5人は、それぞれ疲れた表情で登校していた。昨夜は、ほとんど眠れなかった。
「お前ら、凛馬君から手紙を預かっている」
教師が5通の封筒を取り出す。それぞれに名前が書かれていた。
「凛馬から……手紙……?」
ミケが震える手で封筒を受け取る。
「凛馬……何を……」
アオも封筒を受け取り、その場で開封する。5人が同時に手紙を読み始めた。
「まずは皆へ。突然こんな形で伝えることになってしまって、ごめん。
きっと驚かせてしまったと思うし、心配もさせてると思う。
それでも、どうしても一度、ちゃんと言葉にして伝えたかった。
皆が俺のことを好いてくれているって知った時、本当に嬉しかった。
こんな俺を好きだって言ってくれる人がいるなんて、正直、信じられないくらいで。
でも同時に、どうしていいか分からなくなってしまった。
皆のことが大切だからこそ、誰か一人を選ぶことで、誰かを傷つけてしまう気がして。
誰も悲しまない答えを探そうとして、気づいたら、全部ひとりで抱え込んでいました。
俺は、皆の本当の気持ちを知りたい。
今の想いが、その時の衝動なのか、それとも時間が過ぎても変わらないものなのか。
落ち着いた時間の中で、ちゃんと向き合いたいと思っています。
だから、勝手なお願いだとは分かっているけど、
一度だけ、1ヶ月。
普通の友達として過ごさせてください。
逃げたいわけじゃない。
ただ、自分の気持ちにも、皆の気持ちにも、ちゃんと責任を持てるようになりたい。
ごめん。俺には、今はこうすることしか出来ませんでした。
凛馬より。」
「衝動……もしかして発情期……そっか……私たち、今……」
ミケの赤い猫耳が垂れる。手紙を握りしめていた。
「確かに……俺たち獣人には発情期がある。豹族は年中不定期……」
ヒョウカが唇を噛む。
「狐族も……今の時期、発情期に入ってる……凛馬の言う通りかも……」
コハクが複雑な表情で手紙を見つめる。
「でも……僕の気持ちは本物だよ……凛馬……」
アオの目に涙が浮かぶ。青緑色の尻尾が力なく垂れていた。
「……凛馬君の言う通りです。私たちは今、冷静な判断ができない状態なのかもしれません」
ミナが眼鏡を外して目を拭う。
「1ヶ月……普通の友達のまま……凛馬は、それを望んでるんだね……」
ミケが手紙を胸に抱きしめる。
「……凛馬。お前は本当に……優しすぎるんだよ」
ヒョウカが窓の外を見つめた。
「……分かった。凛馬がそう言うなら……1ヶ月、待つわ」
コハクが手紙を丁寧に畳む。
「僕も……凛馬の気持ち、尊重する……でも……」
アオの頬を涙が伝う。
「私たちは……凛馬君を待ちましょう。そして、本当の気持ちを確かめましょう」
ミナが皆を見回す。
「……うん。凛馬が元気になるまで……私たち、普通の友達でいよう」
ミケが涙を拭う。その赤い瞳には、決意が宿っていた。
放課後。病院。
凛馬は病室のベッドで考え事をしていた。頭には包帯が巻かれている。
「……皆、手紙読んでくれたかな……」
虹色の耳が小さく揺れる。
「1ヶ月……この1ヶ月で、皆の本当の気持ちが分かる……そして、俺も……自分の気持ちと向き合わないと……」
天井を見つめる。その表情には、不安と決意が混ざっていた。
その時、コンコン、とドアがノックされる音が響いた。
「……どうぞ」
ドアがゆっくり開き、5人の少女たちが入ってきた。
「凛馬……!起きてたんだね……よかった……」
ミケが無理に笑顔を作る。だが、その赤い瞳には不安が滲んでいた。
「凛馬……体、大丈夫……?痛いところない……?」
アオがベッドに近づく。青緑色の尻尾が小刻みに揺れている。
「……手紙、読んだ」
ヒョウカが壁にもたれながら言う。無表情の奥に、複雑な感情が揺れていた。
「あのね、凛馬……私たち、ちゃんと考えたよ。1ヶ月……普通の友達でいるって」
コハクが優しく微笑む。だが金色の尻尾は落ち着きなく揺れていた。
「凛馬君の気持ち、私たちは尊重します。でも……今日は、お見舞いに来ました。友達として」
ミナが小さな花束を差し出す。
5人は、それぞれ必死に「普通」を装っていた。
