凛馬はアオを屋上に呼び出した。夕暮れの光が二人を照らしていた。
「凛馬……考えてくれた……?」
アオが緊張した様子で尋ねる。その青緑色の尻尾が小刻みに揺れていた。
凛馬は深呼吸をして、アオの目を真っ直ぐ見つめた。
――もう逃げない。迷わない。
「アオ……俺、ちゃんと考えた。そして……気づいたんだ」
「……!」
アオの琥珀色の瞳が大きく見開かれる。
「俺、アオのことが好きだ」
「……え……?」
アオが呆然とする。その頬が一気に赤く染まった。
「……最初は分からなかった」
凛馬はゆっくり言葉を探した。
「ただ、一緒にいるのが当たり前で……気づかなかったんだ」
夕焼けの光の中、少しだけ目を細める。
「アオが隣にいると、変に頑張らなくてよくてさ。何もしてなくても、安心できた」
小さく息を吐く。
「笑ってると嬉しくて……落ち込んでると、気づいたら目で追ってて。泣きそうな顔を見ると、理由も分からないのに……守らなきゃって思ってた」
そこで一度、言葉が止まる。
「ずっと、“大切な友達だから”って思ってた。でも……違ったんだ」
凛馬はまっすぐアオを見る。
「アオが誰かと楽しそうにしてるの見た時、少しだけ胸が痛くてさ」
静かに笑う。
「その時やっと分かった。俺、もう友達として見てなかったんだって」
少し照れたように視線を逸らし、そして戻す。
「それが……恋だって、やっと気づいた」
「凛馬……本当……?」
アオの目に涙が浮かぶ。
「……俺は、君といる時の俺が好きだ」
凛馬は初めて、心の底からの本音を話した。
「だから……俺と付き合ってくれ」
その声色は震えていた。だが真っ直ぐだった。
「……! 凛馬……凛馬……!」
アオの涙が溢れ出す。だが、それは悲しみではなく、喜びの涙だった。
「うん……! うん……!僕……凛馬と付き合いたい……!ずっと……ずっと……好きだったから……!」
アオが泣きながら凛馬に抱きつく。その青緑色の尻尾が嬉しそうにぶんぶんと揺れた。
「凛馬……好き……大好き……!ありがとう……!」
アオの温かい体温が、凛馬に伝わってくる。凛馬はアオの背中を優しく撫でた。
「俺も……アオのこと、守るから」
「うん……! 僕も……凛馬を……守るよ……!」
二人は夕暮れの屋上で静かに抱き合っていた。
屋上を出たあと、二人は並んで階段を降りていた。さっきまで聞こえていた心臓の音が、まだ胸の奥に残っている。
誰もいない廊下に、足音だけが静かに響いた。
手は――自然と繋がれたままだった。
どちらから握ったのか、もう分からない。ただ、離す理由が見つからなかった。
校舎を出ると、夕焼けはゆっくりと夜へ変わり始めていた。
オレンジ色の空の下、帰り道を二人で歩き出す。
「……なんか、不思議だね」
アオが小さく呟いた。
「何が?」
「昨日までと同じ道なのに……全然違って見える……」
照れたように笑うアオの尻尾が、落ち着かない様子で揺れている。
凛馬も思わず笑った。
「……俺も、同じこと思ってた」
少し沈黙が落ちた。
けれど、それは気まずさじゃなかった。言葉がなくても、隣にいるだけで満たされる静けさだった。
「……恋人なんだね……僕たち」
アオが確認するように呟く。
「……うん」
短く答えると、アオが嬉しそうに笑った。指先が、少し強く握り返される。
「……アオ」
「ん?」
「さっきの……夢じゃないよね?」
凛馬は立ち止まり、アオの方を見る。夕焼けの残り光が、琥珀色の瞳を優しく照らしていた。
「……夢じゃないよ」
凛馬は少しだけ考えるようにアオを見つめた。
「え……?」
次の瞬間――
ぐい、とアオの頬を軽く引っ張った。
「ふにゃっ!?」
「ほら、痛いだろ」
「い、いたいよ凛馬……! もう……!」
アオが慌てて頬を押さえる。その顔は真っ赤だった。
凛馬は思わず笑った。
「夢じゃないって証明」
「……もう……」
アオは恥ずかしそうに視線を逸らしながら、小さく笑う。
「……ほんとに、現実なんだね……」
アオはそう呟きながら、小さく笑った。その笑顔は、今まで凛馬が見てきたどんな表情よりも柔らかくて――
心の底から幸せそうだった。
それを見た瞬間、凛馬の胸の奥が、静かに温かく満たされていく。
二人はまた歩き出した。街灯が一つ、また一つと灯り始める。
「明日さ。一緒に登校しよう」
凛馬は照れくさそうに言った。
「……! 本当……?」
「うん」
アオの尻尾が、嬉しそうに大きく揺れた。
「……えへへ……楽しみ……」
その笑顔を見た瞬間、凛馬は思った。
――ああ。この顔を守りたい。そう思えることが、もう答えだったのだと。
分かれ道に差しかかる。足が、少しだけ止まる。
「……じゃあ、また明日」
「うん……また明日」
アオは少し迷ってから、小さな声で言った。
「……大好き」
今度は逃げずに、まっすぐと。
凛馬は少し笑って答える。
「俺もだよ」
アオは何度も振り返りながら帰っていった。その背中は、夕暮れよりも明るく見えた。
一人になった帰り道。凛馬は空を見上げる。
胸の奥が、静かに温かかった。もう迷いはなかった。
選択の先にあったのは、失う未来ではなく――
新しく始まる日常だった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、変わったのは、2人の関係だけではないようです。