌てて結晶から飛び出し、「アルヴ、それは言い過ぎだよ!」と叫ぶが、エミリアのショックはそれどころではなかった。

「……出ていく? 私を置いて……一人で? 嫌……嫌よ、そんなの! アルヴ、お願い、冗談だと言って!」

エミリアは泣き出しそうな顔でアルヴの裾を掴もうとするが、アルヴの視線は冷ややかなままだった。彼は本気だった。自由を奪われるくらいなら、最愛の姉と離れる覚悟すら決めていた。

エミリアは、アルヴの瞳の中に宿る強い意志――自分を突き放すほどの「自立心」を見て、ようやく己の暴走に気づき、ガタガタと震えながら手を引いた。

「……わかったわ。ごめんなさい、アルヴ。私、あなたを失うのが怖くて、我慢できなかったの。監禁なんて、もう言わない。だから……お願い、出ていくなんて言わないで……」

氷壁が音を立てて崩れ、魔法が解ける。エミリアは床に膝をつき、絞り出すような声で謝罪を繰り返した。アルヴも胸が痛んだが、ここで引き下がれば元の木阿弥だ。彼は無言で部屋を後にした。

その後、中庭のベンチで頭を冷やしていたアルヴのもとに、スバルがやってきた。

「よお、アルヴ。……派手にやったな。エミリアたん、今、部屋でパック相手に死ぬほど落ち込んでるぞ。世界が終わったみたいな顔してよ」

「……スバル。僕、言い過ぎたかな」

「いや、お前の言い分は正しい。自立したい男にとって、あの過保護は毒だ。けどよ……」

スバルは隣に座り、空を仰いだ。

「エミリアたんにとって、お前はただの弟じゃない。一度失いかけて、ようやく取り戻した『希望』そのものなんだよ。だから、あいつには加減がわからねえんだ。……でもな、アルヴ。過度な干渉ってのは、結局相手を苦しめるだけなんだって、あいつに教えてやれるのもお前しかいない」

「教えてやれる……?」

「ああ。嫌なことは嫌だと言え。でも、その後にちゃんと『好きだ』とも言ってやれ。あいつが欲しいのは、お前を縛る鎖じゃなくて、お前が隣にいてくれるっていう確信なんだからよ」

スバルのアドバイスは、少しだけアルヴの心を軽くした。

その日の夜。

アルヴの部屋のドアが、遠慮がちにノックされた。

「……アルヴ? 入ってもいいかしら」

入ってきたエミリアは、先ほどの独占欲の塊のような姿ではなく、酷く弱々しく、けれど精一杯「お姉ちゃん」であろうとする顔をしていた。

「あのね、スバルに叱られちゃった。私、アルヴを苦しめてたって。……私、あなたのことが大好きすぎて、あなたの気持ちを置き去りにしてたわ」

エミリアは少し離れた場所に座り、寂しげに微笑んだ。

「これからは、もう少しだけ、あなたの自由を尊重するわ。……だから、時々でいいから、私に甘えてくれる?」

アルヴは少し照れくさそうに、けれど優しく頷いた。

「……うん。でも、姉さんも僕を信じて。僕はどこにも行かないから」

エミリアはその言葉を聞いた瞬間、堪えていた涙をこぼし、再びアルヴを抱きしめた。今度の抱擁は、監禁するための力ではなく、ただ温もりを確かめ合うための、柔らかな愛に満ちていた。

 

 




次回予告
反省した(?)エミリアは、干渉を控える代わりに「ご褒美」でアルヴを釣る作戦に!?
「アルヴが頑張ったら、お膝で耳掃除してあげるわ!」
一方、そんな二人の様子を遠くから見つめる、不穏な騎士ユリウスの影……。
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