BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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友達ではいられない――
そう気づいた二人の関係は、ついに恋人へと変わった。
選択の先にあったのは、失う未来ではなく、静かに始まる新しい日常だった。



45話 形を変えた絆

アオと別れたあと、凛馬はゆっくりと家へ向かって歩いていた。

夕焼けはもう消えかけていて、空は群青色に染まり始めている。さっきまで繋いでいた手の温もりが、まだ指先に残っていた。

「……恋人、か」

小さく呟くと、少しだけ照れくさくなる。昨日までと同じ道なのに、景色が違って見えた。

この世界で特別なことが起きたわけじゃない。ただ――隣にいる存在の意味が変わっただけなのに。胸の奥が、静かに温かかった。

 

やがて家に着き、玄関の扉を開ける。

「ただいま」

「おかえりにゃ〜」

リビングからミケの声が返ってきた。テレビの音と、湯気の立つマグカップ。いつも通りの光景。けれど今日は、その「いつも」が少しだけ違って感じた。

「……顔、分かりやすすぎにゃ」

ミケがくすっと笑う。

「今までで一番、安心した顔してる」

凛馬は思わず苦笑した。

「……そっか」

それ以上は何も言わなかった。言葉にしなくても、もう伝わっている気がしたから。

「お風呂先どうぞにゃ。今日は長めに入った方がいい顔してる」

「どんな顔だよ」

笑いながら、凛馬は風呂場へ向かった。

 

湯船に身体を沈める。熱がゆっくりと身体に広がる。

天井を見上げると、自然と今日の出来事が浮かんできた。

アオの涙。震える声。抱きしめた時の温度。

「……俺、ちゃんと答えられたんだな」

ずっと逃げていた気がする。誰かを選ぶことが怖かった。関係が壊れると思っていた。

でも――違った。

選んだから失ったんじゃない。選んだから、みんなが背中を押してくれた。

ヒョウカの言葉。コハクの笑顔。ミナの静かな肯定。

そして――

「ミケ……」

湯の中で、小さく名前を呟く。

一番近くで見守ってくれていた存在。恋じゃなくなっても、離れなかった人。

胸の奥に、感謝が静かに積もっていく。

「……ちゃんと、前に進めてるかな」

湯気の中で目を閉じる。

答えはまだ途中かもしれない。でも、もう迷ってはいなかった。

 

風呂から上がると、リビングの灯りは少し落とされていた。ミケがソファに座り、スマホをいじっている。

「おかえり、長風呂だったにゃね」

ミケがくすくす笑う。

「ほんとに考え事してたよ」

隣に座ると、ミケがちらりと横を見る。

少しの沈黙。

「……ねえ凛馬」

「ん?」

「幸せ?」

まっすぐな問いだった。凛馬は少し考えてから、笑った。

「……うん。たぶん、すごく」

ミケは小さく頷いた。

「そっか。それならよかったにゃ」

それだけ言って、背もたれに寄りかかる。その横顔は、どこか誇らしそうだった。

凛馬は一瞬だけ言葉を探した。

ありがとう、と言いかけて――やめた。まだ早い気がした。

その言葉は、もっと先で伝えたいと思った。

だから代わりに言った。

「……ミケ」

「にゃ?」

「これからも、よろしくな」

ミケは少し目を丸くしてから、笑った。

「当たり前にゃ」

 

部屋に戻り、ベッドへ倒れ込む。身体が軽い。

今日一日を思い返す。告白。涙。笑顔。繋いだ手。胸の奥に残るのは、不安じゃなく安心だった。

「……明日、一緒に登校か」

思い出して、少し笑う。もう迷いはなかった。

選択の先にあったのは、大きな変化じゃない。

――ただ、少し優しくなった日常だった。

凛馬は穏やかな気持ちのまま、眠りに落ちていった。

「……凛馬! おはよう……!」

 

朝の支度をしいていると、約束通りアオが家の前で待っていた。その表情は朝から隠しきれないほど幸せそうだった。

「おはよう、アオ。早いな」

「えへへ……凛馬と一緒に登校したくて……早く来ちゃった……」

照れたように笑うアオの尻尾が、落ち着かない様子で揺れている。

「あ、アオ!早いにゃ〜!おはよう!」

ミケが家から出てきた。

「じゃあ、三人で学校行こうにゃ!」

自然に並んで歩き出す三人。昨日までと同じ道なのに、空気だけが少し違っていた。

 

