BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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凛馬が姿を消したことで、五人の日常は静かに崩れ始める。それぞれが後悔と想いを抱えながら、自分の気持ちと向き合うことになる。


35話 待つ選択

5人は、それぞれ疲れた表情で登校していた。昨夜は、ほとんど眠れなかった。

「お前ら、凛馬君から手紙を預かっている」

教師が5通の封筒を取り出す。それぞれに名前が書かれていた。

「凛馬から……手紙……?」

ミケが震える手で封筒を受け取る。

「凛馬……何を……」

アオも封筒を受け取り、その場で開封する。5人が同時に手紙を読み始めた。

 

「まずは皆へ。突然こんな形で伝えることになってしまって、ごめん。

きっと驚かせてしまったと思うし、心配もさせてると思う。

それでも、どうしても一度、ちゃんと言葉にして伝えたかった。

皆が俺のことを好いてくれているって知った時、本当に嬉しかった。

こんな俺を好きだって言ってくれる人がいるなんて、正直、信じられないくらいで。

でも同時に、どうしていいか分からなくなってしまった。

皆のことが大切だからこそ、誰か一人を選ぶことで、誰かを傷つけてしまう気がして。

誰も悲しまない答えを探そうとして、気づいたら、全部ひとりで抱え込んでいました。

俺は、皆の本当の気持ちを知りたい。

今の想いが、その時の衝動なのか、それとも時間が過ぎても変わらないものなのか。

落ち着いた時間の中で、ちゃんと向き合いたいと思っています。

だから、勝手なお願いだとは分かっているけど、

一度だけ、1ヶ月。

普通の友達として過ごさせてください。

逃げたいわけじゃない。

ただ、自分の気持ちにも、皆の気持ちにも、ちゃんと責任を持てるようになりたい。

ごめん。俺には、今はこうすることしか出来ませんでした。

凛馬より。」

 

「衝動……もしかして発情期……そっか……私たち、今……」

ミケの赤い猫耳が垂れる。手紙を握りしめていた。

「確かに……俺たち獣人には発情期がある。豹族は年中不定期……」

ヒョウカが唇を噛む。

「狐族も……今の時期、発情期に入ってる……凛馬の言う通りかも……」

コハクが複雑な表情で手紙を見つめる。

「でも……僕の気持ちは本物だよ……凛馬……」

アオの目に涙が浮かぶ。青緑色の尻尾が力なく垂れていた。

「……凛馬君の言う通りです。私たちは今、冷静な判断ができない状態なのかもしれません」

ミナが眼鏡を外して目を拭う。

「1ヶ月……普通の友達のまま……凛馬は、それを望んでるんだね……」

ミケが手紙を胸に抱きしめる。

「……凛馬。お前は本当に……優しすぎるんだよ」

ヒョウカが窓の外を見つめた。

「……分かった。凛馬がそう言うなら……1ヶ月、待つわ」

コハクが手紙を丁寧に畳む。

「僕も……凛馬の気持ち、尊重する……でも……」

アオの頬を涙が伝う。

「私たちは……凛馬君を待ちましょう。そして、本当の気持ちを確かめましょう」

ミナが皆を見回す。

「……うん。凛馬が元気になるまで……私たち、普通の友達でいよう」

ミケが涙を拭う。その赤い瞳には、決意が宿っていた。

 

