頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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五十四話 すごい剣の噂

 皇都ハクヨウへと攻め入ろうとする魔族の数はかなり多かった。救いだったのは、魔族というのは個人意識が強いらしく、あまり連携が得意でないということ。

 おもいおもいが好き勝手に動き、ヒイナの巨大剣が味方を消し飛ばしても、知らん顔をする奴がほとんどなのだ。──結晶人とは正反対だった。アレらは個が群の意識に呑み込まれている存在であるから。

 

 だからこそ、恐ろしい。

 群れているのに、群れていない。

 個の暴だけで成り立つ、まるでバラバラな者達。けれども、その野蛮に過ぎる力が、人間国家をあと一歩のところまで追い詰めている。

 ──まだ出会ってはいないが、きっと武将とか隊長とか、そんなのを倒しても、それで烏合の衆になってくれたりはしないのだろう。

 だってこいつら、本当に仲間意識が薄い。

 痛みを共有する器官が備わっていないから、味方が死んでも悲しまないし、恐れない。怒りさえしない。それどころか、平然と踏みつけにして襲いかかってくる。

 

(……一つ一つ潰してても、らちが明かないかも)

 

 奴らを見渡してみる。うじゃうじゃうぞうぞ、いるわいるわ蠢く青い肌の群れ。千や二千ではきかない数だ。

 

(うーん。アタシあんまり煌子の放出、得意じゃないからなぁ。こう……バァーってやっつけたりできたらいいんだけど……ドッカーンって)

 

 けれども残念ながら、やれてせいぜいが巨大剣をブンブンするくらいである。そしてそのやり方では時間がかかりすぎる。

 

 ──結論。

 どうにもならない。……少なくとも、ヒイナ一人きりでは。お城の人達に何か打つ手はないか、聞きに戻るべきだろうか。──戻るべきなのだろう。

 けれど、その前に。破城槌持ちをきちんと潰して置かなくては。あんなハンマーでゴッチン、ゴッチンやられたら城壁が壊れてしまう。

 

(壁を破られたら、その奥には街があるもんね。……ふふん、ここでユーセンジュンイを間違えるヒイナちゃんではないのだ☆)

 

 そうと決まれば善は急げ。

 皇都ハクヨウ外周マラソンの始まりである。しかも、うぞろ、うぞろの障害物付き。

 

 

 ───

 

 

「超新星──スラッシュ!」

「グガッ?!」

 

 単なる逆袈裟である。

 煌子を使って発生させた見た目だけの星のエフェクトが、剣の軌跡をなぞる。見た目以上の意味はない星だ。

 見上げるほどの巨体は、小柄な少女が振るう巨大な剣に叩き付けられて、呆気なく爆散した。少し遅れて宙へと投げ出されたハンマーが大地に叩き付けられる。地響きが走った。

 

 目的を達したことを確認すると、ヒイナはまたマラソンを再開。

 見敵必殺を繰り返す。

 くらえ! 彗星アタック! すれ違いざまの、ヒイナちゃんボンバー! 

 ふざけたネーミングの攻撃は、けれども。どれもこれも一撃必殺の破壊力であり、またたく間に槌持ちを爆発四散させていく。

 

 やがて城壁を叩く重低音が鳴り止む。槌持ちが一人残らず地面のシミと化したのだ。

 ──彼らは魔族が皇都を攻める上で、かなり重要な役割を担っていただろうに、誰一人として護りに動かない。ヒイナとしては助かったわけだが、(それでいいの?)という気持ちもほんのちょっぴり。

 しつこいようだけども、本当に彼ら、仲間意識がないので。

 

 

 ───

 

 

 一応の安全を確保したと見たヒイナは、ワラワラ追ってくる魔族達を振り切って城壁を駆け上がった。

 ……のだけども。

 悲しいかな。実はヒイナのスピードはパワー由来のものなので、全然身軽ではない。猫のようにしなやかに壁を蹴るなんて芸当はできなかった。

 一歩ごとに石材をめり込ませ、重戦車のような足音を響かせながら、よじ登る姿はさながら必死な小動物。

 最後は「んぬぬーっ」とばかりに腕力で無理に体を引っ張り上げ、かなりの四苦八苦を強いられる羽目になった。

 

(……抜け道の場所とか、ちゃんと聞いとくんだったな……。ヒイナちゃんってばせっかちさん☆)

 

 そんな事を考えながら、大広間へ戻る。

 ……と。

 

「明星殿!」「勇者様!」「我らが救世主!」

 

 むさ苦しい男達からの熱烈な歓迎を受けたのであった。(ん?)とヒイナは思う。どこぞの馬の骨を見やる視線は、今や無二の英傑を尊崇するモノと変化していた。

 

「お見事にござった。……先ほど、刃を向けてしまった無礼、改めて謝罪させてくだされ」

「んぇっ。……気にしなくて大丈夫ですよ☆ ヒイナちゃんは器が大きいのでっ。ちょっと刃物を向けられたくらいじゃ怒らないのです☆彡」

 

