頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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六十三話 勇気凛々・太陽剣

「し、信じらんない! あの守護者(仮)、強引にボク達のこと追っ払ったんだ!

 なんか最後、すっごく雑だったし!」

「でも、勇者様は立派だったなって、ヒイナちゃん思いますっ。勇気凛々・太陽剣だって、きっとそう言ってますよ☆」

「ん? なんて?」

 

 アヤカシの森入口。

 ゴミをポイ捨てするみたく雑に投げ出されたアワキは憤慨していた。

 あの守護者の雑な転送のおかげで、着地に失敗した彼女は頭から湿った地面に突っ込んで、鼻っ柱をしたたかに打ったからだ。

 しかも、だ!

 別れ際の雑な宣言が酷すぎた。その上、伝説の聖剣をゲットするっていう……物語であるならもう、すんごいシーンのはずなのに、あの肩透かしっぷり。

 ──おのれ、あの金髪ババア、次に会ったら容赦せんぞ、と。

 幻想を砕かれた少女が心の中で精一杯の悪態をついていると、地面がめり込むほどに暴力的な着地をした自称魔法使いが、なだめるようにいつものニコニコ顔で肯定してきた。……が。

 

 ──勇気凛々・太陽剣って何?

 

 アワキの疑問もなんのその、ヒイナはむふー、と絶妙に腹の立つドヤ顔で胸を張ると、「そのキラピカソードのことですよ☆」と言った。

 ──いやいや。

 

「……ひ、ヒイナ? ヒイナちゃん? これね、この剣……七光の聖剣なんだよ? ヴェルブランカって名前、あるんだよ?」

「えぇ……。うーん、ヒイナちゃん的に、それ、ダサいです。勇気凛々・太陽剣の方が、勇者様っぽくてカッコいいと思いますよ☆彡」

 

 全肯定娘が珍しく否定している。

 しかし──。その壊滅級にダサいネーミングの方がアワキらしいとは、まさか、自分は遠回しにバカにされているのだろうか?

 ──いやいやまさか。ヒイナに限ってそれはない。

 

(単にセンスが壊滅的ってだけだよね。うん。これまでも散々変な名前つけまくってるし……)

 

 思考が脇に逸れる。

 ウンウン唸っていると、小首を傾げてアワキを見ていたヒイナが、「あ!」と急に声を上げた。

 オッドアイをキラキラに輝かせ、さも名案が閃きましたと言わんばかりの表情である。

 

「勇者様、勇者様! 皇都に行きませんか?」

「えぇ……なんでいきなり? あそこ、あんまり良い思い出ないんだけど……」

「行きたいです! ……ヒイナちゃん思ったんですけど、勇者様は──」

 

 そこでヒイナは言葉を切った。

 大事なことを言おうとしている。能天気なニコニコ顔を真剣なものに変えて、

 

「勇者は……ちゃんとアワキちゃんなんだって、皆に教えてあげに行きましょう!」

 

 それは、思ってみない言葉だった。

 だってアワキは未だ何も為せてはいない。あの塔では、簡単なパズルを解くくらいはしたが、それが何だというのか。

 トラップを破壊したのも、魔獣からアワキを庇ったのも全部ヒイナだ。

 勇者の心に暗いものが落ちる。誰が覚えてるかも知れない聖剣に認められたからといって、いったい誰がこんな臆病者を勇者と認めるのだろう。

 勇者を名乗るならば、功績の一つや二つは土産にしなければならない。……それが道理だ。

 

 ──でも。嬉しかった。

 勇者召喚によって呼び出されたはずの彼女が急にこんなことを言い出したのは、きっと彼女がアワキの中にある、不安を見抜いたからだ。弱くて臆病で、けれどもそんな自分を丸ごと全部、肯定してくれたからこそ、こんなことを言い出したのだ。

 ヒイナはきっと。もっと多くの人にアワキを知ってほしいと思っている。

 底なしの信頼を宿した蒼紅の瞳と見つめ合って、自然とそんな気がした。

 

(怖いなぁ……。怖いよ……。もし、お前なんかが勇者を名乗るのはおこがましいって、また言われてしまったら……)

 

 ……でも、返す言葉がない。いまだ、そういう勇気を持てそうになかった。

 どう断ろう。言い訳めいた考えが脳裏に幾重にも浮かんで──。ふと気が付く。

 

「──無理じゃないかな?」

「んぇ?」

「や、だって皇都って今、とんでもない数の魔族に囲まれてるんでしょ。突破すんの、無理じゃない?」

「あ」

 

 ヒイナは勢いで物を言いがちだった。

 

 

 ───

 

 

「ところで七光の聖剣は──」

「勇気凛々・太陽剣です☆」

「……七──」

「勇気凛々・太陽剣」

 

