「にゃ・・・?凛馬、今なんて・・・?」
「え・・・それって・・・可能なの・・・?」
誰も答えを持っていなかった。そんな方法、聞いたことがない。
「・・・実は」
ミケ母が真剣な表情で口を開く。
「昔、祖母から聞いた話なんだけど・・・『人間を獣人に変える儀式』が、古い伝承として残っているらしいの」
「にゃ!?お母さん、そんな話聞いてないにゃ!」
「だって、人間がこの世界に来ることなんて、滅多にないから・・・.まさか使う日が来るとは思わなかったわ」
「で、その儀式って・・・どんなもの?」
「えっとね、古い口伝にしか残っていない儀式よ。猫族、熊族、兎族、狐族、豹族・・・この五つの種族が、人間と血の契約を結ぶことで、人間は獣人の特性を得られるらしいわ…」
「僕たち・・・ちょうど五種族揃ってるね!」
「で、でも・・・血の契約って・・・どうやるんです
か・・・?」
「簡単よ。五人が順番に、人間の額に自分の血を一滴垂らして、『我が血を分け与え、汝を我が種族の一員と認める』と唱えるの。そうすると・・・人間は、五種族すべての特性を持つ『混血獣人』になるらしいわ」
「・・・混血獣人・・・?」
「ええ。耳や尻尾は、五種族のどれか一つだけが現れるけど、身体能力や特性は、五種族すべてを持つことになる。つまり、猫族の俊敏性、熊族の力、兎族の跳躍力、狐族の賢さ、豹族の野性・・・全部ね」
「すごい・・・それって、凛馬くん、めちゃくちゃ強くなるんじゃない?」
「にゃ!凛馬が獣人になったら・・・.もっと一緒に遊べるにゃ!」
「僕も凛馬くんと同じになれるなら・・・嬉しいな!」
「・・・俺も、悪くない」
「凛馬くん・・・本当に・・・いいんですか・・・?人間じゃなくなるって・・・」
ミケ母が凛馬を真っ直ぐ見つめる。ミケ母は、ほんの一瞬だけ凛馬から目を逸らした。その視線の先には、ミケたちがいた。
―守るべき子どもたちを見てから、もう一度凛馬を見た。この選択が、誰かを幸せにし、同時に誰かを傷つけると知りながら。
「凛馬くん。この儀式は、一度やったら元には戻れない。本当に、獣人になりたい?」
凛馬は一瞬言葉に詰まった。だが直ぐにミケ母の方を見て、
「僕は元の世界に戻るつもりはありません。是非やらせてください。」
その場にいた全員が、同じ未来を思い浮かべて、黙った。凛馬の決意は本物だ。
「人間のままだと……また、どこかで置いていかれそうで。ここで一緒に生きるなら、同じ時間を、同じ姿でいたい」
その言葉に、誰もすぐには返事ができなかったが、リビングの空気が一変した。
「凛馬!本当に!?」
ミケが凛馬の手を握りしめる。その瞳には、喜びと興奮が溢れていた。
「・・・わかったわ。じゃあ、今から準備するわね」
ミケ母が立ち上がり、奥の部屋から古い木箱を持ってくる。木箱は、長い年月で角が丸くなっていた。
「これは、代々紅葉家に伝わる儀式道具よ。まさか使う日が来るなんてね」
中には、小さなナイフと、五色の布が入っていた。
「僕たち・・・本当にやるの・・・?」
「血の契約・・・ちょっとドキドキするわね」
「・・・痛くはない。ほんの少しだ」
「凛馬くん・・・怖くないですか・・・?」
ミケ母がテーブルの上に五色の布を円形に並べる。赤(猫族)、青(熊族)、白(兎族)、金(狐族)、黒(豹族)。
「凛馬くん、真ん中に座って」
凛馬が円の中心に座ると、5人が周囲を囲む
ように座った。
ミケ母「それじゃあ、始めるわね。順番は・・・
猫、熊、兎、狐、豹。ミケから」
「にゃ・・・凛馬・・・これで、本当に家族になれる
にゃ・・・」
「我が血を分け与え、汝を我が種族の一員と
認める」
その声は少しだけ、震えていた。
ミケが凛馬の額に、自分の血を一滴垂らす。温かい感触が、凛馬の額に広がった。
「僕も・・・!」
「我が血を分け与え、汝を我が種族の一員と認める」
「私も・・・凛馬くんと・・・繋がりたいです・・・」
「我が血を分け与え、汝を我が種族の一員と認める」
「凛馬くん…私たちの仲間になってね」
「我が血を分け与え、汝を我が種族の一員と認める」
ヒョウカは何も言わず、ただ血を垂らした。
―その方が、覚悟は伝わる気がした。
血が触れた瞬間、胸の奥を掴まれるような痛みが走った。凛馬の額に垂らされた五滴の血が、まるで生きているかのように光り始めた。赤、青、白、金、黒。五色の光が渦を巻き、凛馬の体を包み込む。
「にゃ!凛馬!」
光が強くなり、リビング全体を照らす。そして―光が消えた。
凛馬の中の“人間だった部分”が、光にほどけた。
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次回、第一章最終回です!今日も二話一気に投稿しました!