『双氷の加護 ―世界で一番可愛い弟が、最強の精霊と姉に甘やかされる理由―』 作:can'tPayPay
ユリウスとの手合わせが終わり、夕暮れ時。練習場には、心地よい疲労感と、それ以上に重苦しい「沈黙」が漂っていました。
ユリウスはアルヴの筋の良さを称え、再戦を約束して帰路につきましたが、問題は練習場の隅っこです。そこには、先ほどアルヴに「邪魔」と言われたショックから立ち直れない、銀髪の少女と灰色の小猫が、いまだに背中を丸めて固まっていました。
「……姉さん。パック……パパ。もう練習終わったよ?」
アルヴが恐る恐る声をかけると、二人はビクッと肩を揺らし、スローモーションのようにこちらを振り返りました。その瞳は、捨てられた子犬のように潤んでいます。
「アルヴ……。もう、私のこと、邪魔じゃない……?」
「パパのこと、ゴミ箱に捨てたりしない……?」
「……。さっきは言い過ぎたよ。真剣だったから、つい。ごめんね」
アルヴが苦笑いして歩み寄り、エミリアの頭にそっと手を置きました。その瞬間、エミリアの表情がパァァァと明るくなり、彼女は迷わずアルヴの腰にしがみつきました。
「~~っ! 許すわ! アルヴが謝ってくれるなら、私、なんでも許しちゃう! でもね、あんなにハッキリ『邪魔』なんて言われたの、生まれて初めてで、すごーく、すごーーく悲しかったんだから!」
「ごめんってば。でも、姉さんが心配してくれるのは嬉しいんだよ」
「本当!? なら、お詫びに今日は寝るまで、ずっと私と手を繋いでいてね。一秒も離しちゃダメよ?」
エミリアの復活は一瞬でした。それどころか、失いかけた絆を取り戻そうとする反動で、独占欲が以前の数倍に跳ね上がっています。
「リア、ずるいよ! アルヴ、パパにも頭なでなでして! パパ、心の傷が深すぎて、魔力が枯渇しそうなんだ!」
パックもアルヴの肩に飛び乗り、顔中にスリスリと毛並みを押し付けてきます。
「……はいはい。パパもごめんね。いつも守ってくれてありがとう」
「うわあああん、いい子だねぇアルヴ! パパ、君のためならやっぱり世界を凍らせてもいいと思えてきたよ!」
「それはやめてよ」
そんな三人(二名と一匹)の様子を、食堂の入り口で見守っていたのは、夕食の準備を終えたレムと、呆れ果てた様子のスバルでした。
「……エミリア様もパック様も、アルヴ様に関しては本当にチョロいというか、なんというか。レムも、あんな風に素直に甘えられたら、理性が保てる自信がありません」
「お前も大概だぞ、レム。……しかし、アルヴ。お前も大変だな。一回の『邪魔』を取り返すのに、今夜は相当な奉仕(甘やかし)を要求されそうだぜ」
スバルの予言通り、その日の夕食は地獄……いえ、過保護の極致でした。
「アルヴ、ほら。今日は特別に私が食べさせてあげるわ。はい、あーん。……あ、こぼしちゃった? 拭いてあげるからじっとしててね」
「アルヴ、食後のデザートはパパが最高に冷やしたシャーベットだよ。パパがスプーンで運んであげるからね」
「……。姉さん、パパ。自分で食べられるって言ってるのに……」
「「だーめ!!」」
二人の声が完璧に重なります。
「自立」という言葉は、今日のロズワール邸の辞書からは完全に抹消されてしまったようです。
さらに、エミリアはアルヴの耳元で、とろけるような甘い声で囁きました。
「ねえ、アルヴ。明日は王都から新しいお洋服が届くの。全部、私が選んだ『私好みのアルヴ』になれる服よ。……楽しみにしていてね?」
エミリアの瞳の奥に宿る、逃がさないという執着の光。
アルヴは思いました。ユリウスと戦うよりも、この二人からの「お詫びという名の溺愛」を受け流す方が、よっぽど体力を使うのだと。
### 次回予告
翌日、届いた服はなぜか「フリル多めの貴族風」!?
「これを着て、私と一緒に街を歩きましょう!」
着せ替え人形状態のアルヴの前に、不敵な笑みを浮かべたアナスタシアが再び現れて……。