頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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五十七話 天を衝く・前

「すごい必殺! キラキラ星──」

 

 爆音と共に土煙が舞う。ヒイナ特有の、大地を削り取るような踏み込みが炸裂した。

 放たれた矢、あるいは希望色の流星。

 幾百の魔族が波を打つところへ、彼女は真っ向から弾丸のように突き刺さる。

 進路上の障害物となってしまった哀れな犠牲者たちは、豆粒のような重戦車に正面衝突され、悲鳴を上げる暇もなく爆散していく。

 白髪の少女は飛び散り、吹き飛ぶ戦果へ目をくれることもないまま突き進んだ。

 

 敵陣の中央。

 こじ開けた道が閉じてしまうのを完全に無視をして、身の丈よりもなお巨大な剣を軽々と振りかぶる。練り上げた煌子が煌やきを放つ。

 

「──フェスティバル!」

 

 ヒイナお得意の大回転斬りが唸りを上げる。

 見た目だけの星を桜吹雪めいて撒き散らしながら、殴り飛ばされた者達の血飛沫や肉片も飛び散らせた。

 きわめて個人的な武力由来の暴風が、魔族を薙ぎ払う。

 

 瞬く間に数十の魔族が粉砕され、戦場には星屑めいた残滓が夢のように散った。

 勢いに乗ったヒイナは、災害を平らげてしまおうと巨大剣を握り直す。

 

「……?」

 

 ──けれども、その勢いは金属がこすれ合う音に遮られた。

 理性なき軍勢の隙間を縫って、鈍色の輝きが前に出る。魔族にはおよそ似つかわしくない色だ。

 それは人間から剥ぎ取ったであろう設えの良い槍と鎧を身に着けた一団だった。粗末な腰布に素手、木を削り出した棍棒くらいしか持たないのが、この時代に来て見てきた魔族の標準装備である。……エリート部隊のお出ましというわけだ。

 

「イ、ヤダァ……。ジニダグ、ネェ……」

 

 その内の一人が、言葉らしきものを口にした。

 酷くくぐもった声音で、あまり聞き取れなかったけれど──唸り声ではない。

 魔族を睨みつける。

 視線の先の瞳は、鮮血のように紅く昏い光を放っている。──願望かもしれないけれど、本能的な衝動の奥底に、ほんの僅かな“理性”が潜んでいる気がしたヒイナは、巨大剣の切っ先をほんのちょっぴり下げた。

 ──理性があるのなら、確かめてみたい。言葉を使えるのなら、話ができるかどうか、会話ができるかどうかを知りたかった。

 ……もちろん、彼らの大多数は災害だ。だから仮に、話が通じたとして、きっとやることに変わりはないだろうけれど……。それでも知りたい。

 決心した彼女はいつものにっこり笑顔で口を開いた。

 

「──はじめまして、こんにちは☆ ……紅い瞳が素敵ですね☆ 良かったらヒイナちゃんと、ちょっぴりお話をしてみませんか?」

「ァ……ァァァ。カアチャン……イテェヨォ……」

 

 やはり言葉が返ってきた。聞き取りづらいけれども、掠れたような、嗄れたような──。どこか血なまぐさい響きの、確かな音で。

 ヒイナは首を傾げた。カアチャン? イテェヨォ? ん? 何を言ってるのだろう。どういうことだろう? 文字通りに受け取るとして、状況にそぐわない言葉だ。

 

「んん? ん? うーん……」

「キヌ……このイクサガ、オワッタラ……」

 

 困惑するヒイナをよそに、魔族は瞳をギョロギョロと動かし、唇を虚ろに震わせた。同時にひどく緩慢な動きで槍を振りかぶる。すると倣うように、周囲の槍持ちも振りかぶった。

 統率の取れた動きというほどではなかったが、魔族に会って初めて見た連携だ。

 

「ケコン……ケケケケ、ケッ──」

 

 意味のない言葉の羅列。かつて、意味があったのかもしれない音の羅列。

 壊れた機械のように、ノイズの混じる言葉に、思考が追い付いてくる。

 ──それきっと、発している本人さえ意味のわかっていない“物音”だ。──いつか、誰かの心の残り香だ。それをようやく察したヒイナは、少しだけ。ほんのちょっぴりだけ、祈りたい気持ちになった。

 

 “物音”を合図に、投槍が放たれた。

 時間差に投げつけられた槍が幾重もの鈍い光の軌跡を描いて、ヒイナへ差し向けられた。

 量産の長物が放つ、銀の閃きが空を引き裂きながら獲物へ突き進む。

 

(……大丈夫。大丈夫だからね。ヒイナちゃんは笑っていられるよ……)

 

 懐の薄汚れた布へと目を落とす。誓いに翳りはない。

 状況は逼迫している。

 命を狩らんと迫る鋭鋒を巨大剣の一振りで薙ぎ払い、あるいは引っ掴んでへし折る。……正直なところ、回避は得意ではない。ヒイナはフィジカルに物を言わせるタイプなので、技量がとことん低い。

 ゆえに、こういう状況で連携されて削るような動きをされると、ダメージ前提の動きをせざるを得なくなる。

 

(……痛ぅ。大丈夫、大丈夫。こんなの痛くない)

 

 やがて、力任せの強引な防御が追い付かなくなって、一本の槍が脇腹に刺さる。小柄な身体に深々と突き立てられる穂先。

 どうにかそれを引き抜きながら、胸中で自分を励ますように強がった。

 

「っ。……まだだよ。ヒイナちゃんは……不屈の闘志を持った、みんなの希望だからね。へーきへーきっ……☆」

 

 昏く濁った瞳が、無感情に少女を射抜いている。

 口では軽くおどけてみせるが、流石のヒイナとて、腹に穴が空いたままでは動きが鈍る。

 治癒の祈りをかけてみる。──が。どうにも効き目が悪く、傷が塞がりきらない。……けれども、気休め程度にしかならなくとも、やらないよりはマシ。

 

「ケケッ、ケケケケ!」

「ん……っ」

 

 叩き下ろされる槍を頭突きでへし折り、スタイリッシュに蜻蛉返り──しようとして、回転の軸がブレてしまった。それをパワーで無理に引き直し、空中で身を捻って数回転。突かれた脇腹から溢れた血が弧を描いた。

 

「満天! キラキラハリケーン!」

 

 強烈なローリングソバットが槍持ちの側頭部に突き刺さり、頭蓋を砕いた。

 爆散した肉片が礫となって周囲の魔族へと撒き散って、二次被害をもたらす。

 地面に足をめり込ませながら、どうにか着地したヒイナは乱雑に巨大剣を担ぎ直して、次の獲物を見定めた。

 けれど睨めつけられた魔族は怯まない。

 刀を抜き放ち、数の暴力とばかりに襲いかかってくる。壮絶な乱戦が幕を開けた。

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