頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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五十三話 魔族粉砕デストロイヤー!

「ん? んん? よくわかんないですけど……なんか悪い人達に襲われてて、助けてちょうだい……って理解で合ってますか?」

「ウム……。少しばかり経緯を端折りすぎてはいるが……。まあ、概ねそれでよい」

 

 ズッシン、ズッシンと重苦しい衝撃が揺らすハクヨウ城内、祈祷所と化した大広間。役目を終えた煌子の炎が紅く揺れ、その付近では疲労困憊の祈祷師達が肩で息をしている。

 キラキラピカピカの召喚陣の中央にちょこんと仁王立ち。ヒイナは理解しているのかどうかも分からないような顔でふんふむ、と頷いた。

 長門をはじめ、シオン皇国御家人達はどうにも能天気が過ぎる振る舞いに戸惑っていた。あまりに態度が軽すぎる。

 

 城壁を打ち付ける破城槌の音が聞こえていないわけではなかろうに。確実に迫りくる死のにおいに気が付いていないわけではなかろうに。

 まるで恐怖を見せない。焦燥も、なんなら義憤さえ。人懐っこいニコニコ顔で、能天気な言動をするばかりである。

 けれども、絶望に侵された彼らには次第に、その軽さが余裕に見えてきた。無知さが、胆力にさえ思え始めた。

 都合の良すぎる期待が、芽吹き始めている。

 

(……わからぬ。突然見知らぬ場所に呼び出され、義理なき戦を押し付けられようとしているというのに……。まるで拒絶を感じぬとは……)

 

 老枢機卿は複雑そうに眉をひそめた。

 ふんふむ、ふんふむ。と頷いていたヒイナが、突如として目をかっぴらく。

 御家人達に動揺が走った。長門はつとめて冷静を装いながら、尋ねてみた。

 

「……どう、される?」

「んー……。

 ……ヒイナちゃん、ちょっぴり、お外見てきますねっ☆ そんで、その……まぞくって人達とお話してみよっかなって思ってます」

「馬鹿な! 話の通じる相手ではない!」

 

 思わず割り込んだ恒門の言葉にうーんと悩むような仕草をする。一拍のあと、「それでも」と返す。

 

「まずは、お話してみたいです。ちゃんと話して、その上で決めたいです。……だって、ヒイナちゃんはみんなの希望ですから☆」

 

 パチコンとウインク。本人は最高に決まっていると思っている。向けられた皇国家臣団は困惑するばかりだったが、ヒイナは気にしない。

 「それじゃあ、行ってきますね☆」と相変わらず軽い調子で言い残すと、ズドッと轟音がして、急に地震が起きた。

 すわ、ついに城壁が破られたかと見周す家臣団だが、破城槌の音は続いている。

 

「明星殿がおりませぬ!」

 

 気が付いたのは血気盛んな文官である。彼女がいた場所には、踏み砕かれた石畳が残るばかりだった。

 

 

 ───

 

 

 外郭の周囲はかなり混沌としていた。見渡す限りの青の群れ。

 青白い肌の角が生えた、物凄く野蛮そうな人達が焚き火の周りで踊り狂ったり、でっかいハンマーを城壁に打ち付けたり、焦げ茶色の、なんかばっちい液体を飲みながらゲラゲラ笑ったりしている。 

 あれが魔族か。ヒイナはなんだか微妙な気分になった。

 城壁は相当頑丈な素材で作られているのか、大柄な青い人がハンマーで叩きつけても中々砕けない様子ではあったけれど、それも時間の問題なのかもしれない。というか、時間の問題なのだから、ヒイナがここにいるのだ。

 

(そこに気が付くとは……。ヒイナちゃんってば賢い子☆)

 

 冗談はさておき、正直に話しかけたい雰囲気ではなかった。

 けれども、いやいや、でもでもと自分を奮い立たせてヒイナは決意を固めた。あんな感じでも、話してみたら意外と気さくな人達かもしれないし。

 

「こんにちは☆ ヒイナちゃんはヒイナちゃんですよ☆ みなさんは──。ッ!」

 