 老枢機卿が膝をつき、自らの不明を恥じるよう頭を垂れる。ヒイナはいつも通りの笑みを浮かべながら、きわめて軽く言った。

 御家人達から、「おお……っ」と感嘆の声が上がる。どうも彼女の背後にある“修羅場”を勝手に深読みしているらしい。

 なんとなく居心地が悪くなった。

 

「それにしてもお強い! あの恐ろしい鬼共がまるで鎧袖一触にござったな! いやぁ、痛快痛快!」

 

 「溜飲が下ったわ!」、と恒門。続くように、やれ虎走公の再来だの、皇国を救う救世の輝きだの、言いたい放題だった。

 ──ヒイナは。

 正直なところ、満更でもなかった。むしろ、めちゃんこ気持ちよかった。なんかもう、気持ちよすぎて逆に居心地が悪い。謎のループ現象が胸中にて起きていた。

 

(じっ、自己肯定感が……っ。自己肯定感が臨界突破しちゃう……!)

 

 いけない! 今は、それどころじゃないのよ! 目的を果たさなきゃ!

 何とか思い直して、キリッと表情を引き締める。つとめて冷静に、真面目に。

 

「どうも、みんなの希望ですっ☆ミ ちょっと聞きたいことあるんですが☆ミ 外の魔族達、すごい多いですよねっ☆ミ」

 

 駄目だった。抑えられなかった。

 ヒイナは自己肯定感が上がりすぎるとうっとうしくなるので、気をつけないといけない。

 一方で、水を向けられたシオン皇国家臣達は、特に気にしなかった。流石になんか鬱陶しいなとは思ったが、英雄なんて多分、そんなもんなんだろ、多分。きっと、おそらく、と軽く流した。

 

「そ、そうでござるな。……勇者殿に手立てはお有りか?」

 

 長門はドン引きしていた。

 なんとか取り繕おうと咳払いしつつ冷静な顔をするが、瞳が泳いでいる。

 

「ありませんっ!☆ミ ……んんっ! ごめんなさい、ありません。だからなんか……すごい攻撃ができる人だとか、なんかすんごい武器だとか教えてほしいなって☆」

 

 フワッフワだった。

 高めすぎたテンションを何とか元に戻しつつ。改めて言い直した戦いにおけるビジョンはあまりにもふわふわしていた。

 あまりの丸投げぶりに、長門の瞳はさらに泳いだ。ついには、救いを求めるように天井のシミを数え始めてしまった。

 恒門は愉快そうに笑いつつも、顎に手を当てて考える。心当たりは、なかった。というか、そんな都合のよい物があるならば、そもそも勇者召喚の必要がない。

 

「そっかぁ……」

「お待ちを!」

 

 無いなら無いで仕方ないかと、地道な作業に戻ろうとする背中へ声がかかる。長門と言い争いをした血気盛んな文官だ。

 

牛飼惟元(うがいこれもと)にございます。お伽噺になりまするが、心当たりがございます。……それでもよろしいでしょうか?」

「はいっ。そのお話、ぜひ聞きたいです!」

 

 ヒイナだけでなく、長門や恒門。その他、反対する者はいなかった。彼らにとっては、お伽噺の勇者召喚が“成功したように見えていた”からだ。

 惟元は居住まいを正し、一つ、深く咳払いを打った。その瞳には、古き記録を紐解く学徒のような熱が宿っている。

 

「七光の聖剣にございます。銘は、ヴェルブランカ。……神々がかつてこの地上に座した時代、初代勇者に下賜されたという、伝説の剣にござる」

「聖剣! すごい! そんなのあるんです?」

「然り。我が所領に古くから伝わる民話が語るところによれば、その剣身は七色の輝きを纏い、担い手の器を際限なく広げたとか。

 刃は時の流れさえも切り裂き、一太刀放てば、またたく間に千の軍勢を撫で斬りにしたと、そう言い伝えられております」

 

 大広間に感嘆の息が重なった。

 ヒイナはもう、ワクワクしてしょうがなかった。そんなすごい剣があるなら、今度こそ実現不可能だった最強必殺技、銀河系エクスプロージョンが習得できるかもしれない。

 その剣を使って災害をやっつけられれば、きっとこの国の人々もにっこり笑顔になるに違いないのだ。

 

「して、牛飼。その剣は何処に?」

「ソウザンに。付近の者達が“封じの塔”と呼ぶ禁城がございます。最上階で、今も担い手を待ち続けているとか……」

 

 心なしか弾んだ声の長門の促しに、惟元は厳かに返す。返してから、「然れど……」と、続けた。

 

「彼の地は誰も近寄らぬ、危険な場所と聞きまする。呪いと怨嗟に満ちていると言いまする。……勇者殿には無用の心配かもしれませぬが──くれぐれもお気を付けなさいますよう」

「心配してくれてありがとう☆ じゃあ、ヒイナちゃん、サッと行ってサッと帰ってきますね☆」

 

 再び大広間に地震が走った。

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