BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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能力測定の話が持ち上がり、世界が少しずつ動き始めた。
そんな中、凛馬は次の“お泊まり先”へ向かう。



25話 遊泳者

今日はミナの家に泊まりに行く日だ。そして毎度の如くミケが悲しんでいる。

「にゃあ……今度はミナに取られるにゃ……」

ミケがしょんぼりと呟く。アオも少し寂しそうだ。

「ミナちゃんの家、楽しんできてね……」

「あら、明日は私の家よ?楽しみにしててね、凛馬くん」

「……明後日は私のところか。まあ、適当に過ごせばいい」

放課後、凛馬はミナと並んで家へ向かった。

 

大きな二階建ての家。玄関には三つ編みの優しそうな女性と、小さな兎族の女の子が立っていた。

「ただいま、お母さん。凛馬くんを連れてきました」

「まあ!噂の凛馬くんね!ようこそ!」

小さな女の子が恥ずかしそうに見上げる。

「お、お兄ちゃん……虹色の耳……綺麗……」

「妹のモモです。会いたがっていたんですよ」

家の中には大きな本棚があり、静かで落ち着いた空気だった。

ここは、音が柔らかい。言葉も、足音も、心臓の音さえも。

 

ミナの部屋は整理整頓され、机には本が綺麗に並んでいる。ベッドは二つあった。

「今日は……ゆっくり過ごしましょう。お茶、いかがですか?」

いつもの学級代表とは違う、柔らかい笑顔だった。

「これは何?」

「小学生の頃の写真アルバムです」

幼い頃の五人の写真。

「みんな、幼稚園からの幼馴染なんです」

ページをめくるたび、思い出が続く。

「凛馬くんも……これから私たちの思い出に加わってくれますよね?」

まっすぐな視線。未来に自分が含まれている、という言い方。その言葉が、思ったより胸に残った。

 

夕食の時間になり、凛馬とミナはリビングへ行く。テーブルにはシチューと手作りパンが並んだ。

「ミナが凛馬くんのために、デザートも作ったのよ」

「お、お母さん!」

モモが笑う。

「朝からケーキ作ってたんだよ!」

ミナが真っ赤になる。

一口食べる。優しい味だった。甘すぎず、でもちゃんと温かい味だった。

「美味しいです……!」

ミナの表情が一気に緩む。兎耳がぴょこんと跳ねた。

シチューを食べ終えると、ミナがケーキを出してくれた。

「初めて作ったので……」

一口食べると。虹色の尻尾が大きく揺れた。

「わあ!尻尾が喜んでる!」

「気に入ってもらえたみたいね」

ミナがほっと息を吐く。その安堵の顔を見て、胸の奥が少し温かくなった。

誰かのために努力することを、当たり前のようにやる人。その真面目さが、どこか眩しい。

 

お風呂の後。パジャマ姿でベッドに座る。部屋の明かりは少し落としてあった。

「凛馬くん……スピーチのこと、ずっと考えていました」

真剣な瞳。

「一人だったこと……辛かったこと……聞いていて、胸が苦しくなりました」

目が少し潤んでいる。

「でも、今は私たちがいます。ミケも、アオも、コハクも、ヒョウカも……そして、私も」

“私も”の部分だけ、ほんの少し声が小さくなる。

ミナがそっと手を重ねた。その手は温かい。でも、わずかに震えていた。

「凛馬くんは……もう一人じゃありません。だから……これからも一緒にいさせてくださいね」

一緒にいさせてください。選ぶ、ではなく。選ばれる、でもなく。“いさせてください”。

その慎重さが、胸に残る。

「……手、握ったままでいいですか」

ミナが遠慮がちに聞いた。鼓動が早いのは、ミナ自身が一番分かっている。

凛馬は不思議そうに瞬きをする。

「い、いえ……!なんでもありません……!そろそろ寝ましょう……!」

ミナは慌てて手を離し、ベッドに潜り込む。引いた線を、自分で守るように。

 

部屋の灯りが消え、月明かりだけが残る。

「おやすみなさい……凛馬くん……」

小さな声が闇に溶けた。凛馬の心臓が、また一拍だけ強く鳴る。理由はまだ分からない。

――ミナの優しさ。真面目で、一生懸命で、まっすぐなところ。

そのあと、なぜかアオの笑顔も思い出す。二人とも、自分を本気で気遣ってくれている。この感情は何なのか。まだ、名前はない。

虹色の尻尾が、無意識に揺れた。

 

その頃。

ミナは、目を閉じたまま眠れていなかった。胸の奥で、何かがざわつく。

理性的に整理したはずの気持ちが、夜になると勝手に音を立てる。

“恋は、音楽みたい”だと思った。最初は小さな旋律。気づかないふりをすれば、消えると思っていた。

でも違う。机に向かっている時も。ページをめくっている時も。凛馬の声が、頭のどこかで鳴っている。

消えない。何度、線を引いても。何度、これは友情ですと書き直しても。消えなかった。

「……困らせないでください」

小さく、布団の中で呟く。怒っているわけじゃない。恨んでいるわけでもない。

ただ。ミナの頭の中で言葉が並ぶ。

“どうしてそんなに優しいのですか。”

“どうしてそんなに無防備に笑うのですか。”

“どうして私は、その笑顔に救われてしまったのですか。”

「……凛馬くん、あなたのせいですよ」

ほんの少しだけ、笑う。

明日になれば、またきちんとした顔でいられる。優等生でいられる。

でも今夜だけは。この音を、止めない。止められない。それでも、それでもきっと、私は。

あなたの隣にいる資格がある人間でありたい。

月明かりが、静かに部屋を照らしていた。

 

明日はコハクの家。明後日はヒョウカの家。

そして週末は能力測定実験。

新しい生活は、少しずつ、確実に動き始めている。

心の中の温かい変化は――まだ名前をつけられない。

けれど確かに、消えない音のように、胸の奥で鳴り続けていた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!
次のお泊まり先では、何か一波乱ありそうです…
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