BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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平和な日常の裏で、能力測定の結果がある“組織”の目に留まっていた。
平和だった日常は、静かに終わりへ向かい始める――。



47話 均衡を壊す者

暗闇の中、重い扉が静かに閉まった。

石造りの広間。高い天井。壁に刻まれた古い紋章。

中央の長机を囲む影たちは、誰一人として声を上げない。

ただ――

奥の玉座だけが、異様な存在感を放っていた。

そこに座るのは一人の獣人。黄金の鬣を持つ男。

ライオン族。ゆっくりと脚を組み替えるたび、空気が張り詰める。

誰も目を合わせない。それだけで、この場の頂点が誰なのか分かった。

側近が一歩前へ出る。

「獅子王様。報告いたします。“例の個体”の所在を確認しました」

机の中央に資料が滑らせられる。写真の中には、学園で笑う凛馬がいた。

男は、視線だけを落とした。長い沈黙の後、やがて低い声が落ちる。

「……これが、か」

低く、重い声だった。怒りも感情もない。ただ事実を確認する声で。

「元人間でありながら獣人化に成功しています。複数血統との適合反応も確認済みです。」

「均衡を崩す可能性、極めて高いと判断されます」

幹部が続ける。

「現在は学園にて保護下に――」

その瞬間。ギシ、と椅子が鳴った。それだけで全員の言葉が止まる。

男が、ゆっくり立ち上がった。

影が床に長く落ちる。

「……感情に流された結果が、これか」

誰に向けた言葉でもない。だが全員が頭を下げた。

「純血は秩序だ」

静かに言う。

「混ざりは、例外ではない。――歪みだ」

低く吐き捨てる。その声音には、理屈ではない拒絶が混じっていた。

「放置は許されない」

短く告げる。

「通達を送れ」

側近が顔を上げる。

「学園へ、ですか?」

「ああ」

わずかに笑った。だがそこに温度はなかった。

「礼儀は通さなければならん」

そして。

「純血主義者の名の下に――対象を回収する。抵抗した場合――排除する。」

その場の空気が凍りついた。

 

校舎地下、測定室。

昼休みのはずなのに、室内は暗く、機械音だけが響いていた。灰谷は椅子に深く腰掛け、モニターをぼんやり眺めていた。

端末には学園の生活ログが流れている。ふと視線が止まる。

昼休み、学食のカメラ。あの六人の姿。笑っている凛馬とアオ。少し距離の近い二人。

灰谷が小さく鼻で笑った。

「……森下くんと凛馬、結ばれたんか」

椅子を軽く回す。

「めでたい話やで、ほんま」

誰に言うでもなく呟く声は、どこか柔らかかった。

「やっと普通の学生です、みたいな顔しとるやんけ」

その時――

「灰谷さん!!」

扉が勢いよく開いた。研究員が駆け込んでくる。

その息は荒かった。手には黒い封筒がある。

「……なんや、昼休みくらい落ち着きや」

いつもの調子で言いながらも、灰谷の視線は封筒へ落ちていた。

「外部からの転送です。検閲、通ってません」

灰谷の表情がわずかに変わる。封筒を受け取ると、黒い封蝋に見慣れない紋章があった。

「……嫌な予感しかせんな」

封を切る。紙を開く。

そこに書かれていた文字は――

 

我々〈純血主義者〉は異物を確認した。異物の存在は均衡を乱す。

対象:元人間個体 ― 凛馬

速やかな身柄引き渡しを要求する。拒否した場合、排除を開始する。

 

灰谷の目が、ゆっくり細くなる。

「……はぁ」

小さく息を吐いた。モニターへ視線を戻す。

そこにはまだ――笑っている六人。何も知ない顔で昼飯を食べていた。

灰谷が低く呟いた。

「……せっかく今、ええところやろうに。気の毒やな」

紙を握り潰す。

「やっと普通の学生、やっとんねんぞアイツ」

声に、わずかな苛立ちが混じる。

研究員が慎重に言う。

「周辺監視網に反応があります。接触準備の可能性が――」

椅子が音を立てて引かれる。灰谷が立ち上がった。もう笑っていない。

「いつ届いた?」

「十分前です」

灰谷が舌打ちをし、コートを掴む。

「今、昼休みやな」

「はい」

灰谷は天井を見上げた。その上で続いている、何気ない日常を思うように。

そして灰谷は歩き出した。

「どちらへ?」

灰谷は振り返らず、低く短く言った。

「決まっとるやろ。本人に伝えに行く」

自動ドアが開く。遠くから笑い声が聞こえる。平和な音だった。灰谷の足音だけが速くなる。

「……間に合ってくれよ」

――まだ六人は知らない。

自分たちの日常が、もう狙われていることを。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、凛馬の前に再び灰谷が現れます。
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