頭のおかしい全肯定娘が、事故で過去に飛ばされて自分の時代を救うまで   作:土縁屋

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六十六話 デコボコ珍道中

 皇都ハクヨウ。

 ヒイナが召喚され、旅立ってから一週間のそこには、城壁を打ち付ける破城槌の音が絶え間なく続いている。

 魔族の軍勢は続々と集結し、ハクヨウを青黒く埋め尽くしていた。

 

 元来、魔族に知性はない。

 なのに奴らはハクヨウを皇国の心臓だと見抜いて集中攻撃をかけてきている。これがどういうことか。

 

 ──食われ過ぎたということだ。

 奴らは喰らった人間の魂核から煌子への耐性を得るが、同時に魂に刻まれた記憶の断片を取り込み、賢くもなっていく。

 

〈……つくづく気味の悪い生態だ〉

 

 老枢機卿・龍首長門は胸の詰まりを吐き出すように、息を漏らした。

 伝令は、来ない。

 来ることができない。

 

 勇者殿は──。あのどこまでも悲壮な希望を宿した少女は今、どうなっているのか。

 聖剣を手に入れることはできたのか……。

 それを知るすべは彼らにはなかった。

 

「……外はどうなっているか?」

「蝗害そのものです。無数の魔族が城壁に取りついておりまする」

 

 重い気持ちを晴らすように問いかければ、文官の一人が生真面目に答えた。若い男だが精神的な疲労で、声が枯れている。

 

「……煌命石の壁だ。魔族風情には打ち破れまいが──」

「しかし、我らの気持ちは別でござろう。殻は破られずとも、籠る肉の方が持たぬ」

 

 長門は祈るような気持で玉座を見た。

 座す者を喪った、うつろな白陽の頂を。

 

 

 ───

 

 

 ヒイナはとても上機嫌であった。

 それが何故かというと、新しくパーティに加わってくれたワカバが、とってもいい人だったからである。その上、すんごくすごい。

 加入したのち、彼女はまず、勇者様とヒイナの悩みを解決してくれた。……次に向かうべき地を明確にしてくれたのだ。

 

「──聖剣の封印? あー……はは、うん。知、って……るよっ、もちろん! なんたってあたし、旅慣れてるからねっ!」

 

 頼もしい限りであった。

 けれども何故か勇者様や勇気凛々・太陽剣の反応は、とんでもない見栄っ張りを相手にするようなものだったけれど……。

 見栄かぁと首を傾げて考える。情報が間違ってる可能性。

 

(はじめっから皇国じゅうを片っ端から歩いて回るつもりだったんだし……大して変わんないよねっ)

 

 ヒイナとしては、結局そこにたどり着く。

 「ヒイナちゃんって、うん。だいぶ……アレなのね」。ワカバはドン引きした。

 

「えーとね……そう! カヅノ! 星樹教の総本山がある……や、これいい考えだよ、マジで! 聖剣と教会! 絶対なんか関係あるでしょ!」

 

 ともあれ、そんなこんなで決まった目的地。

 ソウザンからは北東に進んだところにあるらしい。皇都から見て北の方角。皇国の真ん中ら辺だそう。

 定まったなら即行動、ということで、さあ出発!

 

 野を超え、丘を越え、森を超え。

 たまに遭遇する数体ほどのはぐれ魔族や魔獣を轢き潰しながら進む、デコボコ珍道中。

 ちなみにヒイナの頭突きで爆散する魔族を見送ったワカバは、お口をあんぐり開けて数秒ほど固まっていた。その肩にやさしく置かれる勇者様のてのひら。ヒイナは首を傾げた。

 

 

 ───

 

 

 夜になれば、野営をすることにもなる。

 これは最重要機密なのだが──。

 ヒイナはとても不器用だった。けれども、本人にやる気はあるから、テキパキと仮設拠点を組み上げていく勇者様とワカバに、

 

「ヒイナちゃんもお手伝いしたいです! 何かやることありますか?」

 

 と聞いてみるのだが──。

 すると、二人からは猛烈な首振りと共に、「いいよいいよ! ヒイナ疲れてるでしょ! 休んでて!」とのお言葉をもらってしまうのだ。

 基本的に力仕事以外ではまったく役に立たないポンコツなのであった。

 

 何かをしたい気持ち。けれど何もできない現実。

 そんな空白の時間には、ヒイナの胸の内に昏い焦りが溶岩のように湧いてきて、グルグルとループする。

 皇都は今、どうなっているのだろう。

 魔族の大軍勢に乗り込まれて、凄惨なことになってはいないだろうか?

 

 (……大丈夫、きっと大丈夫だよ。でっかい壁あったもん。だから、焦っちゃダメ。……でも)

 

 気を抜いたらすぐにでもハクヨウへと向かいたくなってしまう身体を、必死に押し留める。

 皇都で会った人達はヒイナを勇者だと言ったが、彼女にその自覚はない。というよりも、どうでもいいと思っている。

 大切なのは、希望を託された、ということ。あの人達の願いをちゃんと形にしなくちゃいけないということ。

 

 ──だから、焦っちゃダメなんだ。……懐にしまった誓いの証へ、手を触れる。

 ヒイナにとって幸いだったのは、勇者様と会えたことだった。太陽のようにきらびやかな勇気を持つ、強い人。

 根拠なんてなんにもなかったけれど、ヒイナは確信していた。きっとこの人が、この時代を救う人なのだ、と。

 

(だから。……だからきっと、勇者様の旅路を支えることが、希望を託してくれた人達を助けることになる──。なんだか、そんな気がする)

 

 ──でも。

 あの動乱の時代で、ユイ様に怒られてなかったら……。

 きっとアタシ、独りでハクヨウの魔族と戦って死んでただろうな。

 

 ヒイナはちょっぴりだけしんみりした笑顔を浮かべた。

 

「終わったよ! ほらヒイナ、こっち来てっ。一緒に焚火で温まろう!」

「ぁ。……やったねハッピー☆ ヒイナちゃん、ご飯作りますよ!」

「いや……ヒイナちゃんが作ったら、ヘドロみたいなの出来ちゃうでしょ……。あたし、食あたりで死ぬなんてやーよ」

「ヒイナちゃん心外!」

『いや、正論じゃろ。ポンコツ怪獣め』

 

 騒がしく、夜は更けていく。

 ヒイナは重く淀んだ気持ちを飲み込んで、もう一度薄汚れた布に手をやった。

 

 ──大丈夫。希望はまだ、朽ちてない。

 

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