頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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十二話 柿

 

 ヒイナは今、花酔(ハナヨイ)の里という宿場町に立ち寄っていた。目的地である鹿角領の中枢・領都鹿目(カナメ)はまだそれなりに距離があるらしい。

 

「お、そこ行く変な服のお嬢ちゃん! 柿を一つどうだい?」

「変じゃないですけどね。かわいいですけど……お一つくださいな☆」

 

 花酔は栄えた町だった。もちろん、白鹿には及ばないのだが……。

 けれど、宿場らしく様々な人が行き交うし、見かける人の多様さはこちらの方が上だった。

 

 ヒイナは口で一つを要求しておきながら、実際は三つ手に取った。

 店主に変な奴を見る目で見られる。

 サヨからお給金だと言って渡された銭袋から、三つ分の代金をチャラン。これ、本当にもらって良かったのかな、とヒイナはとても後ろめたい気持ちだった。けれど、ほんのり胸の内側があたたかい不思議。

 

 食べ歩きなんかするのははしたないので、どこか座れる場所を探して腰を落ち着ける。

 通りから少し外れた場所にある、一本松だ。寄りかかって包みを開く。

 

「んへへ……三つも買っちゃった。贅沢」

 

 柿は丸々と太り、見るからに瑞々しい。

 どんな味なのかと、期待と共にヒイナがかぶりつこうとした瞬間、掌から柿が消失していた。

 そして気づかないヒイナは思いっきり指を噛んでしまった。

 

「〜〜っ!!」

「うふふ。相変わらずトロ臭いのねぇ、ヒイナちゃん♡」

「ぅう。ヒイナちゃんが何したって言うんですかぁ、シュラさん……」

「別に何も♡ 偶然見かけたから、イジメたくなっただけ♡」

 

 シュラはヒイナから奪った柿をひょいと上に投げると、自分も飛び上がった。

 そして松の枝の一本に腰掛けて、落ちてきた柿をキャッチ。優雅にかじりついた。

 

「ひどいよぉ、いじめっ子だぁ。……あれ? 柿が一つしかない!」

「二つもらったよ、ヒイナちゃん♡ 柿って好物なの」

「えぇ……。まぁいいですよ。ヒイナちゃんは器がとっても大きいので☆

 おやつを取られても怒らないのです☆彡」

「あっ、その服ダサいね」

「ダサくないです!!」

 

 怒った怒ったぁと手を叩いて喜ぶシュラに、ヒイナはため息をついた。ヒイナちゃんを振り回すなんて、とんでもない人だよ、と普段仲間たちを振り回している当人が他人事みたいに思う。

 

「ところで、シュラさんも鹿目に行くんですか?」

「ん? どうだろうね。私は別にどこ行こうとかって旅してないからなぁ」

「風任せってやつです?」

「そうだねぇ。でもねぇ、最近この辺りに出没してるとかって野武士は気になってるかな」

 

 ニコニコ顔のシュラの声が、軽く甘いものから冷たく、怖気が走るものへと変わる。

 

「なんかどこぞの領主の敗残兵らしいね。鹿角のオジョーサマに見つかんないように、コソコソしょうもないことやってるみたい」

「それで、困ってる人とかいるんです? 人を襲ってるとか……」

「そりゃみんな困ってるし、人どころか村だって襲ってるでしょうよ。食つめ者のやることって、だいたい変わんないだろうからねぇ」

 

 聞かなきゃよかったと後悔した。ヒイナの中で激しい葛藤が起こったからだ。

 人に迷惑をかけているというのが結晶人であったなら問答無用で潰しに行けもしたが、流石に人間相手となると気が引ける。殺し合いになったら、確実にヒイナは腰が引けてしまうだろう。

 けれど、困っている人がいる。荒らされている営みがある。

 みんなの希望を自称するヒイナにとってみれば、そこを見過ごすのは裏切りも同然である。自分の理想も、護りたいみんなのことも。

 

 だからこそ、ヒイナはそうですか……と小さく呟くしかできなかった。

 

「あら珍しい。ポンポン痛い痛いでちゅか?」

「……もうっ。からかったら嫌ですよ☆」

「まぁ、気に病むことないんじゃない? 所詮他人だもの。死のうが生きようが、ヒイナちゃんの人生には何の影響もないじゃない」

 

 ヒイナを想っての言葉でないのは、声の温度でわかった。シンプルに、心底どうでもよさそうだったからだ。

 でも、それでもヒイナはぺこりと頭を下げた。

 

「ありがとう、シュラさん」

「ん? なんかお礼言われるようなこと、したかな?」

「うん。ヒイナちゃんのこと、叱ってくれて。

 もっともっとたくさん、たくさん考えてみますね☆」

 

 決意表明するヒイナをよそに、わずかな戸惑いを含んだ声がポツリと落ちた。

 

「──本当に損な子」

 

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