BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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ヒョウカは真正面から想いを告げる。静かな部屋で、本気の告白が落ちる。



29話 66

食後。ヒョウカの部屋。

二人はベッドに座り、静かな時間を過ごしていた。窓の外には夜景が広がり、星が滲んでいる。

この夜は、少しだけ残酷だ。静かすぎて、心の音が大きくなる。

「……凛馬。一つ、聞いていいか?」

ヒョウカが真剣な表情で凛馬を見つめる。

「お前が最近ぼーっとしてる理由……本当は分かってる。お前、誰か好きな奴がいるんだろ?」

逃げ場のない問いだった。

「アオか? ミナか? それとも……コハクか?」

一つ一つ名前を挙げるたび、ヒョウカの声が少しだけ揺れる。

凛馬の胸の奥が、それぞれ違う熱を帯びて反応した。その違いを、まだ自分でも言葉にできない。

「……私は、お前の選択を尊重する。でも……一つだけ言わせてくれ」

ヒョウカが凛馬の手を握る。冷たい。けれど、離さなかった。

「私も……お前のことが……好きだ」

言葉は震えている。それでも、逃げなかった。

「だから……選ばれなくても……お前の隣にいたい。友達として……でもいいから」

その笑顔は、優しすぎた。凛馬の心がキュッと締まる。

「お前は……私が初めて、心を開けた相手だ」

ヒョウカの声が掠れる。

「お前の優しさ、強さ、そして……寂しさも知ってる。全部、私は好きだ」

触れているのに、すがられている気がした。

「でも……私は分かってる。お前には、もっと明るくて、可愛くて、優しい奴らがいる」

ヒョウカが小さく笑う。

「特別なものなんて、私は持ってない」

その一言が、夜に沈む。

「だから……答えは急がなくていい。ただ……私の気持ちだけは、覚えておいてほしかった」

“忘れてもいい”なんて、言えなかった。ヒョウカがゆっくりと手を離す。

「……風呂、入ってこい。その間に、布団を敷いておく」

ヒョウカは背中を向けた。その肩が、小さく震えていた。凛馬は動けなかった。特別な瞬間なのに、世界は静かすぎた。

 

浴室に湯気が満ちていた。シャワーの音だけが、狭い空間に響く。

熱い水が肩を打つたび、さっきの言葉が何度も蘇る。

――“私も……お前のことが好きだ”

「……はぁ……」

思わず息が漏れた。

手のひらを見る。さっきまでヒョウカが握っていた場所が、まだ少し冷たい気がした。

胸が落ち着かない。嬉しいのか、苦しいのか、自分でも分からない。

目を閉じると――アオの笑顔が浮かぶ。次にミナの優しい声。コハクのからかうような視線。

そして、震えながら笑ったヒョウカの顔。

「……なんだよ、これ」

湯気の中で呟く。

誰か一人を思うたび、別の誰かの顔が浮かぶ。

選びたくない。失いたくない。

でも――胸の奥が、誰かの名前を呼ぼうとしている。

「……やめろ」

シャワーを強くひねる。水音が思考をかき消す。

けれど、静かになった瞬間気づいてしまう。

もう、“以前みたいには戻れない”。ただの“仲間”だった時間には。

凛馬は額を壁に預けた。湯気の向こうで、自分の虹色の耳がぼんやり揺れていた。

 

風呂から戻ると、ヒョウカは窓際に座っていた。

月明かりが横顔を照らす。

「……上がったか。布団、そこに敷いておいた」

声はいつも通り。でも、どこか遠い。

「……さっきのこと、忘れてくれてもいい。私が勝手に言っただけだから」

膝を抱える。強かったヒョウカが、こんなにも小さく見える。

“世界でひとりぼっちみたいだ”そんな顔だった。

「でも……一つだけ言わせてくれ。お前が誰を選んでも……私は、お前の味方でいる」

凛馬にとってその言葉は優しくて、残酷だった。

「誰かを選べば、誰かは悲しむ。それが恋愛だ」

それは凛馬への言葉であり、自分への宣告でもあった。

「だから……自分の心に正直になれ」

ヒョウカが微笑む。

「……寝よう。明日は能力測定だ」

灯りが消える。月明かりだけが、113号室を照らしている。

「……おやすみ、凛馬」

その声が闇に溶けた。

窓をそっと見る。もう夜が明けそうだ。この時間も、やがて終わる。明日が来る。

それでも。この部屋で交わした言葉だけは、きっと消えない。

凛馬の胸の中で、感情が渦巻く。

アオの笑顔。ミナの優しさ。コハクの軽やかな声。ヒョウカの震える告白。

誰を選ぶのか。それでも、考えるたびになぜか最初に浮かぶ顔がある。

虹色の尻尾が、無意識に揺れた。

明日は土曜日。能力測定。

そして——

この“よくある話”は、少しずつ、特別になり始めていた。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回――能力測定の日です。凛馬の力が、世界の常識を壊します。
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