だが、その表情には不安と戸惑いが隠しきれなかった。
「あ、あのね!学校でね……」
ミケが明るく話し始める。だが声は少し震えていた。
「あ、僕も!体育の時間にね、ドッジボールやって……」
アオも続くが、視線は凛馬から離れない。
「ふふ、その時ミケがね、ボール避けようとして転んじゃって〜」
コハクが笑う。しかしその笑顔はどこか硬かった。
「……お前ら、無理してるの丸わかりだぞ」
ヒョウカがため息をつく。
「え……そ、そんなことないよ……?私たち、普通に……」
ミケの声が小さくなる。
「……ごめんなさい、凛馬君。私たち、まだ……上手く普通に戻れなくて……」
ミナが俯く。
沈黙が病室を包んだ。
「……ねえ、凛馬。僕たち……本当に、1ヶ月待てるかな……」
アオが小さく呟く。
「うん。きっと待てるよ。」
凛馬は少しだけ視線を落とした。
「俺さ……もし今の気持ちのまま誰かと結ばれて、あとで『違った』って思わせるのが、一番怖いんだ。」
「好きって言ってくれたことまで、後悔に変わってほしくなくて……だから、ちゃんと時間を置きたかった。」
「凛馬……僕たちのこと、ちゃんと考えてくれてるんだね……」
アオの目に涙が滲む。
「……お前の言う通りだ。俺たちが今、本当に恋してるのか、それとも発情期で判断が鈍ってるだけなのか……」
ヒョウカが腕を組む。
「……1ヶ月後、発情期が落ち着いた時。その時の気持ちが、本物なんだろうな」
ヒョウカが小さく息を吐く。
「……俺は、今でも本物だと思ってる……」
ほとんど呟きに近い声だった。誰も返事をしなかった。いや、聞こえていなかったのかもしれない。ただ、アオだけが一瞬だけ視線を伏せた。
病室には、静かな空気だけが残った。
「ありがとう、凛馬。ちゃんと考えてくれて」
「でも……僕の気持ちは発情期とか関係なく……」
アオが凛馬の手に触れかけて、止まった。触れてしまえば、また「友達」に戻れなくなる気がした。
「……ごめん。今は、普通の友達だもんね……」
尻尾が力なく垂れる。なぜか、その瞬間だけ胸が少し痛んだ。
「凛馬君の気持ち、分かりました。私たちは……1ヶ月、ちゃんと待ちます」
ミナが眼鏡を直す。
「……うん。凛馬が元気になるまで、私たち、ちゃんと友達でいるね」
ミケが無理に笑顔を作った。
「だから……早く元気になってね、凛馬」
やがて5人は帰る支度を始める。
「……じゃあ今日は帰るか。ちゃんと休めよ」
ヒョウカが立ち上がる。
「また明日も来るからね〜」
コハクがウインクする。
「凛馬……また明日にゃ……」
「お大事にしてください」
「……バイバイ、凛馬」
アオは何か言いかけて、結局何も言わずに微笑んだ。
ドアが閉まり、静かな音が病室に残った。凛馬は一人、ベッドに横たわる。
虹色の耳が小さく揺れる。天井を見つめながら、尻尾が不安そうに揺れていた。
「……これで本当によかったのかな……」
人間だった頃を思い出す。友達も少なく、恋愛経験なんて皆無だった。
「5人も……俺のこと好きだって言ってくれて……でも、俺はどうすればいいんだ……」
枕を抱きしめる。
「1ヶ月待つって言ったけど…その後、どうするんだ……?」
誰かを選べば、誰かが傷つく。
「……俺には無理だ。そんなの……」
誰かを選べるほど、誰かに選ばれた経験なんて、
今まで一度もなかった。
その時、看護師が入ってくる。
「凛馬君、夜のお薬の時間ですよ」
「あ、ありがとうございます。」
「凛馬くん……悩みがあるなら、誰かに話すのも大切よ」
優しい言葉だけを残し、部屋を出ていった。
「……誰かに相談…か。でも、誰に……?」
ミケ?アオ?ヒョウカ?コハク?ミナ?
――いや、今は駄目だ。
「……俺、本当にどうすればいいんだ」
――1ヶ月後、俺は誰の名前を呼ぶんだろう。
虹色の耳が力なく垂れる。そして凛馬は、眠れない夜を過ごすのだった。
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次回、彼を待つか、それとも前へ進むか――六人の選択が試されます。