「ん? アオ、どうしたのにゃ?」
ミケが首を傾げる。
「あ……えっと……ちょっと……二人だけで話したいことが……」
アオがもじもじしながら言う。
「あら〜? 二人だけ? 何の話〜?」
コハクがニヤニヤしながら尋ねる。
「な、何でもないよ……! ただ……ちょっと……」
アオが慌てて顔を赤らめる。
「……分かった。じゃあ、俺たちは先に帰るぞ」
ヒョウカが静かに言った。
その視線が、まずアオへ向けられる。震える尻尾。逸らされた視線。言葉を探す指先。
――ああ。
次に、凛馬を見る。まだ状況を理解しきれていない顔。ヒョウカは小さく息を吐いた。
「え? でも……」
ミケが不安そうに二人を見る。ヒョウカはわずかに視線を伏せ、それからいつもの調子で肩をすくめた。
「野暮はやめとけ」
短く、それだけ言う。けれどその声は、どこか柔らかかった。
ヒョウカは一歩下がった。二人の間にあった空間が、静かに広がる。まるで最初から、ここに二人きりの時間が用意されていたかのように。
「ミケ、行こう? 二人の時間、大切にしてあげないと〜」
コハクがミケの肩を叩き、優しく促す。その金色の瞳には、何かを悟ったような色が浮かんでいた。
「……そうですね。アオ、凛馬君、ゆっくりお話しください」
ミナが穏やかに微笑むが、その三つ編みが少しだけ揺れた。
「……うん。じゃあ、また明日ね、凛馬、アオ」
ミケが少し寂しそうに手を振り、三人と一緒に去っていった。
ヒョウカは背を向けながら、ほんの一瞬だけ足を止めた。
――逃げんなよ。
声には出さず、心の中でだけ呟いてから歩き出した。
凛馬とアオだけがその場に残された。夕暮れの光が二人を優しく照らしていた。
「……凛馬……ごめんね……急に引き止めちゃって……」
アオが俯きながら小さく謝る。その青緑色の尻尾が緊張で小刻みに揺れていた。
凛馬は心の中で覚悟を決めていた。
「これは……多分……」
風が吹き、誰もいない帰り道の音だけが残った。夕焼けが、やけに赤く見えた。
「あのね……凛馬……僕……やっぱり……言わなきゃって……思って……」
アオが顔を上げる。その琥珀色の瞳には、涙が浮かんでいた。
アオは一度、言葉を飲み込んだ。
「僕……まだ……凛馬のこと……好きなんだ……」
アオの声が震える。
「みんなは……少しずつ……友達に戻れてる……ミケも……家族に戻れてる……でも……僕だけどうしても……友達に戻れないんだ……」
アオの頬を涙が伝う。その青緑色の尻尾が、力なく垂れ下がった。
「凛馬が笑ってると嬉しい……凛馬が元気だと僕も元気になる……でもそれが友情じゃなくて恋なんだって……分かっちゃうんだ……」
アオが両手で顔を覆う。
「ごめんね凛馬……せっかく……みんなで元に戻ろうとしてるのに……僕だけこんなこと言っちゃって……」
アオの声が、夕暮れの空に消えていく。
凛馬の心臓が、ドクンと大きく鳴った。言葉が出なかった。
夕焼けの色が滲んで見える。アオの涙も、震える声も、全部ちゃんと届いているのに――何を返せばいいのか分からなかった。
頭の中に、皆の顔が浮かぶ。
笑っていたミケ。冗談を言うコハク。静かに見守るヒョウカ。優しく頷くミナ。
ようやく戻れたと思っていた、この関係。
もし今、誰か一人を選んだら。きっと、もう同じ形には戻れない。胸の奥が、強く締め付けられる。
嬉しくないわけじゃない。嫌なわけでもない。
ただ――怖かった。
誰かの想いを受け取ることが、誰かを置いていくことになる気がして。
そして、凛馬はゆっくり息を吸った。
「アオ、ありがとう。でもごめん。少し考えさせてほしい。」
すぐに答えを出せないことが、こんなにも苦しいとは思わなかった。
それでも――
皆が「友達」として隣に立ってくれるようになった今、凛馬はようやく、誰か一人の想いから目を逸らさずにいられる場所まで来たのだと思った。
「……うん……ありがとう……凛馬……」
アオが涙を拭いながら、小さく頷く。その琥珀色の瞳には、安堵と不安が混ざっていた。
「僕……待てるよ。凛馬がちゃんと考えてくれるなら……それだけで……嬉しい……」
アオの青緑色の尻尾が、少しだけ揺れる。
「でも……ごめんね。僕……もう“友達”には戻れないかもしれない……凛馬のことこんなに好きになっちゃったから……」
アオが恥ずかしそうに俯く。その頬はまだ赤く染まっていた。
「……じゃあ僕、帰るね……また……明日学校で……」
アオがゆっくりと歩き出す。その背中は小さくて、少し寂しそうだった。
だが――数歩進んだところで、アオが振り返った。迷うように一度だけ息を吸い――
「……凛馬……好きだよ……」
アオが最後にもう一度、想いを伝えると、夕暮れの中へと消えていった。
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次回、突然の告白に、凛馬が出す答えとは?注目です!