BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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アオの想いを受け止めた凛馬は、自分の気持ちと向き合い始める。仲間たちとの時間の中で、胸の奥にある“答え”を探していく。


43話 選択の時

凛馬は一人で登校していた。

昨日の夕焼け。アオの涙。震える声。それらが、まだ胸の奥に残っていた。

「……アオ」

名前を口にしただけで、心がわずかに揺れる。

想いは本物だった。疑いようもないほどまっすぐで、痛いほどだった。

「俺は……どうしたいんだろう……」

答えだけが、見つからない。考えれば考えるほど、胸の奥が重くなる。

その時――

「……おい、凛馬」

後ろから声がかかった。振り返ると、ヒョウカが立っていた。

「……昨日、アオと話したんだろ」

それは問いというより、確認だった。

「……ああ」

凛馬は短く答える。ヒョウカは小さく息を吐いた。

「あいつ、ずっと限界そうだったからな」

朝の光を見上げながら、静かに続ける。

「みんなが前に進もうとしてる中で、一人だけ置いてかれてるって顔してた」

凛馬は黙ったまま歩く。ヒョウカが横目で見る。

「それで、お前はどうするんだ」

その言葉に、凛馬の足が少しだけ遅くなった。

「……分からない」

それは正直な言葉だった。

「アオは大切だ。でも……それが恋なのか、自分でも分からなくて」

少し長い沈黙が流れた。しばらく歩いたあと、ヒョウカが小さく笑った。

「……まあ、そう言うと思った」

そして前を向いたまま言う。

「お前は、アオと一緒にいる時どう感じる?」

凛馬の中にアオとの思い出が蘇る。

笑った顔。隣にいる時間。泣きそうな表情。

「……なんだか安心する」

自然に言葉が出た。

「嬉しくなるし……守りたくなる」

ヒョウカは頷いた。

「……それが何かは、俺は言わない。決めるのはお前だ」

その声は静かだった。

「誰かに答え教えてもらって決めたら、お前はあとで絶対後悔する」

ヒョウカは少しだけ視線を凛馬に向ける。

「逃げるなよ。それだけだ」

ヒョウカはそれ以上何も言わず、校門へ向かって歩き出した。背中が、いつもより少しだけ優しく見えた。

 

教室へ入ると、いつもの声が飛んできた。

「あ! 凛馬おはよーにゃ!」

ミケだった。いつも通りの笑顔。いつも通りの距離。それが、なぜか少しだけ安心した。

「……凛馬」

ミケが小さな声で呼ぶ。

「ちょっといい?」

廊下側へ引っ張られる。

「昨日、アオと話したんでしょ?」

凛馬は驚いた。全てが見透かされている様だった。

「……顔に書いてあるにゃ」

ミケは笑う。でも、その笑顔は少しだけ大人びていた。

「ねえ、凛馬。悩んでる理由、分かるよ。誰かを選んだら、今の関係が壊れる気がしてるんでしょ?」

それは図星だった。凛馬は言葉が出なかった。ミケは少しだけ視線を落としたあと、優しく笑った。

「でもね」

ゆっくり顔を上げる。

「誰かを選ぶって、別に誰かを捨てることじゃないにゃ」

凛馬の胸が、強く揺れた。

「私たち、もう大丈夫だから」

その言葉は、決して軽くなかった。恋を手放した側だけが言える声だった。

「だからさ」

ミケは背中をぽん、と叩く。

「ちゃんと好きな人のところ行ってきなよ!」

凛馬が言葉を失っていると――

「やっぱりここにいた〜!」

軽い声が廊下の奥から聞こえた。振り返ると、コハクとミナが並んで立っていた。

「……聞いてた?」

凛馬が思わず言うと、コハクは肩をすくめる。

「全部じゃないよ〜? でもまあ、大体はね〜」

悪びれもせず笑う。ミナは少しだけ困ったように微笑んだ。

「偶然通りかかっただけです。……ですが」

ミナが一歩近づく。

「凛馬君がまだ悩んでいることは、皆なんとなく分かっていましたから」

凛馬は再び言葉を失った。コハクがくるりと前に回り込む。

「ねえ。凛馬」

珍しく、からかいのない声だった。

「私たちさ、もう大丈夫なんだよ」

金色の瞳がまっすぐ向けられる。

「だから安心して悩みなよ。ちゃんと好きになっていいんだからさ」

ミナも静かに頷く。

「誰かを選ぶことは、関係を壊すことではありません。私たちは、変わらずここにいます」

その言葉は、押しつけではなく、ただの事実のように落ちた。

「ほらほら、主人公。行ってきな?」

コハクがいつもの笑顔で笑った。そして凛馬の背中を軽く押した。

「……なんだよ、それ」

凛馬は思わず笑ってしまった。胸の中の重さが、少しだけ軽くなる。

そして今、許された気がした。選んでもいいのだと。逃げなくていいのだと。

凛馬は深く息を吸った。胸の奥で、何かが静かに形になる。

「……俺」

小さく呟く。そして凛馬はアオのいる教室へ歩き出した。

 

凛馬の背中が教室へ消えていった後、廊下にはしばらく誰も言葉を発さなかった。

「……行ったね」

コハクが小さく呟く。ヒョウカがゆっくり歩いてきて、三人の隣に立った。

「……終わったか」

ミケが少しだけ笑う。

「まだ終わってないにゃ。これからだよ」

そう言いながらも、尻尾の動きはどこか静かだった。

ミナが窓の外を見る。朝の光が差し込み、校庭が明るく輝いている。

「……不思議ですね」

「何が〜?」

「少しだけ、寂しいのに……安心しています」

その言葉に、誰も否定しなかった。ヒョウカが壁にもたれる。

「まあ、あいつなら大丈夫だろ」

ヒョウカがぶっきらぼうに言った。

ミケが小さく息を吐いた。

「ちゃんと幸せになってほしいにゃ」

少しだけ沈黙が流れた後――

コハクが投げ出す様に笑った。

「私たち、ちゃんと失恋したね〜」

冗談みたいな言い方だったけれど、その声は優しく、震えていた。

ヒョウカが鼻で笑う。

「……今さらだろ」

ミナが静かに頷く。

「ええ。でも――好きだった時間は、なくならないですから」

四人は同じ方向を見る。教室の扉の向こう。そこにいる誰かを思いながら。

「……行こっか」

ミケが言い、四人は歩き出した。

もう追いかけるためではなく、同じ日常へ戻るために。

 

教室の窓際。アオが不安そうに外を見ていた。

その姿を見た瞬間――

凛馬の足は、迷わず動いていた。

「アオ」

名前を呼ぶ。アオが振り返る。尻尾が不安そうに揺れていた。

「凛馬……おはよう」

凛馬はまっすぐ見つめた。

「放課後……もう一回、話そう」

アオの瞳が大きく揺れる。

「……う、うん」

アオが小さく頷いたその瞬間――

凛馬はようやく、自分が前へ進んだのだと気づいた。

選択の時は、もう始まっていた。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
迷いの先で凛馬が選ぶ未来とは?
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