BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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関係は元に戻り、6人の日常は穏やかさを取り戻していく。けれどその輪の中で、アオだけがまだ想いを手放せず、一人取り残されていた。


40話 輪の中で独り

昼休み。昼休みの屋上には、穏やかな笑い声が広がっていた。誰も恋の話をすることはなく、ただ他愛のない話題が続いていく。

それが、今の6人にとって一番自然な距離だった。

「ねえ、今度の週末うちでまた皆でご飯食べようにゃ!お母さんも喜ぶって!」

ミケが凛馬の袖を引っ張る。その仕草は、前の「家族」としての自然な親しみに戻っていた。赤い猫耳が嬉しそうにぴょこぴょこと揺れる。

「あはは、それいいね〜。私達も遊びに行っていいの?」

コハクが楽しそうに笑う。その金色の瞳には、友人としての温かさが宿っていた。

「まあ……たまには悪くないか」

ヒョウカが小さく笑う。その表情は、親友として凛馬を見守るような穏やかさがあった。

「ふふ、では私もお邪魔しましょうか。久しぶりに皆で集まるのも楽しそうですね」

ミナが優しく微笑む。その三つ編みが揺れ、眼鏡の奥の瞳には友情の温かさが溢れていた。

「……僕も……行きたいな……凛馬と……一緒に……」

アオが小さく呟く。その声は、他の4人とは少し違っていた。

一瞬だけ、空気が静かになった。

コハクが小さく瞬きをし、ミケは視線を逸らし、ミナは何も言わず微笑んだ。ヒョウカは一瞬だけアオを見た。けれど何も言わず、いつも通りの顔に戻った。

誰も、その言葉に触れなかった。

青緑色の尻尾が、そわそわと揺れている。その動きは、まだ落ち着かない感情を示していた。

アオの琥珀色の瞳が、凛馬をじっと見つめる。

その視線には――

友情以上の、何かが残っていた。

「あ……ごめん……変なこと言っちゃった……」

アオが慌てて視線を逸らし、頬を赤らめる。

「大丈夫にゃアオ!みんなで行けば楽しいにゃ!」

ミケがアオの肩を叩く。だがその視線は少しだけ心配そうだった。

「……アオ、無理すんなよ」

ヒョウカが短く言う。その言葉には、アオの気持ちを察したような響きがあった。

「そうそう〜。アオは素直でいいんだよ〜」

コハクが優しく微笑む。

「アオ……大丈夫ですか?」

ミナが心配そうにアオを見る。

――アオの気持ちはまだ、変わっていなかった。

他の4人が少しずつ「友情」へと気持ちを整理していく中で、アオだけはまだ、凛馬への「想い」を抱えていた。

 

放課後。昼休みの空気を引きずったまま、教室には穏やかなざわめきが残っていた。

「ねぇ皆。どこか寄って帰らない〜?」

「あ、いいね!久しぶりにみんなでどこか行きたいにゃ!」

ミケが目を輝かせる。

「……まあ、悪くないな」

ヒョウカも頷く。

「では、みんなで出かけましょうか」

ミナが微笑む。

アオが視線を逸らしたまま、小さく笑った。その笑顔が、少しだけ硬いことにヒョウカは気づいた。

一瞬だけ、ヒョウカの視線が止まる。何かを測るように、静かにアオを見る。

そして――

「先に行ってろ。俺はあとで合流する」

ヒョウカはそのまま歩き出した。

「じゃあカフェ行こ行こ!席取らないとにゃ!」

ミケが元気よく立ち上がる。

「限定パンケーキあるらしいよ〜!」

コハクも鞄を肩にかけた。

「楽しみですね」

ミナが微笑み、凛馬も頷く。

「アオ、行こう?」

凛馬に声をかけられ、アオは一瞬だけ迷った。

「……あ、僕も用事思い出した。先行ってて」

自分でも、少し不自然だと思う声だった。

「え、大丈夫?」

「うん、すぐ終わるから」

少しだけ無理に笑う。

「……じゃあ先カフェ行ってるにゃー!席取っとくね!」

ミケが手を振りながら階段を降りていく。

「アオ、早く来なよ〜!限定メニュー売り切れるかもよ?」

コハクが笑う。

「急がなくて大丈夫ですよ」

ミナが穏やかに微笑み、凛馬と並んで去っていった。

 

廊下には、夕方の光だけが残った。アオは鞄の紐を握ったまま立ち止まる。胸の奥が、少しだけ重い。

「……行かないのか」

振り返ると、ヒョウカが歩いてきていた。

「ヒョウカ……?みんな、先行ったよ?」

「知ってる」

ヒョウカは短く返事した。窓の外から運動部の声が遠く聞こえる。

「……僕、変かな」

ぽつりと零れた。

「みんな普通に戻ろうとしてるのに……僕だけ、まだ……」

それ以上言葉が続かなかった。ヒョウカは少しだけ視線を落とした。

「……前、俺もあった」

「え?」

「輪の中にいても、外にいる感じ」

それ以上は言わなかった。けれど、その声は少しだけ遠かった。

「ヒョウカ……」

夕陽が二人の影を長く伸ばす。ヒョウカが切り出す。

「自分だけ終わってないって顔してるぞ、お前」

アオが驚いた様に息を止める。

「見てりゃ分かる」

責めるでもなく、ただ事実を置くみたいにそう言った。

「……でも、迷惑だよね」

「誰がだよ」

その言葉は即答だった。

「少なくとも、あいつは違う」

凛馬の笑顔が浮かぶ。ヒョウカは壁から離れた。

「行くぞ。置いてかれる」

数歩歩いてから、振り返らずに言う。

「好きなら、好きでいろ」

ヒョウカの背中が角を曲がって見えなくなる。

廊下に一人残されたアオは、しばらく動けなかった。

胸の奥が、ゆっくりと熱を帯びていく。

怖い気持ちは、まだ消えていない。きっと傷つくかもしれない。

それでも――

凛馬の笑顔が浮かんだ。皆と笑っていた、あの穏やかな顔。

「……ちゃんと、伝えたい」

小さく呟く。誰に聞かせるでもない、自分への約束だった。

――もし、終わってしまったとしても。

アオは深く息を吸い、顔を上げる。そして歩き出した。

夕焼けの光が、その背中を長く照らしていた。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、抑え続けた感情が、静かに限界へと近づいていきます。
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