頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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十三話 大地と生きる都

 

「ほぉ〜……」

 

 見上げた先に天守閣。

 城下の関所には、丸に鹿の紋が描かれたのぼりがたなびいていた。

 

「なんだ嬢ちゃん、お上りさんかい?」

「はいっ、そうです☆ 人が全然いないとっても危険な秘境からやってきた可愛いお上りさんですよ☆」

「いや長い長い! しかも無駄に自己肯定感高いな!」

 

 ヒイナは今、鹿目城下の関所で、危険物荷物チェックを受けていた。元は形式くらいのものだったらしいのだが、どうも最近物騒だからと厳しくしているらしい。シュラの言っていた野武士の件かなと当たりをつけてみる。

 ちなみにヒイナは危険物たる巨大剣も、鎧たる煌子纏鎧も簡単に生成・展開できてしまうので、ここは正直に申告した。そして鼻で笑われた。ひどい。

 

 入っていいぞとのお許しが出て、いざ、鹿目。

 

 そして第一印象。

 ヒイナはあれ? と思った。

 まず、露店がなかった。いや、あるにはあるが、少ない。通りは狭く、民家が多い。

 そして何より、田畑の占める割合がこの城下はあまりに多かった。

 若い男女が仲良さそうにクワで畑を耕し、年嵩の男女が野菜を天日干しにしているのが見える。

 

 鹿角領の首都だっていうから、どんなに栄えたところかと思ったが、白鹿の方が活気に満ちていた。けれど鹿目は生気に満ちている。

 人々に宿る幸福の気配が、とても大きいように感じた。

 

 ───

 

 しばらく進むと、内郭の門にたどり着く。

 無警戒に近づくヒイナを、門番が怪訝な目で見た。

 

「どうもこんにちは☆ 門番さん、お仕事お疲れ様ですっ。鎧カッコいいですね☆」

「……バカにしているのか?」

「あっ、いえいえいえ、全然全然! 違いますよ! ごめんなさいっ、ヒイナちゃんよくズレてるって言われちゃうんですよ!」

「……わかった。いや、本当にわかったから、あんまり大声で悲しいことを叫ばんでくれ」

「ほっ……」

 

 ヒイナは安堵に胸をなで下ろした。

 気を取り直してもう一度、と意気込む。

 

「物凄く失礼なことお願いしちゃうんですけどぉ、どうにか鹿角さまとお会いできませんか☆」

「帰れ」

「あの、本当に大事なことで、すごく大事なことで、どうしてもお会いしないといけないんです!」

 

 そこで門番の眉が吊り上がった。

 身を乗り出して、どんなことだと促した。

 

「ヒイナちゃんの知ってる鹿角さまと、本当の鹿角さまが一緒なのか、確かめたいんです!」

「聞いて損をした。帰れ、もう付き合いきれん」

 

 ヒイナ自身、めちゃくちゃを言っている自覚はあった。支離滅裂な物言いをしている自覚はあった。

 本当に本当に、この世界の鹿角唯姫は、ヒイナが知る裏切り者と同一なのか、それとも同姓同名の別人か。これを確かめないことには、感情の収まりがつきそうになかった。

 もちろん、焦りで余計にしっちゃかめっちゃかになってるのは認める。でも、今のヒイナではこれよりもうまく言語化できそうになかった。

 

 

 ───

 

 

(アタシって、どうしてこうなんだろ)

 

 ヒイナは口がうまくない。

 ふざけておどけている時はイタいことしか言えないし、熱くなると感情優先で伝えたいことの先っちょさえ伝えられない。

 そんな時、ヒイナの意図を上手く汲んで代わりに伝えてくれたのは、いつだってセイラだった。スイもたまにやってくれたが、だいたいはセイラ。

 仕方ないわねって笑って、ヒイナの考えを全部言葉にしてくれる。

 

(帰りたい……。会いたいよ、スイちゃん、セイラちゃん)

 

 うつむいて歩いていると、ヒイナは人にぶつかった。

 

「あっ、ごめんなさいっ」

「ああ、次気ぃ付けてくれりゃええ。そんより、嬢ちゃんも見たか?」

「ん? えっ、何を?」

「徴兵の立て札よ。野武士の奴共がエラい調子に乗っとるとかで、治罰に兵を出すっちゅう話だ。なんでも、一番手柄を挙げたものには、ご領主さま直々に褒美をくださるそうだで」

 

 戦い……手柄……褒美? 誰が、誰に? 領主が、一番手柄に!

 これだ! とヒイナは閃いた。そうと決まれば、早速参陣しなくては!

 

「どこに行ったら雇ってもらえるんです?」

「雇う? ……何も知らんのか、おめぇ。勝手についきゃーええのよ。みんなそうしとる。そんで手柄首持って検めてもらって、測るのよ」

 

 野蛮!

 っと考えて、ふとヒイナの背中に冷たいモノが伝った。首? 首って……?

 ドクンドクンと、鼓動の音が煩いくらいに鳴っている。耳鳴りがして、視界が白んでるような気さえした。

 

「……もしかして、あの、その、」

「どうした?」

「それって、あの、人を……っ」

「殺すで。当たり前じゃろ。戦なんだで」

 

 ヒイナとて、人を殺したことがないわけではない。結晶人の卵にされてしまった人を介錯したことがある。

 けれども、彼が語る人の死は、ヒイナが知るよりもずっと生々しくて、底冷えするようなモノであった。ヒイナは思わず首に手を当てた。

 

 

 ───

 

 

 治罰当日。

 ほぼ農民で構成された、五十ほどの小勢の中にヒイナは居た。あのあと、何度も考えた。自分の欲のために、人を殺していいのかって。

 

 所詮は、他人の人生──。シュラの言葉がリフレインする。ヒイナは頭を振って否定した。

 他人相手だろうがいいわけない。いいわけがない。

 でも、ヒイナはスイやセイラに会いたかった。どうしても会いたかった。でも、人を殺す気もなかった。生きた人を殺すなんて、どうやってもできそうにない。ならどうすればいいか。

 

(全員ぶっ飛ばして、ふん縛って、持って帰ったらいいんだ! ヒイナちゃんってば、超天才☆)

 

 花酔近郊までもう少し。

 どうも街道近くの廃村を根城にしてるって話らしい。数は三十ソコソコ。数はこちらが優勢だと聞いた。

 

「ガッ」

 

 不意に、味方の一人が倒れ伏した。首に矢が刺さっている。そしてソコから命があふれ出して、彼は急速に冷え切っていく。

 

「待ち伏せだぁーっ!」

 

 誰かが叫んだ。

 途端に彼らはパニックになって、姿の見えない敵に囚われて、あげくに同士討ちをはじめてしまった。

 

 ヒイナはショックを受けた。人間同士で殺し合いをしているという現実を直視することになって吐き気を覚えたし、信じられない気持ちにもなった。

 

 ──だが、それらすべてを超越して、一つの意思が飛び出していた。

 

 

 ───止めなくっちゃ。もう報酬だとかそんなの関係ない。だって、アタシはみんなの希望なんだから。

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