放課後。病院。

凛馬は病室のベッドで考え事をしていた。頭には包帯が巻かれている。

「……皆、手紙読んでくれたかな……」

虹色の耳が小さく揺れる。

「1ヶ月……この1ヶ月で、皆の本当の気持ちが分かる……そして、俺も……自分の気持ちと向き合わないと……」

天井を見つめる。その表情には、不安と決意が混ざっていた。

その時、コンコン、とドアがノックされる音が響いた。

「……どうぞ」

ドアがゆっくり開き、5人の少女たちが入ってきた。

「凛馬……!起きてたんだね……よかった……」

ミケが無理に笑顔を作る。だが、その赤い瞳には不安が滲んでいた。

「凛馬……体、大丈夫……?痛いところない……?」

アオがベッドに近づく。青緑色の尻尾が小刻みに揺れている。

「……手紙、読んだ」

ヒョウカが壁にもたれながら言う。無表情の奥に、複雑な感情が揺れていた。

「あのね、凛馬……私たち、ちゃんと考えたよ。1ヶ月……普通の友達でいるって」

コハクが優しく微笑む。だが金色の尻尾は落ち着きなく揺れていた。

「凛馬君の気持ち、私たちは尊重します。でも……今日は、お見舞いに来ました。友達として」

ミナが小さな花束を差し出す。

5人は、それぞれ必死に「普通」を装っていた。

だが、その表情には不安と戸惑いが隠しきれなかった。

「あ、あのね!学校でね……」

ミケが明るく話し始める。だが声は少し震えていた。

「あ、僕も!体育の時間にね、ドッジボールやって……」

アオも続くが、視線は凛馬から離れない。

「ふふ、その時ミケがね、ボール避けようとして転んじゃって〜」

コハクが笑う。しかしその笑顔はどこか硬かった。

「……お前ら、無理してるの丸わかりだぞ」

ヒョウカがため息をつく。

「え……そ、そんなことないよ……?私たち、普通に……」

ミケの声が小さくなる。

「……ごめんなさい、凛馬君。私たち、まだ……上手く普通に戻れなくて……」

ミナが俯く。

沈黙が病室を包んだ。

「……ねえ、凛馬。僕たち……本当に、1ヶ月待てるかな……」

アオが小さく呟く。

「うん。きっと待てるよ。」

凛馬は少しだけ視線を落とした。

「俺さ……もし今の気持ちのまま誰かと結ばれて、あとで『違った』って思わせるのが、一番怖いんだ。」

「好きって言ってくれたことまで、後悔に変わってほしくなくて……だから、ちゃんと時間を置きたかった。」

「凛馬……僕たちのこと、ちゃんと考えてくれてるんだね……」

アオの目に涙が滲む。

「……お前の言う通りだ。俺たちが今、本当に恋してるのか、それとも発情期で判断が鈍ってるだけなのか……」

ヒョウカが腕を組む。

「……1ヶ月後、発情期が落ち着いた時。その時の気持ちが、本物なんだろうな」

ヒョウカが小さく息を吐く。

「……俺は、今でも本物だと思ってる……」

ほとんど呟きに近い声だった。誰も返事をしなかった。いや、聞こえていなかったのかもしれない。ただ、アオだけが一瞬だけ視線を伏せた。

病室には、静かな空気だけが残った。

「ありがとう、凛馬。ちゃんと考えてくれて」

「でも……僕の気持ちは発情期とか関係なく……」

アオが凛馬の手に触れかけて、止まった。触れてしまえば、また「友達」に戻れなくなる気がした。

「……ごめん。今は、普通の友達だもんね……」

尻尾が力なく垂れる。なぜか、その瞬間だけ胸が少し痛んだ。

「凛馬君の気持ち、分かりました。私たちは……1ヶ月、ちゃんと待ちます」

ミナが眼鏡を直す。

「……うん。凛馬が元気になるまで、私たち、ちゃんと友達でいるね」

ミケが無理に笑顔を作った。

「だから……早く元気になってね、凛馬」

 

やがて5人は帰る支度を始める。

「……じゃあ今日は帰るか。ちゃんと休めよ」

ヒョウカが立ち上がる。

「また明日も来るからね〜」

コハクがウインクする。

「凛馬……また明日にゃ……」

「お大事にしてください」

「……バイバイ、凛馬」

アオは何か言いかけて、結局何も言わずに微笑んだ。

 

ドアが閉まり、静かな音が病室に残った。凛馬は一人、ベッドに横たわる。

虹色の耳が小さく揺れる。天井を見つめながら、尻尾が不安そうに揺れていた。

「……これで本当によかったのかな……」

人間だった頃を思い出す。友達も少なく、恋愛経験なんて皆無だった。

「5人も……俺のこと好きだって言ってくれて……でも、俺はどうすればいいんだ……」

枕を抱きしめる。

「1ヶ月待つって言ったけど…その後、どうするんだ……?」

誰かを選べば、誰かが傷つく。

「……俺には無理だ。そんなの……」

誰かを選べるほど、誰かに選ばれた経験なんて、

今まで一度もなかった。

その時、看護師が入ってくる。

「凛馬君、夜のお薬の時間ですよ」

「あ、ありがとうございます。」

「凛馬くん……悩みがあるなら、誰かに話すのも大切よ」

優しい言葉だけを残し、部屋を出ていった。

「……誰かに相談…か。でも、誰に……?」

ミケ?アオ?ヒョウカ?コハク?ミナ?

――いや、今は駄目だ。

「……俺、本当にどうすればいいんだ」

――1ヶ月後、俺は誰の名前を呼ぶんだろう。

虹色の耳が力なく垂れる。そして凛馬は、眠れない夜を過ごすのだった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、彼を待つか、それとも前へ進むか――六人の選択が試されます。
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