 まずは得意のにっこり顔で挨拶。すると壁ハンマーの人が、ドッスン、ドッスン走り寄ってきて、大槌を振り下ろしてくる。

 不意打ちすぎて煌子纏鎧の展開が間に合わなかったので、一撃目は飛び転がって何とか回避。返す刃の二撃目をどうにか巨大剣を生成して真っ向から受け止めた。

 睨み合う巨大剣を担ぐ少女と破城追を持つ大鬼。魔族兵がぞろぞろと周りを円になって囲み、下品なヤジを飛ばし始めた。何を言っているのかはわからない。

 

「あのー。お話聞いてもらえませんか? 聞くのがイヤなら、話すのでもオーケーですよ☆ ヒイナちゃんはどんなお話も楽しく聞けるいい女なので☆彡」

「フシュルルルル………グオアアッ!」

「え? ちょ」

 

 鎚持ちは雄たけびを一つ上げると、ハンマーを無茶苦茶に振り回しながら、巨大剣をガンガン叩く。魔族兵のヤジがいっそうやかましくなり、礫まで飛んでくる。ペチペチ当たって普通に痛い。

 

(……話が通じないって。会話が成立しないとかじゃなくって、本当に意思の疎通が出来ないんだ……)

 

 よくよく見れば、目の前の魔族は目の焦点が合っていない。舌を出して唾液が口から零れ落ちている。これって、この人達だけが、こんな感じなのか、それとも、魔族全体が“こう”なのか──。

 

(……話の通じない侵略者)

 

 きっと、怒りでやっているわけではない。憎しみでもないだろう。それよりもずっと原始的で、本能的な衝動に従っているように見えた。

 

 ──災害だ。

 人間に価値を見出さないから、まったくの慈悲もなく命を奪うし、何の考慮もない破壊をする。

 落としどころが存在しない相手との戦いは、戦争とは言わない。地震や疫病、台風と同じ、自然災害以外の何物でもなかった。

 

 ふぅ、と小さく吐息を漏らして、意識のスイッチを切り替える。災害が相手なら、ためらう必要はない。

 

「──恨んでくださいね」

「グッ!?」

「天体爆発──」

 

 振り下ろされた大槌を軽く弾き返す。自らの体格よりも遥か小柄な娘にいなされて、巨体魔族は目を見開いた。

 

 踏み込み。

 軽く足を大地に打ち付けただけで、土はめり込み隆起し、爆ぜ飛んだ。踏み砕いた地面を置き去りに、ヒイナは跳び上がる。──そして、巨体魔族の顎に向かって、

 

「ヘッドバッドっ!」

 

 自身の頭を叩きつけた。

 爆散する角突きの頭部。浮かび上がる巨体。

 轟音と共に着地したヒイナは額から流れる血を、無造作に袖で拭き取りながら、次の一体に向けて狙いを定めた。

 

「結晶粉砕──じゃなかった。てへぺろ☆ えっと、魔族相手だから……魔族粉砕──」

 

 舌を出しておどけたのも束の間。

 巨大剣を担ぐように振りかぶる。

 魂を励起し、煌子を剣へと流し込んだ。

 

「デストロイヤー!!」

 

 跳び上がり、真っ向唐竹割りを放つ。

 馬鹿げたパワーで繰り出された縦一文字斬りは、もはや斬撃ではない。さながら落下する天体だった。

 ヒイナを通して、輝きを放つ紫がかったピンクの軌跡が、十数体の魔族をまとめて飲み込み、大地もろとも切り裂いた。

 

 ──解放。

 剣身に溜め込んでいたエネルギーが解き放たれる。ピンクの爆圧が周囲を薙ぎ払い、大地をめくり上げ、砂塵を発生させる。

 巻き込まれた魔族達は四肢を引き千切られ、高密度の煌子に焼き殺され、断末魔を上げる間もなく跡形もなく消し飛んだ。

 城壁の上より物見をしていた兵士は、顎が外れんばかりの表情で呆気にとられた。

 

 ヒイナは軽く着地をすると、誰に向けたわけでもないVサインを放って、いつものニコニコ顔。

 

「やったね大勝利☆ ヒイナちゃんの戦いはこれからだ! ……完っ!」

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