BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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凛馬が校長から「元の世界へ帰る方法が見つかった」と告げられ、三日後に現れる門を通れば戻れると知らされる。仲間たちに見守られる中、凛馬はすぐに答えを出せず、三日間考える時間を求める―人生を分ける選択が始まった。


15話 迷いが消えた日

この2日間は生きた心地がしなかった。それでも窓の外では、虫の声が静かに響いている。

凛馬は、布団の上で仰向けになったまま、天井を見つめていた。

今日、門が開く。帰れる。

その言葉だけが、心臓の奥で何度も跳ね返っていた。

「…帰れる、か」

小さく呟く。目を閉じると、元の世界の風景が浮かぶ。

通い慣れた道。家の玄関。弟の背中。

きっと、何も変わっていない。自分がいなくても、回っていた世界。

「…俺が戻ったところで」

言いかけて、言葉を飲み込む。

違う。それは、ただの言い訳だ。

戻れば、やり直せるかもしれない。今度はちゃんと、向き合えるかもしれない。

―それでも、ここで過ごした日々が浮かぶ。

屋上の昼休み。名前を呼ばれる声。

どうでもいいはずの時間が、何より大事だった。

「…怖いんだよ」

誰に言うでもなく、吐き出す。帰るのも怖い。残るのも怖い。

帰れば、また“足りない自分”と向き合う。残れば、もう二度と戻れない。

どちらを選んでも、何かを失う。

やがて、ゆっくりと身体を起こした。そして窓の外を見る。この世界の夕焼け空。

最初は異物だった景色が、今は少しだけ落ち着く。

「…俺」

拳を握る。

「俺は、どうしたい」

"正しい方"じゃない。"楽なほう"でもない。

心の奥にある、本音。

しばらく考えて。ふっと、力が抜ける。

「…そっか」

小さく笑う。帰れることが嬉しいかと聞かれたら、答えは曖昧だった。

でも、この世界を失う想像をしたとき、胸がはっきり痛んだ。

それが、"答え"だった。

「…俺は」

まだ声には出さない。けれど、もうほとんど決まっている。怖いから残るんじゃない。ここで、生きたい。

必要とされる自分を、逃げずに続けたい。

ドアの向こうから、足音がする。

「凛馬、準備できたにゃ?」

ミケの声。凛馬は、一瞬だけ目を閉じる。そして、いつもの声で返す。

「…ああ、できてるよ」

門の前で言う言葉は、もう決まっている。怖さは消えない。

でも―逃げないと、決めた。

 

夕暮れの神殿跡は、静まり返っていた。

崩れた石柱の中央。空間がゆらぎ、淡い光が円を描く。向こう側には、凛馬の元いた街並みがぼんやりと映っている。

空は茜色に染まり、長い影が石畳に伸びていた。

校長が一歩前へ出る。白いたてがみが、夕風に揺れた。

「まもなく刻限だ。門は日没とともに閉じる」

低く、重い声で校長は言った。

「凛馬くん。これが最後のチャンスだ」

六人が、凛馬の後ろに並ぶ。誰も、無理に笑っていない。

ミケは、凛馬の隣に立つ。手は繋がない。ただ、触れられる距離にいる。

「…凛馬」

その声は、震えていない。震えないようにしている。

「選ぶのは凛馬にゃ。私は、どっちでも誇りに思うにゃ」

コハクが拳を握る。

「どっちでも、友達だよ」

アオは静かに頷く。

「……後悔だけは、しないでね」

ミナは自分の胸に手を当てる。

「…あなたが決めた未来なら、応援します」

ヒョウカは短く言う。

「胸張れ」

校長が凛馬を見る。

「帰れば、元の人生が待っている。残れば、君はこの世界の一員として生きることになるどちらも、正解だ。だが―選ばなければならない」

門の光が強くなる。凛馬は、一歩踏み出した。足先が光に触れる。

懐かしい匂い。遠い記憶。弟達の背中。いなくても困らない自分。

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

―帰れば、楽だ。

迷わなくていい。ここで築いたものを、背負わなくていい。

でも―

振り返ると、夕陽を背にした仲間たちがいる。確かに自分を見ている人たちがいる。待ってくれている人たちがいる。名前を呼んでくれる人たちがいる。

―それだけで、十分だった。

「…俺は」

声が掠れる。怖い。本当は、どちらも怖い。

それでも。

「俺は、もう―」

ゆっくりと、門から足を引いた。光がざわめく。

「“余る”場所に戻るのが怖くて残るんじゃない」

凛馬は震える手を抑えるように拳を握る。

「ここで、ちゃんと必要とされる自分になりたい」

視線をまっすぐ前に向ける。

「逃げるんじゃない。選びたい」

そして、はっきりと言った。

「俺は、この世界で生きます」

一瞬の静寂。次の瞬間―

門が大きく軋み、光が弾ける。空間がひび割れるような音を立て、向こう側の景色が崩れていく。空の端で、太陽が地平線に沈んだ。

校長が静かに目を閉じた。

「…そうか」

門は完全に閉じ、神殿跡には赤く残る夕焼けだけが残った。

帰り道は、消えた。

「…はは」

震える笑いがこぼれる。

「帰れなくなったな」

それなのに、不思議と息はしやすかった。

次の瞬間。

「にゃああああ!!」

ミケが泣きながら飛びついた。

「ばかにゃ!かっこつけすぎにゃ!!」

胸に顔を埋めて、泣きじゃくる。凛馬は、ゆっくりとその背に手を回した。

「…姉ちゃん」

初めて、自分からそう呼ぶ。

コハクが安堵のため息を吐き、アオが小さく笑う。

ミナは目元を押さえ、ヒョウカは「やれやれ」と呟いた。

校長が、厳かに告げる。

「本日をもって、凛馬くんはこの世界の住人だ」

朝日が差し込む。凛馬は、もう門を見なかった。迷いは、消えていた。

 




最後まで見てくださりありがとうございます!
これからの凛馬の人生、どうなって行くのか、、、要注目です!
反応くださると励みになります!
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