BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

10 / 82
異世界での生活に慣れ始めた凛馬は、仲間たちと穏やかな日常を過ごしていた。しかし向けられた「ここに残ってほしい」という想いは、彼の胸に静かな波紋を広げる。
帰るべき場所と、ここに居たい理由―そして、凛馬の口が開く。


10話 貴方はもう独りじゃない

凛馬は、ミケの真っ直ぐすぎる愛情を受け止めながら思った。

―この人になら、過去を話してもいい。

そして、ゆっくりと口を開く。

「…俺さ、元の世界では、ずっと余ってたんだ」

ミケの耳が、ぴくっと揺れた。

「家でも学校でも、俺がいなくても成立する存在っていうか…いなくなっても、誰も困らなかった」

少しだけ間を置いて、続ける。

「兄弟は何しても褒められてた。でも俺は、何も言われなかった。怒られもしない代わりに、期待もされなかった」

笑おうとして、うまくいかなかった。

「学校でも同じだった。グループに入ってても、気づいたら俺だけ置いてかれてて…それでも“平気なフリ”してた」

ミケが何か言いかけたのを感じて、凛馬は小さく首を振る。

「だからさ…誰かに“必要だ”って言われるの、慣れてなかったんだ」

一度、息を吸う。

「"みんなのもの"って言ったのも、独り占めされたかったわけじゃない。ただ……一人に戻るのが、怖かっただけ」

視線を上げる。

「でも、ここでは…誰かが俺の名前を呼んでくれる。触れてくれる。待っててくれる」

ミケを、まっすぐに見る。

「それだけで、俺は十分だった」

そして、少しだけはっきりした声で。

「…だから俺、ここに残りたい。“選ばれる側”でいたいんだ」

言葉が途切れた瞬間、ミケの目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

「にゃ…そんなの…悲しすぎるにゃ……」

ミケは凛馬にぎゅっと抱きつく。

温かい体温。心臓の音。それが、確かにここにあった。

「凛馬…ずっと一人だったにゃ……」

腕の力が、少しだけ強くなる。

「…でも、もう大丈夫にゃ。凛馬は一人じゃないにゃ。私がいるにゃ。コハクも、アオも、ミナも、ヒョウカも…みんな凛馬のこと、大好きにゃ」

一拍置いて、震える声で続ける。

「…でも、いつかいなくなったらって思うと……怖いにゃ」

その言葉に、凛馬は何も言えなかった。ミケは、凛馬の顔を両手で包み、真っ直ぐに見つめる。

「……だから、言わせてにゃ。凛馬は……私たちに必要な存在にゃ」

そのとき―

「凛馬くん」

リビングの入口で、ミケの母親が静かに二人を見守っていた。柔らかな微笑みを浮かべながら。

「うちの娘は不器用だけど、本当に優しい子なの。あなたのことを、心から大切に思ってるわ」

「お母さん……!」

「凛馬くんが望むなら、あなたはもう私たちの家族よ。でも、すぐに答えを出さなくていい。私たちは、いつでも待ってる」

その言葉に、凛馬の胸の奥が、じんわりと満たされていく。

「…ありがとう、ミケ。俺の過去、聞いてくれて」

小さく、けれど確かな声で続ける。

「本当の家族みたいだ。そう思える場所に、初めて来た気がする」

“本当の家族みたいだ”

そう言えば、この関係に無理に名前を付けなくていい気がした。

「にゃ…凛馬ぁ……」

ミケの涙は止まらなかった。嬉しさと、凛馬の過去への悲しみが、混ざり合って溢れている。

「…うん。私も、凛馬を本当の家族だと思ってるにゃ…」

 

その夜。

湯気の向こうで、ミケの声が近い。昨日よりも、距離が少しだけ縮まっている気がした。

ベッドに入ると、ミケはそっと凛馬の腕にしがみつく。

「…おやすみにゃ、凛馬。明日も、一緒にいようにゃ」

凛馬は目を閉じながら思う。

"ここなら。ここにいれば、もう"

孤独だった少年は、初めて―

「いなくなってもいい存在」ではない場所に辿り着いたのだった。




最後まで見てくださりありがとうございます!
この後の展開、要注目です!
反応くださると励みになります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。