平穏な学園生活の裏で、新たな戦いの気配が動き始める。
6人は昼食を終え、教室へ戻ってきた。凛馬とアオが並んで歩く姿に、クラスメイトたちが気づき始める。
「あれ?紅葉の弟君と森下さん……なんか雰囲気違くない?」
「マジだ。手とか繋いでるし……もしかして付き合ってんの?」
ざわざわと教室内に噂が広がり始める。視線が二人に集まった。
「あ……み、みんな見てる……恥ずかしい……」
アオが凛馬の袖を掴み、俯く。
「あはは、もう噂広まってるね〜。まあ、隠すつもりもないでしょ?」
コハクが肩をすくめる。
「凛馬とアオはちゃんと付き合ってるんだから、堂々としてていいにゃ!」
ミケが胸を張る。
「……まあ、どうせすぐ全校に広まるだろうな」
ヒョウカが静かに言った。
「お二人とも、周りの目は気にしなくて大丈夫ですよ」
ミナが優しく微笑む。
その時――
「失礼します。紅葉凛馬君、おるか?」
教室の空気が、わずかに変わった。
灰谷が、扉の前に立っていた。
「……灰谷さん?」
凛馬が立ち上がる。
「ああ。少し話ある。今、時間ええか?」
普段より低い声だった。
「……はい」
「凛馬……?」
アオが不安そうに見上げる。
「大丈夫。すぐ戻るよ」
凛馬はアオの頭を軽く撫でてから、灰谷の後を追った。
廊下。昼休みの喧騒が遠ざかり、静けさが落ちる。
灰谷はしばらく黙ったまま歩き、人気のない場所で足を止めた。
「……単刀直入に言うで」
振り返った灰色の瞳は、真剣そのものだった。
「君の能力測定結果についてなんやけどな、組織から連絡が来た」
「組織……?」
「ああ。君の規格外の数値と――五種族混血いう特異性や」
一度、周囲を確認する。そして声を落とした。
「『純血主義者』いう組織、聞いたことあるか?」
凛馬は首を振る。
「混血を否定してな。純血種族だけが正しい世界や言うてる過激派や。……まあ、簡単に言えば危ない連中やな」
空気が冷える。
「君の存在はな、あいつらにとって――」
灰谷は一瞬言葉を選び、
「脅威であり、利用価値でもある」
と言った。
凛馬の表情が引き締まる。
「接触してくる可能性が高い。警告や。気ぃつけや」
凛馬は静かに息を吸った。そして――
「もし俺の大切な仲間や家族に手を出すなら」
視線をまっすぐ上げる。
「俺の全存在を賭けて戦います」
灰谷の目が、わずかに見開かれた。
「……本気やな」
小さく息を吐く。
「せっかく今、ええところやろうに……気の毒やな」
ぼそりと漏れたその言葉は、教師ではなく大人の声だった。
「でもな。一人で背負うな。相手は組織や」
「……はい」
「お前には仲間おるやろ。あの五人も含めてな」
灰色の狼耳がわずかに揺れる。
「これ、俺の連絡先や。何かあったらすぐ連絡しいや」
連絡先が書かれた紙片を渡す。そして少しだけ声を落とした。
「それと……森下くんのことなんやけどな」
凛馬が息を止める。
「混血の君と関わっとる時点で、彼女も標的になる可能性ある」
凛馬の拳が静かに握られた。
「……絶対に、守ります」
灰谷は小さく頷いた。
「ええ顔や。ほな戻り。……大事にしいや」
凛馬は静かに頭を下げ、教室へ戻っていった。
――その背中を、灰谷はしばらく見送っていた。
「……ほんま、ほぼ普通の学生やってんぞ」
誰にも聞こえない声だった。
その頃――
純血主義者のアジトでは壁一面に並ぶモニターが、青白い光を放っていた。
画面には――学園の廊下、教室、屋上、校門。
複数の監視映像が同時に映し出されている。
端末を操作していた獣人が、淡々と報告した。
「学園内部ネットワーク、侵入完了しました」
別の研究員が笑う。
「王立学園の防壁も、この程度か。監視カメラのハッキングなど容易いな」
映像が切り替わる。
そこに映ったのは――
灰谷と凛馬の会話。
『俺の全存在を賭けて戦います』
音声が部屋に響く。
そして、低い声。
「……全存在、か」
巨大な椅子に座る男が、ゆっくりと顔を上げた。
それは、純血主義者の長だった。
「感情で動く個体か。予測通りだな」
部下が資料を差し出す。
「対象コード《R-01》。混血安定率、理論値を逸脱しています」
男は映像を見つめたまま言う。
「恐怖ではなく、守護本能で力が伸びるタイプ……厄介だ」
指が机を軽く叩く。
「排除しますか?」
「いや、観察する」
即答だった。
画面に凛馬のデータが次々表示される。
「壊すには惜しい」
男の瞳が細まる。
「下位執行員を派遣しろ。接触任務だ」
「了解」
通信が走る。その横で別の画面が表示される。
《監察官:灰谷》
《位置情報:取得失敗》
研究員が眉をひそめる。
「灰谷の追跡が不可能です。位置が固定されません」
男は興味なさそうに言った。
「放置しろ」
「ですが――」
「奴は“消える側”の人間だ。時間の無駄だ」
そして再び凛馬の映像を見る。教室へ戻る背中。
「幸福の直後が、人は最も脆い」
静かに命じる。
「試してみろ。混血がどこまで壊れずにいられるか」
モニターが暗転した。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回、六人は初めて“脅威”と向き合うことになります。