頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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一週間頑張ったので、これからは一日一話更新になります
今日は一つの話を前編・後編に分けたので、二話更新です


三十二話 黒く、狂い咲く・前編

 獅子吼を削る策略は、確実に効果を挙げ続けていた。

 獅子吼軍は相変わらず馬喰田に大敗を続けていたし、カグラの調略や、単純な戦況の悪化で寝返る者も増えていた。

 

 正直なところ、カグラはここまで獅子吼が衰退するとは思っていなかった。

 最初に考えていた策では、ある程度の敗戦を重ねれば、獅子吼領主はきっと前線に出るだろうから、そこをシュラに暗殺させるつもりだったのだ。

 色々と暗躍をしたが、兵を持たないカグラは最後には賭けに出る必要があった。

 

 けれども、今のこの状況……。

 これを利用すれば、更に成功の芽を増やせるのではないか。

 

(……反骨の気があると評判の人間や、日和見を口説いてみましょうか。

 ──それと)

 

 獅子吼緋彩は娘と不仲であるとは、もっぱらの評判だった。

 もしかして、カグラの想定を超えて戦況が推移しているのも、これが何か関係しているのかもしれなかった。

 

(娘の方を担ぎ上げれば、かなり有利な戦いが出来そうだけど……。

 ──ダメね。冷静にならなくては)

 

 カグラは死ぬわけにはいかない。

 カンナを残して、一人だけ楽になるわけにはいかないのだ。

 

 ──今は状況を見守るべきだろう。

 

 

 ───

 

 

 一週間ほどもすると、もはや獅子吼の凋落は疑いようもないところまで来ていた。

 カグラがそう仕向けたのもあるが、それ以上に風見鶏が多かった。……あるいは、獅子吼領主の人望がなかったのか。

 

 好機なのだろうか?

 ……いや。

 もう一つ、もう一つだけ、確かな根拠がほしい。ここまで来たなら、確実にヒイロを討ち取りたい。

 ゆえにカグラはさらに賭けに出ることを決めた。

 

 獅子吼領主が嫡子。獅子吼詩恩(シシクシオン)

 ──彼女の人柄を見聞し、叶うなら独立を促すのだ。

 

 

 ───

 

 

 馬喰田領・駒白(クシロ)

 ここは今、苛烈な戦場と化していた。

 槍が、刀が、矢が、礫が飛び交い、たやすく命がこぼれ落ちていく。

 

 そんな地獄に、場違いなほど、たおやかな女性が参陣していた。

 艶やかに伸ばした黒髪に、清楚可憐な容貌。戦場などより、どこかの和室で花でも活けている方が似合う──場違いさ。

 

 見るからに戦闘員でないその女性を与し易いと受け取ったか、獅子吼兵が背後から槍を突き出し──、

 

 

 ──槍諸共消し飛んだ。

 

 

 清楚な女性は拳に付いた肉片を軽く振り払うと、一足飛びに獅子吼兵が密集する場所へと飛び立ち、苛烈な乱打を放った。

 いや、乱打なのだろうか? 何も見えない。拳の撃ち出しが速すぎて、残像すら残っていない。傍目には、腕をゆったりと振るっているようにしか見えないのだ。

 

 しかし見えているモノが正解でないのは、被害が物語っていた。一秒未満の時間が経過するほど、人は消し飛び、地面は抉り飛ばされ、柵も旗も、間合いのすべてが木っ端微塵に砕かれていく。

 

「──我流奥義・彩鳳拳(サイオウケン)

 

 さほど長くもない暴力の時間が終わると、女性はきわめて優雅に一礼した。

 馬喰田兵から歓声が上がる。

 

「流石、鎚駒(ツチク)様だ!」

「見たか? 見る間に獅子吼の奴らが吹っ飛んだぞ!」

「馬喰田様の懐刀の鋭さは、獅子吼のなまくら共を容易くへし折ったぞ!」

 

 一方の獅子吼兵達は恐慌状態に陥った。

 士気が下がり、武器を捨てて逃げ出す者までいた。

 

 女性──鎚駒鉄鎖(ツチクテッサ)は、声を上げることもなく、軽く地面を踏みつけた。轟音と共にヒビ割れる大地。

 

「──愚かな侵略者共よ。馬喰田にこのテッサあることを知りなさい。

 ──そして、鎚駒鉄鎖ある限り、馬喰田の地で好き勝手に振る舞うこと、叶わぬと知りなさい」

 

 それは静かな声だったが、おぞ気が走るほどの覇気と共に発せられた。水面に雫が落ちるように波紋を呼び、獅子吼の士気を完全に崩壊させた。

 

 馬喰田の懐刀は獅子吼軍の潰走を無感情に見やってから、役目を終えたとばかりに踵を返した。

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