頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで 作:土縁屋
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一週間頑張ったので、これからは一日一話更新になります
今日は一つの話を前編・後編に分けたので、二話更新です
獅子吼を削る策略は、確実に効果を挙げ続けていた。
獅子吼軍は相変わらず馬喰田に大敗を続けていたし、カグラの調略や、単純な戦況の悪化で寝返る者も増えていた。
正直なところ、カグラはここまで獅子吼が衰退するとは思っていなかった。
最初に考えていた策では、ある程度の敗戦を重ねれば、獅子吼領主はきっと前線に出るだろうから、そこをシュラに暗殺させるつもりだったのだ。
色々と暗躍をしたが、兵を持たないカグラは最後には賭けに出る必要があった。
けれども、今のこの状況……。
これを利用すれば、更に成功の芽を増やせるのではないか。
(……反骨の気があると評判の人間や、日和見を口説いてみましょうか。
──それと)
獅子吼緋彩は娘と不仲であるとは、もっぱらの評判だった。
もしかして、カグラの想定を超えて戦況が推移しているのも、これが何か関係しているのかもしれなかった。
(娘の方を担ぎ上げれば、かなり有利な戦いが出来そうだけど……。
──ダメね。冷静にならなくては)
カグラは死ぬわけにはいかない。
カンナを残して、一人だけ楽になるわけにはいかないのだ。
──今は状況を見守るべきだろう。
───
一週間ほどもすると、もはや獅子吼の凋落は疑いようもないところまで来ていた。
カグラがそう仕向けたのもあるが、それ以上に風見鶏が多かった。……あるいは、獅子吼領主の人望がなかったのか。
好機なのだろうか?
……いや。
もう一つ、もう一つだけ、確かな根拠がほしい。ここまで来たなら、確実にヒイロを討ち取りたい。
ゆえにカグラはさらに賭けに出ることを決めた。
獅子吼領主が嫡子。
──彼女の人柄を見聞し、叶うなら独立を促すのだ。
───
馬喰田領・
ここは今、苛烈な戦場と化していた。
槍が、刀が、矢が、礫が飛び交い、たやすく命がこぼれ落ちていく。
そんな地獄に、場違いなほど、たおやかな女性が参陣していた。
艶やかに伸ばした黒髪に、清楚可憐な容貌。戦場などより、どこかの和室で花でも活けている方が似合う──場違いさ。
見るからに戦闘員でないその女性を与し易いと受け取ったか、獅子吼兵が背後から槍を突き出し──、
──槍諸共消し飛んだ。
清楚な女性は拳に付いた肉片を軽く振り払うと、一足飛びに獅子吼兵が密集する場所へと飛び立ち、苛烈な乱打を放った。
いや、乱打なのだろうか? 何も見えない。拳の撃ち出しが速すぎて、残像すら残っていない。傍目には、腕をゆったりと振るっているようにしか見えないのだ。
しかし見えているモノが正解でないのは、被害が物語っていた。一秒未満の時間が経過するほど、人は消し飛び、地面は抉り飛ばされ、柵も旗も、間合いのすべてが木っ端微塵に砕かれていく。
「──我流奥義・
さほど長くもない暴力の時間が終わると、女性はきわめて優雅に一礼した。
馬喰田兵から歓声が上がる。
「流石、
「見たか? 見る間に獅子吼の奴らが吹っ飛んだぞ!」
「馬喰田様の懐刀の鋭さは、獅子吼のなまくら共を容易くへし折ったぞ!」
一方の獅子吼兵達は恐慌状態に陥った。
士気が下がり、武器を捨てて逃げ出す者までいた。
女性──
「──愚かな侵略者共よ。馬喰田にこのテッサあることを知りなさい。
──そして、鎚駒鉄鎖ある限り、馬喰田の地で好き勝手に振る舞うこと、叶わぬと知りなさい」
それは静かな声だったが、おぞ気が走るほどの覇気と共に発せられた。水面に雫が落ちるように波紋を呼び、獅子吼の士気を完全に崩壊させた。
馬喰田の懐刀は獅子吼軍の潰走を無感情に見やってから、役目を終えたとばかりに踵を返した。