休み時間。授業が終わるや否や、女子生徒たちが一斉に凛馬の机を囲んだ。
「凛馬くん!一緒に写真撮っていい!?」
「私も!私も!」
「凛馬くんって、本当に可愛い……触ってもいい?」
「にゃー!みんな、凛馬を困らせないでにゃ!」
ミケが慌てて割って入る。
だが―
「みんなで仲良く、だろ?」
凛馬のその一言に、ミケはそれ以上、強く拒めなくなってしまった。
「ふふ、凛馬くん。自分で言ったんだから、責任取らないとね」
コハクが楽しそうに笑う。
「ああ。友達は多い方が、楽しいよな」
凛馬はそう言って、明るく笑った。初日とは比べものにならないほど、自然な笑顔だった。
―だからこそ、ミケの表情が一瞬だけ切なげに揺らぐ。
“友達が多いと嬉しい”
その言葉の裏にある、凛馬の元の世界での孤独を思い出してしまったのだ。
「にゃ…凛馬…」
ミケは小さく呟き、そっと凛馬の手を握る。周囲には気づかれないように、指先だけを絡めて。
「友達!僕も凛馬くんの友達!ずっと一緒だよ!」
「お昼は私たちと約束してるんだから、忘れないでね?」
コハクが肩に手を置き、意味ありげに微笑む。
「俺とも友達になってくれよ!人間と話せるなんて、一生の思い出だ!」
「部活とか興味ない?バスケ部、人手不足なんだ!」
「…囲みすぎだ。凛馬が潰れる」
ヒョウカが低く言い、冷たい視線で生徒たちを牽制する。
「みなさん、少し距離を取ってください。凛馬くんも、困っています」
ミナが穏やかだがはっきりと告げると、生徒たちは名残惜しそうに一歩下がった。
教室の熱気が、少しだけ息苦しかった。
でも、嫌じゃない。この中心にいるのが、自分だなんて―
休み時間が変わると、今度は男子生徒たちも集まってくる。
「凛馬、元の世界ってどんな感じなんだ?」
「獣人はいないんだろ?」
「人間だけの世界……想像つかないな」
ミケたちも続く。
「にゃ、私も聞きたいにゃ!」
「凛馬くんの世界には、熊族はいないの?」
「……少し、興味はある」
「もしよければ、教えていただけますか?」
教室中の視線が、凛馬に集まる。
「…うん」
凛馬が話し始めると、教室は静まり返った。
獣人のいない世界。人間だけが暮らす街。似ている部分と、決定的に違う文化。
「へぇ……」
「意外と、ここと似てるんだな」
「でも、獣人がいないのは寂しいな」
「じゃあ…凛馬くんの世界にも、友達とかいたの?」
アオの無邪気な声が、教室に響いた。その瞬間、空気がわずかに張りつめる。
「……アオ」
ミケの声が、ほんの少しだけ強張った。
凛馬は一瞬、言葉に詰まる。その表情を見て、コハクは何も言わずに視線を逸らす。
「…今は、聞かなくていいわね」
「…空気読め」
ヒョウカが短く言う。
「…あっ、ごめんなさい……!」
アオは慌てて耳を垂らし、口をつぐんだ。凛馬は小さく息を吐いてから、無理のない笑顔を作る。
「…いたよ」
そう答えるまでに、ほんの一拍、間が空いた。それ以上は語らず、軽く肩をすくめる。
「でも、今は違う」
そう言った瞬間、教室の空気が一気に柔らぐ。
「そうだよ!今は俺たちがいる!」
「凛馬は一人じゃない!」
「友達だろ!」
「にゃ!凛馬は、もう一人じゃないにゃ!」
ミケがぎゅっと抱きつく。
「そうよ。私たちがついてるんだから」
「ずっと友達だよ!」
「…悪くない連中だ。安心しろ」
ヒョウカが、ほんのわずかに口元を緩めた。
「凛馬くん…私たち、ずっと一緒です…」
その時、チャイムが鳴り響く。
「席に着け。授業を始めるぞ」
凛馬の周りには、確かに温かい空気が流れていた。
孤独だった少年は、今たくさんの"友達"に囲まれている。
その笑顔の輪の中で、凛馬は一瞬だけ思う。
―もし、これが消えたら。
その想像を、慌てて心の奥に押し込めた。
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