頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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三話 激情家、二人

 数分も暴れ回ると、結晶人は一体残らず掃討できた。

 

 

「やったね、大勝利☆ ヒイナちゃんがみんなの希望でいられるのも2人のおかげだよ☆彡」

「…もうお昼ですよぉヒイナちゃん。顔、洗ってきたらいいんじゃないですかぁ?」

「寝言じゃないもん! ヒイナちゃん希望だもん!」

「はぁ。馬鹿言ってないで額見せなさい。治療するわよ」

「……」

 

 スイは呆れ返ってため息をついた。見やる先はヒイナの手指。彼女の指先は小刻みに震えていた。

 けれどもヒイナは自らが恐怖に震えるほど、ふざけておどけてみせるのだ。

 彼女の恐れはわかっていたが、スイもセイラもそこに気づかないふりをした。

 怖いのかと慰めることは簡単だが、ヒイナが望んでいないことを知っていたからだ。

 

 

 

 

 ───

 

 

 

 カナメ跡地は想定以上に結晶に汚染されていた。

 

 結晶や、結晶人の力の源なるフォトン──煌子はヒイナたち適合者にとっても力の源泉である。

 が、過ぎれば毒であった。

 能力が高まりすぎて暴発するかもしれず、下手をすれば受容を超えてオーバーフローしてしまうかもしれない。そうなれば、人間はドロドロになって溶けてしまう。誰だろうと御免被る未来に違いない。

 

 結晶人が勤勉に結晶を植林して回るのは、結晶を通じて煌子の濃度を増やそうと企んでいるからだ。

 つまり、結晶は煌子を定着・増幅する媒体なのだ。

 ゆえにカナメ跡地は奥まった場所に向かうほど、ピンクとも紫ともつかないモヤが濃くなり、肌を鋭い痛みが突き刺してくる。

 

 跡地の中間あたりにまで来た時、ふとスイが立ち止まって呟いた。

 

「──潮時ですねぇ」

「スイちゃん?」

「けっこう頑張ってみましたけどぉ、お目当てのモノは全然見つからないでしょ。おまけにこんなに煌子が濃くっちゃ探し物どころじゃありませんよぉ」

 

 それは極めてスイらしい、引き際をわきまえた正論であった。軽く納得した様子のセイラを見て、さらに畳み掛けた

 

「命あってのモノ種ってやつですよぉ。保証もないのに無理してみたって、犬死が関の山ですしぃ。帰っちゃうべきじゃないですかぁ?」

 

 ソレは問いの形こそしていたが、有無を言わせない圧があった。セイラも一応悩むようなポーズはとっていたが、結論はすでに出ていた。

 

「…そうね。これ以上は危険だわ。いったん帰投しましょ」

 

 話は決まった。

 踵を返した二人だが、ヒイナはまったく無視して、そのまま前へ踏み出した。

 

「…ヒイナちゃん、帰宅の時間ですよぉ」

「…アタシ、帰らない」

 

 それはヒイナらしからぬ、ぶっきらぼうな物言いだった。 

 

「帰るなら2人で帰って。アタシ、部品探さなきゃ」

「ちょ、ヒイナ──っ」

「まぁまぁ、ヒイナちゃん。そう熱くなるもんじゃないですよぉ。子供みたいな意地張らないで帰りましょ、ね?」

 

 自分勝手を言い出したヒイナに取り乱すセイラへ被せて、煽るのはスイ。見事に乗っかったヒイナは眉を吊り上げた。自分がわがままを言っていることは自覚していた。

 

「アタシ、落ち着いてるよ。冷静に考えて、部品探さなきゃって思ってる。だって困ってる人たちがいて、アタシたち適合者はみんなの希望なんだよ?」

 

 ヒイナは、ふぅ、はぁーと、大きく深呼吸をした。

 

「なら、アタシがやんなきゃ。……別に、意地になってんじゃないから」

「冷静だよって人がね、そんな物言いをしますか? ヒイナちゃんのソレが子供っぽい意地じゃないってんなら、いったい何だってんです?」

 

 スイは勢いよく振り向いて、大股にヒイナへ近づいた。

 肩を引っ掴み、強引に自分の方を向かせて、強く睨みつけた。

 

「いいですか、ヒイナちゃん。冷静になって、落ち着いて、クールにね。頭を冷やして、よく考えてみてください」

 

 そう言って、スイは東の方を指差した。

 トクントクンと、放つ光が不可解に生々しく脈打っている。

 

「あれ見てください。あの薄っ気味悪い結晶。あんな大きいの見たことありますか? ここにはね、あんなでっかいのが植わってるんです。煌子だって濃いですし、きっとヤモリだってうじゃうじゃいますよ」

「…でも」

「でもじゃないです。……これね、ぺーぺーの私達の手に負える問題ですか?」

 

 スイの問いかけに、ヒイナは静かに首を横に振った。

 それを見やってほんのちょっとだけ溜飲を下げながら、スイは続けた。

 

「ここでね、玉砕覚悟でモノ探しして、運よく部品見つけたとしましょう。ヒイナちゃんは、ちゃんと生きて帰れますか?」

「……帰れないと思う」

「なら、無理はしない。そうでしょ?」

 

 子供を諭すような声音でスイは優しく言った。

 ヒイナは迷うような、諦めきれないような空気を放った。

 煌子の霧の向こうを恨めしげに見やって、しばらく葛藤していたが、結局。小さく頷いた。

 

「……ごめんね、スイちゃん。アタシ頭に血がのぼってた」

「気にしてませんよぉ。ヒイナちゃんのムリムチャは今に始まったことじゃありませんからねぇ」

「セイラちゃんも、ごめん」

「もう慣れたわよ。でも、急にぶっきらぼうになるのやめて。そっちは慣れないから」

 

 セイラが冗談めかして言うと、ヒイナはスイと視線を交わして、いたずらな笑みを浮かべた。

 

「んへへ、なんのことやら。ヒイナちゃん、まったく心当たりないなぁ」

「ね〜」

「こ、こやつら〜……。はぁ。帰りましょう」

 

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