凛馬の頭には、小さな獣耳が生えていた。それは、五色が混ざり合った、虹色に近い美しい耳。尻尾も同じく、虹色のグラデーションを持つ、ふわふわとした尻尾が揺れていた。空気の匂いも、音も、輪郭がはっきりした。
それが、凛馬の新しい身体だった。その耳は、温かくて、確かに“自分のもの”だった。凛馬は思わず、自分の耳に触れた。
—確かに、もう人間ではなかった。失ったものを数えるより、ここにある温もりの方が確かだった。
「にゃあああ!凛馬!すっごく可愛いにゃ!虹色の耳と尻尾にゃ!」
ミケが興奮して凛馬に抱きつく。
「わあ!凛馬くん、本当に獣人になった!耳、触っていい!?」
「ふふ、虹色なんて珍しいわね。五種族の血が混ざったからかしら?」
「・・・似合ってる」
「凛馬くん・・・おめでとうございます・・・!」
「まあ!本当に成功したわ!凛馬くん、体の調子はどう?」
凛馬が立ち上がると、体が驚くほど軽く感じられた。視界もクリアで、音もよく聞こえる。そして、尻尾が自然に揺れる感覚が不思議だった。庭の空気は普段より濃密に感じられ、体中の毛先が微かにざわつく。誰も言葉にはしないが、心の奥がそわそわしているのを、凛馬は感じ取った。
「にゃあ!凛馬が喜んでくれて嬉しいにゃ!ねえねえ、耳触らせてにゃ!」
ミケが凛馬の虹色の耳に手を伸ばし、優しく撫でる。
「ふわふわにゃ!しかも虹色だから、光の加減で色が変わって見えるにゃ!綺麗にゃ!」
「僕も!僕も触りたい!」
アオが反対側の耳を撫でる。
「わあ!本物だ!凛馬くん、これで僕たちと同じだね!」
「尻尾も可愛いわね。ふふ、揺れてる揺れてる♫」
コハクが尻尾の先を優しく掴む。
「・・・動きを試してみろ。今のお前は、五種族の能力を持ってる」
「そうね。凛馬くん、庭に出ましょう。そこで能力を試してみて」
6人と母親が庭に出る。夜空には星が輝き、静かな夜だった。
「さあ、凛馬くん。まずは跳んでみて。たぶん、自分でも驚くわよ」
「僕も熊族だから、一緒に跳ぼうよ!」
凛馬が軽く膝を曲げ、ジャンプする。すると体が信じられないほど高く浮き上がり、家の屋根まで届きそうな高さまで跳躍した。
「にゃあああ!凛馬すごいにゃ!」
「あはは!これは面白いわね!」
着地した凛馬の体は、まるで羽が生えているかのように軽かった。
「次は走ってみろ。猫族と豹族の俊敏性がある」
「にゃ!じゃあ、庭を一周してみてにゃ!」
凛馬が走り出すと、風を切る速さで庭を駆け抜ける。視界がブレることなく、障害物も瞬時に避けられた。
「速い!僕より速いかも!」
「狐族の賢さもあるから、判断力も上がってるはずよ。それに兎族の跳躍力も」
「凛馬くん・・・本当にすごいです・・・五種族全部の力を・・・」
理屈はわからない。ただ、体だけが答えを知っていた。
「それと、虹色の耳と尻尾は、五種族の調和の証。とても珍しいわ。凛馬くん、あなたはとても珍しい存在よ」
「にゃ!凛馬は私の大切な弟で、特別な獣人にゃ!」
ミケが凛馬に抱きつく。
「明日、学校でみんなびっくりするね!」
「ふふ、注目の的になるわよ、凛馬くん」
「・・お前、もう完全にこの世界の住人だな」
「凛馬くん・・・おめでとうございます。私たちと、本当に繋がりましたね」
凛馬の新しい姿と能力に、みんなが笑顔で祝福する。こうして、凛馬は完全にこの世界の一員となった。
