BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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凛馬はミケを呼び止め、二人きりで話をする。ずっと変わらないと思っていた関係が、その言葉で揺れ始める。



32話 帰る場所

6人で歩いて帰る途中、凛馬がミケの袖を軽く引っ張った。

「ミケ、少し話がある。二人で」

「え?二人で話?どうしたのにゃ?」

ミケが首を傾げる。赤い猫耳がぴょこんと動いた。

「あ、じゃあ僕たちは先に帰ってるね!」

アオが気を利かせて手を振る。

「あら〜?凛馬とミケ、何か秘密の話〜?」

コハクがニヤニヤしながら見る。

「……行くぞ、お前ら。邪魔するな」

ヒョウカが他の3人を促す。その表情は少しだけ硬かった。

「では、私たちはお先に失礼します」

ミナが会釈し、4人はその場を離れていった。

 

二人は近くの公園のベンチに座った。夕日が、二人を柔らかく照らしている。

「それで、凛馬?話って何にゃ?なんか深刻そうな顔してるけど……大丈夫にゃ?」

ミケが覗き込む。赤い瞳には、まっすぐな心配があった。

「もしかして……お昼一人になりたいって言ったのと関係あるにゃ?」

ミケが手を握る。その手はいつも通り温かい。

「凛馬は私の大切な家族だにゃ。何でも話して?ミケお姉ちゃんが聞いてあげるから!」

その言い方があまりにも“いつものミケ”で、凛馬の胸が逆に苦しくなった。

ここで嘘をつけば、きっと守れる。でも――それはもうできなかった。

凛馬は、静かに全部を話し始めた。研究所のこと。新しい存在だと言われたこと。そして――アオへの気持ち。

言葉にするたび、心臓が重く鳴った。

ミケは黙って聞いていた。夕日が沈みかけ、影が長く伸びる。やがて、小さく息を吐いた。

「……凛馬。アオのこと、好きなんだにゃ」

その声には、驚きと、少しの寂しさが混ざっていた。

「……じゃあ、私は?私のこと、凛馬はどう思ってるにゃ?」

「……は?」

問いはまっすぐすぎて、凛馬は一瞬言葉を失った。

ミケは少し俯き、静かに続けた。

「ねえ、凛馬。覚えてるにゃ?人間だった頃、誰とも上手く話せなくて、ずっと下向いて歩いてたの」

小さく笑う。

「私、その後ろ姿見るの、すごく嫌だったにゃ。放っておいたら、どこか行っちゃいそうで」

指先が少し強くなる。

「だから、隣にいようって決めたの。家族なら、離れないでいられると思ったから」

凛馬の胸が、徐々に、静かに締め付けられる。

「私は……凛馬のこと、家族だと思ってた。でも……最近、それだけじゃないって気づいたにゃ」

頬が少し赤い。耳が震えている。

「いや、気づいちゃったんだにゃ」

その声は震えていた。

――やめてくれ、と心のどこかが叫んだ。

その続きを聞いた瞬間、“家族”だった場所が、違う意味に変わってしまう気がした。

失いたくないのに、逃げ場がなくなる予感だけが、はっきりしていた。

「凛馬が、誰かの名前で笑った時……胸が苦しくなったの。家族なのに、なんでこんな気持ちになるんだろって……ずっと分からないふりしてた」

夕日が、ミケの横顔を染める。

「家族でいれば、ずっと一緒にいられるって思ってた」

ミケの声が再び揺れる。

「でもね……それじゃ、足りなくなっちゃったにゃ……」

そして――

「私も……凛馬のことが好きなんだにゃ。家族としてじゃなくて……一人の男の子として……」

その一言が、胸の奥を強く打った。ミケは“帰る場所”だった。その存在が、今ここで恋をしている。

「でも……凛馬は、アオが好きなんだよね……?」

ミケが膝を抱える。

「……ねえ、凛馬」

顔を上げる。

「家族じゃなくても……私、隣にいちゃダメにゃ?」

その触れられた手が震えていた。

「私、幸せにしたいって思ってた。ずっと。でもそれは……家族じゃなくて……もっと特別な……」

言葉が崩れる。

「……ごめん。こんなこと言うつもりじゃなかったにゃ」

ミケの涙が落ちた。その瞬間――

凛馬の中で、何かが音を立てて割れた。誤魔化してきた均衡が、完全に崩れてしまった。

「……ミケ、違う、そうじゃなくて……」

喉が詰まる。言葉の続きを言えば、誰かを選ぶことになる。誰かを失うことになる。

その恐怖が先に来た。体が、先に動いていた。息が吸えなかった。胸が痛いのに、理由を考える余裕もなかった。

「あ……凛馬……!?」

呼び声が遠ざかる。視界から世界が流れる。心臓がうるさいほど鳴っていた。

「……やっぱり……私が余計なこと言ったから……」

ミケはその場で泣き崩れた。赤い耳を伏せて、声を殺して。

夕日だけが、何も知らないみたいに静かに沈んでいった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
均衡が完全に壊れました。守りたかった関係はもう元には戻りません。
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