頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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二話 美しく腐る街

 タツガシラ自治区・カナメ跡地。

 

 かつて大陸でも屈指の景観都市として栄えたこの地も、いまや見る影はない。

 かつて活気にあふれていた生活のにおいは、無機質なかび臭さにとって代わられて、廃墟のようだ。

 苔むしたコンクリート、砕け散ったガラス片、

 

 

 ──そして、びっしりと結晶が張り付いている。

 

 その結晶は、見た目ばかりは美しかった。浮世離れした芸術品の美しさだった。 

 緑色、青色、ピンク色、紫色、赤色。

 気味が悪いほど鮮やかに、不揃いのいびつな結晶が、淡く鼓動する光を放っている。

 電柱は結晶が葉のように生い茂り、針葉樹のよう。砕けたアスファルトには蛍光の粘つく液体がこびりつく。

 

 結晶、結晶、結晶。

 どこもかしこも結晶だらけ。何もかも結晶に侵されている。幻想的に浸食された退廃。それがこの世界のすべてだった。

 

 

 ─── 

 

 

 そんな静まり返ったこの場所に、今日も甲高い金属音が響いた。

 

 ソレは、鳴き声だった。

 金属と金属とをこすり合わせたようなキリキリとした不快音を放つ黒い影。

 

 ──ソレさえも結晶であった。

 丸みを帯びた結晶の頭でっかちに、つぶらな瞳が二つくっついている。漆黒の身体は細く脆弱で、しかし尾は太く強靭。パッと見た外見はまるでトカゲのよう。

 背はかなり低い。就学前児ほどの背丈。愛嬌ばかりはあるよう見えるのが、最低に趣味が悪い外見。

 

 ──結晶人。

 

 人類は、この愛玩具もどきをそう呼んだ。

 ソレらがひしめいている。

 

 愛玩具めいた結晶の群れが、まるで餌に群がる虫けらのように、ひしめき合っていた。

 

(──ッ)

 

 壊れかけの通信機がノイズ混じりに反応した。

 

 ──次の瞬間、フォトンのモヤが漂う空に、青く輝く星が閃いた。

 一拍遅れて、青白い光の槍が、結晶人を貫く。

 フォトンレーザーである。

 

 結晶人に動揺はない。目の前で仲間がやられたのに、そのことにさえ気が付いていない。

 彼らはとうに自由意志など失っているからだ。生き物というよりかは、装置に近しい生態。

 

 2発、3発、と続けざまのレーザーが、容赦なく結晶人を刈り取っていく。

 事ここに至って、ようやく結晶ぬいぐるみの群れに動きがあった。知的生命体に気がついたのだ。さすがにレーザーを何発も撃てば、出所があるとはわかるらしい。

 

 結晶人は我先にと、獲物の元へと群がりだした。

 

 

 

 

「ヒイナ! スイ! ヤモリが来るわよ!」

 

 ──ヤモリは結晶人の俗称である。トカゲめいた外見を揶揄してそう呼ばれる。

 狙撃銃を携えた少女が檄を飛ばす。

 

「おけおけ! ヒイナちゃんの華麗なバトルを見ててよね☆」

 

 身の丈よりも巨大な機械剣を担ぐ少女がおどけてみせる。

 

「うわぁ、軽ぅ。 ヒイナちゃんはもう少し真面目にやったらどうですかぁ?」

 

 ラージシールドとショートソードを構えた少女が毒を吐く。

 

 

 少女──明星緋那(アケホシヒイナ)は真紅と蒼のオッドアイを不敵に細めると、大剣を担ぎ直す。

 

「モチロンモチロン! ヒイナちゃんはいつだって真面目だよ☆ ──ッ!」

 

 ヒイナは陽気に見せていた表情を消し去ると、強く大地を踏みしめた。

 度を越した膂力から繰り出される踏み込みはアスファルトを砕き潰し、地面を波打たせた。さらにはその先に植林されていた結晶すら余波で吹き飛ばす。ヒイナはきしむ骨を無視して、結晶人の群れへと猛烈な勢いで突撃した。

 白髪を侵食するような桜髪が、風になびく。

 

「天体爆発! ヘッドバッドッ!」

 

 ヒイナにはネーミングセンスがなかった。

 ふざけきった名前の、勢い任せの単なる頭突き。

 けれども彼女のパワーで繰り出されるその威力は、もはや必殺といって過言でない。

 まともに受けた結晶人の頭部は轟音をあげて爆散する。天体爆発の名に恥じない暴力の余波はそれだけで周囲の愛玩結晶たちを吹き飛ばした。

 ヒイナは鼻血を流しながら、やったぜとガッツポーズ。

 

「ヒイナはまた無茶を…っ、スイ! 私たちでフォローするわよ!」

「…言われるまでも」

 

 ヒイナを包囲し、苗床にしようと触手を伸ばしている結晶人をヘッドショット。狙撃手──氷導青螺(ヒョウドウセイラ)の狙撃が冴えわたる。セイラは青みがかった黒の長髪をかき上げて、さらにもう一体狙撃。

 ヒイナに追いついた城渦翠(シロウズスイ)は、彼女を守るようにラージシールドを構えると、小言を言ってやりたい気持ちを抑え込んで盾の祈りをヒイナへとかけた。

 スイの三つ編みと同色の緑の煌きが、ヒイナを包みこむ。

 

「いつも言ってるでしょうに。無茶をするにも、まずは私たちと足並み揃えなさいってぇ」

「ごめんね! ヒイナちゃん、熱くなると周り見えなくなっちゃうの☆」

「…はぁ。まったくぅ」

 

 そしてぶちまけた小言が、全く効いた様子のないヒイナにスイは嘆息した。わかってたけどねと。

 片手で鼻血を拭き取りながら、ヒイナは結晶人を蹴散らしていく。ふざけたネーミングの必殺技をうたいながら、巨大剣を振り回し、時には頭突き、時には踏み潰して。

 スイはまるで自分を顧みないヒイナをさりげなくフォローしつつ、風を纏ったショートソードを結晶人へと突き立て、ラージシールドでバッシュする。

 セイラは冷徹に戦場を俯瞰しながら、頼もしい仲間二人の討ち漏らしを淡々と処理していった。




もう一話行きまする
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