「凛馬は元の世界でも、この世界でも特別にゃ!だから私が見つけたにゃ!」
ミケが凛馬の虹色の尻尾を優しく撫でながら、満面の笑みを浮かべる。
「ふふ、運命ってあるのかもね。凛馬くんがこの世界に来たのも、私たちと出会ったのも、全部必然だったのかもしれないわ♫」
「僕、凛馬くんに会えて本当によかった!これからもずっと一緒だね!」
アオが凛馬の手を握る。その手は、もう人間と獣人ではなく、獣人同士の温かさだった。
「……守る側に回る覚悟、できてるか」
ヒョウカが珍しく優しい表情で凛馬の肩を叩く。
「凛馬くん・・・明日から学校も変わりますね。獣人としての授業も受けられますし・・・.体育とか、楽しみですね」
「そうね。それと凛馬くん、首輪はもう外してもいいわよ。あなたは獣人だもの。識別タグだけ付ければ大丈夫」
「にゃ!そうにゃ!凛馬、首輪外すにゃ?」
ミケが凛馬の首に付いていた赤い革製の首輪に手を伸ばす。
「でも・・・ちょっと寂しいにゃ・・・この首輪、凛馬が私のって証だったにゃ・・・」
「あら、ミケったら独占欲?でも、もう凛馬くんは法律上も紅葉家の一員だから、首輪なんていらないわよね」
「そっか・・・凛馬くん、もうペットじゃなくて、僕たちと同じ獣人だもんね」
夜空の下、6人が凛馬を囲んで立っている。もう、凛馬を守る必要はない。凛馬は、彼らと対等な存在になったのだから。
「にゃ!でも、凛馬は私の弟にゃ!それは変わらないにゃ!」
ミケが凛馬に再び抱きつく。虹色の尻尾と赤い猫尻尾が絡まり合う。
「さあ、そろそろ中に入りましょう。明日は大事な日よ。凛馬くんの初めての『獣人としての登校日』だもの」
「そうね。クラスのみんな、きっとびっくりするわよ」
凛馬は外した首輪を手に取り、少し考えるように視線を落としたあと、ふっと口元を緩めた。
「……じゃあさ」
そう言って、冗談めかしてミケの前に立つ。
「今度は俺が飼い主ってことで、どうだ?」
「にゃ!? ちょ、ちょっと凛馬、何言って―」
首輪を首元にかざされた瞬間、ミケは目を丸くしたが、すぐに状況を理解したのか、ぷいっとそっぽを向いた。
「……もう。似合ってるにゃ?」
ミケは照れ隠しをするように見せた。その仕草に最初に吹き出したのはアオだった。
「ははっ!それ完全に仲良しのやつだよね!」
コハクもくすっと笑った。
「もう、二人とも。見てるこっちが恥ずかしいわ」
「…悪くない」
ヒョウカは短く言って、視線を逸らした。
ミナもほっとしたように微笑む。
「こうして笑えるのが、一番ですね……」
ミケの母も柔らかく頷いた。
「ええ。もう、誰かに縛られる関係じゃないもの。“繋がり”かしらね」
ミケは照れ隠しのように首輪を軽く指で弾いた。
「冗談に決まってるにゃ!でも、こうやって凛馬と
こんな“なんでもない時間”が、一番嬉しいにゃ」
皆の笑い声が庭に広がる。その輪の中心で、凛馬は確かに思った。
―もう、この世界で一人じゃない。
五種族の力を宿した凛馬と、彼を取り巻く仲間たち。これまで守られるだけだった日々は終わり、互いに認め合い、支え合う「虹の契約」が結ばれたのだった。
夜空の星だけが、この始まりを静かに知っていた。
一章最後まで見てくださりありがとうございました!
それとタイトルを内容に合わせて変更しました!
物語の中身は変わっていませんので、第二章からも引き続き読んでいただけると嬉しいです!