 ……意地でも譲る気はないらしい。いったい何が彼女をそこまで駆り立てるのか。

 アワキはヒイナの圧に屈して、クソダサネーミングを受け入れた。

 自称魔法使いは満足げに頷いて、「太陽さんさんブレイバーの勇気凛々・太陽剣! かっこいい!」とかほざいている。

 勇者は思考を停止した。

 

「ゆ、勇気……うん。あー……太陽剣ね、太陽剣。これ、あの守護者が言うには封印が三つ施されてるみたいだけど……」

「なんか、皇国各地にあるんじゃぞって言ってましたね。ヒイナちゃん、ワァーって探しちゃいますよ☆」

 

 いや、探すって……と、アワキは突っ込みを入れたくなった。

 皇国はかなり大きい国だ。それを当てどなく探し回るとなると、途方もない時間がかかるだろう。

 なんとなく返ってくる答えは予想がついたが、それでもアワキは聞いてみた。

 

「探すって言うけど……どうやって?」

「ふふんっ。ヒイナちゃん考えました☆ そこらじゅう歩き回って、見つけた村の人に片っ端から聞いたらいいんです!」

「ほらきた! 非効率だよ、そんなの! どんだけ時間かかると思ってんの!」

 

 「いい考えだと思ったのにぃ」とぶーたれるヒイナを横に、うむむ、と思考を巡らせる。

 ……が、いい考えが浮かばない。

 

「というか、無理があるんだよね! 何のヒントもなしに封印だけ探せって! そもそも、太陽剣自体が知られてないってのに!」

『何じゃ、弱気じゃの。おぬしそれでも大土様から使命を託されし戦士か?』

「仕方ないでしょ! こちとら村娘だぞ! 何の学もないんだからな!」

 

 からかうような響きで発された玲瓏な声に、アワキは反射的に言い返した。

 

(……ん?)

 

 ……言い返して、首を傾げる。

 どことなく聞き覚えがある声だが、ヒイナの声はもっとあどけない感じだし、呂律もかなり怪しい感じだ。

 なら誰が──。まさか──お化けだろうか? 

 

「き、気のせいだよね、うん……」

「勇者様、勇者様! さっき勇気凛々・太陽剣がしゃべりましたよ!」

「ヒイナのバカ! せっかく無視しようとしたのに! ……って、しちこ──ごめんって! 太陽剣が?」

 

 手元の剣を思わず凝視する。相変わらず、チカチカと神秘的な燐光を振りまいていた。

 特に変わったところは見当たらないが──と考えて、

 

『そのダッサいネーミングやめてほしいんじゃが。聖剣的に、威厳的な奴損なわれる感じするから、マジやめてほしいんじゃが』

 

 ……。

 

「うっわぁぁあ! しゃべったあ!」

『そりゃお前、喋るじゃろ。聖剣じゃぞ』

「驚くほど何の説明にもなってないっ!」

 

 剣がしゃべっている。……しかもかなり憎たらしい性格だ。

 頭を抱える勇者を横に、太陽剣は『おぬし、そこの頭が悪そうな従者じゃ』とヒイナを呼びつけている。

 

「はいっ。ヒイナちゃんにご用ですか?」

『うむ。即刻ダサい名前を撤回せよ。ワシは嫌じゃぞ、勇気凛々・太陽剣なんてクソダサい名前』

「えぇ……。でもヒイナちゃんはその、べるるんか何とかって、そっちのがダサいなって思いますよ」

『ヴェルブランカじゃ! 由緒ある聖剣の銘をダサいなどと……なんて罰当たりなやつじゃ!』

 

 戦慄する太陽剣。

 早くもヒイナのボケに振り回されているところになんとなく親近感を覚えたが、

 

『お前じゃ、お前。キングオブヘタレ。ワシを引き抜いたからには、魔族の軍勢の一つや二つは殲滅して見せよ。ま、期待はしとらんがの』

 

 止まらないダメ出しである。しかも、言い方が絶妙に憎たらしい。

 ──いや、やっぱ嫌な奴だわ、と思い直した。

 しかし、いいこともあった。聖剣がしゃべれるのであれば、封印の場所を本人に聞いてみればいいのだ。

 なんか試練的な奴で、全部は教えないとか言われても、ヒントくらいはもらえるのではないだろうか。

 

「あはは……。ぜ、善処してみるね……。と、ところでさ、君って三つ封印かけられてるんでしょ? その場所とかって教えてもらえないかな? ヒントだけでもいいんだけど……」

『知るわけないじゃろ。ワシ剣じゃぞ。何を期待しとるんじゃ、たわけ』

 

 この剣、ここに捨ててこうかな、とアワキは本気で悩んだ。

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