仲間たちの家を順番に回る“お泊まりウィーク”が始まる。
今夜はアオの家へ――。
「にゃあ……今日はアオの家かにゃ……寂しいにゃ……」
ミケが凛馬の荷物をチェックしながら、しょんぼりとした表情を浮かべる。凛馬が着替えや歯ブラシをバッグに詰めていた。
「あらあら、ミケ。昨日散々凛馬くんと一緒だったでしょう?」
「だって……もっと一緒にいたいにゃ……」
凛馬がバッグを背負い、玄関に向かうと、ミケがぎゅっと凛馬の腕を掴んだ。
「にゃ……でも、アオの家で楽しんできてにゃ!アオのご飯、美味しいんだからにゃ!」
無理に作った笑顔だった。凛馬が頭を撫でると、ミケの猫耳がぴんと立つ。
「にゃふ……明日、学校で会えるにゃ。いってらっしゃいにゃ!」
「…ここだよ、な?」
大きな木造の一軒家。玄関の前には、青緑色の髪をした大柄な女性が立っていた。熊族の特徴を持つアオの母だ。
「あっ!凛馬くん!来た来た!」
アオが飛び出してきて、凛馬に抱きつく。勢いよく、まっすぐに。
「あら!噂の凛馬くんね!ようこそ!」
家の中は木の温もりが感じられ、リビングには大きなテーブルと暖炉があった。どこか懐かしい匂いがする。
「僕の部屋、こっちだよ!」
アオに手を引かれて二階へ上がる。大きな手。温かい。力強いのに、優しかった。
部屋にはベッドが二つ並んでいた。
「今日は一緒に寝ようね!夕ご飯はお母さんの特製ハニーカレーだよ!」
アオが何かを思い出したかのように棚を漁り始めた。
「これ見て見て!僕の宝物!」
木箱を開ける。そこには思い出が詰まっていた。
「これ、小学校の時にミケと作ったブレスレット。これはみんなで撮った写真!」
写真には幼い頃の五人が並んでいた。写真の五人は笑っている。無邪気で、まっすぐで、強い。
「凛馬くんも、これから一緒に思い出作ろうね!」
手を握られる。その手は、まるで守られいる様だった。虹色の尻尾が自然とアオの腕に絡まる。
「わ……ふわふわで気持ちいい……」
その無防備な笑顔に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
夕食。テーブルには大鍋のハニーカレーがおいてあった。
「たくさん食べてね!」
一口食べると、甘さと辛さが絶妙に混ざる。優しい味だ。
「美味しいです!」
「でしょ!」
アオが笑う。その笑顔は、疑いを知らない。
「じゃあ、おかわりね!」
もう一杯盛られる。
「えへへ……学校のおかず攻めと同じだね……」
アオは、凛馬が無理していないか、ちゃんと見ている。信じているけれど、放っておかない。
お風呂の後。星空の下、ベッドに座る。
「全校集会のスピーチ……本当に感動したよ」
真っ直ぐな目。
「凛馬、すごかった」
迷いなく言う。
「僕ね、凛馬と友達になれて本当に嬉しいんだ。これからもずっと一緒にいようね!」
手を握られる。強く、迷いなく。
尻尾がまた絡む。その仕草はもう無意識だった。
凛馬の胸の奥に火が灯る。アオは、凛馬がどこかへ行ってしまいそうな時、きっと手を離さない。
「凛馬はさ、ひとりで全部抱えちゃいそうだから」
ぽつりと、言う。
「ちょっとくらい、僕に預けてよ」
軽い声。笑顔のまま。でも、そこにあるのは覚悟だった。
アオが寝静まった頃。凛馬は天井を見つめていた。
アオは明るい。まっすぐだ。信じることを疑わない。一緒にいると、不思議と落ち着く。ひとりじゃない、と思える。
「……なんで俺、こんなこと考えてるんだ……」
かっこいいのは、どっちで守る側なのは、どっちなんだろう。
いつの間にか、凛馬の方が、支えられている気がした。
朝。アオはもう起きていた。
「一緒に寝れて、すごく幸せだったよ!」
屈託のない笑顔。その言葉に、心臓が一拍だけ強く鳴った。
理由は分からない。でも、分からなくていい気もした。
学校へ向かう途中。いつもの4人が待っていた。
「にゃああ!凛馬ー!」
ミケが飛びつく。
「凛馬は私のにゃ!」
「僕も……」
腕を取り合われる。
凛馬の心の中で、何かが少しずつ変わり始めていた。友情とは少し違う、温かくて甘い感情。
それはまだ小さい。でも確かに、燃えている。
メラメラと、静かに。そしてまだ知らなかった。
その笑顔を、この先いちばん長く追いかけることを。
そして、いつか、今度は自分が――
あの笑顔を守りたいと、思うようになることを。
最後まで読んでいただきありがとうございます
次回、校長室でまた何かある様です… 凛馬の可能性が開かれそうです。