『双氷の加護 ―世界で一番可愛い弟が、最強の精霊と姉に甘やかされる理由―』 作:can'tPayPay
エミリアとの衝突を経て、屋敷には少しだけ新しい距離感が生まれていた。
「過度な干渉はダメ」と自分に言い聞かせ、必死に指先を震わせながらアルヴとの距離を保とうとするエミリア。そんな彼女の隣で、相変わらずふわふわと浮いているパックが、少し寂しそうにアルヴを見つめていた。
「リアだけじゃなくて、ボクも最近アルヴに構ってもらえてない気がするなぁ。やっぱり、男の子は大きくなると精霊のお父さんより、スバルみたいな無頼漢の方が楽しくなっちゃうのかな」
庭で木剣を振るうアルヴの背中を見ながら、パックが冗談めかしてため息をつく。
すると、稽古を終えたアルヴが汗を拭いながら、ふと足を止めてパックを振り返った。
「そんなことないよ。……ねえ、お父さん」
「…………え?」
パックの動きがピタリと止まった。今、この小さな耳はなんと受け取っただろうか。
アルヴは少し照れくさそうに、けれど真っ直ぐにパックを見つめて続けた。
「いつも僕のことを気にかけてくれて、ありがとう。姉さんの暴走を止めてくれるのも、結局はパック……お父さんだもんね。これからも、僕を導いてほしいんだ」
その瞬間、パックから爆発的な魔力が溢れ出した。
「聞いた!? 今、聞いたかいリア! スバル! レム! アルヴがボクのことを『お父さん』って! ああ、なんて素敵な響きなんだ! 魂の奥底まで震えちゃうよ!!」
パックのテンションは一気に最高潮(クライマックス)へ。周囲の空気が喜びでキラキラと輝き、季節外れの美しい花々が庭中に咲き乱れる。
「よし、決めたぞ! お父さん、頑張っちゃうよ! アルヴ、君にボクの秘蔵の魔力運用法を全部教えちゃうし、今夜のおやつはロズワールに最高級のやつを用意させる! いや、いっそボクが王都まで飛んで、一番人気のケーキをさらってこようか!?」
「あ、いや、そこまでしなくていいんだけど……」
「だめだよ! お父さんと呼ばれたからには、期待に応えるのが親の義務だ! さあアルヴ、肩にお乗り。最高の空中散歩に出かけようじゃないか!」
パックのあまりの親バカ全開ぶりに、屋敷の窓から見ていたエミリアが「あ、ずるい! パックだけお父さんなんて! 私も今すぐ『お姉ちゃん』って百回くらい呼んでもらうんだから!」と、猛烈な勢いで階段を駆け下りてくる音が響いた。
一方、そんな賑やかな光景を門扉の外から静かに見つめる、一人の美丈夫がいた。
「最優」の騎士、ユリウス・ユークリウスである。
「……微精霊たちが騒がしいと思えば。エミリア様の弟君か。なるほど、これほどまでに精霊に愛される資質、見過ごすわけにはいかないな」
ユリウスの瞳に、騎士としての、そして精霊使いとしての強い関心が宿る。
パックの狂喜乱舞とエミリアの猛追。そこにユリウスという新たな火種が加わり、アルヴの平穏な(?)日常は、さらなる熱を帯びていくのだった。
次回予告
ユリウスからの突然の「手合わせ」の申し込み!
「アルヴに怪我をさせたら、お父さん(パック)とお姉ちゃん(エミリア)が黙っていないわよ!」
過保護な身内が見守る中、アルヴの真の力が試される!