頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで 作:土縁屋
「ゆ、勇気凛々・太陽剣? なんだど、そりゃあ。んなけったいなもん、聞いたことねぇど」
「す、すみません! 正しくは七光の聖剣です!」
封じの塔近くの集落。
ヒイナの脳筋案を採用するのは釈然としなかったが、他に手がないのも事実だった。
とりあえず、関係がありそうなところを片っ端から当たってみようということで戻ってきたのが、塔近くのここ。そして、畑仕事をしている男性らに向かって、
「見て見て! 勇者様は凄いんですよ! 勇気凛々・太陽剣に選ばれたんです!」
と、ニコニコ顔で話しかけたヒイナに対する反応が、冒頭のあれである。
慌てて訂正するアワキに対して不満げな視線がじっとりと飛んでくるが、
(仕方ないでしょ今はっ。いきなりヒイナの謎ネーミングで通じるわけないんだから!)
それをつとめて無視。
しかし、正式名称を出しても、村人達はあまりピンと来ていないようだ。「え、あの伝説の!?」といった反応はまるでない。ちなみにこの時、太陽剣はショックを受けたように燐光を減らしたが、アワキは慰めなかった。……意外と根に持つタイプなのである。
「わりぃなぁ。そっちも聞いたことねぇ。……おめえは聞いたことあるけ?」
「うんにゃ。……嬢ちゃんら、ちっと前に来た子だろ。封じの塔について聞いてきた……」
「あ、はい。そうです」とアワキが返すと、彼は胡乱な目を向けてくる。まるで、稀代の大ホラ吹きを疑うような眼だ。
もしかすると彼の脳内では今、とんでもないサスペンス劇場が繰り広げられているのかもしれない。
「……どうもわからんがよ、その聖剣とやらと封じの塔には何か関係あるんか?」
「まあ、ありますね。なんていうか、コレ、その塔から引き抜いてきたやつなんで……」
「んな馬鹿なっ! あの塔に向かっていって、生きて帰った者はおらんのだど!」
「ふふんっ。そんな恐ろしい塔のてっぺんまでのぼっちゃったのが、何を隠そう勇者様とヒイナちゃんなんですよっ。すごいでしょっ。ほめてくれてもいいんですよ☆彡」
耳を疑うような住人の態度に、空気の読めないイタい子が割り込む。
いかにも鼻高々といったような、清々しいドヤ顔だ。そして、表情からしてもう滲みだしている「ほめて!」を直接声に出した。
アワキにとってはもう慣れた光景だが、男性達には刺激が強かったようだ。意気を削がれたように「お、おう……」とドン引きしている。
そこから、ヒイナの武勇伝語りが始まった。
「塔の中はですねぇ、ホントにすんごい危ない罠がぎっしりだったんです……。ブランブランの刃物に、落っことし穴……。
特にね、一番危険だなって思ったのは……ガシャガシャですっ。ヒイナちゃん、力には自信あるんですけど、あれ、全然どうにもなんなくって……っ」
「おぉ……」
無駄に情感たっぷりである。語りが始まると、半信半疑そうだった男性達が、何故か真面目に聞き入り始めた。
実情はヒイナが暴れ散らかしただけなのだが、彼女の脳内では、聞くも涙、語るも涙の大冒険が繰り広げられているらしい。気が付けば、彼女の語りに引っ張られた村民達が集まってきていた。
ちょっとした講演会みたくなっている。全員真面目そうな顔で聞いていて。
──いや、なんだこれ。
『いや、なんじゃこれ』
──あ、太陽剣と思考被った。
「それでそれで、勇者様は勇気凛々・太陽剣を立派に引き抜いて、守護者さまにもおめでとーって言ってもらえて、太陽さんさんブレイバーとしての実力をアップさせたんですよ☆ やったねハッピー☆」
「おおおーーっ!」
盛りに盛られた英雄譚が終幕を迎え、村人達は過剰なほどに物語の余韻を楽しんでいる。
こころなしか、アワキに向けられる視線の質が変わり、尊敬や崇拝が混じりだしている。
(──いや、落ち着かないよ! なにこれ、ボク勇者か何かなの? ……勇者だった)
ヒイナの語りが悪いのだ。
自分がやったことはさらっと流すように語る癖に、アワキがやったことは無駄に壮大に話す。「めっちゃ難しい謎をズバーンって解いちゃうんですよ☆ 塔の仕掛けはもう、勇者様の閃光ブレインの前には敵じゃありませんでしたねっ」って感じに。
一応小声で、「ありがと」と伝えると、心底嬉しそうなニコニコ顔が返ってきた。
「たまげたど。オラァてっきり、肝っ玉の小せえ娘っ子かと思っとったが……」
『プークスクスっ。見抜かれとるぞ、ヘタレ勇者』
──うっさいがっかりソード!
「んだな。人は見た目に寄らんとはこのことだど。流石は勇者様だ!」
「あはは……と、ところで聞きたいことが……」
「勇者様!」