昼休み、その変化に気づく者が現れる。
昼休み。屋上。
「にゃ……凛馬、また今日もぼーっとしてるにゃ」
ミケが顔を覗き込む。
凛馬は弁当を半分ほど残したまま、空を見上げていた。胸の奥に溜まっている感情が、言葉にならない。
会いたい、とか。
そばにいたい、とか。
何かあったら守りたい、とか。
そんな気持ちが、いつの間にか当たり前のようにそこにあった。
でも――それが誰に向いているのか、自分でもはっきりしない。
アオの笑顔が浮かぶ。胸の奥が、少しだけ熱くなる。
続いてミナの真面目な横顔。隣にいるだけで、背筋が伸びるような安心感。
からかうように笑うコハクの表情。距離が近くて、心をかき回される感じ。
そして――ヒョウカ。無表情のまま隣に立って、「無理するな」とだけ言う声。静かなのに、不思議と一番深く残る。
……そこで、思考が止まった。
ミケのことを思い浮かべようとして――なぜか、顔だけがうまく浮かばない。
声も、仕草も、ぬくもりも分かるのに、像だけがぼやける。
まるで近すぎて、輪郭が見えないみたいに。
「……なんだよ、それ」
小さく自分にツッコミを入れる。
友情だけでは片付かない。でも、恋だと言い切るにはまだ怖い。
「凛馬くん……どうしたの? 最近、少し変だよ?」
アオが隣に座る。声が近い。それだけで、意識がそちらに引っ張られた。
コハクがにやりと笑う。
「あらあら?もしかして……気になる子でもできたのかしら?」
虹色の耳がぴくっと動く。昨夜のミナの笑顔がよぎる。
――でも同時に、今ここにいるアオの声も、胸の奥に残る。
「にゃ!?き、気になる子!?誰にゃ!?」
「え……?そ、そんな……」
アオの顔色が変わる。ミナも真剣な視線を向けた。
「それは……本当ですか?」
「……決めつけるな。凛馬はまだ何も言ってない」
ヒョウカが冷静に止めるが、視線は集まったままだった。
「にゃ……凛馬……教えてにゃ……誰なのにゃ……?」
ミケの声が少し震えている。無意識に、袖を強く掴んでいた。
アオも不安そうに反対側の袖に触れる。
「凛馬くん……僕たち、仲間だよね……?」
2人の言葉には、隠しきれない焦りが見えた。逃げ場がないほど近い距離で囲まれてしまう。胸の鼓動が速くなる。
――傷つけたくない。誰も、変な顔をさせたくない。
「……なんでもないよ。最近いろいろあっただろ? その余韻がまだ抜けてないだけ」
凛馬はできるだけ軽く言った。
「にゃあ……そうなのかにゃ…」
ミケはほっと息を吐く。だが手は、まだ離れていなかった。
アオも笑う。
「そっか……良かった……」
安心した笑顔。でもどこか、少しだけ弱い。その表情が、妙に気になった。
「ふうん? でも耳、さっき反応してたわよ?」
コハクが面白そうに覗き込む。
「……言いたくないなら、無理に聞かない」
ヒョウカが言う。
視線だけが、少し長く残った。
「無理はしないでくださいね。話したくなったら、いつでも聞きますから」
ミナが優しく微笑む。それは支えようとする笑顔だった。
チャイムが鳴る。
「にゃ……午後の授業にゃ。戻るにゃ」
屋上を後にする。胸の奥で、言葉にならない感情が渦を巻いていた。
――言えない。変に思われたくない。
誰かを選ぶみたいな形に、したくなかった。まだこの気持ちに名前をつけたくなかった。
虹色の耳が、風に揺れた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
まだ名前のない感情が、少しずつ形になり始めています…次はコハクの家ですね。どうなりますことやら…