教室の扉を開けると、3人はすでに席についていた。コハクがちらりと二人を見る。

「おはよ……あれ?なんか雰囲気違くない?」

金色の瞳が細められる。ヒョウカも視線を向けた。

そして――二人の距離、視線、空気を一瞬で理解する。

「……ああ。なるほどな」

短く呟いた。

ミナは眼鏡を直し、柔らかく微笑む。

「凛馬君、アオさん……何か、良いことがありましたか?」

――本当は、もう分かっているはずだった。それでもミナは、あえて問いかけた。

「あ……えっと……その……」

アオが真っ赤になって俯く。尻尾がそわそわ揺れる。

そして凛馬は小さく息を吸い――

「……俺たち、昨日付き合うことになった」

一瞬、教室の音が止まった。

「……」

「……そうか」

「……やっぱり」

三人とも驚きはしたが、どこか納得した顔だった。

最初に笑ったのはコハクだった。

「ふふっ、そっか!やっぱりね〜!おめでとう、二人とも!」

駆け寄って肩を叩く。

「……よかったな、凛馬。アオも」

ヒョウカが小さく笑う。

「おめでとうございます。お二人とも、お幸せに」

ミナが優しく頭を下げた。

「みんな……ありがとう……!」

アオの目が少し潤む。

「アオ、泣くなよ」

ヒョウカが呆れたように言うが、その声は優しかった。

「でもさ〜、これからは正式カップルか〜。青春だねぇ」

コハクがにやにや笑う。

「私たちはこれからも友達ですからね」

ミナが静かに続ける。

「そうだよ!ずっと友達にゃ!」

ミケが力強く頷いた。

六人の関係は――形を変えて、また繋がった。

 

その少し後。

「……ちょっと飲み物取ってくる」

凛馬が立ち上がった。

祝福の空気に包まれながらも、どこか落ち着かない気持ちが残っていた。

嬉しいはずなのに、少しだけ照れくさくて。視線から逃げるように、教室を出る。

一瞬の沈黙。

そして――コハクが小さく息を吐いた。

「……行ったね、主人公」

ヒョウカが鼻で笑う。

「昨日から分かってただろ」

ミナが穏やかに頷く。

「ええ。ほぼ確信していました」

ミケがアオを見る。

「……アオ、よかったにゃ」

アオは少し戸惑いながらも頷いた。

「……うん。でも……みんな……本当にいいの?」

その言葉に、少しだけ空気が静まる。コハクが肩をすくめた。

「そりゃちょっとは寂しいよ?」

笑いながら言う。

「でもさ、それ以上に――安心した」

ヒョウカが腕を組む。

「アイツ、やっと前向いた顔してた」

ミナが静かに微笑む。

「好きだった時間は否定しません。でも、今は応援したいです」

ミケが明るく笑った。

「凛馬が幸せなら、それでいいにゃ!」

アオの目が少し潤む。

「……ありがとう」

その声は、とても小さかった。

 

「ただいまー」

凛馬が教室へ戻ってくる。四人は何事もなかったように席へ戻った。

コハクがにやっと笑う。

「遅いよ〜?主人公さん?」

「……その主人公ってやめて?」

凛馬が苦笑しながら言った瞬間――

一拍遅れて、教室に笑い声が広がった。

「ははっ、確かにそれは恥ずかしいにゃ!」

ミケが机を軽く叩きながら笑う。尻尾が楽しそうに揺れていた。

「いやだってさ〜、完全に主人公ムーブだったじゃん?」

コハクが肩を揺らしながら笑う。

「……否定はできないな」

ヒョウカが小さく吹き出し、珍しく声を漏らして笑った。

「ふふ……皆さん、本当に仲が良いですね」

ミナが口元を隠しながら静かに笑う。その目はどこか優しかった。

アオも少し遅れて笑い出す。

「えへへ……凛馬、ちょっと照れてる……」

「うるさいなぁ……」

凛馬が顔を背けると、また笑いが広がった。

笑い声が落ち着いたあと、コハクは少しだけ視線を逸らしながら続けた。

「あ〜……ごめんね、凛馬」

「え?」

「なんか応援してるって言いながら、からかってばっかだった気がして」

けれど次の瞬間、いつもの笑顔に戻る。

「でもさ、ちゃんと幸せそうで安心した」

金色の瞳が、まっすぐ凛馬を見た。さっきまでの空気が、ふっと軽くなる。

その瞬間、何かが終わって何かがちゃんと始まった気がした。

アオはそっと凛馬の袖を握る。

その仕草は――もう迷いのないものだった。

六人の絆は、形を変えながら続いていく。恋になった想いも。届かなかった想いも。

すべてを抱えたまま――

彼らの日常は、次の一歩へ進んでいった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、第二章最終回です!
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